姫の王が爆弾を投下してきた。

 彼女の発言に一番驚いていたのは他でもない白いローブの面々。

 奥の方でジャンケンをするのが見えていたので、勝ったやつが姫の王と別空間に行き、負けた連中が姫の王を救う騎士ナイトになる算段だったようだ。

 棒立ちになる俺の腕をとった姫の王は、俺達をプレートの上まで引っ張っていく。

 他の面々は納得いかないといった様子だったが、姫の王の言葉に逆らうプレイヤーはおらず、観念したようにぞろぞろと扉の前へ並んだ。

 俺達を乗せたプレートがズズズと沈み、ゴウンゴウンと、重々しい機械音と共にゆっくりと降下していく。

「引き返すのも無理か……」

「皆が頑張ればすぐ帰れるかラ」

 と、姫の王は余裕余裕と楽観的に笑う。

「なんで俺達なんですか……」

「仲良くしたいからだヨ。だめかナ?」

 息がかかるくらいに体を密着させた姫の王は、なまめかしい声でそうつぶやいた。

「色仕掛けは通用しませんよ?」

「あハ! ここまではっきり言う人初めてかモ」

あいきようが死んでるってよく言われますから」

「ならマイヤが愛嬌を蘇生リザレクしちゃおっかナ」

「めげませんねぇ」

 あしらってもヘコたれないなこの人は。

 俺の手をつかむダリアの力が強くなっていくのを感じた。

『いい加減にしてほしい』

『もううるさくて寝られないよー』

「えっ!?

「あれっ!?

 同時に驚く姫の王と俺。

 姫の王はダリア達がしやべれると思っていなかったらしく、俺はシンクロを他人に聞こえないように調整していたつもりだった。しかし二人の声が届いた……ということは──

「シンクロを自分で操作した?」

『なんかできた』

『わたし達を縛ることはできないー』

 誇らしげにドヤ顔の二人。

 そんなのアリ?

可愛かわいいネ! お姉さんとたくさんお喋りしてくれるかナ?」

…………

 姫の王がダリアの顔をのぞむも、ダリアは何も見えてないかのように前を見つめている。

 あまりの沈黙の長さに焦り、俺はひそひそ声で促した。

「せっかくだしお喋りしようか」

『ダリアはダイキだけと話す』

 じゃあ他人に聞かせる必要はなかったのでは……?

 ダリアは無表情で前を見つめたままだ。

「じ、じゃあこっちの子と話そうかナ!」

 固まっていた姫の王はネムへと話しかけた。

『いいよー』

 ネムは無視しなかったので一安心。

 姫の王もあんしたように話を続ける。

「ネムちゃんだっケ? お目目くりくりで可愛いネ! マイヤお姉さんとお友達になってくれるよネ?」

『お友達って、なろうって言ってなるものなのー?』

 あれ? ネムさん?

「えト……」

『わたし達のこと何とも思ってないくせに、わたし達の関係に入ってこないでよ。世の中自分の思い通りにならないことだってあるんだよー』

 ちょちょ、ネムさんネムさん!?

 生後数日歳児が世の中とか使う!?

「あ、あはハ……お姉さんちょっと傷ついちゃったかな……」

 あまりのショックに笑うしかない姫の王。

「す、すみません、よく言って聞かせます……」

『自慢の蘇生使ったらー?』

 もうやめて! シンクロ制御できない!

 そんな感じで姫の王が姉妹からの集中砲火を受けている間に、目的地に到着したようだった。

 眼下に広がったのは、発光する緑色のこけのようなものに囲まれた大きな部屋。そして部屋の奥にはくさりつながれた巨人が、つばらしながらうなっていた。

「あれがここの番人だヨ」

 即座に立ち直った姫の王が指差した。

 あんな強そうなのを倒すわけじゃないよな?

 よく見ると、巨人の首や腕や体に巻かれた太い鎖はのように部屋内を通っており、それは俺達が今降りてきている場所の近くにも、例外なく張り巡らせてあった。

「おいおいマジかよ……」

 嫌な予感が脳裏をよぎり、とつに真下へと目を向ける──と、プレートの降下が丁度終わる位置に、鎖が束になって集まっているのが見えた。

「鎖が切れる!」

 プレートが地面に着くのを待たずして飛び降りた俺は、鎖を上からつぶすように降下するプレートに向かって盾を突き入れた。

 いけにえ、恐ろしい巨人、拘束された鎖。

 予想通りなら──!

「くそ!」

 盾はあつなく弾かれる。

 そのままゆっくりと下降してきたプレートは鎖の上に沈み、案の定、鎖の束を圧力によって断ち切った。

 じゃらじゃらと鎖が外れていく音と共に、拘束していたまわしきものが失われたのを察したのか、巨人がたけびを上げる。そして解放された腕の力で次々に鎖を千切っていき、生贄を八つ裂きにするべく向かってきた。



とらわれし巨人 Lv.50】#SECONDBOSS



『何を食べたらあんなに大きくなる?』

『見上げてたら首痛くなったよー』

 その間も通常運転の姉妹達。

 姫の王が妖艶な笑みを浮かべる。

「マイヤがいるかぎリ全滅はあり得なイ」

『自分で巻き込んだくせにー』

 ネムさんちょっとシー!

