防寒具の依頼を終えた俺達ははじまりの町の散策をしていた。

 思い返せば、ダリア召喚後は駆け抜けるようにエリア攻略を続けていたわけで、はじまりの町に何があるかなんてくわしく見たことがなかった。一番滞在している町にしても、おそらくケイケイのいる火の町になると思う。

 ダリアはというと、俺の横を歩いてはいるが肩車をせがんだりしてこない──ということは、完全に機嫌を直したわけではなさそうだ。

「行ってまいります」

 声の方へ視線を向けると、冒険者ギルドから一人の少年が飛び出してくる姿が見えた。

 ブロンドの髪に、首にはスカーフ。

 プレイヤーに最初に配られる粗末な装備を身につけており、片手剣と盾をたずさえている。



 ヨハン Lv.1



 少年から金色の何かが落ちたように見えた。しかしそれに気付かず、少年は町の外へと走り去っていく。

「あっ、おい!」


[ストーリークエスト:冒険のはじまり]が、届きました。


 視界の隅にクエストの到着を告げる通知が届き、これがイベントの導入であることを理解する。

 なるほど……ラルフと似たような感じか。

 そのまま受理し内容を確認していく。



[ストーリークエスト:冒険のはじまり]


内容:新米冒険者のヨハンがクエストを受けたようです。彼は大切なペンダントを落としていることに気付いていないようです。落とし物を届けてあげましょう。



思い出のペンダントを渡しに行く



 今回はお使いから始まるようだな。

 落ちていた金色の何かを拾ってみると、クエストの説明通りペンダントであることがわかる。

 女神のしようが施されているのが印象的だ。

「ダリア、さっきの子にコレを届けに行くよ」

 こくんとうなずくダリアだったが、やはり肩車をせがむ様子はない。

 俺はさびしさを感じながらも、冒険者ギルドの受付へと向かった。


*****


 受付に事情を説明したのち、拾ったペンダントを垂らして見せた。

「落とし物ですか?」

 いぶかしげにペンダントを見た受付は、他の職員とアレコレ話した後、申し訳なさそうに向き直った。

「恐縮ですが彼に届けていただけないでしょうか?」

「ええと、あずかってもらうことはできませんか?」

 クエストの完了報告で寄るだろうし、その時渡せばいいのでは? と思ってしまう。

「特徴からして、恐らく持ち主は今日はじめて依頼を受けた駆け出し冒険者です。ただ、駆け出し冒険者は初任務で命を落とすことが非常に多く、預かっても渡せないことが多いので……」

「それは……かなり無責任ですね」

「おっしゃる通りだとは思います。ただ魔王復活にともなう魔物の増加、そして帝国に怪しい動きもあり、新人を育てる余裕がないのです」

 新人を魔物が蔓延はびこる場所に送り出すなんて、我々の世界では考えられない放任っぷりだが、これがこの世界の事情ということだろう。

 NPCが優秀すぎるとプレイヤーのやることがなくなるというメタ的な見かたもできる。

「依頼内容は薬草束20個の納品ですから、恐らく森の方に向かったと思います」

「それではよろしくお願いいたします」と、以降受付は我関せずといった態度を貫いている。

 仕方ないか。

 俺はダリアを連れギルドを後にし、ヨハンが向かったであろう森の方へ向かった。


*****


 平原に出て森へと向かう道中、ダリアが目的の少年をいち早く見つけた。

 金色の髪に緑のひとみ。身長140センチ程の、見るからに非力な男の子。くせのある髪を後ろでくくり、短めのポニーテールを作っていた。

 ナット・ラットと激闘を繰り広げており、近くに仲間の姿はない。

「正直見てられないな……」

 けんさばきや体捌きがまるでしろうとのソレだ。俺は剣術に精通してるわけではないけど、数々のプレイヤーの動きを見てきた中では、ダントツでぎこちなく見える。

 見かねたダリアが火の玉を放った。

[ダリアが火球を発動!]

[ナット・ラットに10355のダメージ]

[ナット・ラットは倒れた]

