第二話 魔法はチート

魔法の訓練を始めて一年が経った。

最初こそ、魔力が枯渇して意識を失う日が多かった。

その度に、体調を崩してしまって、シロップに心配をかけてしまった。

一年も続けていると、一日で使いきれないほどの魔力量になった。

魔力量を増やす実験は成功したことが、実証できた。

残念ながら一年が過ぎても、魔法の師には出会えていない。

デスクストス公爵家は、リュークに対して最低限の親としての義務は果たしてはいる。

それ以外のほとんどは無関心なのだ。そのため、教師を呼んでもらうことも出来ない。

執事長が一人と、メイドが三名でボクが住む離れを管理している。

シロップ以外から勉強を教えてもらうことはない。

歴史などは、文字が読めるようになったので、本から知識を得ることにした。

絶対に、自分の意思で運動はしたくない。

絶対的なボクの意思だ。

だから、シロップが勧めてくれた。剣術の訓練は、全てキャンセルにしている。

ただ、キモデブガマガエルのような醜悪な未来の姿にはなりたくない。

一日に一度は、外に出て日光浴をする。

子供の身体は、太陽の光に当たっておかなければ、正しく基礎代謝が行えない。

キモデブガマガエルのリュークは、食べて寝て、努力もしなかった。

将来的に、ボクは怠惰に過ごしたい。

だけど、健康でもいたい。健康とは美容に密接に関与しているとボクは思う。

美容について考えると、日光浴、適度な運動、食事、は必ず見直さなければならない。

ボクが住んでいるデスクストス家の離れの周辺は、綺麗な花に囲まれていて美しい。

季節折々の花を見ることができるのは、十分にボクの心を癒してくれる。

美容や健康などを気にしているからか、一年前に比べてポッチャリ気味だった身体は、健康的な体へとつくり変わってきている。

ただ、食事をする度に気持ち悪くなってしまうのはなんなんだろう。

そのたびに回復魔法をかけて、不快感を取り除いていた。

回復魔法を使って魔力を消費するのは訓練ができていいんだけど、気分が悪くなる食事は嫌だ。異世界に来たから食事が合わなくなったのかとも考えた。

それともリュークの胃や消化器系が、生まれつき弱いのか、無理やりたくさんの食事をしていたからか、理由はわかっていない。

最近は、ヘルシーな食事を、自分で作るようにした。

元々現世の知識はいくつか持っている。

食事だって、簡単な物なら自分で作ることができた。

シロップにも同じメニューで作ってくれるように教えている。

自分で作るようになってからは、気持ち悪さを感じることはなくなった。

日光浴以外にも、美容男子活動を始めた。

朝は二度寝を禁止にして、生活習慣の改善もしている。

起きた後は洗顔をして、幼い体でもキチンと汚れを落としていた。

ありがたいことに、ゲーム世界でも、石鹸、化粧水、乳液、保湿クリーム、日焼け止めの概念が存在していた。

石鹸や化粧品は高級品で、公爵家じゃなければ毎日は気兼ねなく使うことはできない。

ただ、金持ち公爵家では、気兼ねなく使うことができるからありがたいね。

家族はボクに無関心なので、何をしようと咎めない。

当主の父上は、お金にも執着がないのかな。

日課として、毎朝石鹼を泡立てた洗顔から美容男子生活が始まる。

「リューク様、凄いです! 泡が手から落ちません」

泡を作って、シロップに見せた時は大興奮だった。

シロップにも、泡を作って分けてあげる。

しばらく泡で遊んでいたけど、やり方を伝授して洗顔してもらった。

「でも、こんなにも泡立てる意味はあるのですか?」

「うん。ボクは肌が弱いようだからね。少しでも、肌に良い方法で綺麗にしておかないと」

将来のリュークは、ニキビ、シミ、吹き出物、イボなどが顔に出来ていた。

キモデブガマガエル顔になった原因は肥満だけじゃない。

怠惰に好き勝手に食事をして、弱い消化器系を守らないまま、生活習慣が乱れていたことが原因だとボクは思ったので改善をした。

暴飲暴食をやめて、体に合う合わないの検証研究をした。

アレルギー体質の実験みたいなことだね。

次に魔法の才能にあぐらをかいて、運動を怠ったこともダメだ。

日光浴と共に散歩と体操をする。

