幕間三 リベラ・グリコ
私の名前はリベラ・グリコと申します。
父は魔法省で、属性管理局局長を務めているマルサ・グリコ男爵と申します。
魔法省は、王国に住まう者達が使う魔法を管理する機関として、王国内でもエリートばかりが集められております。
自慢の父は、幼い頃から魔法について様々な知識を与えてくれました。
魔法には無限の可能性があり、無属性魔法と言ってバカにしてはいけないと、耳にタコができるほど言われてきました。
それが嫌なことではなく、父のおかげで私は魔法が大好きになりました。
属性魔法は強力な魔法です。
使う人によって、悪にも正義にもなるのだと父は私に言いました。
属性魔法は、神様から個人に与えられたギフトです。
ですが、魔法は誰もが使えるものであってほしいと私は思います。
魔法を本当に愛している者ならば、無属性魔法にこそ可能性を見出すことが出来ます。
私が十一歳のとき、父は天才魔法少年と出会いました。
私にとって良き教師だった父は、天才少年に教えを請う生徒になりました。
彼の話をしているときの父は心から楽しそうな顔をするのです。
天才少年から得たインスピレーションを、私へ語り伝えてくれるのです。
天才少年の話は、私の心を震わせました。
天才少年の名はリューク・ヒュガロ・デスクストスと仰るそうです。
彼は、他の人が思いつかない方法で魔力を利用して様々な変化を生み出していきます。
話を聞く度に無属性魔法の可能性が広がり、私たち親子が思いつかなかった方法や、知り得なかった知識を知ることが出来ました。
いつの間にか、私の中で彼は天才少年ではなく、魔法を愛する同志だと思うようになりました。
無属性魔法への理解力。
属性魔法を使う応用力。
無属性であれ、属性であれ、魔法への無限の想像力と発想力。
父から聞く天才少年は、天才と言うだけでは足りません。
魔法の深淵を垣間見た怪物に思えました。
だからこそ、もっと私も彼のことが知りたい。
そう思ってアレシダス王立学園で、彼の従者として務めることに志願しました。
公爵家で第二子息の従者を募集しているのを見つけたとき、心臓が掴まれた気がして飛びつきました。どんな人なのだろうか?
父からはとても美しい少年で、性格は面倒くさがりだと聞いています。
魔法を極めているのに、美しさや生活環境まで整える知識まで持っていて、美容や食事も気にしているのに、面倒くさがりだそうです。
私の中で、同志であると同時に変な人だなって思っています。
でも、色々なことができるかもしれなくて面白そうなので楽しみにしています。
だって、美容って凄く面倒くさいんです。
魔法の研究だけに全ての時間を使えたらいいのに、食事や生活環境まで考えている?
凄く面倒なことをしている人だと思いました。
リューク様の発明の一つに、父に飲ませていただいたハーブティーがあります。
スッキリとしていて飲みやすく、飲んだ後は頭がクリアになるのです。
味だけじゃなく、美容と身体にも良いそうです。
彼からの贈り物で、毎月一定数が送られてきます。
今では家で飲むお茶になりました。
父が彼について説明するとき……、髪はふわふわなマッシュパーマで、光を反射するほど美しいそうです。
肌は白く透明感があり、眠そうなタレ目ではあるが、笑った顔は陽だまりのように温かな雰囲気を持つと言います。えっ? そんな人いるのでしょうか?
私が思った感想は父の妄想の中に存在する人ではないかと思ったほどです。
アレシダス王立学園の入学式の日。
リューク様と待ち合わせをして、やっと彼に会うことができる。
そう思って歩いていると、風に吹かれる彼を見つけました。
父が言ったことが本当であり、私は彼の姿に目を奪われました。
美しい髪は春の風に靡いて輝きを増し、美しい肌は光を反射する。
黙って歩く顔は優しそうで、柔らかな雰囲気が彼の周りに存在していました。
私は、妄想の中で作り出した彼よりも、現実に存在する彼に恋をしました。
「リューク様ですか?」
ずっと会いたかった彼が目の前にいます。
想像よりも美しくて、想像よりもカッコイイ。
「君は?」
「ふふ、すぐに分かりました。父の言うとおりの人でしたね」
「父?」
「申し遅れました。私は魔法省属性管理局局長を務めるマルサ・グリコ男爵が娘。リベラ・グリコと申します」
貴族社会では、階級が上の者から声をかけるのが礼儀です。
ここが学園でなければ話しかけることすら出来ない高貴な方。
緊張しながら話しかけた私が名乗ると、リューク様の顔が笑顔へと変わりました。
「マルさんの娘さんか」
クシャっと笑う陽だまりのような笑顔に胸がドキッとして痛いです。
「ふふ。父をマルさんと呼ぶのはリューク様だけですよ」
「そう? マルさんの娘だから、リべさん?」
「いえ、さんは不要です。どうかリベラとお呼びください」
父をこんなにも親しそうに呼ぶ人に初めて会いました。
魔法省は、研究者が多く。
馴れ合いを嫌う人が多いそうなので、友人と呼べる人は少ないと父が言っていました。
会話に集中していなければ、笑顔を見た後から私の胸はドキドキが強くなっていることがバレてしまう。
「リベラは魔法が好き?」
いきなりリューク様から私が大好きな魔法について質問されました。
「大好きです! 将来は魔法省に勤めたいと思っています!」
「そっか。リベラは真面目に魔法に取り組んでいるようだし、絶対なれるよ」
嬉しい。
私が好きなことを好きだとハッキリ言えることが、女が魔法省なんてとバカする人もいます。リューク様の言葉は私の想像を超えていく。
「普通は女性が魔法省に入りたいと言うと、バカにされるんです」
なれると言ってくれた。それだけでリューク様の側にいたいと思えた。
私を認めてくれるリューク様、彼のお世話をしたい。
「はい。ありがとうございます。ですが、学園にいる間はリューク様の従者として、お世話をさせていただきます」
「ボクのことはそれほど気にしなくてもいいよ。自分のことは自分で出来るから」
「いえ、私がお世話をしたいんです」
「そうなの?」
「はい。リューク様のことが知りたいんです! リューク様の作り出す魔法は芸術です」
彼は無属性魔法を使ってオリジナル魔法を作り出せると、父が言っていました。
私はそれが見たい。知りたい。学びたい。
「魔法は追々ね。今は、寮の入寮申請を済ませないと」
「それは全て終わっております。リューク様の手を煩わせるわけにはいきません」
一秒でも彼の時間を無駄にしてはいけない。
父から、「リューク様は凄くめんどくさがりだから世話をしてあげると喜ぶよ」と聞いていたので全力でお世話させていただきます。
「わかったよ。入学式の時間まで魔法の話でもしようか?」
「お願いします。あっ、お茶を淹れられる場所へ行きましょう」
入学式が始まるまで、私はリューク様の思考を十分に堪能することが出来ました。