 少年は肩で息をしながら視線をこちらに向ける。

 俺達を見つめる緑の瞳には、何かをげたいという強い意志がともっていた。

「助けてくださり、ありがとうございます……」

「なに、落とし物を届けに来ただけだよ」

「落とし物ですか?」

 首をかしげる少年にペンダントを渡すと、少年は慌てたように首元をいじり、そしてあんしたようにペンダントをぎゅっと握り締めた。

「ありがとうございます。これ本当に大切なものなんです……」

 そうつぶやくと、戦闘の恐怖を思い出したのか、少年は肩を震わせて泣き始めた。

 彼は何を背負っているんだろう。

 野営術を発動し、扉を開ける。

「とりあえず中で休もう。身の上話も聞かせてほしいし」

 その言葉に少年は素直に頷くと、俺達は野営術の中へと入っていった。


*****


 カウンターの席に座らせ、俺達は対面する。

「俺はダイキ、こっちはダリアだ」

 ダリアは少年の隣にちょこんと腰掛けている。少年は少し躊躇ためらいながらも口を開いた。

「僕はヨハンといいます。助けてくださりありがとうございました」

 自分の無謀さを恥じているのだろうか、ヨハンはペンダントをぎゅっと握りしめ、悔しそうにくちびるんだ。

「見たところ、君は戦闘に関して素人のように思えるんだけど、どうして初めから難しい依頼を受けてるの?」

 というのも、依頼にはいくつか種類が存在する。

 簡単なところでお使い、難しいのがとうばつだ。

 冒険者ギルドはいわゆる何でも屋であり、そこに属する冒険者は、自分の身の丈に合った依頼を受けてランクを上げていく。

 これがはじめての依頼ならばヨハンのランクは《F》になるが、これは最も低いランクだ。

 難しい依頼や危険な依頼を受けるには相応のランクが必要で、ランクが低いうちは、安全なエリア内のお使いをこなすのが定石(と聞いたことがある)。

 しかし彼はエリアの外にある薬草採取を受けた。

 エリア外の依頼は最低でも《E》は必要らしい。

「お金が必要なんです……」

 複雑そうな表情でヨハンはそう答えた。

「僕がかせがなきゃダメなんです。たとえその依頼が身の丈に合っていなくても、受理されるなら高い報酬の依頼を受け続けるつもりです」

 余裕のない様子がうかがえる。しかし、高難易度の依頼について何か勝算があるわけでもないようだ。

 一度落ち着かせる必要があるな。

「ちょっと待ってて」

 そう言って俺は装備を着替える。

 気持ちを落ち着かせるには、やっぱり美味おいしいご飯が一番だ。とりあえず好みがわからないので無難なものを作ろうと思う。

 俺が簡単な料理とスープを作っている間、ヨハンはうつむいたままペンダントを見つめていた。彼の隣に座るダリアはお構いなしに料理を楽しそうに待っており、空気感の対比がすごいことになっている。

「はい、コレでも食べて落ち着こうか」

 用意したのはサンドイッチと卵スープ。

 メニューに関しては思い付きだ。

「おなかいていませんが……」

「何か食べると気持ちも安らぐらしい。せめて卵スープだけでもどうかな?」

 そう言ってすすめてみると、少年は恐る恐るといった様子でスープに口を付けた。

「あれ──?」

 ぽろり、と、彼の目から涙がこぼれる。

「嫌だな……なんでだろ……」

 彼の目からとめどなくあふれる涙。

 そして彼は呟くようにごめんなさいと言った。

「本当はお腹空いてました。二日ほど何も口にしてなくて……誰も助けてくれなくて。信用できなくて……」

 本心を聞けて納得できたので、無言でサンドイッチを促すと、先ほどとは打って変わってものすごい勢いで頰張り始める。

 そして──

「元気出ました! ごそうさまです!」

 元気一杯の笑顔を見せた。


*****


「お金が欲しいって、具体的にどういった事情なの?」

 皿を洗いながらそう尋ねると、ヨハンは食後のオレンジジュースを飲みながら淡々と答えた。

「両親が病死して一文なしになったんです。貯金などは両親の病気治療費にてていましたので、僕のとしでまともに稼げるとしたら冒険者くらいしかありませんから」

 吹っ切れた様子だが、なかなかハードな人生を送ってるな。危険を冒してまで高難易度に挑戦するところを見るに、手持ちのお金は相当心もとないのだろう。

 それに──と、ヨハンが続ける。

「戦闘は初めてでしたが、ばくぜんとした自信があったんです。今となっては単なるおごりでしたけどね……」

「自信?」

「はい。僕の祖父は100年前に魔王を討った英雄の一人なんです」

 誇らしげにヨハンはそう答えた。

 英雄という存在はよく知らないけど、魔王を討ったイコール戦闘にけてると仮定すると、子孫の彼には伸び代がありそうだ。

 ただお金を渡すだけなら簡単だが──。

「じゃあ腹ごしらえもすんだところで、もう一回ナット・ラットと戦ってみようか。危なくなったら俺とダリアで援護するから安心していいよ」

 ダリアも「任せろ」と言いたげな顔で頷く。

「え、いいんですか?」

「もちろん。早く自立したいもんね?」

 今後自分の力で生きていく彼には、大金を渡すよりも強さを与える方が役に立つだろう。

 そんなこんなで外に出てナット・ラットを探すと、ちょうど近くに一匹くのが見えた。

「まずは構えから。基本は盾で体を隠すようにしながら半身を引いて剣を構える。最初のうちは相手の攻撃を確実に盾で受け止め、大きなすきがあれば攻撃に転じようか」

「はいっ!」

 気合いの入ったヨハンの返事に反応したナット・ラットが飛びかかるも、ヨハンは冷静にそれを盾で受け止め、跳ね返ったその体に剣を浴びせた。

[ナット・ラットの嚙みつき!]

[ヨハンに0のダメージ]

[ヨハンの三日月斬り!]

[カウンター成功! ボーナス発生!]

[ナット・ラットに307のダメージ]

[ナット・ラットは倒れた]

 ナット・ラットが光のくずになり消えてゆく。

 ヨハンは剣をさやに収め、汗をぬぐった。

「これはすごい……」

 一度のアドバイスで完璧に立ち回れるとはな。その上ダメージ量からして、レベル8前後のモンスターなら一撃で倒せるんじゃないか?