「倒せるかわかりませんよ?」

「倒すのが目的じゃなイ。マイヤ達生贄側がすべき行動ハ、逃げるか死なずに耐えるかの二択なんだヨ。でも安心しテ? すぐに皆がここから解放してくれるかラ」

 絶望的な状況に置かれているとは思えない、落ち着き払った声で淡々と答える姫の王。

 俺も次第に落ち着きを取り戻していく。

「こいつから逃げ回ればいいらしい」

『それはもしや鬼ごっこ?』

『もしや鬼ごっこー?』

 なぜか楽しそうな姉妹。

 目前に迫った巨人とたいし、俺達の肝の冷える鬼ごっこが開幕する。

 救いなのは、部屋の面積がかなり広いこと。少なくとも巨人が自由に走り回れる程度の広さはある。

 巨人は腕に残った鎖もろとも振り回し、壁をえぐりながらこちらへ向かってきている。

 あれにかすりでもしたらやばいな。

貴女あなたが生贄に複数回選ばれていると推測した上で質問します。いつもはどんなルートで逃げていますか?」

 最悪の事を考え最良の手を打つのが吉だと考えた俺は、ベテランである姫の王に意見を聞く。

「えーっト、いつもなら巨人の足元を抜けて奥の壁をタッチしテ、同じ要領で戻って来る程度の時間で上がれるようになるヨ」

 彼女の意見を全面的に信用するなら──なるほど、距離的に考えてもそこまで長い時間は掛からないわけか。

 姫の王が言うルートを参考に、頭の中でここの地形と巨人の股下に線を引く。

 俺達目掛けて移動する巨人の股下は、縦4メートル、横幅3メートル程度空いており、駆け抜けるには十分な広さが確保されている。

 恐らく大きなすきができるのは片足を前に繰り出す瞬間──つまりは初期動作を見極めて滑り込む方法が、相手の意表を突くには有効的だと推測できる。

「では限界までこちらに引き寄せ時間をかせぎ、相手が片足を動かすと同時に股下をくぐけますか。ちなみに巨人の攻撃力がどの程度かわかりますか?」

 望み薄だが、万が一巨人の攻撃力が見掛けにはんして低いのなら、多少の余裕が生まれる。

 姫の王は悪戯いたずらな笑みを浮かべながら、過去の例を思い出すかのように語る。

「んート、レベル40の耐久特化盾役タンクガ、殴打で一撃死だったかナ」

「それここの大ボスより強くないですか?」

「うン。だってこの巨人は多分倒せないタイプのボスだもン」

 よく聞く〝倒せないボス〟は、攻撃力が高すぎたり、防御面が高すぎたり、そもそもLPが減らなかったりする。

 交戦するだけ時間の無駄ということか。

「そろそろ移動しないとだヨ」

 どうするの? と言いたげな表情でこちらを見つめる姫の王。

 巨人との距離はざっと20メートル。いままでの速度から考えて、ここに手が届くようになるのは約40秒程度だろうか。

 ダリアを脇に抱えて準備完了。

「そうですね。では巨人の股下……左足に沿って間を抜けます。多分危険なのは最後尾なので、遠慮せず俺の前を走ってください」

「そんな心配することないのニ。死んでも蘇生してあげるヨ」

「レディーファーストです」

『毒見役とも言うけどねー』

 ネムさん、本当に違うからやめて。

 そのまま姫の王をくるりと半回転させ、背中を軽くたたいて移動開始の合図を出す──そして、巨人が左足を繰り出すタイミングで走り出した姫の王と俺は、巨人の行動に注意しながら股下に潜り込んだ。

 日本最強の回復役ヒーラーそばにいるとはいえ死ぬわけにはいかない。これは蘇生できるできないの問題ではないのだ。

 俺が死ねばダリアとネムも巻き添えだ──だから死なせるわけにはいかないのだ。

 俺は二人と片時も離れたくない。

 巨人は生贄自ら向かってきたのを好機チヤンスと考え、右手を大きく振り払うように繰り出す。しかしその腕の速度は遅い。

「残念だったな」

 ここで台詞ぜりふをひとつ。

 すんなり通り抜けることに成功した俺達は、そのまま速度を落とすことなく部屋の一番奥まで移動した。

 獲物を逃した巨人は、何も摑めなかった手をグーパーし、部屋中に響く雄叫びを上げ、憤慨ふんがいするようにして方向転換をした。

 ここまでは予定通りか……姫の王も、いつも通りだと言わんばかりに余裕な表情を崩さない。

「ア。プレートが光ってるヨ! 皆の攻略が終わったみたいだネ!」

流石さすがに早かったですね。優秀だなぁ」

 羽をパタパタ動かす姫の王が指差す先に、青白く光を放つプレートが見えた。

「もう一度股下をくぐればいいのか」

 一度動きを理解してしまえば問題はないだろう。再びこちらに向かってくる巨人の動き、速度共に変化なし。

「後は同じ要領であのプレートまで走って乗れば終了ですね?」

「そうだヨ。はァ、幸せな時間もここまでかア」

 とても残念そうに呟く姫の王。

 あれだけ言われたのにメンタルが強すぎる……。

「ローブの人達の前では言わないでくださいね」

 軽口を叩きながらその時を待つ。

 巨人が迫り、最後の時間がやってくる。

「いくヨ」

 真剣な声色で短く言った姫の王は、目前まで迫った巨人が左足を繰り出すタイミングを見計らい駆け出した。俺もそれに続き、先程と同じ距離で駆ける。

 タイミングは完璧!

 俺達は巨人の股下に差し掛かったが──

「聞いてないぞ……」

 巨大な手の平が風を切る音と共に迫る。

 予想外なのはその速度! 先程の比ではない。

 初めて見る行動パターンなのか、先行く姫の王はその光景に、まさか! と言わんばかりに目を見開いた直後、メイスを具現化させた。

「君達は責任を持って送り返すヨ」

 そう言いながら、姫の王はメイスを振るう。

「軌道くらいなラ……!」

 メイスと手の平が交差した──しかし巨人の手は何の抵抗もなくメイスを押し返すと、姫の王を押し潰した。

「ぐッ……!」

 姫の王のLPがミリ単位まで一気に減少。

 こたえたのは正に幸運としか言いようがない。

 振り払うようにして動かした巨人の手は、勢いそのままに俺達に迫る。

 直撃をらったらまず間違いなく死ぬだろう。それに、防御技を使ったところでダリアとネムは確実に押し潰される。

 どうする?

 対処法が浮かんでは消え、次第に頭が真っ白になる。

 どうすればいい?

 もうこのまま運に任せて駆け抜けるか?


 絶望が支配する意識の中で見たのは〝赤き竜〟だった。


 しいほうこうと共に繰り出されたのは、真っ赤な衝撃波。それが巨人の手を弾き飛ばし、プレートへの活路を開拓した。

 何が起こった?

