後日談 ルクシーダの不安
無事に本当の夫婦になった私とエルイード様だったけど、それから二人は毎日イチャイチャしながら暮らしました、とはならなかった。理由はいくつかある。
まず、隣国との戦争の後始末がもの凄く大変だった、というのがあった。なにしろ相手は二カ国で連合を組んでいたし、こちらだって色んな国に支援を要請した。敗北した国とは講和の交渉をしなければならなかったし、支援してくれた国にはお礼をしなければならなかったからね。
これには私も後方支援に関わったので少なからず巻き込まれた。隣国の協力してくれた王族や貴族に次期公妃としてお礼状を出し、中には戦勝祝いの使者を送ってきた国もあったので接待をしなければならなかった。
私でもこれだけやることがあったのだから、一躍我が国の英雄になってしまわれたエルイード様のお忙しさはそんなものではなかったのだ。
国内外の王族や貴族からの祝賀の使者、あるいはご本人の来訪に毎日のように対応され、王宮や貴族のお屋敷を接待や交渉のために飛び回っていた。それに加えて戦争を終えた軍隊は徴募した兵士に給料と報奨金を与えて解散させねばならず、その手筈もエルイード様に任されていた。
そして大量の捕虜を得たので、それを収容所に移送して管理しなければならず、その手配もエルイード様に任されたのだ。何千人もの捕虜だから、とても一カ所には収められず、何カ所かの収容施設をわざわざ造る必要があった。そういうことまで全部エルイード様がやらなければならなかったのだ。
これはなんでそんなことになったのかというと、この時は国王陛下も王太子殿下もお義父様も、皆様全員同じように大忙しだったからだ。エルイード様と同じくらい、あるいはそれ以上のお仕事を抱えて皆様てんやわんやだったのである。
戦地で遺憾なく有能さを発揮したエルイード様である。できないという言い訳は通らず、容赦なく仕事を押しつけられたというわけだった。もっとも、お義父様に言わせると、エルイード様は元々数字に明るく、実際に動く部下は戦地でのエルイード様を見て心酔していて指示に迅速に従うから、大した負担ではないだろうとのことだったけどね。
ただし、元々引き籠もりのエルイード様である。それはそれはお仕事を嫌がった。捕虜の取り扱いのお仕事はともかく、色んなお客様と対面しなければならない使者やお客様の接待は嫌で仕方がないらしく、嫌だ嫌だとゴネられる。この辺は戦地に行く前と全然変わっていないのよね。
ご一緒できればよかったのだけど、私も忙しくてそれはとても無理だったのだ。外国からのお客様の接待も、手分けしてやらなければとても追いつかない。実家のお父様や親戚まで動員しての大忙しだったのだから。
そんなに忙しいのだから、二人でのんびりしている場合では全然なく、例の人形遊びもしている暇がない。二人でゆっくりお話しする時間さえ作れずに、私はまだエルイード様の武勇伝をまともに聞いてもいなかったのだ。
エルイード様とお会いできるのは朝食の時間とお見送りとベッドの中くらい。朝は慌ただしく、夕食は時間が合わず、夜も大体が私が先にベッドに入って寝ていると、遅くにお帰りになったエルイード様がゴゾゴゾとベッドに潜り込んでくる有様だった。
エルイード様はご帰還になったあの日に私と結ばれて、その時はまぁ、凄かったのだけど、それで満足したのかその後は私をお求めにはならなかった。なにしろ忙しく、私が先に寝ているのを気遣って起こさないようにそっとベッドにお入りになるくらいだったからね。
それでも絶対に私と同じベッドにお入りになるのは譲れないのだそうだ。
「どんなに疲れていてもルクシーダと一緒に寝れば、疲れも吹っ飛ぶから」
と仰って下さる。嬉しいことだ。私だって頼り甲斐のある旦那様と一緒に寝て、少しでも言葉を交わせば疲れも溶けてしまう。以前よりもずっと距離は近付き、キスも自然に交わせるし、甘え合うこともできる。私は幸せだ。
◇◇◇
そういう大忙しの状態は戦争終結後、二カ月ほど続いた。その間、私とエルイード様は一度も一緒に夜会に出ることはできなかった。別々に、エルイード様はお義母様や親戚の夫人、私はお父様とか実家の叔父などと一緒に、手分けして違う夜会に出ないと接待する人数が多すぎて追いつかなかったからだ。
そういう別々の社交に出なきゃいけない日は、朝にエルイード様は「ルクシーダと一緒がいいのだ」と私に縋ってゴネていたし、お帰りになってからは、私が起きていれば抱きしめてキスをしてからお休みになっていた。だから私は別になんの心配もしていなかった。
のだけど、本来は、夫婦は原則的には夜会で揃い踏みするのが当たり前だ。それが別々に出ていたら不仲であると見做されてもおかしくはない。事情があったとしてもすべての人が事情を承知しているとは限らないからね。
だから、出てしまったのだ。私とエルイード様の不仲説が。
ようやく他国の方の接待も落ち着いてきたある日、私は久しぶりに王国の貴族夫人だけが集まるお茶会に招かれた。緊張する外交接待が続いていたから、私も気が抜きたくて、喜んで招待に応じた。
いらした夫人たちは戦争の時の後方支援でも協力して下さり、気心も通じるようになった方ばかりだ。テラスに出されたテーブルを五名で囲み、私たちはお茶を飲んでお菓子を摘みながら、久しぶりに気楽な、政治に関係のないゴシップや流行などについて楽しくおしゃべりをした。
私は楽しいお茶会にすっかり気を抜いていた。なのでその話が出た時にびっくりしすぎて思わず椅子から転げ落ちてしまうところだったわよ。
「ルミフェーム様はかなり本気でエルイード様にアタックしているみたいですわね」
……は?
