第十話 歓迎会

チュートリアル戦を終えたボクとリベラは、寮へと帰ってきた。

ダンとの戦いは予想通り全く得るものがなかった。

バルに任せたとは言え、ダンは思っていたよりも弱くて、相手にもならなかった。

これからはリンシャンのように、ヒロインたちからは敵意を向けられるようになる。

面倒なことばかりが待ち受けていそうで、本当に無駄な戦いだった。

リンシャンから発せられた捨てゼリフの影響で、ダンとの再戦は避けられない。

本来のシナリオなら、チュートリアル戦で勝利したダンに対して、リュークが半年に一度の校内ランキング戦を挑んでくる。

今回は、決定事項とも言えるヤラレ役の事象を崩すことができた。

これまでの行いが無駄ではなかったことを証明してくれたような気がして嬉しかった。

「これからは平穏な学園生活を送れればいいんだけど」

寮から見える夜景からは、校舎が見えている。

憂鬱ゆううつな出来事が待ち受けているように、不気味な雰囲気を醸し出している。

「そんなところで何をしているのですか?」

夜風に当たりながらテラスで考え事をしていると、本日の功労者に声をかけられる。

「久しぶりに君の作る料理を食べすぎてしまってね。休憩しているところだよ」

「ふふ、それはよかったです。リュークが食べてくれると思ったので、腕によりをかけて作りましたからね」

カラになったグラスをテーブルに置いて、カリンが渡してくれたグラスを受け取る。

窓の向こうに見えるホールには、黒の塔と呼ばれる貴族派たちの子供たちが集まって、入学の歓迎会を開いている。

先輩方からの有難い言葉を新入生たちが聞いているところだ。

会の主催者は、アイリス姉さんだ。

在校生の中で一番の上位貴族として挨拶をしていた。

ボクも新入生代表として挨拶を済ませ、マーシャル家の騎士見習いを倒した話はウケが良く、貴族派にはすでに知れ渡っていた。

対立派閥の者を倒したということで、貴族派から喜びの声を受け取った。

「本当に、カリンの料理は他の誰が作るよりも美味しくて元気が出るね」

「ふふ、そんなに褒めないでくださいませ。調子に乗ってしまいますわ」

一年間、会っていなかっただけなのに、大人っぽく成長したカリンはとても美しい。

「調子に乗って良いと思うよ。料理の腕だけじゃなくて、飲食業の経営や、ダイエットメニューの開発も成功してるからね。十分な功績をつくっている」

照れる彼女を見て、カリンを褒め称える。

「もう、それも全てリュークの助言があったからではありませんか」

「そんなことないよ。綺麗になりたいと言ったのは、カリンだからね」

ボクは婚約の顔合わせで告げられたカリンの思いを酌んだだけだ。

他のことも、ボクは提案しただけで、行動したのは全てカリンだからね。

「知恵を貸しただけだよ。その知恵を活かしたのも、商売に昇華させたのもカリンだよ。そして、それをバックアップしたカリビアン家の功績だ」

あの日、綺麗になりたいと言ったカリンにバルを使った健康ダイエットを提案した。

食事に関して助言して、健康ダイエットを成功させた。

ダイエットを成功させたカリンをモデルとして取り上げたカリビアン伯爵は、女性に向けたダイエットレストランを造り出して、カリンの才能を商売に活かした。

有酸素運動や、簡単にできるストレッチ。

そこから着想を得た軽い運動を伝授するジムや、キレイを維持するエステティックサロンの経営まで、カリビアン伯爵の商売意欲は素晴らしいと頭が下がる。

「そうやってご自分のことを誇らないのはいけませんわよ。私だって、リュークのことを褒めたいのです」

「ボクのことはいいんだよ、前にも言ったでしょ? カリビアン家に富を集めて、ボクを養ってくれればいいって」

「ふふ、そんなことを言ってしまう貴族男性はあなただけです。本気なのですよね?」

「もちろん」

カリンと過ごした三年間で、ボクたちはたくさんの話をした。

デスクストス家がボクへ無関心なこと。

シロップだけがボクの味方だったこと。

怠惰で健康的な生活を目標にしていること。

生活のために、カリンの料理が必要で、ボクは料理に惚れ込んでいることを伝えている。

「私は料理だけですか?」

身長は、この三年でボクの方が高くなった。

可愛い婚約者様が見上げてくる。

可愛い顔と見下ろした視線の先に突き出る胸部。

また成長した婚約者様の凶悪な武器にボクは怠惰を忘れて彼女の体を求めてしまう。

