ルルカのまくあい



 リリカが怪人を相手に苦戦し、そこに私が助けに入った日の夜。

「リリカ、大丈夫かな……?」

 ディジェネレーターの怪人を相手に苦戦していたからか、顔に疲れがすごく浮かんでいた。家まで送り届けたから大丈夫だとは思うけど……心配で仕方ない。けど、あんまり気にするのもよくないだろう。

 これ以上気にしすぎると過保護になって、うつとうしいって思われるかもしれないし……今でも細かいところを気付かれてないからそんな風に思われてないだけで、過保護だという自覚はあるけど。

 でもでも、そのくらい気にかけたいくらいリリカのことが好きなんだからしょうがないよね!?

 ……なんて、誰に言うわけでもない言い訳をしてしまうくらいには、リリカのことを心配している。

 メッセージくらいは返ってきてほしいっていうのが本音だけど……きっといろんな感情を抱いているんだろう。

 あんまり刺激をするわけにもいかないから、催促のメッセージも送らないし、既読がついているかどうかも見ない。じっとこらえている。

 流石さすがにずっと堪えているわけにもいかないし、リリカの写真を見ると余計に落ち着かなくなるのは目に見えている。

 だから落ち着くために数学の問題を解いていたところで、スマホが鳴った。

 画面を見ると、マスコットからの通知のようだ。無視してもよかったけど、後で色々言われることのほうが嫌だったので仕方なくアプリを開く。

「一応聞きたいんだけどサ」

「なにを?」

 不機嫌そうな顔をしているマスコットに、質問を投げかけられる。

「なんであそこで戦ってるって分かったノ?」

「リリカの髪飾りに、盗聴器をくっつけたの」

「……いつ?」

「私がリリカの髪を結び直した時に、さりげなく」

「それ、髪の毛をほどくまで計算して……」

「なに?」

 マスコットは引いているようだ。さっきまで不機嫌そうだった顔が、まるでおびえてるみたいになっている。自らが怯えることなんて、多分ないだろうに変なの。

「仕方ないでしょ。魔法少女になったのもショックだけど、私がそれを知らなかったことがもっとショックだったんだから」

「仕方ないでしょでそんなことする……?」

 犯罪に手を染めてるんだ……というような顔をしてくるが、やっぱり魔法少女になる少女に対しての正常な倫理観は持ち合わせてないんだろう。「まぁ、今回はそのおかげで助かったからいいや」とだけ言って、そのことについてはそれ以上触れてこなかった。有り難いことだけど、そもそもリリカを危険なことに巻き込んだのはこのマスコットだ。許さない。許されることじゃない。

「……私のスマホの中にいなかったら、手を出していたところよ」

「なんでそんな怖いことしかしないノサ!? 魔力も高くて魔法少女として相応ふさわしいんだから、それらしく振る舞ってクレよ!」

「その言葉、そのまま返すわよ。魔法少女に仕えるマスコットなら、マスコットらしく振る舞ったらどう?」

「マスコットらしく振る舞ってるじゃないかネ。この姿なんてまさに、マスコットそのもの! 素晴らしいくらいだネ」

…………そうかもね」

 確かにその姿は、マスコット以外の何者でもない。

 ただそれは見た目の話であって、性格とか振る舞いのことじゃない。というかむしろ、性格は悪い。それを言っているにもかかわらず、分かっているはずなのに見た目の話にすり替える時点でやっぱり性格が悪い。

 これはもう最初から理解していることだけど……こんなマスコットを信頼して変身までしてしまったリリカの今後が心配になってくる。

 かわいいから、いろんなたぐいの変な人に狙われるだろう。そこでもちょっと期待されたり優しくされたりしたら、素直になんでも言うことを聞いてしまうかもしれない。

 だって魔法少女なんていう怪しい存在になってしまうくらいだし……。先になっていた私がいうのも変な話だけどね。

「それで、どうしてリリカを魔法少女にしたの?」

「この前話をした通り、誰も反応しなかったからだよ。それ以外に理由なんてないネ」

「最近呼ばれることが減ったのは、あの子に全部押し付けてたせいね? 扱いやすいとでも思ってるんでしょう」

「そ、そんなこトナイよ☆」

「図星ね。変な発音になってるから」

「う、うるさいナ!!

 私としては、リリカには普通に過ごしてほしい。ディジェネレーターの怪物や怪人と戦って、をしてほしくない。痛い思いをしてほしくない。

 だから、先に根回しをしておく。

「リリカの分まで頑張るから、あの子のことはいつか魔法少女から解放してあげて」

「それは前も言ったけど、本人次第で……」

「じゃあ、私がディジェネレーターを全部倒す。そうしたら、そもそも魔法少女がいらなくなるでしょ?」

 私の言葉に、マスコットはゴクリとつばを飲んだ。表情と口調からして、ハッタリで言ってるわけじゃないって分かったんだろう。

「ルルカがそう言うなら、それを信じてみるヨ☆ 魔法少女がいらない、ユメを奪われない世界がいいに越したことはないしネ☆」

 マスコットにしては随分と落ち着いた口調で、そう言った。うそではないと、こちらも信じたいところではある。

「でも、気をつけテ☆ 魔法少女としての適性が高ければ高いほど……」

「知ってる。ディジェネレーターとしても適性が高いから勧誘には気をつけて、でしょ?」

 マスコットは、静かにうなずいた。何度もその言葉自体を聞かされたし、ディジェネレーターにちた子の話も聞いたから嫌というほど頭に残っている。

 でも、私はそうはならない。リリカのことを、守りたいから。

 ……本当にそれで、いいんだろうか?

 リリカはきっと、魔法少女として頑張っていきたいんだろう。だからこそ、私の忠告を振り切ってでも魔法少女を続けたいと思っている、はずだ。

 それを邪魔することは、この前の先生がしたこととなにが違うんだろう。

 頑張りたいと思うことをふいにしてしまうのは、果たしてこの場合は正しいことなんだろうか。

 ……魔法少女は危険な課業だ。マスコットのいいようにされているんなら、その危険さはグッと高まる。それにリリカは、魔力も足りていないようだった。いくらステッキに強めの物理的な力があるとはいえ、それじゃあ怪人にはかなわない。これから先、ずっと苦戦を強いられるだろう。ますます危険だ。

 でも、それでもリリカは頑張りたいんだ。

 だったら、その苦境を応援してこそ真の親友なんじゃないだろうか?

 っていうか、私がリリカの足りない部分をカバーして、二人で頑張っていけばいいんじゃないかな? そのくらいの力はあるわけだし。

「なにを考えてるノ?」

「これからのリリカとの戦略」

「やめさせようとしてたノニ?」

「本人次第って、アンタが言ったんじゃない。そういうことよ」

「どういうことなんだカ……」

 頭の中で、危険な目に遭っているリリカを助けるシミュレーションをする。……どんな目に遭っても、リリカはかわいくて困っちゃうな。助けたい気持ちと、もう少しだけ危険な目に遭っていてほしい気持ちの間で揺れ動いちゃう。

 これじゃダメダメ!

 いざとなったら、早く助けないと……二人で頑張っていくんだから!