第六話 キモデブガマガエルの真実

ボクにはずっと気になっていたことがある。

どうして、リュークはキモデブガマガエル姿になったのだろう?

ただ、怠惰に食事を食べ続けて、運動もしないで、衛生管理も度外視で生活をしたとして鏡に映るボクの姿から、あそこまで醜くなるとは思えない。

美容と健康を頑張って、運動も魔法も努力して出来上がったボクは自他共に認めるイケメンで、むしろその辺のイケメンより美しい。

ボクの記憶にあるキモデブガマガエルのリュークは、顔中が太って醜く腫れ上がり、ニキビ、や吹き出物、イボなどができて大きく腫れて成長をとげていた。

さらに日焼け後なのかわからないシミや変色した皮膚が顔にマダラに点在していた。

そんな状態に普通の生活をしていて、なるのだろうか? そうは思えない。

そこで、カリンに食事について質問をしたことがある。

「カリン。食べ過ぎたり、人の体を変化させてしまうほどの食べ物ってあるのかな?」

前世の記憶があるボクは、アレルギー体質や、体に合わない食べ物があることは理解している。

そういう物を食べた時に全身にぶつぶつができる人を見たことはある。

他にもチアノーゼ、下痢、嘔吐、頭痛、吐き気、など顔を変質させる物とは反応が違うように思える。

キモデブガマガエルのリュークのように全身に様々な症状が出るのはおかしい。

「ないこともないですが、そのほとんどは毒ですわね」

「毒?」

「ええ、毒は薬として使われることもあって、私も薬膳料理などを勉強する際に知りましたが、材料の中には毒を混ぜて、体を変質させたり、死をもたらしたりする物があるそうです」

ボクは、今まで毒の可能性は一切考えていなかった。

単純に、リュークの体が太りやすく、胃腸などが悪いのかと思っていた。

だけど、ボクが転生をした直後、リュークは高熱を出して倒れたとシロップが言っていた。

それはボクの誕生日で、コックや執事長が腕によりをかけて料理をしてくれた日だった。

「そういえば、リューク様が倒れた当初。他のメイドさんが毒を盛られたのではないかと、口にしていた人がいました。毒の中には容姿を変貌させてしまう物もあるとか」

毒を盛るとして、一体誰が? リュークを殺そうとするのだろうか?

ボクは、毒を盛られたことを考慮して、当時のことを調べ出した。

そこでわかったのは、五歳の誕生日までボクは太ってはいたが、健康的な体をしていた。

そして、五歳の誕生日を迎えて以降、コックをしていた者は辞めさせられていた。

それ以降は、執事長がボクの料理を作っていたこと。

六歳になって自分で料理をするまで、ずっと執事長が料理をしていた。

その間、ボクは体調を崩し続けていた。

魔力が枯渇して気分が悪いと思っていたけど、決まって食事の後に気分が悪くなって回復魔法をかけていた。

回復魔法は、孤児たちに使うことで、怪我、病気、異常状態(毒)にも効果があることはわかっている。


全てが繋がった。

ボクは誰も来ない部屋のカーテンを閉め切って、ある人物と向かい合う。

「やぁ、執事長」

目の前には、目と口を塞がれた執事長が、椅子に縛られて座らされている。

ボクの他には誰もいない。シロップにも何も告げていない。こんな姿をシロップに見せたくはないからね。

「ボクは考えたんだ。どうしてリュークはキモデブガマガエルになってしまったのかって。普通に成長していけば、太っちょになっただろうけど、あそこまで酷い顔にはならなかったはずだよね」

