第三話 属性魔法鑑定

五年の月日が流れた。

ボクは十一歳になって、横へ大きくならなかった代わりに縦に伸びた。

顔つきも、ぽっちゃりからシュッとした綺麗な顔に成長して、体も太ることなく健康的に成長できている。どうしてリュークはキモデブガマガエルになったのだろう?

美容は頑張っているけど、元々の素材は悪くない。

今の状態から、キモデブガマガエルになるとは思えない。

「シロップ、どうかしたの?」

先ほど部屋に入ってきたシロップはボクを見て黙っていた。

ボクはバルに乗って、クッションに体を預けて本を読んでいた。

日々の訓練の賜物で、バルはボクを持ち上げて浮かせられるようになった。

「どうして浮いているのですか?」

シロップはボクが浮いていることに対して驚いているようだ。

原理を説明するのが面倒だ。

それにシロップは魔法が苦手なので、説明しても理解できるのかわからない。

解決方法としてボクは、シロップに問いかける。

「シロップも乗る?」

「えっ? 乗ってもいいのですか?」

「全然いいよ」

シロップは怖がりながら、バルの上に乗った。

バルはふわふわしていて寝心地がいい。

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」

ボクが魔力でしっかり支えているからね。

バルの上に乗ったシロップは、感動しているようだった。

クッションも、綿を詰めて自分で作った自家製なので自慢の一品だ。

「こんな心地よい物は初めてです」

「そう、よかったね」

「はい! あっ、リューク様。もう一つお聞きしたいのですが?」

「なに?」

「どうしていつも本を読んで寝ているだけなのに、体が引き締まっているのですか? お食事はちゃんととられていますよね」

美容はシロップも一緒にしている。

最近シロップが綺麗だと、他のメイドが話しているのを聞いた。

だけど、シロップにも運動している姿は見せていない。

精々、日光浴の時に散歩している姿ぐらい。

シロップは、ボクの着替えも見ているので、六つに割れた腹筋を見ている。

「う~ん。教えてあげてもいいよ」

バルから降りてもらって、シロップの前でボクは魔力を練り始めた。

「見ていて」

シロップは魔力を練るという行為も知らなかったので、そこから説明してあげた。

魔力を練って固めるという簡単な説明だけをして、魔力玉を作り出す。

「シロップ、いくよ」

ボクは、練り込んだ魔力を体の中へと取り込んだ。

魔力を取り込むと、ボクは意識を失う。

バルには、ボクを浮かせる以外にも使い方を編み出した。

バルを体内に取り込んで、脳を介してボクが知る武闘家の動きをバルに再現してもらう。

ボクは、戦略ゲームも好きだけど、格闘系のゲームや漫画も大好きだった。

投げ、打ち、払い、殴り、蹴り、極めなど総合格闘技の知識や古流武術の動きを、バルに再現させたんだ。

それは独自の格闘術となって、五年でバルは形を作った。

バルはボクが寝ている間に、形を実践して体に覚えさせた。

ボク自身が忘れていると思う技術も、記憶を掘り起こしたバルが再現する。

何百、何千年の歴史と知識がボクの体で一つの格闘術を生み出した。

五年の研鑽によってボクの体に染み込んでいった。

「えっ? えっ? えっ? えっ~!!

普段、動かないボクが動いていることにシロップが驚いていることだろう。

「どういうことですか? 動かれるのがあれほど嫌いだと言っていたじゃないですか?」

シロップの叫び声に答えてあげられない。

バルに体を預けているので返事ができない。

一通りの形を終えるとバルが動きを止めて意識をボクに戻してくれる。

意識を失っているので、自分がどんな動きをしているのかわからない。

体が覚えている程度には、上手くできていると思う。

だって、体がしっかりと鍛えられているからね。

「どうだった?」

ボクが問いかけると、シロップは惚けた顔をしていた。

凛々しくて綺麗なシロップが惚けている。いつもとのギャップで可愛いね。

「凄かったです。リューク様がご自身でここまで努力されていたなんて驚きです」

「う~ん。努力とは違うんだけど、まぁいいか」

体を動かしたから疲れたよ。

ボクはもう一度魔力を練ってクッションバルを作り出して体を預ける。

「違う。何が違うのですか? あれほどの動き、本物の格闘家でも見たことがありません。達人の域に達しています!!