清潔感が不足して、体の免疫力も落ちていたのでお風呂にも入る。

大きな大浴場があるのに、貴族でも、三日に一度しか風呂には入らないらしい。

信じられないよね。訓練を兼ねて水汲みを魔法でして、毎日お風呂に入った。

洗顔、日光浴、生活習慣改善、適度な運動は、ボクの体を良くしてくれている。

「えっ? リューク様、肌が弱いのですか?」

驚くシロップに頷いて返事をした。

シロップが知らないのも仕方ない。

リュークの成長した姿を知らなければ予想が出来ないことだ。

キモデブガマガエルに成長するリュークの肌は、かなり荒れていた。

「まぁ、今すぐは問題ないから気にしなくていいよ」

「いえ、リューク様の専属メイドとして私も覚えます」

朝晩二回、洗顔をしてから、化粧水、乳液、保湿クリームを毎日欠かさない。

ゆっくりとマッサージをしながら、顔に塗る生活をシロップと二人で行う。

お風呂に入る習慣もなかったシロップは、身体を洗うことも苦手だった。

仕方なくシロップとともにお風呂に入って洗い方も教えてあげた。

元々綺麗な顔をしていたシロップは、一年間ボクと共に美容を続けたことで、一年前に比べて肌が綺麗になり、このまま成長していくシロップが楽しみになる。

日光浴中は、日焼け止めを塗ることで、シミや肌荒れ防止に努めている。

「最近、リューク様は色々なことを気にするようになられたのですね」

シロップからの質問に、ボクはキモデブガマガエルのリュークの顔を思い出す。

せっかく元がいいのなら、イケメンとして生きていきたい。

「あのね、シロップ」

「はい?」

「ボクは出来るだけラクで健康的に生きていきたいと思っているんだ」

シロップの可愛い顔が硬直する。

「……ラクで健康的にですか?」

なんとか意識を取り戻したシロップはボクに硬い笑みを作る。

「うん。でも、ラクをするって結構大変なんだよ」

「ラクが大変なのですか?」

「そうだよ。だって、ラクってね。ただ寝て食べていると、醜くなるんだよ」

「えっ! 食べて寝ているだけだと醜くなるんですか?」

「そうだよ。それに食べて寝ているだけって、凄くヒマなんだ」

ボクはボクなりの怠惰を考えてみた。

怠惰に枕を抱いて、ブクブクと脂肪を蓄えている生活。

それが大人になったとき、主人公にキモデブキャラの悪役貴族として、殺される未来へと繋がってしまうように思えた。


大前提として、怠惰には生きたい。

せっかく貴族でお金持ちの息子として生まれたのだから、苦労する生活なんてしたくない。将来のために、若いうちにやれることをやっておく。

大人になったら、お嫁さんに養ってもらう。

もしも、誰とも結婚できなかった時は、一人で生きていける安定した収入源をつくり出さないといけない。

将来、主人公に殺される未来を回避するために、学園に行かないという手もある。

だけどボクは、このゲームのプレイヤーとして、キャラたちが大好きだ。

ゲーム世界を満喫するためにも、学園には行きたいと考えている。

でも、キモデブガマガエルに成長する謎を解決しなければ、未来の断罪を回避できるとは思えない。老後は健康的な身体で、怠惰な生活を送るのが夢だ。

幸福度が高い怠惰にボクは為る。

「貴族様が、ヒマなのでしょうか?」

「ヒマだよ。だって、娯楽らしい娯楽が何もないんだもん」

カジノや遊園地なんて物は存在するが毎日行く場所ではない。

何より、今のボクには興味がない。どちらも行くのが面倒だからね。

「でっ、でしたら、剣術など習ってみてはいかがですか?」

何故か嬉々として剣術を勧めるシロップ。

「嫌だよ。ボクは動くのが嫌いなんだ。睡眠の質を上げるために、適度な散歩はしてもいいけど必要以上に自分の意思で動きたくはない」

耳をペタンと倒したシロップが物凄く残念そうな顔をする。

「そうですか~」

「剣術はしないけど、ボクにはシロップがいるから大丈夫でしょ?」

「え?」

シロップは隠しているつもりかもしれないが、身体を鍛えていることは知っている。

子供のフリをして、シロップに抱きつくと、引き締まった身体をしているからだ。