 いや、今はそんなこと考える余裕はない。

 姫の王をダリアと逆側に抱えながら一直線に駆ける。そして転がり込むように乗った俺達を、上昇を始めるプレートが運んだ。

 ガアアア! というすさまじい怒号が響く。

 徐々に小さくなっていく巨人の姿をながめながら、俺は肺の底から安堵の息を吐き出したのだった。


*****


 来た時と同じペースで上昇を続けるプレートに、沈黙を続ける俺達が乗っていた。

 あの竜はきっと──と、俺の視線に気付いたダリアは、バツが悪そうにそっぽを向く。

 最後のアレはきっとダリアの魔法だ。

 姫の王はどこか真剣な表情であごに指をあて、何かを考えるように沈黙を守っている。

「ありがとな」

…………

 ダリアは黙ったままだ。

 ネムはあろうことか寝息を立てている。

「お前はいつも余裕があっていいな」

 呆れ気味に頰をぷにぷにしていると、長い沈黙を守っていた姫の王が口を開いた。

「ごめんなさイ、そして助けてくれてありがとウ。軽率に連れてきたことを後悔してるヨ」

 彼女の行動に俺は少なからず動揺していた。

 本を正せば、俺を指名したのは姫の王であるが、巨人の特殊な行動を把握していなかった点に関して、彼女に落ち度はないと思っている。

「助けてくれたお礼になるか分からないけド、ひとつ教えておくヨ」

 そう言って、ダリアを見つめる姫の王。

「この子は魔族でありながラ、さっき竜属性魔法を使っタ。竜属性魔法を使えるのは竜人族だけデ、竜人族は通常の魔法が使えなイ」

 通常魔法と竜属性魔法を両方使っていた。

 別段珍しいように思えないが、彼女の鬼気きき迫る口ぶりからしても、これが普通ではないことだと推測できる。

 つまりダリアは、魔族でありながら竜人族の血も混ざっているということか?

 竜人族と人族の親を持つ子供がいた場合、その理屈でいけば両方の特性──つまりは人族が使える通常魔法と、竜人族が使える竜属性魔法をそれぞれ使えるような体の構造になるのかもしれない。ダリアの種族は魔族であるが、思い返してみれば、確かに尻尾しつぽや翼はちゆうるいのものとよく似てるな。

 ダリアは静かにうつむいている。

…………

 そうか、触れてほしくないんだな。

「召喚獣にはルーツを……」

「それ以上は大丈夫です」

 俺は言葉をさえぎり、ダリアを見下ろす。

きたるべき時に、ダリアから教えてくれると思いますから」

 そう言いながらダリアの頭に手を置いた。

 焦る必要なんかない。

 俺はその時を待てばいい。

「そっカ」と、何かを察したように呟く姫の王。そうだ。彼女にもお礼を言わなきゃな。

「巨人の攻撃から身をていして守ってくれたところ、すごくかっこよかったです」

 土壇場で見せてくれた正義感は良かった。あの姿を見てしまうと、彼女が純粋な悪とは思えなくなってしまう。

「結果守られてしまったけどネ」

「まぁもっとも、俺達を無理やり生贄に選んでなければ、こんなことにはならなかったかもしれませんが……」

「ぐうの音も出ないヨ」

 俺とマイヤさんは吹き出すように笑う。

 ピンチを乗り越えたからか、俺達は少しだけ打ち解けられたような気がした。


*****


 巨人との鬼ごっこからなんとか生還した俺達は、プレート前で生贄の帰りを待つプレイヤー群に出迎えられる。

「何もされませんでしたか!?

 駆け寄ってくる白ローブ達。

 マイヤさんが染まった頰を手でおおいながら「カッコ良く助けられちゃっタ」とか言うもんだから、白ローブ達からの敵視ヘイトがすごい。特にケン君と呼ばれた彼の血走った目が怖い。

「大丈夫だった?」

「なかなかスリリングでした」

 特にネムの毒舌がね。

「そ、そうか。こちらは白ローブ達の士気が異様に高くて、すばやく処理できたよ」

 まぁ大方マイヤさんと俺が一緒の空間にいるのが耐えられなかったのだろう。結果として早めに脱出できたので結果オーライだ。

『疲れたから乗せて』

「お、いいよ」

 よじ登ってくるダリアの上に爆睡中のネムを乗せ、定位置に設置する。天井はかなりの高さがあったので、ネムがずり下ろされる心配はなさそうだ。

 その後、特に弊害もなく進みつづけ、次の層へと続く階段を上っていく俺達。


[剣王の墓 F5]


 時刻は21時10分で、ダンジョンに突入して既に1時間近く経過している計算となっている。

 剣王の墓は最上階が6階なので、この時点で8割近く攻略できたことになる。予定ではとうまで2時間をみていたので、ハプニングもありはしたが、進行ペースは至極順調といえた。

 5階層に出てくる敵にも別段変化はないようで、いた個体を片っ端から排除して進んでいる。

「いいこと教えてあげようカ?」

 ひまだと言わんばかりに、スキップしながら俺達の元へとやって来るマイヤさん。

「下の階層で戦った囚われし巨人についてのお話、聞きたイ? 聞きたいよネ?」

「聞きたくなくても言うんですよね?」

「よく分かってるネ!」と、うれしそうに微笑ほほえむマイヤさん。

「随分仲良しになったんだね」

 驚いたようにリーダーが声をかけてくる。

「一方的に懐かれて困ってます」

「ひどイ! でも憎めないヨ!」

「扱いが手慣れてる……」

 そう言ってリーダーは苦笑した。

 最初こそ関わらないよう努めていたけど、キャラが摑めてしまえばこっちのものだ。

「剣王の墓を荒らそうとして捕まり、幽閉された賊みたいな存在ですかね?」

「ぶブー。それだと巨人に生贄を与えないと進めないシステムの説明がつかないヨ!」

 といった調子で、しばらくわいのない会話をして去っていくマイヤさんを見送った後、リーダーが耳打ちするような形で声をかけてきた。

「ちょっといいかな」

 先程まで何かを調べるようにパネルを操作していたリーダーは、マイヤさんがいないことを確認した後、再度口を開いた。

「なんですか?」

「2階層の混戦を覚えてる? でっかい騎士が中ボスとして出てきたドーム状の部屋のことだけど」

 マイヤさんがトッププレイヤーのへんりんを見せた場所だ。

 俺の反応を見たリーダーは「そうだね」と呟きながら、更に続ける。

「ボスを数人のタンクで抑え、他の雑魚ざこ敵を倒してた時だけど、姫の王がどこで何をしていたか覚えてる?」

 妙に真剣な口調にされつつも、その時の事を思い返す。たしか俺達は適当にバフや回復を撒きながら、ダリアを軸に雑魚を倒していたはずだ。ただ、それ以外の人の動きをあまり気にしてなかったからな……。