執事長は、ボクが言っている言葉が理解できないと沈黙を守っている。

「きっとね。ボクに毒を盛った人がいるんだよね」

毒という言葉に、執事長は体を大きく震えさせた。

「毒の中には、容姿を変貌させる効果のある毒があるんだって、ボクの食事に毒を入れられる人は誰だろう。食事を作る人かな。給仕をしてくれる人かな」

執事長は、大きく喉を鳴らすように唾を呑み込んだ。

口を塞いでいた布をとってあげる。

「わっ私は、デスクストス様から」

「うん。そうなんだね。父上から命令されて毒を盛ったんだよね」

執事長がボクに毒を盛る理由など、それ以外に考えられない。酷くボクを嫌っているならわかる。だけど、執事長はボクに対して、いい人でもないけど、悪い人でもない。

じゃあ、執事長に命令できる人は誰なのか。雇い主であるデスクストス公爵に他ならない。

「これは確認だよ。毒を入れたのは君だよね」

「おっ、お許しを」

あっさりと認められてしまった。ボクは悲しさと共につまらなさを感じていた。

もっと抵抗してくれれば、復讐する気持ちも強くなったのに……。

「うん、許すよ。でも、罰は受けてもらう。大丈夫だよ。命までは取らない。仕事も奪わない。ただボクの魔法を使う実験体になってもらうだけだよ」

「何をなさるのですか?」

「君に《怠惰》をプレゼントしてあげる」

殺したところで、父上はきっと興味もないだろう。

だから、ボクは何もしない。

ボクの目の前には虚ろな目をした初老の男がいた。

目につけられた布も、椅子に巻きつけていたロープも、全て取り去っている。

それでも立ち上がることはない。

ただ、そこにいる執事長は、無気力に生きているだけだ。

「これで、デスクストス公爵はボクにとって敵だとハッキリしたね。殺されてなんかやるもんか。無関心に何もしてこないのであれば、ボクだって公爵家のすることを邪魔する気はなかったのに。だけど、そっちがその気なら、ボクはボクの怠惰な生活を守るために動かせてもらうよ」

執事長を残して、ボクは自分の部屋へと帰った。

「リューク様、どちらに行かれていたのですか?」

「ちょっとね。ねぇシロップ。ボクがアレシダス王立学園に行くって言ったら嬉しい?」

「行くのが当たり前だと思っておりました。行かないつもりだったのですか」

ボクの発言にシロップは驚いた顔を見せる。そういう選択肢もあるとボクは思っていた。

今の《怠惰》な生活が守られるなら、ゲームに関与しないで、過ごしていくのもありかと思っていた。

だけど、この家に居れば殺される。《怠惰》に過ごすことができないなら。

「デスクストス公爵家の駒として、使い潰されるぐらいなら、ボクの知識を活かして、ゲームの主人公たちを陰から助けてやるよ。『あくまで怠惰な悪役貴族』として、リュークの役を演じてやる」

ボクがゲームの主人公たちを陰から助けて強くしてやる。

貴族派と王権派が対立できるお膳立てをボクが用意するんだ。

これは自分の生活を守るために、ゲームの世界を知る者として、《怠惰》な生活を守るために、この生に抗うことを選択して、アレシダス王立学園に入学することを決意した。

それから一年が経ち、入学試験の日。

入学者の実力を測るために試験官の前で、実技、魔法、学科の三種目の試験を受けた。

それぞれの首席は、特待生として合格することができる。

ボクは適当に力を抜いて、試験に臨んだ。

会場には、緑色の毛並みに、エメラルドグリーンの瞳をもつ猫獣人の女の子を見つけた。

メインヒロインの一人である冒険者のルビーだ。

可愛い姿に対して、鋭い短剣の技は試験官を倒すほど素晴らしい。

ボクは、彼女が実技をする横で、魔法を放って会場を吹き飛ばした。

首席になるのは嫌なので、試験は適当に受けた。

キモデブガマガエルでも優秀な成績で合格できたから大丈夫だろう。

メインヒロインの一人を見れただけでも、ボクとしては気分がいい。

お気に入りのゲームのキャラに会えるのは、それはそれで楽しみだね。


ボクの家に、合格通知が届いたのは、それから数日後のことだった。