ルミフェーム様といえば、ロックフォード侯爵家のご令嬢だ。確か、エルイード様と早い時期に縁談が持ち上がったものの、言下に断ったと聞いている。エルイード様には全然興味がなくて、むしろ皇太子殿下に
私が驚いて目を丸くしていると、お話ししていた夫人が「あっ」というような顔になった。
「いえ、エルイード様はルクシーダ様がお大事ですから、大丈夫ですよ」
「そうそう。それに、エルイード様に群がっている女性の一人にすぎません。ご安心下さいませ」
群がっている!? なんですかそれは!
安心どころか私は仰天した。私は慌てて夫人たちに説明を求めた。すると、とんでもないことが分かったのである。
夫人たちが言うには、夜会に出たエルイード様は女性に大人気で、未婚既婚問わずに大勢の女性が彼を追いかけ回して取り囲み、しきりに誘惑している状態なのだという。な、なんてこと!
「エルイード様は、ほら、お痩せになって、すっかりハンサムになられたでしょう? それで急にそのご容姿に惹かれた女性たちが群がるようになったのです」
人の夫に何してくれてんですか! 私のエルイード様に寄るな! 触るな!
私は見えない女性たちに向かってカーッと怒ったのだけど、同席したご夫人方は首をかしげている。私が何を怒っているのかがよく分からないという雰囲気だ。それで私も気がついた。
貴族にとって浮気、不倫はそれほど責められるような話でもない。立派な貴族男性なら愛人の二人や三人は当たり前。下手をすると愛人にお屋敷を与えて日替わりで複数の愛人と妻との間を行き来する方もいるくらいだ。
夫人でも、若い有望な騎士や男爵あたりを囲って愛人にしつつ、支援をして出世させるなんてことはよくあることだ。
貴族にとって結婚とは家同士の繋がりを作るために行うもので、私とエルイード様がそうだったように本人同士の意思はほとんど無視される。だから愛情などないのが普通なのだ。
なので愛の部分を埋めるために愛人を作るのである。愛人は愛人で持っておいて、愛のない夫婦で子供を作るのだ。結婚は一人としかできないし、妻の子でないと基本的には家を継がせることができないからだ(どうしても子ができない場合でも、愛人の子を夫婦の養子としないと後継にはできない)。
貴族の夫婦関係の常識がそんなだから、エルイード様に惹かれた女性たちは別に私に取って代わろうとしているわけではないのである。愛人狙いなのだ。次期公爵であるエルイード様なら愛人を抱えるなんて朝飯前。むしろいなければおかしい。愛人を数人抱えてこそ男の甲斐性を示せるという考え方まであるらしい。
愛人には未婚の女性がなる場合もあれば、結婚している夫人がダブル不倫状態でなる場合も珍しくはない。とにかく倫理的にあまり大女神様に大っぴらにご報告ができないのが貴族の男女関係というものなのである。
これまでエルイード様には愛人希望者がやってきたことなどなかった。それはまず、エルイード様が引き籠もりだったこと、そして社交にお出になる時には私が必ずお側にいたこと。さらにエルイード様のご容姿が、あまり女性受けするようなお姿ではなかったからだった。
しかしながら、エルイード様は今や軍の英雄だ。それに戦勝後に出た社交の場では仕方のないことながら私と離れてお出になっていた。そしてなにより、エルイード様は戦場のご苦労でお痩せになり、皇太子殿下そっくりのイケメンになってしまったのだ。
それは女性たちが色めき立ち、エルイード様の愛人の座を目指してアピール合戦を始めてしまっても無理はない。しかもこの時、私とエルイード様が夜会をご一緒しなかったことで、私たちの不仲説までまことしやかに語られる事態になっていたらしかった。
勝手なこと言うなー! 誰と誰が不仲なのよ! 責任者出てきなさい!
