第四章



 ルルカに魔法少女なんじゃないかと疑われてしまった日から、しばらくったある日の放課後。

 わたしの読みたかった本が入っているということで、一人で図書館に来ていた。

 ルルカはというと、用事があるらしくて早く帰ってしまった。魔法少女じゃないかって疑われるのは怖いけど、ほとんどいつも一緒にいるから、ちょっと寂しい気持ちもある。

 でも……あれから何度も考えているけど、どうしてあんなことを聞いてきたんだろう? ルルカは魔法少女なんて、架空に近い存在を信じるような子じゃないのに。どちらかというと、もっと現実を見ているようなタイプだと思っていた。

 もしかして……ルルカがあのハピポンを作った本人なんだろうか? ルルカなら、きっとやろうと思えばそれくらい出来るだろう。そうだとしても、全然おかしくない。

 ……けど、なんだか違うような気がしてしまう。野生の勘っていうか……直感っていうか。

 でも、アレコレ考えても疑われてしまっているのは間違いないことだ。これからは、もっとをしないように気をつけよう。うん。

 そして、今は早く本を借りて帰ろう。

 今日は早く学校が終わる日だし、ちょっとくらい本を読んでも大丈夫だと思うし……。

 そう思ったところで、かばんに入れてあるスマホが鳴った。図書館ということで、一斉に周りから注目を浴びる。わたしは恥ずかしくなって、本も借りずに急いで図書館から出た。

 人がいない階段の近くまで早足で行って隠すようにスマホを開くと、ハピポンが怪物が出たことを知らせている。

「早く行こうヨ!」

「えっ?」

 珍しい言葉に、思わず驚いてしまう。いつもはここでやめておく?とか無理しないほうがいいよって、気を遣われるのに。やっぱり強くなっているからかなと思うと、自然と笑みが浮かんじゃう。

「……なーんで笑ってるのサ☆」

「あ、ごめん! でもなんか、うれしくなっちゃって……」

「嬉しい?」

「だってほら、リリカもちょっとは強くなったからすぐに行こうって言ってくれてるんでしょ? 嬉しくなるよ」

 ハピポンはこちらを一度見つめてから、顔をらして大きなため息をついた。

「な、なんでため息!?

「いや……そのやる気と釣り合うくらいの魔力がキミにあれば良かったのにと思ってサ☆」

「……そうだね」

 わたしもそう思う。そうだったら、どれだけ良かったか……。

「でも、今回はそれとは関係なく急がなきゃいけないんダ」

「え、そうなの! ……それはどうして?」

「……ちょっと、ボクの口からは言えないカナー」

「どういうこと……?」

「とにかく! 急ごう!」

 学校だっていうのにハピポンは浮き上がり、スマホの微妙な質量でわたしの背中を押した。何がなんだか分からなくて気になるけど、今は人を助けなきゃだよね……頑張らなくっちゃ!

「……あっ」

 早足で階段を駆け下りていたら、先生に見つかりそうになってしまった。急がなきゃいけないのに、なんてタイミングなんだろう……。怒られないくらいの速度で歩きながら、先生が去るのを待つ……。

「今ダ! 急ぐヨ!」

 ハピポンの小声に促され、そこから早足で学校を出る。

 出てからはステッキを使って、現場に急行する。

 ……なんだかちょっと、この時点でカッコいいかもしれない。現場に急行するなんて、お巡りさんくらいしか使わない気がするのに使っちゃったし……よく分かってないのに、うれしくなっちゃう。

 そうして辿たどり着くと、怪物が人を襲っていた。一番最初に遭遇したような、大きくて黒い怪物だ。人が大勢いるところを狙ったらしいが、そこまで被害は出ていないようだ。逃げてくださいと声を張り上げている人のおかげだろうか。わたしが来たからにはもう大丈夫ですよと心の中で声をかけながら、変身をする。

「リリカル☆マジカル!」

 ピンクの衣装を身にまとって、ステッキを手に構える。

「魔法少女リリカ! みんなのユメを奪うなんて、許さないんだから!」

 まだ名乗りには慣れない。いつか慣れて、もっと格好良く名乗ってみたい……!