「もちろん、今ではカリンを心から愛しているよ」

カリンの腰へ腕を回して抱き寄せる。

「いけませんわ。皆さんがホールにおられます」

「今日は君を離したくない。カリンの部屋に泊まってもいい?」

「結婚前の男女ですのよ」

彼女は、年上の女性としてボクをたしなめる。

怒っているわけではない彼女の前で、ボクは膝をついた。

「たとえ、公爵家が潰れようと、伯爵家が潰れようと、ボクにとっては家よりもカリンが大切なんだ。もう君無しでは生きていけない。どうか君の側に居させてほしい」

「まぁ……、そこまで言われて、リュークを拒める女性はいないです。悪い人」

カリンが、膝をついたボクの胸へと飛び込んできた。

ボクはカリンを受け止めてバルを出現させる。

カリンを抱きしめたまま夜空へと飛び上がる。

魔法の絨毯じゅうたんとはいかないけど、二人はクッションに寝転んで夜の散歩をする。

「久しぶりですわ。バルちゃんに乗って夜の散歩」

「空だけは、ボクらを縛らないからね」

「ふふ、シロップさんだけは許しますが、他の女性と空中散歩をしたら嫉妬しますよ」

「う~ん、状況によるかな。命に関わらない限りは君とシロップ以外は一緒に乗らないことにするよ」

二人はしばらく夜を楽しんで、カリンの部屋へと姿を消した。

入学式で行われたチュートリアル戦によって、同級生たちから向けられる視線は様々な変化を遂げた。

マーシャル公爵派閥の者からは、嫌悪と敵意を含んだ視線。

デスクストス公爵派閥の者からは、尊敬と崇拝を含んだ視線。

王女や中立派閥、平民からは、興味を持っているがどう接すれば良いのかわからない視線。

様々な視線が交じり合って、一年生ばかりの校舎には緊張感が生まれている。

ボクが教室に入れば、敵意を持つ相手でも、視線を向ければ焦って視線を逸らしてしまう。

「脅しの効果はあったね」

「どうかされましたか?」

教室を見渡していたボクに、リベラが問いかけてくるので首を横にふる。

「いいや。そんなことよりも今日は後で時間はある?」

「はい。あっ、魔法を試させてもらえるのですか?」

「それもあったけど、今回は別件だよ」

「え~」ねて口を尖らせるリベラは可愛い顔になる。

「また今度ね」

ボクはリベラの頭を撫でて宥める。

「わかりました。絶対ですよ。それでは今日はどのような用事ですか?」

「マジックウォッチの検証をしようと思うんだ。付き合ってくれるかい?」

「もちろんです。魔導器具の検証は私もしようと思っていたので、一緒にできるのは嬉しいです」

リベラと放課後に検証をする約束ができたので、ボクらは授業計画を組むことにした。

アレシダス王立学園の授業は自由選択制で、好きな教科を自分で選択して受けていく。

様々な分野の勉強ができるので、自分の好みに合わせた主人公にカスタマイズしていく。

基本学科がいくつかあるので、学科テストや魔法テストは基本科目から出題される。

貴族や騎士は、魔法や実技を重点的に取り入れた授業計画を組んでしまう子が多いので、最低限の知識を学ばせるために基本科目が存在する。

ゲームの主人公であれば……、

勉強系の授業を多く取れば、特待生や商人の娘と仲良くなれる。

特待生や商人は、平民で戦闘能力があまり高くないため、校内ランキング戦では、負けてクラスダウンしてしまうこともある。

学科や魔法のテストが行われると戻ってくるので、それほど問題ではないのだが、攻略したい場合は、校内ランキング戦で守ってあげるとクラスダウンが減るので、好感度が上がりやすくなる。

魔法系の授業を多く取ると、王女や魔女っ子と仲良くなれる。

王女を攻略するためには、校内ランキング戦で王女に勝たなければいけない。

そのため魔法だけでなく、実技の技能もあげておかなければならない。

実技系の授業を多く取れば、公爵令嬢や冒険者と仲良くなれる。

公爵令嬢は、他の女性と上手くいかなかった場合でも結婚できるので、攻略不要のちょろインだ。

逆に冒険者は強くなって仲良くはなれるが、学園剣帝杯で優勝しなければ認めてもらえない限定条件がある。

全ての授業内容などを相談しながら、週末に会いにいけば、シーラス先生と仲良くなれる。

主人公ダンがどんな動きをするにしても、ゲーム進行を把握して、陰から手助けをしてやろうと思っている。

その前に自分の今後を決める授業選択なので、どうするべきか?