「いえ、ちょっと覚えてないですね」

「実はね。聖属性魔法[聖なる大回復セイント・ハイヒール]を使うその時まで、姫の王の姿はどこにもなかったんだ」

 リーダーの言葉に他のメンバーも同調する。

「これは本当よ。私達の仕事は状況把握も含まれてるし、味方の姿も追っていかなければならないの。だから誰が死んでしまっているとか、誰がいないとかは逐一気にしてるから間違いないわ」

 彼女の役割はマイヤさん同様にヒーラーのようだ。

 回復魔法のダブり防止のため、本来同じ役職同士のコンタクトは必須。少なくとも、マイヤさんが独善的に回復作業にいそしんでいたとしても、この人はその姿・その働きを嫌でも目にするはずである。

「要するに、あの女はチヤホヤされたいからって戦闘でも魅せプレイにてつしてるのよ! せっかくの初見レイドだったのに最悪よ……」

 マイヤさん達が初見レイドをぶち壊したことに関してはすこぶる同意だ。

 仮に姿をくらます魔法・しくはスキルがあったとする。そしてあの場で戦闘開始と共にそれを使ったとしよう。

 彼女が得る利益とはなにか?

 それはきっと注目だったり賞賛だ。

 姿をくらまし、回復を他のヒーラーに任せて機をうかがう。タンクに指示を出していたのだとすれば、中ボスの大技に合わせてわざとミスをさせ、皆にダメージを負わせることもできる。

 皆が弱った所に満を持して強力な聖属性の回復魔法を発動し、自らメイスで攻撃して、圧倒的な回復力とパワーを同時に見せつけることが可能となる──と、まぁそんな所だろうか。

 タンクにミスをさせるのも彼女のパーティメンバーである場合は不可能ではないし、何度も来ているダンジョンなら技のタイミング・範囲・ダメージ・反動等を把握するのも難しくないだろう。

『マイヤはそこまでそくじゃない』

 ダリアがフォローを入れている。

『だってマイヤは何も考えてない』

 ついでに毒も。

 ちなみにこれは俺だけに聞こえるシンクロのようで、リーダー達には聞こえてないようだ。

『わたしは結構好きだなーマイヤン』

 まさかのマイヤン呼びのネム。

 姉妹は態度に反してマイヤさんのことは認めているように思える。

「んー、つまりどうしたいんですか?」

「どうもこうも、このまま向こうに好き勝手させておくのはしやくなの。遅延行為だと訴えてボスのアイテムは私達だけで分ける、それが妥当だと思うの」

 彼女の怒りは凄まじかった。

 まぁ、これだけ好き勝手されたら怒るのも無理はないか。

「ごめんね、こんな感じになって」

 申し訳なさそうに謝るリーダーを見て心に決めたことがひとつ──俺は今後、他人達と行くレイドには参加しない(人間関係がめんどくさすぎる)。

『ギスギスだねー』

『どこで覚えたんだいそんな言葉』

『お部屋の辞書に書いてあったよー』

 そうか、よく勉強してて偉いぞ。

『人間関係って実はめんどくさいからね』

『姉様物知りだねー』

 おい達観姉妹。生後数ヶ月&数日の君達が人間関係を語るには少し早いぞ。


*****


 長い探索を終え、ついに最上層部である[剣王の墓 F6]に足を踏み入れた俺達は、巨大な門の前に到着した。

 巨大な門は大きく開いており、奥に広がる広大なステージの全貌を外から覗ける造りとなっていた。石造りの床が一面に広がり、2階層のようにドーム状のような造りとなっている。

 真っ先に目に付くのは、部屋のいたる所に突き刺さっている剣、剣、剣だ。

 剣のジャンルで言うならば《大剣》に属する武器だろう。掲示板に載っていたボスが使う武器と全く同じだった。

 剣王の墓……というよりも、戦争で亡くなった戦士達の墓。そんな印象を受ける剣の山。

 肉厚幅広な大剣の一本一本は、俺の背丈とほぼ同等。それが床だけでなく、壁に天井に突き刺さっているのは圧巻の一言に尽きる。

「最も注意すべきは──」

 リーダーがボス戦のおさらいをしている中で、俺は俺で姉妹達に解説していく。

『ということで、ボスはすごく強いから頑張れ』

『がんばる』

『くれぐれも休ませてねー』

 休む暇はないんじゃないかなぁ。

 そんなこんなでボス戦が始まる──

 レイドパーティ全員が足を踏み入れても、ボス部屋は変わらず沈黙を保っており、それを知っているのか、先行する姫の王グループが淡々と中央の剣まで歩いていく。

「レイドボス戦を始めるヨ。ざっくりとした作戦だけド、まずボスの攻撃力を下げるために全ての剣を先に破壊すル。一応マイヤ達の陣形は理想形と言われる《ガン盾 Hit and Away》を採用してル。簡単に説明するト、大振りな強い攻撃が多いかラ、タンクはひたすら防御を固めて盾受ケ。前衛はボスが攻撃の反動で動けないタイミングを見計らって欲張らずに一撃離脱。後衛はヘイトを気にしつつずい攻撃。ヒーラーはタンクにのみ回復ヲ、やりすぎくらいが丁度いイ。盾越しじゃないト、ほとんど一撃で死ぬから注意してネ」

