第七話 従者

アレシダス王立学園の入学式の日。

ボクは学園のブレザーに袖を通して鏡の前で確認を行っていた。

十五歳になり、身長は百八十センチを超え、顔は小さく透き通る白い肌は透明感があり、手足は長く、引き締まった体は完璧なプロポーションだ。

薄紫の天然パーマがサラサラと輝きを放っている。

どこから見ても、キモデブガマガエルではない。

自分で言うのもアレだけど……。

「美しい!」

これほど完璧に美しい男性をボクは見たことがない。

「リューク様、忘れ物はございませんか?」

シロップは、歳を重ねるごとにボクの世話をすることに使命感を感じているようだ。

少しばかり口うるさくなったけど、怠惰なボクとしては全てしてくれるのでありがたい。やっぱり、シロップがいてくれて良かった。

アレシダス王立学園は全寮制なので、シロップとは別れなければならない。

「ないよ。全部シロップが用意してくれたからね。手荷物以外は、すでに寮へ運ばれたしね」

「本当にリューク様はマイペースなんですから。寮までお供して片付けてあげたかったです。学園の定めたルールによって私はお供ができません。本当に大丈夫か心配です」

「ボクだって、シロップが来てくれたら嬉しいよ。こればかりは仕方ないけどね」

貴族の中には、自分のことが自分でできない子も存在する。

学園側も従者の同行は認めている。

但し条件があり、従者になれる者は学園に通う者と歳が近くなければならない。

それも前後二歳までと定められている。

そのため従者を用意できる家は、歳の近い従者を子供の頃から一緒に育てて教育をしているのだ。ボクにはシロップしかいないので、そんな者はいない。

つまり、学園には一人で行かなければならない。そう思っていたんだけど、意外なことに父上の方から、従者の候補者が現れたと連絡が来た。

「大丈夫だよ。アレシダス王立学園にはカリンも居るしね。それにボクは自分のことを自分でできるってシロップも知っているでしょ?」

「それは知っておりますが、私がリューク様のお世話をしたいのです」

シロップは、幼い頃からずっとボクを守ってくれていた。

家族から受けられなかった愛情を、ボクはシロップからたくさんもらうことができた。

「ありがとう、シロップ。君には感謝してもし切れないほどの恩がある」

ボクはシロップを抱きしめた。

「リューク様!」

ボクに抱きしめられて驚いたシロップの尻尾がピンと伸びた。

「ボクを信じて待っていてくれるかい?」

「信じてお待ちしております。ですが、寂しいです」

「ありがとう。ボクも寂しいよ。家のことを頼むね」

「かしこまりました。お帰りを心からお待ちしております」

入学式に向かう馬車は、公爵家の家紋に専属御者が操って登校する。

目の前に座るシロップは、姉であり、母であり、唯一の家族だ。

ボクのことを心から愛してくれた。

シロップのことを、ボクはこれからも大切にしたい。

「学園を卒業したら、カリンと結婚するから、その時も付いてきてね」

「よろしいのですか?」

結婚したら、ボクの世話が終わると思っていたようだ。

ついてきてほしいと伝えると、嬉しそうに尻尾を振って喜んでくれる。

「うん。カリンが許してくれるなら、ボクの子を産んでほしい」

「えっ」

不意打ちの告白に驚いた顔を見せるシロップが可愛くて、やっぱり好きだ。

「ふふ、着いたみたいだね。それじゃ新生活に行ってくるよ」

ボクは馬車を降りて学園の門を潜る。

「リューク様、行ってらっしゃいませ」

シロップが馬車から降りて、深々と頭を下げて見送ってくれる。

ボクは、シロップに挨拶をするために振り返って手を振った。

シロップがいない日々は寂しい。

一年が終われば年末は家に帰ることができるから、それまでの辛抱だ。

入学式前に寮へ入寮申請を済ませなければならない。

その前に父上が用意したという従者と会う約束をしている。

警戒はしているけど、どんな相手だろうと受け入れてやる。

「リューク様でよろしいですか?」

従者との待ち合わせ場所に向かう途中、貴族寮へ続く並木道で声をかけられた。

女生徒の青髪はボブに切り揃えられてサラサラと風に靡いている。

メガネをかけた真面目そうな女の子がそこにいた。

「初めましてだよね。君は誰?」

ボクは声をかけてきた相手に驚いてしまう。

名前を聞かなくても本当は知っている。ゲームで見ていたメインヒロインの一人だった。

「ふふ、すぐに分かりました。父の言う通りの人でしたので」

「父?」