大前提として、動くのは嫌だ。

なので、実技系の授業は一切取らない。

勉強系は、本を読むのが好きなボクとしては面白そうではある。

ただ、一年次は基礎的な授業で十分に思える。

興味があるのは魔法だ。怠惰を追求するためにもボクは魔法の知識が必要になる。

「決まりましたか?」

「ああ、魔法学と魔導器具学を主に習う授業内容にしたよ。あとは基礎授業で埋めた」

「ふふ、私もリューク様と同じ内容です」

ボクの選択を聞いて、リベラが嬉しそうな声を出す。

魔法が好きなリベラは、魔法の勉強が一緒にできるのが嬉しいようだ。

ふと、ボクはゲーム知識を思い出した。

本来のリュークの横には、リベラはいない。

代わりに隣にいるのは、男子生徒なのだ。

キモデブガマガエルのリュークと、ガリガリに痩せたネズミ顔のタシテ・パーク・ネズール。

リュークが行う悪事を助けてくれる手下のタシテ君は、今回のボクへ近寄って来ない。

ふと視線を向けると、狡賢そうな伯爵子息が仲間たちと笑い合っていた。

身長が低く、魔法と学科を得意としていて、実技は苦手。

戦闘面ではあまり活躍しない印象だが、精神系の厄介な魔法を使って、攻略ヒロインたちを戸惑わせていた。

リベラがボクの従者として世話をしてくれるので、彼との接点がないのは寂しい。

リュークにとっては男性の友人になってくれそうな相手だったからだ。

「どうかされましたか?」

「いや、何でもないよ」

「そうですか、それでは個別練習室にいきましょうか?」

「個別練習室?」

「はい。知りませんか? 我が校の敷地はとても広く様々な施設があります。クラスランクによって使える施設には制限があるんですが、零クラス在籍者は全ての施設を優先的に使用することができます。個別練習室は、勉強や魔法、実技の訓練を個人で行えるように学園側が用意した部屋です」

リベラに説明を受けながら、個別練習室へと向かっていく。

どうして成績にランキングや、順位があるのかと言えば、こういう優先度をつけて競争心を煽るためでもある。

優秀な者にはより良い環境をというわけだ。

扉を開いて個別練習室に入ると別世界に入ったように広い。

「ここで勉強するの?」

「はい。ここは魔法陣で空間を広げていますので、本来は……」

リベラが魔法を詠唱すると、机が二つ並ぶ小さな部屋へと変わっていく。

「おお、これなら落ち着いて勉強できそうだ」

「ふふ、リューク様の知識は不思議ですね。みんなが知っているようなことは知らないのに、みんなが知らない不思議なことを知っておられるので」

リベラに笑われてしまった。

ボクは床に描かれた魔法陣を見る。

「魔法の使い方は不思議だね。こんな方法もあるんだ」

「リューク様も魔法がお好きですね。魔法陣は魔法を定着させるために必要なんです。上手く描かなければ発動しません。絵を描く才能もいるんです」

魔法は便利ではあるけど、使うためには努力が必要になる。

無属性魔法は、魔力に頼る部分が多いが、発想力や想像力がなければダメ。

属性魔法は、固有魔法のおかげで理解すれば使いやすいが、応用するためには訓練と理解が必要になる。

「魔法は奥が深いね」

「はい! ですから面白いのです!」

魔法狂いのリベラが魔法について語り出す前に、本題に入らないとね。

「そろそろ今日の本題に入ろうか?」

「はい。マジックウォッチの検証ですね。それでは詳細を紙に書いていきます」


名前:リベラ・グリコ

年齢:十五歳

レベル:四

魔物討伐数:三十六体

所属クラス:零クラス

実技評価:三百名中三十二位

学科評価:三百名中十位

魔法評価:三百名中一位

成績ランキング:総合七位

習得魔法

無属性魔法(生活魔法、強化魔法、補助魔法、回復魔法)

属性魔法(《水》魔法)