 マイヤさんの解説は非常に丁寧で、それが面白くないのか、さっきの女の人は興味なさそうにそっぽを向いている。

 大丈夫なのかこのチームは……。

「始めよウ」

 悪戯な笑みを浮かべながら、マイヤさんは中央の大剣にそっと手を触れた。

 突如、縦揺れの大きな地震が起き、鳴り響くは、重い何かを引きずるような音。後ろを振り返ると、開きっぱなしになっていたはずの門が見えない力によって閉ざされていく。

 次の瞬間──地震を含め、全ての現象を起こしていたらしき〝何か〟が地面を割り、剣の周りに走る大きなヒビからぬうっと現れたのは、紛れもなく人間の手だった。

 出てきたのは、緑色の石で形造られたかぶとと、それを被る人の顔。兜と同色・同素材のよろいまとい、目の前で戦闘態勢になる俺達侵入者を見下ろすような形でにらけている。

 しようひげのよく似合う頑固オヤジのような風貌だが、不明点が一つあった。

 血の気のある顔色やハリのある肌といい、まるで彼が〝生きている〟ようじゃないか。

「英雄となった者ハ、肉体が朽ち果てようともその魂は永久に朽ち果てズ、彼らの存在は永遠であル」

 いつからか隣にいたマイヤさんがそう解説する。

「マイヤさんが作った詩ですか?」

「だとしたらだいぶ痛いヨ!」

『でもマイヤン痛いよねー』

 この子は聞こえないことを良いことに……。

「マイヤは痛くないヨ!」

 わざわざ聞こえるモードにしてたのか……。

 それにしても詩の内容には違和感があるな。

「不死ってことですか?」

 そうなるとヨハンの解説が間違っていることになるが、どうなんだろう?

「英雄は特別な存在だかラ、死を超越してるんだヨ。スキルにモ、肉体を霊体に変える[霊化]ってものがあるけド、あれはその逆のスキルかもって言われてるヨ」

 死を超越って──やっぱりヨハンの言っていた「英雄はウェアレス以外死んでいる」という情報は間違っていることになるな。

 剣王ノクスが大剣を担ぐと、粗暴な口調で俺達に語りかけてきた。


『俺の墓をけがす不届き者共よ、この剣の英雄──ノクスが直々に葬ってくれよう』


 脳内アナウンスと共に、戦闘が始まった。



【剣王ノクス Lv.45】#RAID BOSS



 剣王ノクスの頭上に表示されるLPバーは驚異の5本。今までに会ったことない強敵である。

「気合い入れるぞ!!

 タンク達が剣王ノクスに突撃していく。

 今回俺はタンクとして呼ばれていないため、純粋な強化魔法使いとして立ち回っている。理由として、純粋な盾の受け値の高さが求められるレイドボス戦では、メインタンク、それを補佐するサブタンクには《ガチガチの耐久きよくり型》にしか声が掛からない。

 硬いタンクはそれだけ長く一人で攻撃を受け続けることができ、他のメンバーは無傷のまま攻撃に専念できるからだ。

「あんなのパリィできる気がしないし……」

 はるか前方では、風車のように大剣を振り回すノクスと必死に耐えるタンクの姿があった。

「スイッチ!」

「いけるのか!?

「問題な……うあっ!?

 急造レイドでは仕方のない光景だった。

 突っ込んできたサブタンク共々敵の攻撃を受けてしまい、二人共が大きなダメージを負う。サブタンクがヘイトを取れたかといえばそんなことはなく、敵はそのままメインタンクを殺しにかかった。

「──『はかない身代わりの盾』」

 何処どこかでマイヤさんの声が響いた。

 彼女のつえから発生した銀色の光は、かたひざをつくタンクを間一髪で包み込む。

 その直後、敵が放つ斬撃波によって銀色の光は弾けて消えるが、タンクのLPは奇跡的に残り事なきを得る。そのままマイヤさんが回復魔法を飛ばし、タンクのLPはレットゾーンから6割近くまでグンと回復し態勢を立て直した。

 マイヤさんが余裕のウインクを飛ばす。

「すごいな……」

 圧倒的なプレイヤースキルと広い視野で、マイヤさんはこの戦場をしようあくしている。ただ回復するだけでなく、蘇生による時間とMPのロスさえ許さない立ち回りは流石としか言いようがない。

「序盤の行動パターンは出つくしたよ!」

「初期動作見て指示飛ばすからよく聞いといて!」

 リーダー達の言葉に皆、一層気合いを入れた。

 ただパターン化されているとはいえ、相手は筋力・耐久・びんしよう全て化け物級だ。重厚なグレートソードをしようもうひんのように扱い、地面や天井の剣を引き抜いて嵐のように暴れており、掠っても相当なダメージが予想される。

 それでもいまだ死者が出ていないのは、ひとえにヒーラー達の活躍があってこそだ。

「回復は間に合ってる?」

『なんとかねーマイヤンのおかげかなー』

 などとだるそうな声で答えるネム。マイヤさんの手腕を認めている口ぶりだった。

 完璧なタイミングで回復と援護を使い分けるマイヤさんは果たして何人力だろう? 彼女のペースについていこうと必死に杖を振るう他のヒーラー達は緊迫した激戦によって気力・集中力が削られており、コンマ数秒ではあるが回復が遅れる瞬間も何度かあった。

 長引くと事故が起こりそうだな……。

「『儚い身代わりの盾』」

 欲張って過剰な攻撃を与え、回避の遅れたアタッカーを穿うがつ巨大な鉄のやいば。それの間に割って入るように飛んでくる銀色の光が、即死級の技を肩代わりして砕け散った。

 その隙に後衛組から放たれたダメージの無い爆破魔法によって後方へと飛ばされたアタッカーは難を逃れ、20分経って未だ死者の数は0を維持している。

 マイヤさんが使っている『儚い身代わりの盾』は、恐らく味方の命を一撃で刈る攻撃に対し一度だけ肩代わりする魔法。効果時間がどれほどあるのかは不明だが、回避の遅れたプレイヤーにのみ使っている事から、ある程度の制約があるのだろう。

『──面白い。ならばこの技、受けてみよ』

 と、剣王ノクスは声高らかに笑った。

 リーダーがせつまった顔で叫ぶ。

「移動剣が来る! 地面が震動した部分から剣が突き出してくる! 素早く避けろ!」

 剣王ノクスがグレートソードを地面に突き立てると同時に、前衛後衛関係なく散り散りに回避を始めた。

 あれは動画でも見た〝移動剣〟だな。

「地面から3回攻撃が来る、全力で避けるぞ」

『抱っこ』

『しっかり捕まっておくー』

 ダリアを抱っこし、ネムを固定した状態で俺も移動を開始。なるべく人のいない場所で待機する。

 一撃目──タンクの集団の下から剣が突き出し、防御態勢をとっていた数名のタンクが天高く吹き飛ばされる。すかさずヒーラーが回復を飛ばし、落下速度減少の魔法も同時展開したマイヤさんは流石だった。