「へぇ、そうなんだね。ボクが生み出した魔法の一つでトレースって言うんだ」

「トレース。浮いているだけでも凄いのに、さらに新しい魔法を生み出したのですか? 天才です」

「天才じゃないよ。ボクが意識を失った時に発動できるんだ。その間に脳が見たことがある動きを真似ることができる魔法なんだよ。ボク自身は動いていないし、意識もないから努力もしてないよ。それでも体は鍛えられるし、自然に体が覚えて強くなれるから便利なんだ」

説明しても、全く理解していない顔をしている。

ただ、物凄く尊敬した目で見てくれる、シロップは可愛いので良いね。

「主様は、十一歳で魔法という神秘の領域である深淵を垣間見られたのですね」

「深淵を見たかどうかはわからないよ。ただ、これ以上説明してもシロップが理解できないことはわかったけどね。知識チートの一つだから理解されないよね。シロップ?」

「はい。主様」

相変わらず忠犬っぷりを発揮するシロップは可愛い。

名を呼んだだけで喜んでくれる。

「そろそろ無属性魔法もある程度使えるようになったから、属性魔法の検査をしてもらいたいんだけど、お父様に伝えてくれる?」

ボクの言葉にシロップは誇らしい顔をして首を大きく縦に振った。

「はい、かしこまりました」

シロップはすぐにボクの要望を父上に伝えて、近いうちに検査されることが決まった。


《属性魔法》とは、無属性が魔力をイメージして作り出す事象とするなら。

属性魔法とは神様が定めた力だと言われている。

生まれながらに《属性》を持っていなければ、使うことができない。

何よりも自分の属性を理解しなければ、使用できない。

不思議なことに属性魔法は、教えてもらうことで使えるようになる。

教えてもらうと言っても、伝授するとかではない。

あなたの属性魔法は《火》ですよと伝えられ、《火》の属性魔法を持つ人は、火を使うことができるようになる。

では、誰がそれを教えてくれるのか。

それを管理しているのが、魔法省だ。

王国の魔法省に所属しているエリートだけが、属性魔法を知る方法を知っている。

魔法省のエリートがボクのために教えに来てくれると言うわけだ。

貴族の特権だね。貴族の息子って最高だよね。

ちなみに、ボクの家族であるデスクストス家は優秀で、全員が属性持ちだ。

父であるデスクストス公爵は《砂》の属性魔法。

義母であるデスクストス夫人は《石》の属性魔法。

テスタ・ヒュガロ・デスクストス兄上は、《鉄》の属性魔法。

アイリス・ヒュガロ・デスクストス姉上は、《誘惑》の属性魔法。

ボクこと、リューク・ヒュガロ・デスクストスには、どんな属性魔法が宿るのかな?

楽しみで仕方ない。そんなことを考えていると扉がノックされた。


「コンッコンッ」

シロップはボクが返事をしなくても扉を開く。

「クッション!」

「うん? 誰?」

シロップだと思っていたら、男の人の声がして、ボクはバルに乗ったまま振り返る。

「クッションに美少女!」

オジサンは、ボクを女の子と間違えたようだ。

顔は整っているし、美容も頑張っているけど、女の子と間違えられるほど可愛いかな?