リベラのステータスは、ボクよりもレベルが高かった。

魔法評価が学年首席なのも凄い。

「成績ランキングは七位か、凄いね」

「リューク様は二位ですよね?」

「そうだね」

チュートリアル戦の時に言われていた。

掲示板を見てもわかることだ。

「属性魔法《水》に驚かれましたか?」

「驚いた。リベラなら応用がたくさん出来そうだね。使い勝手が良さそうだ」

「そうなのです。《水》は攻撃や防御、補助にも応用が可能なので、実験して試し甲斐があって楽しみです」

「ボクのも見せておくね」

ステータスを見たリベラは驚いた顔をする。

「よろしかったのですか? この属性魔法は秘匿されるべきです」

「マルさんも知っているからね。国には登録されているし、リベラが学園内で話さなけば問題ないよ」

希少魔法は秘匿性が高い。

ボクの属性魔法は両方とも、希少魔法なので、人体に作用する魔法としか家族に伝えていない。それはマルさんが配慮してくれたからだ。

「かしこまりました。ダンの意識を一瞬で奪った理由がわかりました。それに不明はなんでしょうか?」

無属性魔法の不明は、バルのことかな?

詳細を押すと、不明=登録されていない魔法、解析不明と表示される。

「なるほど。リューク様のオリジナル魔法なので、登録がないため解析不明と出るのですね」

「登録されていない魔法は解析できないと言うことか」

「マジックウォッチもまだまだ進化の途中です。これからに期待しましょう」

ボクらはマジックウォッチの詳細を書き出して、互いにマジックウォッチの可能性について語り合った。

怠惰なボクではあるけれど、ボクの朝は早い。

なぜかって? 美容は一日して成らずなんだよ。

キモデブガマガエルにならないために始めた美容だけど、今ではボクにとってのモーニングルーティンになっている。早い時間に起きたボクは、隣で眠る天使の寝顔を見つめる。

何よりも大切な時間だね。人は、一人で生きていくことはできない。

孤独はとても辛いから、隣で眠ってくれる人がいると知るだけで幸せな気持ちになれる。

学園に来て、一番よかったのは、カリンの側にいられることだ。

カリンは料理だけでなく、学科をメインで授業を組んでいる。

学科には様々な分野があり、カリンは将来レストランなどの経営者になるために経営学などを学んでいる。

カリビアン伯爵の手伝いをするのだと張り切っていた。

目標に向かって頑張る彼女は、とても素敵な女性なんだ。

授業で疲れているカリンを寝かせたまま、まだ空が暗い早朝に学園を散歩する。

誰もいない学園の敷地を散歩するのは、少しワクワクするね。

「少しだけ汗を出そうか? バル、トレース」

「(^^)」

誰もいない広場を見つけたので、バルを召喚して身体を預ける。

バルは、ボクの脳内に記憶している格闘家の動きを再現して身体を動かしていく。

最初の頃は、フワフワと物を運ぶしかできなかった。

今では応用をたくさん考えた。

《フォルムチェンジ》、《トレース》、《コントロール》

三つの応用魔法を組み合わせて、バルを使えるようにした。

《フォルムチェンジ》は、バルの形状を変化できる魔法だ。

普段は透明な魔力の塊で、風船のような形をしているバルだけど、ビーズクッションのように全身を預けて心地よい感触で眠れるクッションへ変化できるようになった。

荷物を運べるだけでなく、眠るボクを運べるようになったのも副産物として大発明だったと今は思っている。

荷物を運べるなら人も運べるだろと、思ってやってみたらできた。

魔力の供給が切れれば、不安定になって維持するのが難しくなる。

魔力と相性が良くて、自由自在に変化できる素材があれば、バルにボディーを作りたい。

「いい汗が出たね」

《トレース》はボクの記憶をバルがダウンロードして、ボクの体で再現する魔法だ。

脳内のデータをバルが記録して、統計学のように収集していく。

そこから最適な戦闘方法を確率論から分析して、編み出せるように魔法をプログラミングした。

そのため、学園に来る前に騎士や冒険者の戦いを見学に行ったんだ。

カリンに連れ出された際に社会勉強として見たんだけどね。

カリンがいないと思いつかなかったな。

最近はデータも大分集まってきて、解析なんかも出来るようになってきた。

学園では、校内ランキング戦が度々行われている。

