──『Fake Earth』はプレイヤーが操作するアバターをランダムで決められるシステムである以上、「警察官のアバター」を引くプレイヤーもいる。
──おそらく淀川がレキトと優斗の居場所を突き止めたのは、バトルアラート中に表示された名前から、警察官としての力を使って個人情報を調べたに違いない。
「優斗!」と母親の紀子は目を見開いて、鋭い声で叫んだ。「嘘……でしょ」と美桜はつぶやいて、その場で力が抜けたように座り込む。淀川は拳銃を手に取って、倒れた優斗に向けた。敵プレイヤーの注意が逸れているのを見て、レキトは親指でホームボタンを長押しする。
しかし、淀川は振り返らず、真横に向けた拳銃をレキトの方へ発砲した。殺気を感じさせない射撃。思わぬ不意打ちに反応できず撃たれたレキトの腕からシアン色の血が噴き出す。左手に力が入らなくなり、赤色のスマートフォンが手から滑り落ちた。
「……NPC殺しを楽しむ演技をしてたのは、二重に演技しているのを隠すためか?」
「悪いけど、その手には乗らないよ。質問に答えさせてる間に、作戦を考えるつもりなんだろう? そもそも、今から殺す相手とコミュニケーションなんて取るわけないだろ」
淀川はレキトに拳銃を向けて、即座に引き金を3回引いた。真円の銃口から3発の銃弾が飛び出した。《小さな番犬》が大音量で吠えた。思わず固まったレキトは避けることができない。
シアン色の血が3回舞い上がった。アバターの肉片が転がった。美桜は声にならない叫び声を上げる。
撃たれたアバターの胸には、3発の銃弾の貫通孔が開いていた。
「……どうして?」
レキトは自分の胸に触れる。撃たれたと思ったアバターに新しい傷はどこにも増えていなかった。心臓がガリガリと引っ掻かれるような感覚を覚える。淀川が撃った瞬間、レキトをかばうように突き飛ばしたアバターを見上げる。
「……良かった。怪我はないみたいね」
母親の紀子は微笑んで、撃たれた胸を苦しそうに手で押さえる。震えている唇は血色が悪くなっていて、右手にはシアン色の血がぐっしょりとついていた。
左手をレキトの方に伸ばしたが、届く前にゆっくりと下がっていく。両目が閉じられていく。唇の震えが弱くなっていく。
「みんな……逃げて」
紀子はかすれた声でつぶやくと、静かにフローリングの床へ倒れた。