第九話 チュートリアル戦
ボクを見上げて宣言したダン。
「俺の成績ランキングは二十位だ。このクラスでは一番下になる」
零クラスは全員で二十名が在籍している。ダンが二十位なら最下位ということになる。
ゲーム開始と同じ展開が繰り広げられる。
主人公は敵対貴族であるリュークにランキング戦を挑む。
プライドが高く傲慢なリュークは、平民のダンに挑まれた事で怒りを覚えて挑戦を受け入れる。
だが、今まで戦闘をしたこともないリュークは、魔法の才能だけで合格したこともあり、ダンに勝てなくて敗北する。リュークが、かませ犬を演じる重要な場面だ。
リュークに勝利したダンは、女子たちから強さを認められて好感度を上げる。
敗北したリュークは、ダンを逆恨みして付け狙うようになるといった、因縁的なイベントなのだ。
「なぜ? ボクは面倒だからしたくない」
本心から、面倒なことはしたくない。
これがチュートリアル戦である以上、拒否しても強制的にやらされることはわかっている。それでも抗いたいと思うのがボクの本心だ。
「ハッ、怖気付いたのか?」
簡単には引き下がってくれないよね。
「ねぇ、君とランキング戦をしても、ボクにはメリットがないんだけど。君は成績ランキングを上げられるけど、ボクにはメリットがない。そんなこともわからないバカなの? バカの相手はしたくないんだけど?」
戦闘をするなど時間の無駄だ。
面倒なのも事実だけど、今のダンに負けるとは思えない。
わざと負けるのも嫌だ。
ダンを強くするのはいいけど、そのためにボクが動かないといけないのが面倒なんだ。
ボクはあくまで裏から手助けをしたいだけで、全面的に協力するなんて怠惰に反する。
何よりも結果の見えた試合に臨むのは、バカらしくて意味がわからない。
「きっ、貴様、栄えあるアレシダス王国の貴族ならば、挑まれた戦いを受けるのは当たり前だろ!」
ボクの態度を見かねて、ダンではなくリンシャンが立ち上がって怒りをぶつけてくる。
熱い、熱すぎるよ。自分が言っていることが正しいと思っている相手ほど厄介な相手はいない。物凄く面倒な子だったよ、メインヒロインのリンシャン。
「ハア、なら君が相手をしてあげれば。君も成績上位者でしょ。ボクはパスで」
ボクの態度が気に入らないのか、女騎士殿が睨みつけてくる。
教室内の空気が悪くなり、リベラがオロオロとしている。
その空気を察して、一人の女の子が立ち上がった。
「実技成績上位者であるダンさんと、魔法成績上位者のデスクストスさんがランキング戦をする姿を見たいです。デスクストスさん、学園のルールに従ってください。個人成績下位者が上位者に挑むことでランキング戦は成立します。拒否し続けていても、あなたのランキングが下がるだけです。何よりも、王国に住まう貴族として民を導く者であるべし。これは貴族としての義務です。貴族として拒否することは許されません」
マジでウザッ。先生たちの話を聞いていなかったのかな?
学園内では、王族、貴族、平民は関係なく、成績で判断するって言ってただろうに。
やっぱりこの王女様は、好きになれないな。
ただ、いくら関係ないと言っても、王女様と公爵令嬢の二人から言われてしまえば、拒否することは難しくなる。
これ以上断っても、ボクがやると言うまで終わりも来ない。
本当に、この二人は面倒な性格だな。
「わかりました。アレシダス王女様のおっしゃられるがままに」
ボクは深々と溜息を吐いて同意する。
ゲームの強制力は、王族や教師までボクへ戦闘をさせようと動くのか……。
◇
めんどくさい。
めちゃくちゃ嫌だ。
動きたくない。
校内ランキング戦なんてなくなればいいのに、嘆いていてもイベントは無くならない。
ゲームでは、主人公がヤラレ役であるリュークを倒して、校内ランキング戦のやり方を知るためにチュートリアル戦として解説が行われる。
ゲームが開始して、校内ランキング戦が始まると、ヒロインとチームを組んだり、怪我をしたヒロインに代わって代理をすることで好感度を上げる。
チュートリアル戦で敗北した悪役貴族のリュークは、三年間ダンを恨んで、強いと聞いた生徒を仲間にしたり、傭兵を雇ったり、あの手この手を使って、ダンへ校内ランキング戦を挑むために出現する。
卑怯な手を使って、悪逆の限りを尽くすが、結局負けるという役柄なのだ。
このイベントはその最初の一手目になるはずので、あくまで悪役貴族としての役割を演じようと思っているボクとしては負けなければならない。
「バル」
「(^^)」
闘技場に向かう途中で魔力を練って、バルを召喚する。
バルは透明な魔力なので、ボク以外には魔力の塊にしか見えない。
「リューク様、大丈夫ですか?」
リベラは、マルさんからボクが魔法が使えることは聞いているが、体を鍛えていることは聞いていないから心配なのだろう。
「うん。大丈夫だよ」
「父から、リューク様は動くのが嫌いだと聞いています」