生徒同士が魔法を使う姿を見ることができるので、バルのデータ収集には良い環境だ。

バルを実戦で使ったのは、ダンが初めてだった。

相手を倒す最適解をバルが選択して戦った結果としてダンに勝てた。

バルは実戦でも通用することが証明できた。

戦闘以外のデータ収集にも使えると思うから、まだまだ応用ができそうな魔法だね。

「バル、コントロール」

《コントロール》は、ボクの意識を残したまま、バルが操作する身体を遠隔操作する。

人は、自分の身体を使うときに脳内セーブをかけてしまう。

それはキャパシティーを超えて身体を使いすぎないように、危険から守るための自己防衛本能が働くからだ。

だけど、コントロールを使うことで、ゲームのコントローラーを持った状態で、自分の身体を操作できるように考えた魔法で、限界を超えた動きができる。

身体を動かすのはバル。操作するのはボクといった感じだ。

これのメリットは、しんどさと痛さを感じないで済むことだ。

寝ながら自分の操作して、身体を鍛えられたらラクでいいのにって考えた答えだ。

バルを発動していても、コントロールを使えば、ボク自身に意識があるので、魔法を使うこともできる。

バルを解除する前に回復魔法で怪我を治しておけば痛みを感じないで済む。

これだけ万能なバルだけど、バルにも弱点はある。

洗顔をしてもらおうと、顔をゴシゴシと擦って、水をビチャビチャにしてしまった。

いつも見ていることでも、力の加減が難しいようだ。

どんなことでもある程度の経験を積ませないと、すぐにはできない。

「そろそろいい時間だね」

運動と魔法を同時に訓練できるバルは、ボクにとって大発明だ。

自分の部屋に戻ったボクはシャワーと洗顔、化粧水、乳液、保湿クリームを済ませる。

そして、ここからがボクにとっての至福の時間だ。

一年前にマイド大商店に行った理由として、そこでしか売っていない発明品があるからだ。その名も《魔導ドライヤー》だ。

アカリに会うついでに購入した《魔導ドライヤー》は、熱魔法が使えない者でも、温風と冷風を使うことができる優れ物で、これが無ければ髪をサラサラに保つことはできない。

美容には努力が必要なのだ。

髪の毛も正しくケアをしなければ、櫛が通る綺麗な髪にはならない。

これを生み出した発明家にボクは感謝したい。

「椿油は、夜でいいや」

モーニングルーティンとして、一連の流れが終わったところで制服に袖を通して、従者を待つのがボクの朝だ。


コンッコンッ

「リューク様、そろそろ起床のお時間です」

ノックの音がして、リベラの声が聞こえる。

「ああ、今出るよ」

入学当初は、着替えの手伝いをするつもりできたリベラに、制服で出迎える。

「あっ、ご自分で着られたのですね」

物凄く残念そうにされた。

「はいはい。朝食へ行こうか?」

「はい」

寮の朝食は、食堂で自由に食べられるバイキング形式だ。

貴族の一部には自分用にシェフを連れてきている子もいる。

ボクにはもちろんそんな人はいないので、基本的には食堂でバイキングを食べている。

「アイリス姉さん。おはようございます」

食堂に着くと、アイリス姉さん専用席で、紅茶を飲んでいた。

絶世の美女であるアイリス姉さんは、紅茶を飲む姿も様になっている。

低血圧で、朝は不機嫌なアイリス姉さんは、朝食を摂らずに蜂蜜ティーを朝食代わりにしていたので、今度カリンにサプリメント開発を提案してみようかな?

「ええ、おはよう。リューク、リベラさん」

「アイリス様、おはようございます」

「リューク、あなたはしっかりと食べないとダメよ」

学園に来るようになって知ったことだが、アイリス姉さんは気遣いのできる人だ。

家にいる時は、話す機会がなかっただけで、学園にはテスタ兄上も、父上もいない。

上位貴族の令嬢として厳しくはあるものの、優しい一面をアイリス姉さんから感じる。

「はい。アイリス姉さん。リベラ、行こう」

「はい。アイリス様、失礼します」

「ええ」

食堂にカリンはいない。

カリンは朝が弱いので、ボクが朝食を食べ終える時間になっても下りてこない。

また、夜に会えるので、リベラと朝食を終えて学園に向かう。


これがボクのモーニングルーティンだ。

年老いたら、今のモーニングルーティンはやめるかもしれない。

だけど、いつまでも健康的な身体を維持したいと思っている。