「静かにして、レキトくん! 今もっと着地にいいギアを起動するために集中してるから! もうすぐ『支払い画面』だし、操作ミスできないから黙ってて!」
「……支払い……画面? ……なんで時間がないときに……時間のかかることを……するんですか!?」
「あ〜もう! 横からごちゃごちゃ言わない! 危うく手元が狂うとこだったでしょ! もうすぐ決済が終わるから待ってて!」
落下しながら、紫藤は片手でスマホ画面を連打している。暗めのブルージュに染めた髪は波打つように揺れていた。連打していた指が止まり、切れ長の目を細める。
そして、手帳ケース付きのスマートフォンの画面を、雨で濡れたアスファルトに向けた。
「お願い! 急いで! ──《
『お買い上げありがとうございます。衝撃吸収ウレタンマット10枚、ただいまお手元に転送いたします。またのご購入をお待ち申し上げます』
女性の音声アシスタントらしき声がお礼を言うと、手帳ケース付きのスマートフォンの画面が光り輝く。次の瞬間、紫藤のスマホ画面から「10枚の巨大なマット」が溢れるように飛び出して、レキトたちの落下地点に積み上がった。鋭い銃声とレーザーの発射音──教団ギルドとNPCの警察が撃ち合う音が上の方から響いている。落下するレキトたちが地上へ向かうにつれて、派手な戦闘音は遠ざかっていく。
レキトがスマホ画面を見ると、《小さな番犬》は犬小屋のアイコンの前で大人しく座っていた。赤色のスマートフォンが振動することはない。「DANGER」のポップアップも消えている。
──《小さな番犬》はプレイヤーに危険が迫ったときに注意を呼びかけるギア。
──紫藤が救助マットを用意してくれたおかげで、この落下は「危険」と判断されていないらしい。
レキトは一息ついた瞬間、全身から力が抜けるのを感じた。ギルドから逃げる作戦とはいえ、想定以上にダメージを負ったせいだろう。傷だらけの学ランは血のシアン色に染まっている。
「……紫藤さん……後は、頼みましたよ。……《リカバリーQ》で、傷を、治してください」
レキトは紫藤に笑いかけて、目をゆっくりと閉じる。赤色のスマートフォンが手から離れた。「
意識を失う直前、柔らかいマットがアバターを包んだ。