私は怒り狂った。とんでもない話だ。ようやく長い時間をかけて夫婦になったというのに、途端に愛人候補が山盛り現れるとかどういうことなのよ! さんざん、暗いとか引き籠もりとか、キモいとか言って。ぽっちゃり公爵扱いしてたのはどこの誰なのよ!
しかしながら私が叫んでもエルイード様に纏わりつく女性が減るわけではない。どうにかしなければ。夫の浮気など涼やかな顔で見逃すのが貴族の女性としての甲斐性なのかもしれないが、私は嫌だ。
ちなみに、実家の父親も義父の公爵様も愛人を持っていない。父親の方はお金がなかったからかもしれないが、公爵様の方は亡くなった公妃様を心底愛していらしたからだろう。私はお義父様とお義母様のような夫婦になりたいのだ。
私は怒ったし焦ったが、昼の接待はかなり減ってきたものの、夜会はまだ立て込んでおり、エルイード様とは後一カ月くらいは夜会をご一緒できそうになかった。これでは、その一カ月の間にエルイード様に愛人ができてしまうかも知れない。エルイード様が私を愛して下さっていることは疑わないが、元は気弱なエルイード様である。気の強いご婦人に押しに押されたら思わず間違いを犯してしまうかも知れない。
くー! どうしてくれよう。私は悩み困ったのだが、このことをまさかエルイード様ご本人に相談するわけにはいかない。エルイード様を疑っていると思われると困る。いや、現実的には疑っているわけだけど、繊細なエルイード様は、私に愛を疑われたなどと思われたら、ショックでまた引き籠もってしまいかねない。
お義父様、お義母様にも相談したくない。実家のお父様お母様にもだ。私も貴族夫人なのだから、愛人など笑って許してやれと言われてしまうかも知れないからだ。そして、お義父様の口あたりからエルイード様に話が漏れてしまうかも知れない。
私は悩んだ挙げ句、侍女のフレインに相談した。彼女は口は固いし、エルイード様を幼い頃から知っている。いいアドバイスをくれると思えたのだ。
私が相談すると、フレインは思わず、といった感じで大笑いした。貴族婦人にしてはあるまじきくらい、大きな声で笑ったので逆に私はびっくりした。フレインはひとしきり笑うと滲んでしまった涙を指で拭って言った。
「そんな馬鹿なことを考えなくても大丈夫ですよ。ルクシーダ様。エルイード様が浮気などするはずがありません」
それは私だってそう思うけど。私はお茶会で聞いた事情を詳しくフレインに話した。しかしそれを聞いてもフレインは全然真面目に受け取らなかった。
「いいですか、ルクシーダ様。エルイード様が美女に囲まれて鼻の下が伸びるような男なら、ルクシーダ様とお会いする前にとっくに結婚していらっしゃいます」
フレイン曰く、エルイード様は最初からモテなかったわけではないそうだ。社交界に出始めた直後はそれこそ大モテで、毎日のようにご令嬢に囲まれて、猛烈なアタックを受けていたのだそうだ。
「それで逆に女性が苦手になってしまい、お屋敷に引き籠もるようになり、女性と満足にお話もできなくなり、そして運動もしなくなって太ってしまい、あんな感じになってしまったのですよ」
現金なもので、エルイード様が引き籠もるようになり、しかもオドオドして暗い感じになり、しかも不健康にお太りになったら、急速にご令嬢方はエルイード様を毛嫌いするようになったのだそうだ。縁談は数限りなくあったものの、引き合わされたご令嬢がぽっちゃり公爵と化したエルイード様を目の当たりにして、全員が片っ端から縁談を断ってきたのはご承知の通りだ。
「私は逆に、そんなに女性に囲まれていたら、またエルイード様が社交に出られなくなるのではないかと心配です。なんとか女性に囲まれなくする方法を考える必要があるかも知れませんね」
フレインはため息をついた。それは……。それも私は心配だ。エルイード様は社交がお嫌いなのに頑張っているだけのことであって、我慢が限界を迎えればまた社交に絶対出たくないと言い出すかもしれない。
やはりどうにかしなければいけない。エルイード様から女性を遠ざけないといけない。私はう~んと考え込む。……そして、ある方法を思いついた。フレインの今の話の中にヒントがあるじゃないの!
