アイ情劣等生2



「リリカ……」

 私は隣にいたリリカの心の強さに耐えられなくなって、その場を逃げ出してしまった。

 いつの間に、あんなに強くなっていたんだろう。

 隣で見ていたはずなのに、全然気が付かなかった。

 いや……もしかしたら、心の底では気付いていたのかもしれない。ただ、気付かないフリをしていただけなのかも。そんなの、隣で見ている意味がないじゃんと、自然と苦笑が漏れた。

 一心不乱に走ってたどり着いたのは、どこかのビルのはざ

 ゴミ袋が沢山置かれていて誰も来ないような不衛生な場所で、わけも分からずに頭をいてしまう。

 痛い。

 この痛みには、心の痛みも入っているんだろう。

 だって、そうじゃなきゃこんなに苦しいはずがない。

「……リリカ」

 いとおしい彼女の、名前をつぶやく。

 ずっと、弱いままでいてくれれば良かったのに。

「リリカ…………

 私がいくらでも強くなって、実態のない幽霊からも守れるようになればいいと思っていたのに。

…………リリカ」

 どうして、魔法少女なんかになってしまったの。

 こんなに危ないことないのに。

 マスコットだって適当しか言わないし、次々に女の子たちが辞めていく……それどころか、ディジェネレーターにちていくような環境なのに。

「リリカ………………

 もちろんリリカがそんなことになるとは思わない。

 けど、誰かのそれを見ることで罪悪感を抱くかもしれない。悲しくなるかもしれない。

 誰かを救うってことは、救えない人も出てきてしまう。

 それにリリカが耐えられるとは思えない……。

………………リリカ」

 どうして、魔法少女になっていることに気がつかなかったんだろう。

 いつも近くで、リリカのことを見守っていたはずなのに。

「リリカ……………………

 どうして、誰かのために強くなれるんだろう。

 その誰かっていうのは、私よりリリカのことを強く思ってくれるの?

 何か見返りがあるの?

 ただその魔法少女としての力を、当てにしているだけじゃないの?

……………………リリカ」

 それなのにどうして、そんなやつらのために強く……なれるの……?

「……やっぱり、アンタのほうに適性があったんだ」

 人なんて来ないと思っていたのにさっきまで戦っていたディジェネレーターの怪人が現れた。

 余裕そうな顔はどこにいったのか。額には玉のような汗が浮かんでいて、息も絶え絶えだ。

 リリカが、くやったんだろう。

「分かっていたからこそ、アンタが大切そうにしているあの子のほうをこっち側に誘ってたんだけど……自分からちてくれて、正直安心した」

 余裕なんてなさそうな怪人はしかし、ニヤリと笑って口元をゆがめた。

 そのしよくしゆから暗い光が出てきて、私のほうに乗り移る。

 それによって、怪人は砂のように消滅した。

 私は抵抗する気力もなく、その光に飲み込まれてしまった。

 飲み込まれる瞬間、頭にはリリカのことがよぎった。

 私がいなくなったら、きっと心配するだろう。それに、授業だってついていけるか分からない。あとは……私がいない休み時間をく過ごせるかどうかだって不安だ。

 ふふ……。自分が思っている以上に、リリカのことを考えて行動していたみたいだ。

 我ながら気持ち悪い。

 でも、それくらいリリカのことを大切に思っているんだ。

 その思いをないがしろにされてしまったように思えて、悲しくなっても無理はないだろう。

 それに何より……これから魔法少女としてもっと期待されるだろうリリカのことが心配だ。

 でも、今はそれよりも別の感情がまさっている……。

 そう自覚すると、己の中の核が書き換えられるような苦しさにおちいった。

 思わず悲鳴をあげそうになってしまうのを、必死にこらえる。

 悲鳴なんてあげちゃいけない。

 そんな弱いことをしていい資格なんて、今の私にはない。

 ただただ唇をみ締めて、手のひらに爪を押し付けて、痛みを乗り越える。

 痛みは段々と強くなって、まるで私のことを試しているようだった。このくらいリリカと離れることで生じる心の痛みに比べたら、どうってことない。それに、リリカがこれから背負うことになる悲しみよりもずっと苦しくない。

 耐えなきゃいけない。

 やがて、永遠に続くかと思われた苦しみは終わった。

 核が書き換えられた私の足元には、さっきまでまとっていた魔法少女の服が破り捨てられたように置いてあった。

 代わりのように、漆黒のドレスを身にまとっている。ところどころにハート形のピンクの飾りがつけられており、やっぱり自分の核はリリカなんだってうれしくなってしまう。

 でも、これから私がするのはリリカが悲しむようなことだ。

「リリカ、待っててね♥」

 同じだけの悲しみを……そんなことしたくないのに!

 どうして私に、適性なんて!

 そんな理性のある声は、徐々に脳内から消えていった。