
前回までのあらすじ
会社の同僚
エリア開拓で目立ったり、ダリアを肩車して掲示板の人気者になったり、一人ぼっちのドワーフを手助けしながら迎えた最初の運営イベントで一位の成績を残し、二人の存在は広く世に知られることとなった。
その後、
転職と進化を経て、二人の絆はより深まった。
ケンヤに
Frontier World Online...
違いに気づいたのはコロッケを作った時だった。
「レシピが同じでも材料
目の前には
右から
見た目では全く分からないが、食べてみると食感がまるで違う。
「これが男爵芋が
男爵芋は粉っぽくホクホクしているのが特徴的で、コロッケなどに最も適した種類だとレシピにそう書いてあった。メークインは逆に
普段俺が何気なく食べていた
食レポをメモ帳に書き記していく。
「……これならダリアもバクバク食べてくれるかもな」
最近の悩み──それはダリアの野菜嫌い。
最初は野菜を食べたくない、美味しく感じないから残しているのだと決めつけていた。ワガママが加速しているのだと思っていたが、彼女を責める前に自分自身に問いかけてみた。
本当にベストを尽くしたのか? と。
世のママパパは工夫を
嫌いなものの定義も様々だが、ダリアは単純に「味」を苦手としている様だった。様々な料理に野菜を混ぜて様子を見ていたが、もっと根本的なところに問題があるように思えた。
たとえばこのトマト。
トマトの種類はなにも大玉、中玉、ミニというサイズの違いだけではない。これらにもじゃがいものように名前や味の違いが存在する。ならば比較的ダリアが美味しいと思える種類を選択して調理すべきではないか……俺はそういう結論に
買ってきた本を広げペラペラめくっていく。
「まずはトマトの種類と栽培方法から……」
満たされないこの探究心。
ここには、素材が完成品と成るまでの大切な要素──それは気温であり、水分量であり、日光量であると書いてある。素材への深い知識と理解が、料理をより美味しくさせるともある。
「そうか……だから自分で産地巡りをしたり栽培管理する料理人が多いのか」
これは野菜のみに限った話ではない。
究極的にいえば、理想の料理のために理想の素材を作れば、至高の味に
つまりこれが〝食〟というものか──!
*****
「いや、普通はそこまでこだわらないんじゃない?」
出社後すぐに、ベテランママであるパートの
「で、でも味の違いがありますよね? 食感だって違います!」
「確かに違うけど
俺は
「でもこれ見てください! 栽培方法を工夫するだけでこれだけ甘みが増すってデータがあるんです! 比較的糖度の高い品種を選べばもっと……」
田中さんは面白そうにそのページを
「味の違いがわかるのはもう少し子供が大きくなってからじゃない? 子供はね、たとえそれが大好きな戦隊ヒーローの形をしていても、嫌いな野菜ってだけで食べてくれないのよ」
「そんな……」
「〝見た目に警戒して食べるに至らない〟これが最大の難所よね。細切れにした野菜をハンバーグとかカレーに入れたほうがまだ食べるかもしれないわ」
確かにそう、確かにそれはそうだけど……。
それでは栄養を摂取できるかもしれないが、その野菜そのものを
野菜を好きにさせることは不可能なのか?
背伸びしながらロッカーのほうを眺めていた田中さんは、おーいおーいと人を呼んだ。
「大樹君の理想はよーく伝わったわ。栽培方法にこだわるってことなら、私よりも
「清掃員の草壁さんですか?」
「そう。あの人趣味で農業やってるから、保育園のお芋掘りイベントに場所を提供したりしてるの。話してみたら面白いかもよ」
なるほど! くわしい人に聞けるなら一番だ!