「そうよ。それしかないわ!」
「? なんですか? ルクシーダ様」
私は右手で握りこぶしを作って叫んだ。
「エルイード様を太らせましょう!」
◇◇◇
エルイード様がいきなりモテるようになったのは、要するにご容姿が大変素晴らしい美男子になってしまったからだ。女性は美男子に弱いからね。
だから、エルイード様に元の通りの太ったご容姿に戻っていただけば、おそらく容姿に引き寄せられた女性たちは離れていくと考えたのだ。これを思いついた時には私は
フレインはしかし、ちょっと呆れたように言った。
「それは……、確かに上手くいきそうではありますけども。しかしルクシーダ様はいいのですか? せっかく夫が痩せて美男子になったのに」
そう言われて、私は首をかしげた。
「え? だって私が好きになったのはエルイード様のご容姿じゃないもの。ご容姿を問題にするなら私はお嫁に来ていなかったわ。痩せていようと太っていようと、私がエルイード様を愛しているのは変わらないもの」
私の言葉にフレインは目を丸くした。そしてそれからうっすら浮かんだ涙を拭って言った。
「……坊っちゃまは、素晴らしいお嫁様を娶りましたね。本当によかったこと……」
フレインは協力を約束してくれて、私の「エルイード様をもう一度太らせよう」作戦はスタートした。
太らせるには、要するに食べさせればいいのだ。甘いものや脂っこいものをたくさん食べればたちまち太る、はずだ。実家のお父様が一時期太ってしまい、大好きな甘いものをお母様に制限されていたのを思い出す。
エルイード様は幸い(?)にも脂っこいものがお好きだ。それにそもそもよくお食べになる。朝食をご一緒すると私の倍はいつも食べるのだ。
なので私はフレインに頼んで、エルイード様のお皿を普段の倍くらいの量にしてもらい、メニューも脂っこいものにして、そして大量のデザートも出してもらった。これを食べ続ければ、エルイード様は狙い通りすぐに元の体型に戻られるだろう。と、私はほくそ笑んでいた。
しかし、事はそんなに簡単には進まなかったのである。
エルイード様は朝食の卓に着かれると、自分のお皿を見てびっくりした顔をなさった。そしてあっさり給仕に言ったのだ。
「これでは多い。少し減らしてくれ」
エルイード様は、というよりゼークセルン公爵家は軍人家系だけに無駄を嫌う。大貴族なら食べきれないほどの皿を出して大量の残り物を出すのが普通なのだが、ゼークセルン公爵家では残り物が出ないように最初に量を調整するのだ。私も無駄は嫌いなのでそういうお家の方針は合っている。
しかしいきなり作戦は失敗だ。デザートも、エルイード様はそれほど甘いものはお好きではないのでほとんど召し上がらなかった。むしろ私がデザートの誘惑に駆られていつもより食べてしまった。気をつけないと太る。私が。
困った。なにしろ私がエルイード様とお食事をご一緒できるのは最近は朝だけなのだ。エルイード様にたくさん食べさせることができるのは朝しかないのに、エルイード様は食べて下さらない。
私は考え、寝室にお夜食を用意してもらった。エルイード様がお帰りになったら食べてもらうのだ。夜の間食は太ると聞いている。その日、お帰りになったエルイード様に私はベッドから出ていそいそとお夜食を勧めた。
「お疲れでしょう? お夜食はいかがですか?」
しかしエルイード様はあっさり首を横に振った。
「いや、いらない。夜会で食べたから」
そして私を促して一緒にベッドにお入りになると、すぐに寝てしまった。どうやら忙しすぎて大変お疲れのようだ。そんな彼に無理はさせられない。どうやらエルイード様は必要でないお食事はしないタイプらしい。聞けば間食もまったくしないのだとか。これは、困った。
「おかしいじゃない! あんなに規則正しいお食事をしていて、どうして前は太ってたのよ」
私がぼやくと、フレインは言った。
「一時期、ストレスで過食気味の時期がございましたし、それにやっぱり運動不足ですよ」
今は精神状態が安定して、食事量は普通に戻ったし、お仕事で馬に乗って帝都郊外まで駆けていくことも頻繁にあるそうだから運動は充分だ。太る要素がない。