「リューク様。魔法省属性管理局から来られました。局長のマルサ・グリコ様です」

シロップが、驚いているオジサンを紹介してくれる。

オジサンは、シロップが長い肩書きを覚えていたことにも驚いているようだ。

王国内は、通人(通人とは、亜人、獣人、精霊族、魔族と普通の人を分けた言い方である)至上主義と言う宗教が国教になっている。

それは通人以外の亜人をさげすむ教えなので、驚いた顔を見た時は、犬獣人であるシロップのことを蔑んでいるのかと思ったけど違うようだ。

単純にシロップの優秀さに驚いただけだった。

「ああ。そういえば今日だったね」

ボクはバルを天井近くまで浮かしていたので、オジサンの前にまで降りていく。

「やぁ、マルさん。リューク・ヒュガロ・デスクストスだよ。長い名前だからリュークって呼んでいいよ。よろしくね」

「マルさん?」

オジサンこと、マルさんは驚いた顔をしていた。

それでも差し出した手を握ってくれた。

きっと、このオジサンは悪い人じゃない。

ボクの中でマルさんの評価が上がった。

「それでは属性魔法の検査を行わせていただきます」

向かい合って椅子に座り、マルさんの指示に従って検査が開始される。

「それでは目を閉じて」

「はい」

ボクが目を閉じれば、マルさんから息を吐く音が聞こえてくる。

緊張しているのかな?

「いきます」

「うん」

緊張したマルさんの声が聞こえてくる。

「《睡眠》と《怠惰》」

それを聞いた瞬間、ボクの頭の中に今までなかった情報が追加されていく。

不思議な感覚だけど、それは昔からあったような当たり前のような感覚を味わう。

「あ~なるほど。うん。うわ~凄いね。言葉で伝えられただけで、どんな魔法なのか理解できたよ。でも、これは使い方は、また別なのかな?」

自分の中に属性魔法が、生まれた。

いや、元々あった情報を思い出したと言う方が正しいのかな?

ただ、なんとなくどんな魔法なのか、そして簡単に使い方だけが浮かんでいる。

「はい。属性魔法の中に、希少魔法と呼ばれる唯一無二の魔法が存在します。無属性魔法にしろ、属性魔法にしろ、魔法と向き合い、各々が研鑽を積み能力を上げていきます」

マルさんが丁寧に説明してくれる言葉に、ボクは納得してしまう。

何よりもマルさんの瞳はシロップのように、ボクを尊敬してくれている。

子供とあなどるような目をしていない。

不思議なことだけど、マルさんの瞳にボクは好感が持てた。

「魔法と向き合うか、マルさんありがとう。魔法の訓練をするときに念頭に置いておくよ。今日はありがとう。でも、驚いたよ。鑑定魔法が存在していたんだね」

「なっ!」

ボクが鑑定魔法と口にしたことが、マルさんにとっては驚きだったようだ。

「うん? どうかしたの?」

「なぜ? 鑑定魔法のことをご存じなのですか?」

あ~、異世界転生では当たり前だと思ったけど、機密事項だったかな?

「えっ、だってボクの属性魔法を看破したんでしょ。それって鑑定が出来るってことだよね」

驚き過ぎた人って凄い顔をするよね。

マルさん、あんぐりと口が開いているよ。

「ゴホッゴホッ!」

口を大きく開けて、口の中が乾燥してしまったマルさんが咳き込んでしまう。

「すみません。お客様にお茶も出さないで、シロップ」

「はい」

側に控えていたシロップがお茶を入れてくれる。

マルさんに渡して落ち着くのを待った……。

ボクの部屋のお茶は、ハーブティーを使用している。

スッキリとして、体にもいいので健康と美容のために取り入れた。

「美味しいですね」

「気に入ってくれたみたいだね。オススメのハーブティーなんだよ」

「これもリューク様が考えられたのですか?」

「そうだよ。ハーブティーは体にもいいからね。少し茶葉を分けてあげようか?」

「頭がスッキリして気に入りました。感謝します」

お茶を気に入ったマルさんと世間話をして過ごした。

ボクが説明するのが面倒なところは、シロップに話してもらって、ボクが説明しないといけないところは説明した。

「とても貴重な時間を頂きありがとうございます」

「ねぇ、マルさん」

「はい。なんですか」

「よかったらね。ボクの魔法の師匠になってくれない?」

魔法の勉強をするなら、やっぱり誰かに聞く必要がある。

本を読んでいても限界がある。

「魔法の師匠ですか? リューク様には必要ないと思いますよ。どんなことを学びたいのでしょうか。私にも守秘義務がありますので」

魔法省の機密などは話せないってことかな?