「そうなんだよ。マルさんはよくわかっているね」
マルさんを褒めるように言うと、リベラは気が抜けたのか緊張を解く。
「本当に校内ランキング戦をするのは、お嫌だったのですね」
「うん、嫌。面倒だからね」
「相手は、マーシャル家の騎士見習いです。実技試験でも上位で入学できていることから、戦闘に慣れていると思われます。大丈夫ですか?」
「それは心配ないかな。今の彼なら余裕だと思うから」
ただ、どうやって負けるかで悩んでいるんだ。
前を歩くリンシャンとダンの後ろ姿を見て、ボクはあくびをする。
強制イベントであるチュートリアル戦は、リュークが敗北する。
ゲームでは、ターン制の戦闘シーンの説明になる。
よくあるコマンド形式で、攻撃、魔法、防御、必殺、の四項目から選択して戦闘が進められていく。
最後に属性魔法を使った必殺技によって、リュークが倒されるという流れだ。
今のボクにとっては現実なので、コマンドは現れてくれない。
「リューク様は不思議な方ですね」
「そう?」
「はい。誰も想像しない魔法を作り出せたり、上位貴族様なのに戦いを断ったり」
「貴族らしくない?」
「ええ。貴族はプライドを大切にしますので、貴族らしくありませんね。悪い意味ではありませんよ」
リベラの好感度が上がったような気がする。リベラと話しているのは楽しい。
二人で笑い合いながら闘技場へと入っていった。
闘技場では、リンシャンとダンがウォーミングアップをしていた。
クラスメートは観客席に座って、初めて行われる校内ランキング戦に興味津々だ。
中央では、リサーチ先生が審判を務める準備をしている。
「デスクストス家の腐った性根を、俺が叩き直してやる。入学式で堂々と寝ていたところを見ていたからな」
何やら宣言するダンを無視して、ボクはリベラに通路で控えるように伝えた。
「はいはい。相手してやるだけありがたいと思えよ」
開始の合図から一分間だけバルに体を預けて、戦闘を演じる。
そのあとで、負けを宣言すれば問題ないだろう。
「いいかい、バル。ボクの体にも、相手にも怪我をさせないように注意して」
「(^^)/」
ボクがバルへの命令を終えて、準備を完了させるとダンが話しかけてきた。
「お前のレベルは幾つだ?」
レベル? ああ、確かステータスにそんな項目があった。
レベルは、魔物を討伐すると経験値を得られて上がっていくシステムだ。
どのキャラも、レベル九十九でカンストするから、あまり意味がない。
あくまで戦略要素が大切なゲームなのだ。
個人のレベルよりも、基礎的な能力の方が重要になる。
「レベル一だよ」
ボクの回答が気に入らなかったのか、睨む瞳に嫌悪感を含んでいる。
「貴族のくせに魔物と戦ったこともないのか。予想以下じゃないか」
貴族なら、魔物を倒すのが当たり前だと思っている顔をしているね。
「それでは成績二十位ダンの申し出により、成績二位のリューク・ヒュガロ・デスクストスとの校内ランキング戦を開始します。両者前へ」
バルに適当に相手をしてもらえば、ダンも満足するだろう。
あっさりとダンが負けることは勘弁してほしい。
一分は持ってくれよ。
「良い戦いにしよう」
ボクが声をかけるが、ダンからの返答はない。
「開始」
リサーチ先生の声で、ボクは意識を失って全てをバルへ委ねた。
次に意識を取り戻すと……、
「はっ、離せ!」
ボクによって首を掴まれて吊し上げられているダンが目の前にいた。
顔は殴られたのか、腫れてダメージを蓄積させている。
反撃しようとしたダンの剣を蹴り飛ばす。
自然に体が動いてしまう。
これも体に染み込んだ技術なんだろうね。
ボクやダンは大きな怪我をしていない。
ここから負けるのは……、無理だね。
「終わりにしよう」
ダンが使う属性魔法は《増加》で、ブースト魔法と言われている。
肉体や武器を強化した際に、魔法の効果を《増加》させて何重にも上乗せができるチート魔法だ。個人で使う場合は、魔力と肉体を鍛えなければ効果が薄い。
仲間に魔法が得意な者がいれば、仲間の魔法を何重にも《増加》させられるので、強くなれるが、一人で戦うダンはボクにとって脅威にならない。
「ブースト」
ダンが《増加》を使って、身体強化を二重でかけようとする。
ちょっと見てみたいが、今は面倒なので終わらせる。
「やらせないよ。スリープ」
ダンを掴んでいることで、ボクの属性魔法の方が効果が早い。
魔法について、経験不足だね。魔法耐性も弱いので《睡眠》に抵抗できない。
負けるはずだったのに勝ってしまった。これは誤魔化す口実がいるな。
ボクの魔法によって、意識を失ったダンがだらりと力を失う。
「ダン。なっ、何をするつもりだ?」
通路に控えるリンシャンの声が会場に響く。
これは結果を変えてしまったアクシデントに対しての演出だ。
ボクはダンをバルによって、天井近くまで浮かせていく。
闘技場の天井は高く。
人が落ちれば確実に死んでしまう高さまで浮かび上がらせる。