シロップが鍛えることの中に、剣術が含まれているかは知らないけど、これだけ剣術を勧めてくるってことは、シロップ自身が剣術を好きなんだろう。

「リューク様、知っておられたのですか?」

「まぁなんとなくだよ。だから、ボクの代わりに剣術はシロップに任せるね」

「はい!」

シロップの尻尾を振る姿が可愛い。

頭を撫でてあげると、耳をペタンと倒して気持ちよさそうな顔を見せてくれる。

ボクは体を動かすのが嫌いだ。

あまりにも嫌いなので、この一年で魔力を増やす以外に魔法を生み出した。

「さて、やるか」

部屋で一人になったところで、魔力を練り始める。


魔法には、無属性魔法と属性魔法の二つが存在している。

無属性魔法で出来ることは、

生活魔法

強化魔法

付与魔法

補助魔法

回復魔法

の五種類に分類されると言われている。

《生活魔法》は、生活に必要なライト(光を生み出す魔法)やクリーン(体や服を綺麗にする魔法)など生活に溶け込む魔法のことを指す。

魔力を魔法に進化させて生活魔法を考えた人は凄いと思う。

戦闘がない世の中になれば、生活魔法の方が絶対必要な魔法だ。

特にクリーンは超便利。

洗濯機がないこの世界で服も体も綺麗にしてくれるのはありがたい。

最優先に覚えたい魔法の一つだ。この魔法のせいで風呂の習慣が減っているとも思うけどね。

《強化魔法》は、肉体、武器、防具、などに魔力を流すことで、一時的に強化を行う。

六歳児の体でも、タンスやベッドを片手で持ち上げられた。

その後、物凄い筋肉痛に襲われるから、体を鍛えないといけない。

《付与魔法》は、鍛冶師や付与師と言われる人達が、無属性魔法の強化魔法の応用から生み出した技術だ。

武器に属性魔法を付与する際に使われる技術魔法なので、普通の人は使えない。

ボクも使い方はわからない。勉強したら使えるかな?

《補助魔法》は、他者に対してバフ効果やデバフ効果を与えることが出来る。

補助魔法はアバウトなところがあって、「強くなれ」と願うだけで魔法が発動したりする。明確なイメージができるほど効果は強くなるそうだ。

例えば、漠然と強くなれと願えば、身体能力が向上するが、腕の筋力を三倍にしたいとイメージを持って使えば、魔力が筋肉の代わりに三倍の筋力を与えてくれる。

補助魔法に関しては、試してみると幾つか使うことが出来た。

《回復魔法》は、単純に細胞の自己免疫力に魔力を流すことで活性化させる。

骨、筋肉、血液のことを理解していれば、より回復イメージが持てるので、治る力は強くなる。元の世界の知識のお陰で、回復魔法は得意な魔法になった。

普通の人が使えるのは、生活魔法か強化魔法までだそうだ。

どの魔法も知識と訓練が必要なので、人それぞれで差異が生まれてしまう。

無属性魔法は、魔力を色々な形に変化させて、応用する魔法の基礎ということになる。

その点に着目したボクは新たな無属性魔法を研究した。


そうして、完成させたのが魔力だけを固めた魔力玉だ。

「よし。バル、出てこい」

呼びかけると透明な魔力玉に顔文字のような(^^)が浮かび上がる。

「うんうん。今日も成功だな」

オリジナル無属性魔法バルーンは、命令すると仕事を代わりにやってくれる。

ボクにとっては、優れた無属性魔法なのだ。

例えば……、「バル。あそこの水を取って」と命令をする。

ボクから、三十メートル離れたテーブルに置かれた水は取ることができない。

だけど、バルに命令すると、バルは風船のような体の中へコップを吸収して、溢さないようにボクの下へと運んでくれる。

「ありがとう」

受け取ると、バルは嬉しそうに笑顔の(^^)になって喜びを表現する。

魔力玉に感情があるのかはわからない。

バルは命令した通りに動いてくれる自立型魔法だ。

「それじゃあボクは寝るから、後は頼むね」

「(^^)」

バルの返事を聞いて、ボクはすぐに寝息を立て始める。

寝ているボクの身体はバルへ明け渡されて、運動を始める仕組みになっている。

ボク自身が意思を持って動くのは嫌だけど、ボク以外の意思で、勝手に動かしてくれる分にはかまわない。何よりも身体が鍛えられて素晴らしい。

こうしてボクは寝ながら魔力を消費して、身体を鍛える方法を編み出した。