そんなものには興味ないけどね。

「難しい話じゃないよ。ボクがわからない魔法について手紙を送るから答えてくれない?」

「文通ということですかな? 齢四十を超えて文通とは、面白いですね」

ボクの申し出に意外にも、マルさんは優しく応じてくれる。

「いいの?」

「ええ。私もリューク様にお聞きしたい時は質問をしても構いませんか?」

「もちろんいいよ」

マルさんが聞きたいことに答えられるのかわからないけど、誰かに教えてもらえるのはありがたい。

「それでは交換条件が成立しましたので、お受けしましょう」

「ありがとう!」

三十歳以上も年上のおじさんがボクの初めての友人になってくれた。

マルさんには、ボクと同い年の娘さんがいるんだって、アレシダス王立学園で会えるから会ってあげてほしいと言われたよ。

ボクってシロップ以外の人と知り合いがいないけど、大丈夫かな?

ただ、マルさんとの楽しい会談は終わりを告げた。

マルさんとの、文通は順調に続いている。

そのおかげで、随分と属性魔法について知ることができた。

無属性魔法は、魔力を様々な形に変化させるイメージをすればよかった。

だけど、属性魔法は決められた属性を魔法として使うため、無属性魔法とはルールが違う。

ボクの属性魔法は、《睡眠》と《怠惰》の二つだ。

属性魔法について理解を深めていくと、どちらも凄いチート魔法だった。

ただ、使うためには訓練が必要になる。

将来のボクにとって、素晴らしい力になってくれることは間違いない。

マルさんに鑑定してもらって告げられた時は、固有魔法と呼ばれる基本的な魔法呪文の存在が理解できた。


《火》を授かった子には、《点火》、《ファイヤーボール》、《ファイヤーアロー》、という三つの固有魔法を使えるようになる。

《点火》は、指先に火を灯してライターのように使うことができるようになる。

《ファイヤーボール》は、灯した火をボールのように固める。

《ファイヤーアロー》は、固めた火を矢のように飛ばす。

つまり、

《点火》は、火を発現させて着火を覚える初歩魔法。

《ファイヤーボール》は、魔力を練って固める訓練をする初歩魔法。

《ファイヤーアロー》は、固める魔力を飛ばすための初歩魔法。

それらを知識として得られた後は、繰り返して熟練度を上げていくしかない。

ボクが習得した《睡眠》の場合ならば、

《スリープ》、《スリープタイム》、《スリープデリート》の三つの固有魔法を使える。

《スリープ》は、触れている対象を眠らせられる。

これは自分にもかけることが出来て、眠らせる時間はランダムになる。

寝る時間はその人の魔力抵抗力や、ボク自身が込める魔力によって睡眠の深さや長さが変わってくるのでランダムになってしまう。

《スリープタイム》は、触れている対象を眠らせる時間を指定できる。

八時間と指定すれば、何をしてもその人は絶対に八時間は起きない。

つまり、殺されそうになっても、痛みを感じても、起きることはない。

《スリープデリート》は、スリープを仕掛けた相手や、眠っている人を強制的に起こすことができる。強制睡眠妨害魔法だ。なかなか意地悪な魔法だと思う。

これだけ整理してみれば、属性魔法が強力でチート魔法だと理解できる。

魔法には、魔法耐性や妨害魔法が存在するので、防がれて失敗することがある。

ただ、相手の属性魔法がわからない初見の時に《睡眠》を妨害すると思うだろうか?

魔法耐性や魔法障壁で全方位を防がなければ、魔法を使われても意味がわからないと思う。《怠惰》に至っては、何が起きたのか理解できないかもしれない。

ここまで整理してきたけど、まだ初歩的な固有魔法であり、応用や発展魔法も作り出すことができるようだ。ボクは《睡眠》の応用魔法を思いついた。

ファイヤーアローがあるなら、スリープアローがあってもいいはずだ。

離れた場所にいる相手をスリープアローで眠らせられたら、触れなくても眠らせられる。

テスト中に先生を眠らせておけば、カンニングをやりたい放題だね。

属性魔法の実験に明け暮れていると時間が足りない。