困った。このままではエルイード様は格好いいままだ。帝都の貴族女性の視線を集め続けることだろう。そしてそのうちいつか、私よりも全然綺麗な女性を気に入って愛人にして、私のところには寄りつかなくなるかもしれない。
私は恐れ、悩んだ。私以外に気移りして、エルイード様が私の元からいなくなる時のことを思うと、どうしても気鬱になってしまう。
そしてその様子はすぐに気がつかれてしまった。他ならぬ、私の最愛の旦那様にである。
「どうしたのだ、ルクシーダ。元気がないな。何かあったのか?」
ある朝、起きたばかりのその時に、エメラルド色の瞳が真剣な色を讃えて私のことを見下ろしたのだ。キラキラした金髪が朝日に輝いている。秀麗な相貌。出会った頃と輪郭は違うけども、その優しい笑顔にはなんの変化もない。その様子を見ていると、私はなんとも自分が情けなくなった。思わず泣けてきてしまう。
「……エルイード様ぁ……!」
「なんだ、どうしたのだルクシーダ!」
突如自分の胸に抱き縋って泣き始めた妻に、ルクシーダ様は大慌てになってしまった。フレインを始めとする侍女もビックリ仰天だ。大騒ぎになってしまう。
結局、私は泣きながら自分の不安を洗いざらいエルイード様に吐き出した。エルイード様に愛人ができてほしくないこと。私の元からいなくなってしまうのではないかという不安。そのことをエルイード様に抱かれながらひとしきり訴えたのだった。エルイード様はしっかり私を抱き寄せたまま、じっと聞いて下さったわよね。
そして、私がようやく泣きやむと、エルイード様は頷いた。そしてフレインに言う。
「フレイン。父上と皇太子殿下と、国王陛下に使者を出してくれ。私とルクシーダはこれから一週間、休暇を取る。どこへも行かぬ。城に引き籠もるゆえよしなに頼むとな」
「へ?」
フレインは驚いたが、私も驚いた。大分落ち着いたとはいえ、私もエルイード様もまだまだ色々大忙しなのだ。休暇など取れるはずがない。しかしエルイード様は笑顔で私の頬を撫でると言った。
「なに、私にとってルクシーダよりも大事なことが他にあるものか。ルクシーダが不安に思うようなら、私は社交になど出ぬ。仕事もせぬ。ずっとルクシーダと一緒にいよう。それが私の望みなのだから」
そしてエルイード様は私を軽々と抱き上げて、ベッドに逆戻りした。私を大事そうにシーツに横たえて、私の額にキスをする。
「君の不安がなくなるまで、君の側にいよう。私が君以外の女性を愛することなど決してないと分かってくれるまで。私がどんなに君のことを愛しているか、君に分かってもらうためのいい機会だ」
そしてエルイード様は自分の手でベッドのカーテンを閉める。カーテンの向こうでは侍女が慌てている気配があるが、エルイード様は一切構わず、ガウンを脱ぐと私の上にのしかかった。えーっと、その、今は朝なんですけど。
「嫌か?」
「……嫌では、ないです」
エルイード様はフッと笑った。どこまでも優しく、どこまでも頼り甲斐のある、私の夫の笑顔。
「それはよかった」
そしてエルイード様は私の唇にやや強めのキスを落とすと、私の身体をぎゅっと抱きしめたのだった。
◇◇◇
まぁ、一週間の休暇はさすがに無理で、しかし国王陛下と皇太子殿下が頑張って下さって、エルイード様と私は三日間の休暇をいただいた。その間、私とエルイード様は入念にお互いの愛を確かめ合ったわよ。エルイード様は決して、絶対、未来永劫愛人など作らないし、自分の妻は生涯私だけだと何度も誓って下さった。
そもそも、女性に囲まれるのが殊の外お嫌いなエルイード様は、社交の最初の挨拶が終わると、すぐに女性の入れないシガールームやカードルームなど男性社交のお部屋に逃げ込んでしまっていたそうで、ダンスもまったくしていなかったらしい。愛人候補が群がっているなどということはない。事実無根だと仰っていた。
そうしてお互いの愛情を確かめ合ったのだもの。私の心も安定して、休暇が終わった後にしばらく続いた忙しい時期もなんとか乗り越えることができたのだった。もちろん、忙しさが終わって夫婦揃って夜会に出られるようになれば、私とエルイード様はべったりくっついて離れず、愛人狙いのご婦人方なんか近寄せもしなかったわよ。