 二撃目──攻撃は完全にランダム性らしく、真反対の場所にいた俺が立つ地面が揺れる。

「回避ぃ!」

『舌をまないように』

『つかまれー』

 地面から生えたブレードに掠りながらも、なんとか回避した俺達。

 三撃目──マイヤさんの立つ地面が揺れ、剣が突き出す。マイヤさんは左足を軸にヒョイと距離を取り、体を捻りつつ右手にメイスを具現化し、なぎ払うようにして刃を破壊した。

「今だ、一斉攻撃!」

 リーダーの指示に従い、皆が一斉に攻撃を始めた。技を使ったノクスは反動で動けない。

「散開まで5秒前……さん、にー、いちっ!」

 硬直が解かれると同時に、お返しと言わんばかりに反撃を繰り出すノクス。

 リーダーの合図に従った者は反撃から逃れ、逆に聞いていなかった者は軒並み大ダメージを受けて吹き飛ばされた。

「『大いなる回復グレイトヒール』」

 すかさずマイヤさんが回復にあたる。

 アタッカー達が剣王ノクスに集中攻撃をしている間、マイヤさんは付近の大剣をメイスで破壊して回っていた。それも、回復や支援魔法などを完璧に飛ばしながら、片手間で相手の武器を処理していたのだ。

「盗賊系顔負けのびんしようせいだ……」

 集中して目で追わなければ即座に見失ってしまうレベルの速度を見て、俺は一つ疑問が浮かぶ。2階層でマイヤさんが姿を消していたという証言は本当なのか? と。

 じゃあなぜ今誠実に戦っているのか、と。

 はいここで結論。

「彼女の普段の立ち振る舞いが悪い」

 戦闘では誰よりも活躍しているのにサボっているなどとぎぬを着せられた理由は、全てマイヤさんの立ち振る舞いが悪いせいだ。

 印象というものはそれだけで人の見方を変える。彼女が嫌いならなおさらだろう。

 遅刻や色仕掛けをやめるように厳しくしかることにしよう。

『この俺を呼び覚ました──必ずやこの報いを──いずれ王都に──その時はまた──』

 数多あまたの攻撃を体に受け、遂にそのLPを全損させた剣王ノクスは、最後の一本となった大剣を地面に刺し、片膝をついて切れ切れに語る。

 何かストーリーに関係する台詞なのは明確だが、その断片的な内容から得られる情報は少なかった。

 剣王ノクスの体が青き炎に包まれ、人魂となったそれが割れた地面にゆっくり吸い込まれていく。そして、一本だけ残された剣がむなしくたたずむその部屋で、皆のレベルアップを告げる光が次々に発生したのだった。


*****


[邪悪なる力『剣』を封印しました]


 目の前に表示された報酬の山を記すパネルと共に、脳内にアナウンスが流れた。

 、英雄とうたわれた剣王が〝邪悪なる力〟とされているのかは、ストーリーを進行すればいつか分かるだろう。その時再びこのダンジョンに潜ることがあるかもしれない。剣王との戦いはもちろん、生贄の部屋にいた巨人にもリベンジしたいところだ。

「アイテムルーレットチャ──ンス!」

 各々がパネルを操作し、ステータスを振ったり新しい技を確認したりするその中で、残された最後の剣の横に立つマイヤさんが元気よく腕を上げた。周りにいた白ローブ達も立ち上がり、拍手を送っている。

「お疲れ様、無事に倒せてよかった」

「回復忙しすぎてハゲそうでした……」

 リーダーはホッと胸をろし、さっきの女性はしようすいしたようにその場に座り込んだ。

「本来ならタンク5人、サポーター含めたヒーラー5人が必須だと言われるダンジョンをタンク4人、ヒーラー3人で挑んだからね。キツくて当たり前かも」

 などと笑うリーダー。

 女性が皮肉たっぷりに答える。

「役割を指定して募集しなかったことといい、条件に沿わないメンバーに気付かないことといい……あなたもうレイドリーダーやらない方がいいんじゃない?」

 しんらつな意見に傷ついた様子のリーダー。まぁでも彼女の言い分はもっともなので、俺はあえて何も答えずとりあえず笑って佇んでいた。

「その不手際はあの女のPSプレイヤースキルによって補われてたし、不満はあれど文句は言えないわね」

 意外な発言だった。

 なにか心境の変化があったのだろうか?

「さっきと意見が変わりましたね」

「あの状況で回復・補助をこなしつつ、攻撃に加わってる姿まで見せつけられたら、間違ってたのがどっちかなんてすぐわかったわ。変な言いがかりを付けてたこと、謝らなくちゃ」

 と、マイヤさんを見ながらバツが悪そうに呟く。

 戦いの中で納得できたようだ。

「ところでアイテムルーレットチャンスってのは一体……」

「知らないの? フィールドボスやレイドボスのドロップアイテムを平等に決める方法なんだけど」

 リーダーがマジで? みたいな表情で答える。

 俺がフィールドボスを倒した時は大体ソロか身内とだったから正直知らなかった。

「ルーレットっていうのは、ある生産者クラフターが考案した決め方よ。これは海外サーバーではない風習らしいから、日本特有のシステムね」

 どうやら俺以外の人は知っているらしく、女性が続けるように補足を加えた。

「1から100までの数字が表示されるルーレットを回して、より大きい人がそのアイテムを入手できる。公平なシステムだから100が二人いたりするダブりも当然あって、その時はもう一度回して決めるのよ」