「すごいです! 戦闘がとてもスムーズ!」

 目をキラキラさせて駆け寄ってくるヨハン。

「これに関してはヨハンの才能だよ。今の感覚を忘れないうちに何体か倒していこうか」

 その後、数匹のナット・ラットと戦闘したヨハンだったが、感覚を忘れないどころか精度が上がり、盾いらずの先制攻撃でナット・ラット達を一掃してしまった。単純に空腹でパフォーマンスが落ちてただけなのか、さっきまでとは別人のようだ。

 流石さすがは英雄の孫といったところか。


[ヨハンは依頼をこなせる程度に強くなりました]


 クエストアナウンスが入ったと同時に、一瞬のうちに場所が切り替わり、俺達は木々がうつそうと茂る森の中に立っていた。

 視界の端には、木のそばに生えた草をむしるヨハンの姿がある。

「ダイキさんに言われたとおり、よく見れば毒草と薬草の違いがいちもくりようぜんですね。知らないままだったら依頼も失敗だったなぁ」

 時間が飛んだ間に依頼をこなす流れになったようだ。というか、毒草と薬草の見分けもつかないまま依頼を受けるって危険すぎないか?

 改めてヨハンの未熟さと、冒険者ギルドの管理不行き届きが露見した形となった。

「組織として大丈夫なのか……」

「これで依頼分はそろいました!」

 そう言って薬草の束が入ったかばんを見せごまんえつのヨハン。中にはきっかり20個の束が収まっていた。

「無事達成おめでとう。でも今後はちゃんと自分の実力や知識と相談して、安全な範囲で稼ぐんだぞ」

「はい! 頑張ります!」

 隣に立つダリアが「本当に大丈夫かよ」と言いたそうな顔でヨハンを見つめている。まぁ俺も同意見だけどね。

 そんなこんなで帰路に就いた俺達は、その道すがら、何かの建造物を見つけた。

 生い茂った木々にはばまれて全貌は見えないが、思うにあれは神殿だろうか?

「あの場所は……」

 そう呟きながらふらふらと歩き出すヨハン。俺とダリアは一度顔を見合わせ、その後を追った。


*****


 神殿に着いた俺達は、目の前に広がる圧巻の光景に言葉を失っていた。

 外観はエジプトにあるアブ・シンベル神殿に近いと表現すれば、分かりやすいかもしれない。

 中央にそびえる石の建造物と、それに続く道の脇に立つ巨大な8体の石像が、各々の武器を構えてたたずんでいる。過去にたいしたゴーレムに似た威圧感を放っており、何かのタイミングで全員が動き出しそうな気配さえする。

 荘厳な見た目の神殿だが、長らく放置されていたようで、植物の葉やツルがかなり侵食しているようだった。

「そんな……どうしてここが……」

 狼狽うろたえた様子で立ち止まるヨハン。

「ここは?」

「英雄神殿です。祖父達をたたえて造られた、祖父達の墓だった場所です」

 魔王を倒した偉大な英雄達の墓、か。

 しかし、町の中ならまだしも、普通こんなへんな森の中に建造するものだろうか? その上誰も管理していないように見えるし。

 ん?

「だった?」

 ヨハンの言葉に引っ掛かりを覚えた。

 ヨハンは複雑そうな顔でそれに答える。

「この場所はだいぶ前に破壊されたと聞いていました。だから、こんな完全な状態で残っているのは不自然なんです……」

「英雄の墓を破壊だって? 一体誰がそんな」

「復活した魔王および配下の魔物達ですよ」

 100年前に倒されたのにもう復活しているのか。とすれば、魔王は不滅の存在なのかもしれない。

 ここに並んでいる8体の石像が英雄、か。

 せっかくだし英雄についても聞いてみるか。

「申し訳ないけど、英雄についてあんまりくわしくなくてね……色々教えてくれないか?」

「はい! 喜んで!」

 待ってましたと言わんばかりのヨハン。

 ダリアはひまそうにありの行列をながめている。

 ヨハンはまず手前に立つ石像を指差した。

「八英雄の一人、舞姫エリローゼ様。水の町で生まれた魚人族の彼女は、得意とする水属性魔法や結界魔法により幾度となく英雄達を助け、世界平和にこうけんしたとされています」

 両手でつえを構える美しい女性の像。

 ヒレのように発達した耳と、魚のような下半身が特徴的だ。

 魅惑的なその表情にしばらくれていると、いつの間にか近くに来たダリアが俺の手を握った。

「こちらは八英雄の一人、剣王ノクス様。石の町にあるコロシアムでは生涯無敗。最強の剣闘士グラデイエーターと呼ばれ、大戦時には多くの戦功をあげ、王都の勝利に貢献したとされています」

 分厚く長い剣を肩に担いで立っている筋骨隆々な大男。

 身体的に変わったところはないが、人間離れしたたいと筋肉から察するに、巨人の血が入っているように思える。

「この方はおうオーガン様。火の町では今でも鍛治技術が受け継がれているほどに、職人としての腕は他のドワーフ族と一線を画しており、他の英雄達を陰で支え続けた功労者ともいわれてます」

