幕間二 マーシャル公爵家
俺の名はダン。マーシャル騎士団で騎士見習いをしている。
マーシャル騎士団は、王国に存在する二大公爵家の一つであるマーシャル家がつくった騎士団で主にマーシャル領内の警備をしている。
マーシャル家は、王国騎士を多く輩出している家系で、現在の王国騎士団元帥をしておられるのがマーシャル公爵様だ。
マーシャル領では、実力ある者を騎士として取り立ててくれる。
実力至上主義社会を領内のルールとして築いてきた。
平民であろうと、マーシャル公爵様に認めてもらえれば、騎士になれるのだ。
俺の父さん、ダンケルクはマーシャル公爵様に認められて右腕と呼ばれる人だった。
マーシャル公爵様から、名誉騎士の称号を授けられてもいた。
だけど父さんは、マーシャル領で起きた魔物の行軍と呼ばれるダンジョンブレイクの際に、マーシャル領を守るために殉職した。
俺もいつか父さんのように騎士になって、みんなを守れるようになりたい。
父さんとマーシャル公爵様は親友関係にあった。
父さんが、マーシャル領を守った功績で、俺と母さんは手厚く保護してもらっている。
ご厚意で騎士としての教育も受けさせてくれてる。
マーシャル公爵様には、二人の子供がいて、兄のガッツ・ソード・マーシャル様は四つ上。そして妹のリンシャン・ソード・マーシャル姫様は同い年だ。
「ダン。今日こそ決着をつけるぞ」
真っ赤な髪をポニーテールに結んだ血気盛んな姫様が俺に木刀を向けている。
「へいへい。姫様には負けねぇぞ」
俺と姫様は共に騎士となるために教育を受けてきた。
だからこそ、負けるわけにはいかない。
騎士にはなれていないけど、戦士としての誇りを持って姫様には負けない。
「今日で千戦目だ。四百四十三勝、四百四十三敗百十三分けだ」
「おうよ、姫様。アレシダス王立学園に入る前に勝ちこさせてもらうぞ」
体が成長するにつれて、力では俺の方が強くなってきている。
速さでは姫様の方が上だが、二人の戦績が物語っている通り互角に戦えている。
「属性魔法を組み合わせた戦いは、私の方が有利だ」
互いに構えをしながら、無属性魔法の身体強化を発動する。
身体強化魔法はマーシャル家のお家芸と言われるほど洗練されている。
騎士たちほど滑らかとは言えないが、同年代の者たちに比べれば、素早く全身に巡らせることができる。
姫様も同じタイミングで全身の強化を終えた。
「はっ!」
「行くぞ!」
ほぼ同時に地面を蹴って剣をぶつけ合う。
「取った!」
「舐めるな!」
剣を交差させる間に、俺は剣に属性魔法《増加》を付与して加速させる。
同じく、姫様も属性魔法を発動して、《盾》が出現して、俺の剣を受け止めた。
「まだまだ!」
「くっ!」
《盾》で剣を防がれたことで、スキができた俺の脇腹に姫様の剣が突き刺さる。
「これで私の勝ち越しだな」
嬉しそうな笑みを浮かべる姫様を、俺は地面に倒れて見上げている。
俺は今年、アレシダス王立学園に姫様の従者として共に行く。
立場的には専属騎士だが、正式な騎士ではない。
俺はアレシダス王立学園に行って騎士になる必要があるんだ。
「まだだ。続きは学園でやってやる!」
「くくく、負けず嫌いな奴だ。いいだろう。続きは学園で受けてやる」
負けを認めない俺を見て、姫様は見下ろして笑っていた。
マーシャル家で俺は騎士としての心を教えてもらってきた。
弱き人々を助け、剣を持たない人たちを守る。
正義感に溢れたマーシャル家の教えが、俺は好きだ。
「リンシャン。明日はアレシダス王立学園の入学式なのだ。ほどほどにしておきなさい」
落ち着いた低い声は、マーシャル公爵様の声だ。俺は急いで飛び起きて片膝を突く。
「父上。ご覧になっていたのですか?」
俺の横で膝を突く姫様が驚いた声を出す。
「いや、今来たところだ。二人が稽古をしていると聞いてな」
「未熟な剣をお見せしてしまい、恥ずかしい限りです」
「そんなことはない。二人とも身体強化が上手くなった。ダン」
「はっ!」
俺にも声をかけていただくのは恐れ多く。だが嬉しいと思ってしまう。
「お前はまだまだ伸びる。アレシダス王立学園に入っても娘を守ってやってくれ!!」
「はっ!」
「ダンケルクのような立派な騎士になるのだぞ」
父さんのことを言われて、俺は嬉しい気持ちになる。
いよいよ大人向け恋愛戦略シミュレーションゲームの舞台が始まろうとしていた。