「なるほど画期的ですね。これなら恨みっこなしな結果になりそうです」

「それがそうとも言えないんだけどね……」

 リーダーはマイヤさん達の方へ視線を向けた。

「あんな風に、姫プレイをするメンバーが多いとほぼルーレットに勝てない。あの中の誰かが当選すれば全て姫に貢がれちゃうし」

 なるほどなぁ。

 マイヤさんの取り巻きは全体の半数以上いるわけなので、相当な強運を発揮しなければ手に入れることはできないという仕組みか。

「ではでハ! 目の前に出てくるルーレットのボタンを押しテ、止めてみてネ!」

 楽しそうにその場をぎゆうるマイヤさん。

 いつの間にか部屋の真ん中には長机のような物が置かれ、その上には二つのアイテムが並んでいるのが見えた。

 片方は何か得体の知れない球体で、もう片方は剣王が使っていた大剣のように見える。

「剣王の魂と剣王の大剣か。なかなかレアなものが二つ並ぶのも珍しいね」

「どんなアイテムなんですか?」

「魂はよく知らないけど、武器製作や防具製作の時に混ぜて使ったりできるらしい。大剣はそのまま武器だね。結構強いみたいだよ」

 そう解説してくれたリーダーが「アイテムを凝視すると詳細が見られるよ」と教えてくれたので試してみると、目の前に内容説明が現れた。



[剣王の魂]#撃破報酬

分類:消費アイテム

説明:剣王の魂の欠片かけら。スキル取得、称号取得、アイテム製作などあらゆる場面で使用することができ、剣王の能力に準じた効果が期待できる。


[剣王の大剣]#MVP報酬

分類:両手剣

説明:剣王ノクスが愛用したとされる大剣。グレートソードと呼ばれるもので、数多あまたの敵を叩き切ったとされる伝説がある。筋力強化の特殊スキルが備わっている。

特殊技能[筋力強化(中)]



 魂はともかく、うちに大剣を使えるメンバーはいない。仮に当たったらアーサーに譲ってもいいかもしれないな。

 まずハ、剣王の魂だヨ! と、無邪気に仕切るマイヤさんが何かを操作し、皆の目の前に小さなルーレットが出現した。

 やはりと言うか姉妹達の前にはルーレットが出現しておらず、召喚士有利とはいかないようだ。

『えい』

「あっ」

 横からダリアがボタンを押した。



《100》



 白ローブ達が囲んでいた長テーブルの上から球体の方が消え、俺の目の前に現れた。

「ナイスダリア。次も頼んだぞ」

『任された』

『全部取っちゃえー』

 ここにきてダリアの鬼運が発揮されたようだ。リーダーとヒーラーの女性は口をあんぐり開けて固まっている。

「結果ハ──《100》を出したダイキでス! 皆さん盛大な拍手ヲ!」

 温かい拍手が送られる中、白ローブ達がこちらを睨んでいる様が恐ろしかった。

 100出たんだから仕方ないよな……?

 マイヤさんの合図でルーレットが再び出現、ダリアの細腕が再びルーレットのボタンまで伸び、指先がそれに触れる。



《100》



 白ローブ達が囲んでいた長テーブルの上から大剣も消え、俺の目の前に現れた。

「ふ、不正を疑うレベルだ……」

『せいせいどうどうだよ』

 確かにな、確かに正々堂々運試しをしただけだ──けど、ダリアの鬼運もここまでくると不正の域だな。

「え? 二つ、え??

「そんなことある?」

 動揺を隠しきれない様子のリーダー達。

 俺だって内心汗ダラダラなんだ。

「結果ハ──なんト! 再び《100》を出したダイキでス! すごいすごイ!」

 喜んでるのはマイヤさんくらいで、白ローブ達の視線は更に恐ろしいものになり、他のメンツから乾いた笑いも起こっている。

「納得いかない!!

 そう言って一人の男が武器を取った。

 あれは生贄の所で絡んできたケン君だ。

「二度も100を出すなんて聞いたことがない。何か不正しているに違いないだろ!」

「運試しに文句言うなんておかしいぞ」

 誰かの反論を皮切りに他のメンバー達は俺達を擁護する形で「恥を知れ」とか「幼女神様にケチつけるな」などといった声を上げる。

「我々は定員が足りてなかったここのレイドにわざわざ参加してやったんだ。戦闘もほぼ我々が担当したじゃないか! 二つよこせと言ってるわけじゃない! どちらか一つ渡すべきじゃないか!」

 そうだそうだと白ローブ達も応酬する。

 報酬を巡ってここまでめるとは……。

「お前らと我々とでPvPして決めようじゃないか! 勝った方が総取りにすればいい!」

 おいおい、なんか言い出したぞ。

 白ローブ達の方が明らかにレベルが高いし人数すら多い。なぜこれが交渉だと思えるのか分からないが、俺にだって譲れない理由はある。

「二つ取ってしまったのは申し訳ないと思います。ですがコレは、うちの子が手に入れてくれた大切な物です! 1000万積まれたって渡す気ありませんよ!」

 そもそもPvPがまかり通るなら何のためのルーレットなんだという話になる。白ローブ達にはもちろん、リーダー達にさえ譲る気はない。

「何だよその態度は!」

「調子に乗りやがって!」

 白ローブ達がヒートアップしていく中、一人黙っていたマイヤさんが口を開いた。


「あのサ──それってマイヤが回したルーレットの結果に文句付けてるってことだよネ」


 怒気のこもった声が部屋の中に響いた。

 白ローブ達が更にヒートアップしていく。

「そうだぞ! お前マイヤ様に文句を……?」

 ん? あれ? と、困惑する白ローブ達。

 ここでようやく違和感に気づいたようだ。

「マイヤの回したルーレットが気に入らないって言いたいんだよネ? その上PvPで強奪? マイヤは一言でも奪ってほしいだなんて言ったかナ?」

 なぜか怒りの矛先が自分達に向いていることに焦り、しどろもどろになる白ローブ達。

 口々に「いや流石に奪うだなんて」とか、「冗談ですよ、冗談!」などとご機嫌取りを始めると、マイヤさんはしばらく睨むような視線を向けていたが、ほどなくして優しい笑みを浮かべた。

「でもマイヤのためを想ってくれる皆が好きだヨ。これからも投げ銭ウルトラチヤツトとか色々よろしくネ?」

 色々無理があるだろうそのあめむち……。

「「「はい! 喜んで!」」」

 えぇ……?