 ノクスの隣でつちかかげるのは、ガタイの良い小さな男性の石像。

 たっぷりとたくわえられたひげと格好を見た俺は、頭に電撃が走ったような衝撃を覚えた。

 オーガンといえば火の町で英雄としてあがめられ、彼と同じ「怪力」という特徴を持ったケイケイは、彼と同じ材質のかなづちを振るい、オーガンの後継者などと言われていた。

「ストーリーキャラはかつての英雄達の子孫や何らかのつながりがある者なのか……?」

 ストーリーキャラ=魔王を倒せる者という推測を立ててみると、ラルフやケイケイも魔王を倒せる者ってことになる。

 ヨハンは気にせず説明を続けていく。

うるわしの姫レノーラス様。エリローゼ様と共に、魔物から各地の町を守るため、強力な結界を張って回ったとされる偉大な魔法使いです。巨大な狼の召喚獣を連れており、他のエルフ族の例に漏れず、見惚れるようなぼうの持ち主であったと言われています」

 先の紹介にあった舞姫エリローゼは美しい女性であり、この麗しの姫レノーラスは可愛かわいい顔をした女性であった。

 そばには巨大な狼が彼女を守るように佇んでいる。

「レノーラスって名前どこかで……」

 聞き覚えがある──というより、俺はこの女性に会ったことがある。

 最初の運営イベント[無限迷宮インフィニティラビリンス]の最深部にて、格上ボスである黒竜との戦闘前後に俺達を手助けしてくれたあのシルエット──彼等は正に、ここにいる英雄達そのものだった。

 そしてその時、最後に俺達の前に現れたシルエットこそレノーラスだ。ついでに[英雄レノーラスのお気に入り]なんていう称号までもらっている。

「飛行船……」

 そう、彼女の名前はあの時にも聞いた。


〈エルスターク・レノーラス二号は王都が誇る機械技術の結晶です。内蔵動力装置は空気中の魔力を吸収し、船を動かします。開発者のW・ステルベンは、実現化させた機械技術の応……〉


「そうか、飛行船の名前だ」

 俺の呟きにヨハンはすかさず反応した。

「よくご存じですね。飛行船を発明したかの有名なW・ステルベン氏は、レノーラス様の大ファンだったと聞きます。100年った現在いまでも英雄方が慕われ続けているという良い例ですね」

 思えば過去、クエストの流れで英雄達の名前を何度か聞いている。意識していなかっただけで、ここにいる英雄達を知る機会は頻繁ひんぱんに用意されていたのかもしれない。

 続いてヨハンは隣の女性像へと視線を移す。

 片手で杖を掲げ、肩に妖精族を乗せている。

「3人いる女性の英雄最後の一人──いやしの姫ウェアレス様。魔力の操作に長け、彼女が扱う癒しの魔法は万の命を救ったとされています。二代目の英雄様達では唯一、存命であると聞いています」

「ご長命な方なんだね」

 くわしい内容はまだ分からないものの、優秀な回復役ヒーラーとして人々の命を救えるだけの腕を持ち、活躍し、英雄と呼ばれてから100年経つ今でも存命となれば相当な長命と言えるだろう。

 俺の言葉にヨハンは少しだけ笑みを浮かべ「ウェアレス様は精霊族なので、寿命は人のソレとは違うんです」と答えてみせた。

 なるほど、そういう設定もあるのか。

 長命の種族と言われればファンタジーではおみのエルフ族があげられる。しかしウェアレスだけ存命となれば、エルフ族であるレノーラスを含む他の七人は戦いの末……という考えも浮かぶ。

 日本とは違う、決して安全とはいえない世界。魔物に襲われたり、病気等もあるだろう。

 プレイヤー俺達はゲームシステム的に存在が死ぬ事はないが、NPCはその限りではない。

 ヨハンは続く男性の像へと視線を向ける。

「この方は拳王バルストス様。戦場で一騎当千の力を振るった武術の達人と言われています。砂の町は一時期、彼の力によって平和が保たれていました。拳を振るえば岩が砕け、足を落とせば大地が割れる……ノクス様同様、大戦時に大きな成果を上げ、平和に貢献した方です」

 唯一、武器を持たず腕を組むようにして立っている男性の像。ひたいにある傷と熊のような大きな体が特徴的だ。

 砂の町の英雄となると、ラルフに関係する英雄なのかもしれない。

「初王エルヴァンス・ロウ・ダナゴン一世様。誰もが知る名前とは思いますが、彼は現国王であるエルヴァンス・ロウ・ダナゴン二世様の父──そして二代目の英雄達をまとめ上げた軍師だったと聞きます」

 立派なやりを掲げ、その身によろいをまとった壮年の戦士。

 彼の足元には槌、双剣、弓、おのなど、実に様々な武器が置かれており、気になった俺はヨハンに質問した。

「彼の足元には様々な武器が並んでるね」

「エルヴァンス様はあらゆる武器の使い手でもあり、他の英雄達を一人できたえたすごい人物だったんです。中でも、彼が手にしているのは、国宝とされている《覇槍・イヴァンガル》で、竜をも倒す威力だったと言い伝えられています」

