第四話 奇跡の出会い
最近は、シロップと交代で料理をしている。
メイドとして、掃除や洗濯、ボクの世話を完璧にできるシロップだけど、料理だけはあまり上手くない。豪快と言えばいいのか、繊細さに欠けているのだ。
今後の課題ではあるんだけど、現在の使用人はデスクストス家が雇っていて、ボクとしては信用できる人間がシロップしかいない。信用できない人が作った料理を食べたくない。
子供の頃は、ご飯を食べた後に体調を崩していたから、この世界の調理法があっていない恐れがある。ふぅ、歳を重ねるごとに悩むことが増えていくような気がする。
最近は毎日、バルに体を渡して朝からお昼にかけて運動をするようにしていた。
その方が、頭がスッキリして属性魔法の実験に入りやすいからだ。
体を動かして汗を流していると人の声がした。
「このまま誰とも会えないで、死んでしまうのでしょうか?」
不安そうな女の子の声が聞こえてきた。
「誰? 誰かいるの?」
「えっ、人がいるのですか?」
どうやら、向こうは誰もいないと思っているようだ。
水浴び中は、シロップも側には近づかないので、突然声がしてビックリした。
ボクはタオルで体を拭きながら、声の主を見るために覗き込む。
そこには、ふくよかな体形をした丸顔の可愛らしい女の子がいた。
「あわわわわわ」
ボクの姿を見て、安堵するかと思ったら、上半身裸のボクを見て慌て始めた。
服装からして、デスクストス家のお茶会に参加している令嬢かな?
シロップから、今日はアイリス姉さんが、お茶会を開いていると聞いた気がする。
ここは離れなので、誰も来ることはないと油断していた。
「お姉さんは、アイリスお姉様のお客様?」
「アイリスお姉様!」
ボクの一つ上に生まれたアイリス・ヒュガロ・デスクストスは、自分の派閥をつくるために、貴族令嬢を招いてお茶会を開いている。
ゲーム本編では、アイリス姉さんは、悪役令嬢として出現する。
《誘惑》の属性魔法は強力なので、倒すのに苦労した覚えがある。
「アイリス様の弟君ですか?」
「うん。ボクはリューク・ヒュガロ・デスクストスだよ」
上半身を拭こうと肩にかけていたタオルを外すと、女の子は急に慌て出して土下座のポーズになった。
「あわわわわわわわわっあわわわわわわ、私は! カリビアン伯爵家のカリン・シー・カリビアンと申します!」
なんだか、見ていて面白い人だな。
「ふふ、カリンお姉さんって面白いね」
ボクが褒めると、目の前の少女の瞳がハートマークに変わってしまう。
好意を持ってくれたのかな? 悪い子には見えない。
でも、どうして土下座ポーズのままでいるんだろう?
家族から無関心な瞳を向けられてきた反動で、相手の好意や悪意に敏感になってしまっている。カリンお姉さんが、好意的な目を向けてくれるなら別に裸ぐらい見ても良いのに。
「ねぇ、カリンお姉さん。お姉さんも貴族なら属性魔法を使えるの?」
「はっはい、使えます!」
「ボク、魔法が好きなんだ。カリンお姉さんの属性魔法を見せてくれる?」
「はい、喜んで!」
どこの店の店員さんだよ。
元気よく返事をしたカリンお姉さんが立ち上がって、自分のスカートを捲り上げる。
スカートの下にはかぼちゃパンツと、ポーチが隠されていて、ポーチから調理器具が出てきた。他にも食材や鍋など料理の準備がされていく。
「うわ~凄いね。それが魔法?」
「違いますわ。マジックポーチですわ。今から魔法を使いますので、服を着てくださいませ」
えっ? 今のが魔法じゃないの? あの小さなポーチはマジックポーチなの?
見た目よりも、容量が大きくてたくさんの物を入れられる異世界の不思議アイテム!!
ボクは、マジックポーチに興味を惹かれながらも、言われた通りに服を着た。
「私の属性魔法は、《料理》ですわ」
「《料理》、属性魔法で器具を出したの?」
どこからが《料理》の魔法で、どこからマジックポーチなのか説明をしてほしい。
「いきますわ!」
料理を開始したカリンお姉さんの動きは、洗練された達人のように
その表情は真剣でありながら楽しそうで見惚れてしまう。
《料理》の属性魔法は、カリンお姉さんの能力を引き上げてくれるのかな?
「有り合わせになりますが、ムーンラビットの香草スープを作りました。どうぞ召し上がれ」
「うわ~美味しそうな匂いだね。いただきます」
食欲がそそられる匂いだけじゃなく、属性魔法で作られた《料理》に興味が尽きない。
ボクはスープを口にした。
ヤバッ美味い! そう思った時にはスープを飲み干していた。
今まで、前世も含めた記憶の中で一番美味しい料理だった。