メインヒロインの父親はモースキー以外に心当たりがない。

「申し遅れました。私は、魔法省属性管理局局長を務めるマルサ・グリコ男爵が娘、リベラ・グリコと申します」

長い役職名を名乗ったリベラに、ボクは鑑定魔法をかけてくれたマルさんを思い出す。

マルさんとは、今でも文通を続けている。

アドバイスをくれる、ボクの魔法の師匠だ。

「マルさんの娘さん? びっくりしたよ」

「ふふ、父をマルさんと呼ぶのは、リューク様だけですよ」

「そう。マルさんの娘さんだから、リべさん?」

「いえ、さんは不要ですので、リベラとお呼びください」

真面目そうな雰囲気をしているリベラは、ゲームに登場するメインヒロインだ。

ゲームの主人公は、マーシャル公爵家の名誉騎士を父に持つ少年で、亡き父の志を胸に学園で勉強して王国騎士になることを目指して入学してくる。

血筋こそ平民ではあるが、属性魔法を所持しており、マーシャル領では子供の頃から魔物と戦って戦闘訓練をしている。

学園にやってきた主人公は、立身出世パートを目指すことになる。

立身出世パートに行くために、付き合う女性によってシナリオが変わっていく。

・特待生として入学してくる孤児。

・大商店の娘

・冒険者の両親を持つ獣人。

・魔法省を目指している魔女っ子。

・教師を務めている精霊族。

・マーシャル公爵令嬢

・アレシダス王国第一王女

七人の女性以外にも隠しヒロインや、サブヒロインなども用意されていて、やり込み要素が満載に散りばめられているのが醍醐味だ。

学園パートでは、己の基礎能力を向上させてヒロインたちと仲良くなる。

自分を磨くことで、出会うヒロインも代わりストーリーも変わっていく。

その一人であるリベラは、魔法が得意な女の子だ。

「リベラは魔法が好き?」

「大好きです。将来は魔法省に勤めたいと思っています」

ヒロインたちにはそれぞれ攻略の手順があり、リベラは主人公が魔法に関する授業を受けたり、魔法力を高めることで仲良くなれる。

魔法の基礎能力を高めることで、出会う魔女っ子だ。

三年の間に、リベラと仲良くなって魔法を鍛えてイベントを攻略すると。

「私と魔法を極めましょう」と告白してくれるのだ。


「そっか、リベラは真面目に魔法に取り組んでいるようだし、絶対になれるよ」

リベラの瞳はキラキラと光り輝く。

「普通は女性が魔法省に入りたいと言うと、バカにされるのです」

「どうして、リベラは才能もあるよ。それに真面目に魔法に向き合っているから大丈夫」

ボクは事実を告げただけだ。変なことは言っていない。

「はい。ありがとうございます」

リベラから向けられる瞳には好意が込められていた。

「ですが、学園にいる間はリューク様の従者として、お世話をさせていただきます」

「ボクのことは気にしなくてもいいよ。自分のことは自分でできるから」

「いえ、私がお世話をしたいんです」

前のめりに宣言するリベラに戸惑ってしまう。

どうしてこんなにも好感度が高いんだろ? 出会う前から、ボクを好きだったような態度に戸惑ってしまう。

「そうなの?」

「はい。リューク様のことが知りたいんです。リューク様の作り出す魔法は芸術です」

あ~そっちか、この子は魔法狂いという性格が設定にあったな。

魔法のこととなると見境がなくなり、色々なトラブルを引き起こす。

ゲームの主人公がトラブルを解決して、リベラを助けるイベントをクリアすることで仲を深めていく。

「魔法は追々ね。今は、寮の入寮申請を済ませないと」

「それは全て終わっております。リューク様の手を煩わせるわけにはいきません」

なぜ、そんなにやる気に満ち溢れているんだろう。

仕事が早いのは助かるけど。

マルさんからどんな話を聞けば、ここまで好感度が高くなるのかわからない。

「わかったよ。入学式の時間まで魔法の話でもしようか?」

「お願いします。あっ、お茶を淹れられる場所へ行きましょう」

リベラが入れてくれたお茶は、ボクがマルさんに定期的に送っているハーブティーだった。やっぱりスッキリしていて美味しいね。

そのあとは、楽しく魔法について語り合った。

リベラの知識は素晴らしくて、聴いているボクも十分に楽しむことができた。

マルさんもそうだったけど、リベラも無属性魔法の可能性を考察するのが好きなので、ボクがクッションに乗って浮いていたバルの研究に興味があるそうだ。

宙に浮く以外にも色々なことができるように研究を続けているので、今度はリベラと一緒に研究をしてもいいかもね。