 一人で他の英雄達を鍛えたという逸話はもちろん、ヨハンの博識さにも驚きつつ、俺達は最後の英雄像へと視線を向けた。

…………

 無言でその像を見上げるヨハン。

 彼は、黒竜に最後の攻撃を行ったあの光だ。

 そして恐らく──

「戦王ローランド様。別々の町で別々の人生を歩んでいた他の英雄達を集め、当時無名の戦士だったエルヴァンス王に頭を下げて教えをい、結果として世界に平和をもたらした人物だと言われています」

 左手に盾を持ち、右手の剣を掲げる青年剣士。後頭部に垂れる短めのポニーテールも相まってヨハンとうりふたつな容姿をしていた。

「この人が僕の祖父です」

 その像を見上げるヨハンの顔は、誇らしいとか、悲しいとか、そのどれにも当てはまらない複雑なものだった。

 語り継がれる偉業の数々と、石像まで作られるほどに慕われた人物達──そんな英雄の孫がなぜ魔物のいる場所でウロウロしているのだろうか。

 名誉が=地位であるとするならば、彼の一族はそれなりの爵位が貰えそうなものだ。しかしヨハンは今日を生きる食糧を確保する金もなければ、彼を指導する者すらいない。

 言い方は悪いけど、なぜこんなに没落しているんだろう。

「祖父がのこした遺産、装備品、家は全て奪われてしまったんです。財産管理を他人に任せたツケですね」

「遺産を全部取られて冒険者に?」

「そうなりますね!」

 そう言ってヨハンはからからと笑う。

 なんというか……あるあるだな。

「遺産を取り返すことは考えてないの?」

ふくしゆうも考えましたが、ただの子供に何かができるわけもありませんから。せめて僕に、一人で生きていくだけの力でもあれば……」

 改まった様子でこちらを見つめるヨハンは、土下座のような形で俺達に頭を下げた。

「僕に……僕にけいをつけてくれませんか!! 僕、強くなりたいです!! もう二度と悔しい思いをしたくないんです!!

 それは彼の魂の叫びのように聞こえた。



[ヨハンは稽古を求めています]

1.適当に鍛える(所要時間5分)

2.しっかり鍛える(所要時間20分)

3.徹底的に鍛える(所要時間──)

4.別の方法を試す

5.一度保留する



 ここで選択肢か。

 今後冒険者として生きていくなら強いに越したことはない──という意味では3かな?

 まぁ明日は休みで時間的に余裕あるからな。

 俺が選択肢の3を指定すると、次の選択肢が現れた。



[鍛え方を決めてください]

1.モンスターと戦わせる(所要時間30分)

2.プレイヤーと戦わせる(所要時間30分)

3.召喚獣と戦わせる(所要時間30分)

4.プレイヤー&召喚獣と戦わせる(所要時間30分)

5.やっぱりやめる



 稽古っていうくらいだから2かな? と、選択肢を押した所で踏みとどまる。

 プレイヤーは俺のことを指している。

 しかし俺は支援役だから単体では強くないし、そうなると2は(彼のためになるかと言われれば)微妙かもしれない。

「っと……」

 選択肢を外そうとして間違えて3を押した俺は、2と3が両方選択されていることに気が付いた。

 どうやら複数選択できるようだ。

「徹底的にって言ったらなぁ……」

 どれだけ鍛えたかでヨハンの今後が変わってくるのなら、今後この子の財産が〝強さ〟となるならば、この不幸な少年へのせんべつとして最も喜ばれるのは間違いなくコレだろう──

「ヨハンを最高の冒険者にしようか」

 俺は1~4の選択肢を押す。

「ダリアもヨハンを徹底的に鍛えてくれ」

 ダリアはこくんと頷いたと同時に、神殿の周りにナット・ウルフの群れがゾロゾロと現れた。

 特訓開始ということか。

「ヨハン! 俺達が援護するから遠慮なく戦っていいぞ!」

「はいっ!」

 ヨハンは剣と盾を構えて向かっていく。

「さて、強化していくか」

 俺も杖をとり、ヨハンに魔法を掛けていく。

[ダイキが視覚強化を発動!]

[ダイキが聴覚強化を発動!]

[ダイキが超感覚を発動!]

[ヨハンの感覚が研ぎ澄まされます]

 まずはヨハンの感覚を上げ、多方向からの攻撃にも対処できるように強化。続いて装備にも強化を施していく。

[ダイキが鋭利化を発動!]

[ダイキが鉄の鎧を発動!]

[ダイキが鉄の盾を発動!]

[ダイキが軽量化を発動!]

 剣は鋭く、盾と鎧はより硬く。そして装備重量を減らしてパフォーマンスを上げる。

[ダイキが筋力強化を発動!]

[ダイキが頑丈強化を発動!]

[ダイキがびんしよう強化を発動!]

[ファイタースピリッツが発動!]