こちらにやってきた草壁さんは、日焼けした頭を下げてはにかんだ。俺もしっかりお
*****
風は荒々しく、視界はすこぶる悪い。
「ううう、寒い」
俺達は
少し前に火山があったかと思えば今度は雪山……そんな非現実的な現象は、ここが「ゲームの世界」であることを再認識させてくれる。
もちろんVRでの話なので、仮に装備が半袖でも寒さを感じる事はないが、こうも吹雪いていると寒気を感じずにはいられない。
「大丈夫か?」
肩車されているダリアはペチペチと
スノー・ラビット Lv.43
スノー・カウ Lv.44
アイス・エイプ Lv.45
アイス・イーグル Lv.45
出てくる敵はどれも氷の属性を持つモンスターでレベル的にはいよいよ格上だ。しかし相手は火属性が弱点というのもあり、なんとか進めている。
ちなみに〝スノー系〟と〝アイス系〟の違いとしては、スノー系だと雪国の生物(分厚い毛皮に
要するに前者は食べられて、後者は食べられない。
頭上でボリンボリンと
「それ
どうやらダリアが氷を
カロカロと音が聞こえてくる。
「
目を細めて道の向こう側を
先に進むにつれ視界の悪さは更に増してゆくばかりで、モンスターからの奇襲に気付かず、一撃もらう事も増えてきている。
このまま進むのは無謀かもしれない。
それに厄介なのはモンスターだけではない──
「継続ダメージが絶妙にツラいな……」
問題は環境特性による〝dotダメージ〟。
装備には防寒機能や防暑機能が備わっているものがあるが、こんな雪山をそれらなしで進むのは厳しいと言わざるを得ない。
数値にして5秒間に1%の体力減少。
その上、
具体的にはパリィが確定で失敗してしまう。
寒さが原因なのは明白だし、火山の時のような
「ちょっと休憩しようか」
俺の言葉にダリアがペチペチと同意する。
俺は控えスキルから[野営術]をセットし発動する──と、視界の横に、こぢんまりとしたログハウスが姿を現した。
*****
「は──生き返る……」
野営術の中はかなり頑張って改造したおかげもあり、安らぎの空間が広がっていた。
広いキッチンと外の景色が見える大きな窓、そしてパチパチと音を立てる
窓からは
ダリアを着替えさせた後(
俺達の休憩といえば
材料は先ほど狩ったスノー・ラビットとスノー・カウの肉。二種とも白い体毛に覆われており、肉が引き締まっているのが特徴的だ。
まずスノー・ラビットの骨と
待っている間に鉄板でスライスしたニンニクとスノー・カウの肉を焼いてステーキを作っていくと、リビングに
ダリアが鼻をひくひくさせながら、フォークとナイフを手に「いいぞいいぞ」と盛り上がっている。
ステーキが完成した頃、あっという間に
[スノー・カウのステーキ]
評価:91点
説明:
効果:物理攻撃力+10/魔法攻撃力+10/獲得経験値量+7%/氷属性攻撃強化/効果時間:20分間
[雪山のホワイトシチュー]
評価:95点
説明:しっかり出汁を取って味に深みが生まれました。これを食べたら体の芯までポカポカ。
効果:物理攻撃力+12/魔法攻撃力+13/獲得経験値量+8%/氷属性防御増加/効果時間:25分間
評価点も上々、狙っていた〝防寒〟は付与されなかったが、これを食べればこの先25分間は氷属性に耐性がつく(効果の高いものが優先されるため今回はシチューの効果が適用される)。先ほどよりも少ないストレスで雪山を進むことができそうだ。
「いただきます」
二人並んで料理をパクつく。
同時に、口内に広がる肉の
シチューは濃厚で温かく、そして旨い。
隣には幸せそうにステーキを齧るダリア。
ん──至福のひと時……。
カレーやシチューの強みは、野菜も肉も一緒に食べてくれるというところ。好き嫌いが激しくなる最近では、混ぜてもバレない料理が主なメニューとなりつつある。
「あっ!」
少し目を離した
まさに
シチューでも野菜を残すとなるといよいよだな。
それにしても、
「細かい種類が用意されてないとは……」
Frontier World Onlineでは農業・漁業などひと通り遊ぶことはできるものの、リンゴを例にすると
これでは時季ごとに材料を変える工夫なんてできない。
俺は山盛りになった野菜達をスプーンでつつきながら、今後のメニューと工夫について考えを巡らせるのだった。
*****
そんなこんなで雪山産の料理を
「この視界じゃボス戦なんて戦い抜けないよな」
雪山攻略に必要なのは、視界を守るゴーグル的な装備と防寒具。
「目ぼしいスキルもないしな……」
そうぼやきながらスキル欄をスライドさせていくと、一つのスキルが目に留まった。
[スキル:シンクロ]
※ 条件が満たされていないため発動できません
そういえばこんなものもあったな。
確か
条件が満たされてない──
要するに俺かダリアに何かが足りてないってことなんだろう。ノーヒントだなんて運営も意地悪だ。
「これ、どんなスキルなんだろな」
ダリアはただ前を見つめている。
シンクロは訳すと「同調」という意味になる。
名前からして現状を打破できる
たとえば視界とか、思考とか、ステータスとか。
視界が同調されれば単純に死角が減る。
思考が同調されれば連携の練度が上がる。
ステータスが同調されれば、俺の魔力分、ダリアの火力が上がるかもしれない──これらいずれか、もしくは全ての効果があるのだとしたら破格の性能を誇るスキルだ。
間違いなく戦闘の幅は広がるだろうな。
「あるいは召喚獣を増やす、か」
火力が上がれば戦闘は楽になるし、
「お、出口が見えてきた」
そんなこんなで無事出口に辿り着くと、ダリアがスルスルと肩車から降り、珍しく独り立ちして先を歩き始めた。
気持ちの変化かな?