『あれが訓練された兵隊か』

『女の子の特権だねー』

 そこ、変なこと言わないの。


*****


 時刻は22時2分。ダンジョンに設けられた転移パネルから外へと出た俺達を、星々がまたたく夜空が出迎えた。

 ここは王都の外れ、剣王の墓の前。

 どこからでもできた参加申請とは違い、攻略後はその場所に飛ばされる仕様らしい。

「色々あったけど楽しかったよ」

「またどこかで遊びましょうね」

 時間もかなり遅いため、あいさつもそこそこに速やかに解散が行われた。

 リーダーやヒーラーの女性とフレンド登録をすませた俺達は、満天の星を見上げながら帰路に就く。

 辺りを包む闇が星々をより際立たせる。

 一際大きな赤の月はどこか不気味ではあるが、幻想的な光景に変わりはない。手を伸ばせば届きそうで、思わず足が止まる。

「うわっ!」

 変な声が出た。

 誰かが俺の腕を摑み、体を寄せてくる。

「あの土色の星からずぅ──っと下まで繫いだ部分ガ、さっき戦った剣王ノクスの星座だヨ」

 マイヤさんだった。

 ため息混じりに腕を振り解く。

「ぞんざいに扱わないでほしいナ」

 不満を含んだ声色で呟くマイヤさん。

『目を離すとすぐこれなんだから』

 そう言って今度はダリアが体を寄せる。

『ごしゅじんはわたしが育てたんだからー』

 そう言ってネムが頭をかじる。

 こんな幸せがあっていいのか?

「……この子達とずいぶん態度が違うネ」

「この子達は、集合時間に遅れてもちゃんとごめんなさいできますからね」

「……ごめんなさい」

 本人の感情と連動するのだろうか? 背中の翼がしぼんでいき、頭の輪っかは闇の中で点滅し、その存在を主張している。

 誰もいない所で言われても仕方ないので、話題を変えることにする。

「星座が存在するのは面白いですね」

 地球上だけで言っても国が違えば当たり前のように歴史も、そして伝わる神話も違う。

 ギリシャ神話、ケルト神話、エジプト神話、北欧神話、日本神話等々、その数は両手の指では収まらない程に多い。

 ともすれば、ここFrontier World Onlineにも神話が存在し、それにちなんだ星座が空に描かれているという設定は自然かもしれない。

 過去の英雄達が星座になっているとするならば、もしかしたら空に輝く星々にも、ストーリーに関わる何かがあるのかもしれないな。

「神話に興味があるなラ、王都にある大書庫へ行ってみると面白い話が聞けると思うヨ」

 王都か──はじまりの町と同様に、王都も全然散策できてないんだよなぁ。今日は戦闘続きで姉妹達も疲れたろうし、明日あたり息抜きに散歩してみるのもいいかもしれない。

「それじゃマイヤもそろそろ落ちるヨ。遅くまでかかっちゃってごめんネ、チビちゃん達」

…………

『楽しかったからいいよー』

 ダリアとネムの頭を撫でるマイヤさん。

 こうして見ると普通の善良な人なんだけどなぁ。

 メニュー画面を操作し、ボタンをタップ。

 マイヤさんにフレンド申請を送った。

「あっ……いいノ?」

「もちろん。嫌ですか?」

「あ、ううん。うれしい」

 そう言ってマイヤさんは小さく微笑んだ。

 そのままログアウトした彼女を見送りながら再び歩き出すと、前方の木陰に人を見つけた。

…………

 それはケン君と呼ばれていた白ローブの男。

 恨めしそうに俺を睨んでいた彼は、ほどなくしてログアウトしていった。

「恨まれたよなぁ」

 二つのアイテム総取りはやりすぎたかもしれないけど、運が悪かったと思って早く忘れてくれるといいな。

 こうして、夜遅くまで掛かったレイドダンジョンは無事に攻略完了し、俺達はフレンドと大量の経験値、そして貴重なアイテムを手に入れたのだった。


*****


 宿屋に着き、ベッドに腰掛ける。

 頭上で猛烈な寝息を立てるネムをベッドに転がして毛布をかけると、隣に座るダリアが俺の服の袖を引っ張った。

「何か言いたいことがあるのか?」

 まぁ大体想像はつくけどね。

 ダリアは一瞬身じろぎした後、俺と目を合わせた。

 トッププレイヤーたるマイヤさんが食い気味に質問してきたあの内容だ。彼女いわく、ダリアを除いて例外は現状ないらしいからな。

 俺は「無理に言わなくてもいいよ」と、逃げ道を作ってみたが、ダリアは意を決したように語り出した。



『ダリアは 魔族と竜族の子』



 ダリアの生い立ちに触れた初めての瞬間だった。

 異種族とのハーフは、両親の両方の特性を持って生まれるのかもしれない。

 強い魔力を持つのが魔族の特徴だとしたら、竜属性魔法を操る事ができるのは竜族の特徴だ。これは単純な話だろう。

 それより、俺がなにより動揺した部分は──召喚獣には召喚士ではなく、血の繫がった本当の《親》が存在しているということ。

 ただの設定ならわかるが、もし仮にダリアやネムは両親の元で幸せに暮らしていて、俺達召喚士が勝手に呼び出してしまったとするならば……や誘拐と何ら変わりない。

「お父さんとお母さんはどこかにいるの?」

 もし彼女がそれを肯定したら?

 本気で悩むのは分かっていた。

 両親を探すために動くか?

 探した後は? 別れられるのか?

 心臓の鼓動が速くなるのを感じながら待つ俺に、ダリアから言葉が返ってくる。

『ダイキがダリアの親だよ』

 まるで気遣うような、安心させるような声色で、俺の頭を撫でるように触れながら彼女はそう言った。

 なぜ自分が魔族と竜族の子だとダリア自身が認識しているのか。自分の生い立ちについて、何かまだ秘密があるのかもしれないが、彼女が言わないならそれでいい。

 今聞く必要はない。

 時間をかけて知っていけばいい。

 彼女が打ち明けてくれた事を受け止めてあげるのが、俺がすべき事だ。

「俺も二人を自分の子のように想っているよ」

 俺の返事に安心したのか、ダリアはニッとぎこちなく微笑んだのだった。