 最後にヨハン自身の強化を施すと、全ての強化項目に呼応し[ファイタースピリッツ]が発動した。


[ファイタースピリッツ]

戦士に必要な全てのステータスに+補正

効果時間:──


 これは特定の強化条件が揃うと勝手に発動するもので、大幅なステータス上昇が期待できる。

「わあああッ!!!」

 赤色のオーラに包まれたヨハンは流麗な動きでナット・ウルフ達を倒してゆく。その動きは熟達した戦士のそれで、敵は一撃のもとに斬り伏せられた。

「なかなか忙しいな……」

 デメリットとして、強化魔法の残り時間を常に更新していく必要がある。一つでも切れるとファイタースピリッツの効果も消えてしまうので火力が落ちる。

 つまり、片時も目が離せない。

 ヨハンが捌ききれないナット・ウルフはダリアが間引いてくれるため、ヨハンはほとんど体力を失わないまま周囲のナット・ウルフ達を全滅させていく──しかし一息つく暇もなく、次の群れはやって来る。

 こんな感じを30分……なかなかハードだ。

「す、すごいです! 自分が自分じゃないみたい……体が思う通りに動きます!」

 当の本人が喜んでるならそれでいいか。

 そんな調子で俺達はモンスターとの戦闘を30分こなしていった。


*****


 最初の修行を無事クリアしたヨハン。

 次は俺からのレクチャーの時間に移る。

 うーん、何を教えればいいんだろう?

 緊張した様子のヨハンを前に、俺はまず一番大事なことを教えることにした。

「いいかい。勝てない相手とは戦わないのが鉄則だよ。逃げられる状況なら逃げるべきだし、それは全く恥ずかしいことじゃないからね」

 戦いにもならないほどレベルの差がある場合、読み合い自体が成立しない。相手の力量を正確にはかり、無理のない選択ができる目を養うのが最も大切だ。

きもめいじておきます」

「よし、ならいいよ」

 そう言いながら俺は盾を構えた。

 次は格上と戦うことになった時の対処法を教えていく。

「遠慮なく攻撃していいよ」

「は、はい!」

 がむしゃらに剣を振るえばいい先ほどとは違い、今回は俺に盾弾きパリイされることなく攻撃を通していく〝鋭さ〟が求められる。

 じぃっとこちらを見上げてくるダリア。

 俺は小さなその頭に手を置いた。

「大丈夫。心配いらないよ」

 ヨハンのレベルは7で、俺のレベルは45。

 これが現実の模擬戦なら事故も起こりうるが、ここはゲームの世界。彼のこんしんの一撃を受けたとしても、恐らく体力ゲージの2%も削られないだろう。

「いきます!」

 一気に距離を詰めるヨハン。

 彼の素直な一撃は、俺の盾によって弾かれた。

 ステータスに圧倒的な差があるため、タイミングさえ大きく間違えなければ、パリィは100%成功する。

「は、はやい……」

「強くなるために必要なこと。それはひたすらモンスターを倒し、常に良い装備を身につけることだよ」

 しりもちをつくヨハンに、俺はあえて極論をたたきつけた。

 ゲームだからという理由を使うなら、剣術とはなんぞやとレクチャーするよりも、単純にレベルを上げて物理で殴る理論が一番正しい。

 攻撃力10の者が、防御力20の者に攻撃を当てても、相手に与えられるダメージは0だ。つまり俺相手にヨハンがいくら太刀筋の良い攻撃をした所で、俺に勝つことはほぼ不可能。

 この世界はステータスが絶対であり、技量でステータスを補うことはできないのだから。

「とはいえ、俺が教えたいのはそんな元も子もない部分じゃない。教えたいのはそうだな……戦闘に対する意識とか技術だ」

「意識と技術ですか?」

「対人戦は読み合いが大事だよね。特に格上相手に無策に突っ込んでいくのは思うつぼで、様々な工夫を凝らす必要があるんだ」

 剣を持つヨハンの手を指差しながら続ける。

「俺は相手の起こりを見て盾を合わせてる。でも見てるのはそれだけじゃない。たとえば武器を振るう前の視線だとか、体の他の部位とかね。その観点から言わせてもらうと、ヨハンは体の動きが素直すぎるかな」

「つまり攻撃するフリを交ぜながら、読みにくい動きで戦うべきということでしょうか?」

「極論はそう。ただ相手をあざむくことばかり意識してると、肝心の剣に力が入らないけどね」

 などと講釈を垂れながら指導を続ける。

 本能で動くモンスター達は、行動パターンを学習すれば対応できる。対人でも相手との読み合いに勝ち続ければ、たとえば100回殴って1発も受けなければ勝つことはできる。

 実力がきつこうした相手なら、そういった技術が勝敗に大きく直結するだろう。俺が教えたい部分がそこにある。ヨハンが将来そういう相手と剣を交えた時、この経験が生きるなら本望だ。

 といった具合に、俺との訓練は単調にならない攻撃と体捌き、そしてパリィのやり方についやした。

 続いてダリアの訓練だが──

「ひっ! ひっ!」

 ヨハンの悲鳴が神殿に響く。

 ごうごうと燃える炎のむちと輪っかをくぐり抜けながら、高速で飛んでくる火の玉を避けていく。

「ダリアさんスパルタすぎる……」

 俺の言葉にダリアは「何か問題ある?」とでも言いたげな顔を向けてきた。

 鬼か。

 こうして3つの選択肢をクリアしたヨハンは、いよいよ最後、俺&ダリアとの訓練にいどむこととなる。


*****


「さて、これが最後の訓練だ。2対1という不利な状態の中どれだけ動けるかやってみよう」

 俺が盾役タンクとして引きつけている間、ダリアが物量と火力で押し切る──つまりこちらの戦い方は普段と変わらない。タンクがいる中で、遠距離攻撃役をどうやって倒すかがしようてんとなる。

「教わったことを出し切ります」

 そう言ってヨハンは剣と盾を構えた。

 戦闘開始と同時、俺には目もくれずダリアの方へと駆け出すヨハン。

「!」

 ヨハンの視線が阻止すべく動いた俺に向く。

 目線は俺の盾から足へと移動し、剣の先がわずかに動いた。

 ダリアに行くと見せかけて俺を先につぶすつもりか?