「危ないからあんまり先に行かないでくれよ」
ダリアはその場で足を止めこちらを振り返る。
「──え?」
彼女の顔はどこか
*****
「お。
「知ってるのか?」
「知ってるさ。攻略のために防寒具を
手慣れた動きで注文品を納品していくケンヤは、汗を
「先に言っておくけど、霊峰を登るのはまだ早いぜ」
「え、難易度高いの?」
「
確かにそっちが正規ルートっぽいな。
今度は何かの皮をなめしながらケンヤが続ける。
「雪山を攻略するのは諦めて、麓から洞窟へと抜けることを考えた方がいいかな。氷耐性があるならゴーグルだけ用意するけどどうする?」
「いや、
主にダリアが着たところを見たいだけだが。
俺の思考を見透かしたかのようにニヤつくケンヤは、首を伸ばすようにして、その辺の展示品を見つめるダリアに視線を向けた。
「時にダイキよ。ダリア
「何もない、と思うんだけどなぁ……」
雪山からダリアの態度が少し変わった。
分かりやすいところでいうと、以来ダリアは肩車をせがまなくなった。それだけでなく、先導するように自分の足で歩くようになっている。
「何もないってことはないだろ。あんなにベタベタだったのに、反抗期か?」
「反抗期? 反抗期なんてあるのか……?」
「デジタルの存在とはいえダリア嬢も精神的に日々成長してるならあり得るんじゃね?」
そうか……考えてもみなかった。
見た目の年齢は変わらなくても、冒険する中で彼女も成長しているのかもしれない。
「単に怒らせてるなら早めに仲直りしておけよ。俺なんてこの間、嫁さんに装備品を定価で売りつけたのがバレて、二日間口きいてもらえなかったからな」
などと笑うケンヤ。
ケンヤの奥さんもFrontier World Onlineをはじめたらしく、最近は二人で綺麗な景色や美味しい料理を食べて旅行気分を味わっているのだとか。
「と、話を戻すけど、防寒具一式を二個セットでいいか? それと、
申し訳なさそうに頭を
諸々の事情とはもちろん奥さんの事だろう。
「うん、それで大丈夫。よろしく頼んだ」
「あいあい。というか、その都度装備を
「装備屋にあるまじき発言だ……」
「ま。友人からのアドバイスだと思ってくれ」
確かに、火山や雪山だけでなく、毒の沼や菌の森など対策が必要なエリアは無数にあると聞く──そこで活躍するのがヒーラーだ。
ヒーラーは体力の回復はもちろん、状態異常の回復、環境特性への防護や強化も得意としている。それに、パーティ戦闘では一人は必須というのが相場らしい(今のところダリアの火力ゴリ押しでここまで来られたけど)。
俺がスキルを取得してヒーラーを
その点、ヒーラーを召喚獣に
戦力の増強はメリットしかない。
「実はそれも考えてる。毎回誘うのも気が引けるし、いっそ新しい召喚獣をヒーラーにしようかなと思ってたところなんだ」
ただし、問題点がひとつ。
「ただ……ダリアがどう思うかな」
これまで気ままな二人旅をしてきた。ここにきて仲間が増えると聞いたら、ダリアはどう考えるだろう。
「ふーん」
何かを察したようにニヤつくケンヤ。
「ダリア嬢が怒ってるのって、お前が召喚獣を増やそうと考えてるからじゃねえの?」
「あっ」
そう言われてみると心当たりがある。
『あるいは召喚獣を増やす、か』
ダリアの態度が変わったのはその言葉の直後だ。つまり、何の相談もなしに新しく召喚獣を迎えるのが納得いかなかった可能性がある。
「ダリア、ちょっといいか?」
妙な
しゃがんで顔を
「相談もなしに新しい召喚獣のことを口にしたのが嫌だったのか?」
ダリアからのリアクションはない。
無表情のまま
「ただ、将来的に俺達だけではどうにもならない敵が出てくる可能性がある。さっきみたいに進めない道が出てくることもある。
正直に自分の考えを伝えた。
「不安にさせてごめんな」
ダリアはしっかりと俺の目を見て
「家族が増えるのは不安か?」
ダリアは大きく首を振る。
不安は解消されたかな?
俺はダリアの頭をよしよしと
ついでなので、ケンヤから見せられたカタログを広げ、防寒具を選んでもらうことにする。
「さて、ダリア用のデザインなんだけど──」
一瞬目を離した隙に、ダリアは再び別の場所で展示品の物色を再開していた。
機嫌は直った、のか?