 ヨハンは右足を軸にくるりと回った後、光を帯びた剣を振るって斬撃を飛ばした。

[ヨハンがせんこうざんを発動!]

 その斬撃は俺──ではなくダリアに向かう。

 俺を目でけんせいしつつも、目標は最初からダリアだったということか。

[ダリアが闇の手ダーク・ハンドを発動!]

 しかし相手は百戦錬磨のダリアだ。

 地面から生えた黒い手が斬撃を握り潰す。

[ダリアが炎のつぶてを発動!]

 今度はダリアの連射攻撃が迎え撃つ。

 ヨハンは狼狽える様子もなく地面を滑るようにして駆けると、攻撃をするすると回避して距離を詰めていった。

「後方注意」

[ダイキが盾叩きシールドバツシユを発動!]

 無防備な背中に盾による殴打が迫る。

 くるりと身を翻したヨハンの顔は笑っていた。

 俺の体がくさりの束に拘束されてゆく。

[ヨハンが鎖の契りを発動!]

[対象は3秒間動けなくなります]

 これはタンクの持つ足止め技の一つ──

「よく見てるじゃないか」

「もちろんです」

 そしてヨハンは再び身をよじると、魔法を行使するダリアの足を払う。

 バランスを崩したダリアに斬撃が迫る!

 バシイイイイ!!

「かはッ……!」

 黒い手によって押しつぶされ、地面にめり込むヨハン。地面に頭をぶつけながら、ダリアがニコリと笑った。


*****


 やっぱり戦いの後はご飯に限るね。

 無我夢中で頰張るヨハンとダリアを眺めながら、俺も料理を口に運ぶ。



[カルヴァンのステーキ]

評価:93点

説明:野生味溢れる味に仕上がりました。れいな焼き色にプロの技が光ります。バターとバジルの風味が食欲をそそりますね。

効果:物理攻撃力+27/魔法攻撃力+25/獲得経験値量+7%/追加スキル:剛力/効果時間:15分間



 見慣れない素材だなぁと買ってみたがコレは当たりだ。味は極めて牛だが、いのししにくを食べた時のようなパンチのある風味がご飯によく合う。

「へぇ砂漠の先で出てくるのか……」

 美味しかった素材については全てメモに残してるので、アイテムが持てなくなる程度(一種類300個)がまるまで狩り続けるのがルーティン化しつつある。

 課題としては、俺とダリアが行ける範囲で取れる素材を料理しても、装備レベルの関係で評価がかなり低いという点。評価は70点を下回ると強化値の減少がいちじるしく、その上追加のスキルだったりが発動しなかったりするので、70点を最低ラインとしたい。

 単純に味も落ちちゃうからね。

 現状ではレベル30前後のモンスター素材しかじように料理ができないものの、スキルレベルで見るとレベル50相当までは料理可能とある。

 調理器具はケイケイのお陰で十分使っていけるけど、調理服はいよいよ限界だなぁ。

「本当に美味しいです!」

 歓喜の声を上げるヨハン。

「みっちり鍛えたからお腹空いてるだろうし、おかわりも沢山あるから遠慮せず食べてね」

「はいっ!」

 負けじと食べ続けるダリアに癒されながら、クエストのログを開き、内容を再確認する。



[ストーリークエスト:冒険のはじまり]


内容:新米冒険者のヨハンがクエストを受けたようです。彼は大切なペンダントを落としていることに気付いていないようです。落とし物を届けてあげましょう。


思い出のペンダントを渡しに行く 完了


稽古をつける 完了(最大値の経験値を得たヨハンは達人のように動けるようになりました)


経験値:56,950

報酬:7,500G

特別報酬:縁結びのお守り



 特別報酬で貰った〝縁結びのお守り〟は、ケイケイの時と同様、ヨハンと会いやすくなるたぐいのアイテムだった(はじまりの町ギルド内限定)。経験値とお金は時間給としては割に合わなかったが、この特別報酬だけでも十分だろう。

 気になるのは次のクエストだ。

 俺は届いているもう一つのクエストを開く。



[不穏な影]


内容:あなたとの稽古で自信を得たヨハン。その帰り道、彼の運命を大きく動かすモノに遭遇し──?



???の討伐



 見る限り、帰り道に何かが起こるのは確定しているようだ。しかも討伐が前提となると、戦闘も確定ということになる。

 なら俺は万全の態勢でそれにのぞむまでだ。


*****


 神殿から森へと足を踏み入れた瞬間だ。

「!」

 3人が全員同じ場所へ視線を向けていた。

 そこは先ほど自分達がいた神殿の入り口で、ぶくぶくと泡立つようにして、黒色の何かが人の形を作り上げるように立ち上がった。



 譛縺。縺溯恭髮の残光 Lv.10



 なんだ、この敵は。

 名前が文字化けしている。

「ダリア、遠慮せず撃て!」

 俺の言葉にダリアは力強く頷いた。

[ダリアが爆炎弾を発動!]

[譛縺。縺溯恭髮の残光に攻撃は通らない]

[譛縺。縺溯恭髮の残光の反撃!]

 その黒いヘドロ人間は剣と盾を構えており、素早い動きで距離を詰めてくる。狙いはヨハン、それを俺は間に入って受け止めた。

 いや、受け止められなかった

[ダイキに100377のダメージ]

[ダイキは一定時間動けません]

 敵の剣は盾を突き抜き、俺の胸を貫いた。

 体力は残り1となり、その場に崩れ落ちる。

「ダイキさん!」

 ヨハンの悲痛な叫びがこだました。

 ダリアが髪を逆立てながらヘドロ人間に向かっていくも、その魔法はことごとく無効化され、全くダメージが通らない。

「ヨハン、俺が最初に言ったことを思い出せ」

 涙目で佇むヨハン。

 構わず俺は続ける。

「ダリアの魔法が通用せず、俺の防御も意味をなさなかった。この意味がわかるだろ?」

 冷静に敵の特性を分析できればこんなことにはならなかったのに、無策にも俺が攻撃を受けたことでダリアはげつこう、戦況は最悪だ。

「意味ないですよ……」

 ヨハンは確かにそう呟いた。

 何かを決意したようにヘドロ人間をにらんだ。

「大切な人達を守れないなら、生き延びても意味ないですよ!!

 突如、ヨハンの体が金色の光に包まれた。

 ダリアに襲いかかろうとしたヘドロ人間は、ヨハンを見て明らかにおびえた様子を見せた。

[譛縺。縺溯恭髮の残光が射出を発動!]

 飛び散る黒い液体。

 それはまるで毒か呪いのようで、液体に触れた木々や動物達が腐ったように黒ずんでゆく。

 ヨハンの瞳に光が揺らめいた刹那──すさぶ黒の液体を避ける、避ける、避ける。

 それはまるで未来を予知しているかのような動きだった。

 全ての液体を避け終えたヨハンは剣を構え、体を回転させると、光の斬撃を放った。

[ヨハンが閃光斬を発動!]

 光の斬撃は地面をうようにしてヘドロ人間を通過すると、ヘドロ人間の体がすすのように崩れ消えてゆく。

[譛縺。縺溯恭髮の残光が浄化されてゆく]

 ヘドロ人間はみるみるうちに崩れてゆき、地面に黒いシミを作って消えた。

 ハッと我に返ったヨハンが駆け寄ってくる。

「ダイキさん! ダリアさん! 無事ですか!?

「あ、うん、ヨハンのおかげでね」

 地面に倒れたダリアもサムズアップしている。

「あれはなんだったんだ……?」

「分かりません。でも防御もできない透過攻撃に加え、触れたら即死の毒、そして魔法を受け付けない無敵の体……恐ろしい怪物ですね」

 普通の冒険者ではまず対処は不可能だろう。

「逃げなかったことをとやかく言うつもりはないよ。とても勇敢だった、ありがとう」

 ヨハンは照れ臭そうに笑った。

 気になるのはヨハンがまとった光についても同様だ。

 あれはラルフやケイケイにも見られた力だ。

 共通しているのは、ピンチに陥った時に無自覚で発動しているということか。

 しかし、黄金の光は共通しているのに、不思議な力はそれぞれ違っている。

 ケイケイは人並外れた怪力。

 ラルフは何かを盗むという能力だった。

 先ほどの様子から察するに、ヨハンは予知的な能力なのかもしれない。

 なんにしても、早くこの場から立ち去ったほうが良さそうだな。


*****


「はい、確かに薬草束20個納品完了です」

「ありがとうございます」

「こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」

 納品をすませたヨハンは、布のきんちやくぶくろに硬貨を入れて帰ってきた。どうやら無事に報酬を受け取ることができたようだ。

「初任務お疲れ様。冒険者としての第一歩だね」

 ダリアも誇らしげに微笑ほほえんでいる。

「お二人のお陰です……本当に……」



 ヨハン Lv.25



 徹底的に鍛えた結果かとんでもないレベルになっているが、これだけあればここ周辺のモンスターは全く苦にならないはずだ。

 稼ぐのも難しくないだろう。

「後は薬草の知識やもろもろ、しっかり勉強してから臨んだ方がいいね。知識も大きな武器になるし」

 薬草と間違えて毒草を混入しない限りはあんたいだろう。

「お二人を目標にこれからも精進します」

「その意気だ。せいぜい励みたまえよ」

「頑張ります!」

 元気一杯に去っていくヨハン。

 ここから彼はどう成長するんだろう。

「よし、俺達も行くか」

 ダリアを定位置にセッティングし、俺達も冒険者ギルドを後にする。今回も少しの謎が残ったけど、ストーリーを進めるにつれこれらの謎が解明されていくと思うと楽しみだな。