 いつもと同じように、光を放って攻撃しようとする。しかし、今回の怪物は以前の相手よりも大きい。かなり根気強く攻撃し続けないと、倒すのは難しいだろう。でも力の調節を間違えてまた転んでしまったらどうしようと、不安になってしまう。

 ……ううん。魔法少女は、そんなことは恐れない!

 やれることは、やらないと!

 そう思ったわたしは、出来る限りの力を込めてステッキを振りかぶった。いつもよりも勢いがついてずっと重くなるステッキに、思わず手を離してしまいそうになる。そんなことにも魔法少女なら負けないという一心で、なんとかこらえる。

 そのままステッキを振り下ろして、光を放つ。

 けれど怪物は、素早い動きで攻撃をけた。あんな大きな体で、どうやって素早く動いてるんだろう……!?

「そんなぁ……!

 叫ぶと同時に、振りかぶりすぎた反動で地面に倒れ込む。

「いたたたた……」

 魔法少女の力なのか、骨が折れたりはしてないと思うけど……それでもものすごく痛い。

 うう……避けられるなんて思ってないよぉ……。

 この前のが、くいきすぎたのかな? どうしよう……。

 でも、諦めるわけにはいかない。せっかく強くなってきてるんだ。ここで踏ん張らないと。

 もっと強くなって、魔法少女の中でもさらに特別になるために!

 そう思って自分を鼓舞しながら、なんとか立ち上がる。

「あ、そんな!」

 怪物が、意識を失って倒れ込んでいる人に攻撃をしようとしている! 急いでその人の前に出て、なんとか攻撃を防ぐ。すると怪物はまるでムキになったように赤くなると、何度も何度も攻撃を繰り返してきた。

 こ、このままだとこの人たちに危害が及んじゃう……!

 なんとかして攻撃する方向を変えられないかどうかって思うけど、手はステッキで攻撃を防ぐことでいっぱいだ。このままだと、押し負けてしまう。

 なんとかならないのかな……!?

 ……ここは力で押し通すしかない!

 怪物の攻撃にも負けないくらいステッキに力を込めて振りかぶる! すると怪物がひるんだので、その隙にもう一度出来る限りの力でステッキを振りかぶる。今度はけられないように、ギリギリまで近づいてからステッキを振りかぶった。

 怖くない! 魔法少女は怖がっちゃダメだ!

 ギリギリまで近づいて怖くなかったかと言えばうそになるけれど、人を守るためなんだって思えばなんとか出来た。光は怪物に当たって、怪物を砂のようにする。

 怪物はいつもみたいに、最初から何もいなかったように消えてしまった。

 訪れる静寂の世界。今日も無事に、怪物を倒すことが出来て良かった……!

「リリカ」

 変身を解除してほっと息をついていたら、名前を呼ばれた。

 ……あれ? 普通の人なら今は意識を失っているはずなのに、どうして?

 不思議に思いながらも、名前を呼ばれた方向に振り返る。

 そこに立っていたのは……。


   ○


「る、ルルカ……! もしかして襲われて……だ、大丈夫だった?」

 そこに立っていたのは、見知った顔の人物だった。

「私は大丈夫。でもリリカ、もうやめて」

「る、ルルカ……?」

 助けた人の中に、ルルカがいたみたいだ。用事があるって言ってたから、もしかしたら帰る途中で巻き込まれたのかもしれない。災難だったなぁ……でももしかしたら、同じようにわたしと同じ学校の人が巻き込まれている可能性もあるよね? 気をつけてほしいけど、気をつけるのも難しいから結局何も言えそうにないや……。

 でも、助けたのにどうしてルルカは怒っているように見えるんだろう?

 わたし、頑張ったのに……。

「なんでこんな、危ないことをしてるの」

「危ないこと……?」

「そうでしょ? 見てたよ、リリカが戦っている姿。戦うってだけでも大変なのに、人を守りながらだなんて」

「そ、そんなことないよ! 人を守れるって思ったら、やりがあるっていうか……」

 建前なのか本心なのか分からなくなってきたことを言っても、ルルカはまだ気が立っているようだ。いつもは怒らないから、余計に怖く感じちゃうよ……。

「そんなやり甲斐、誰に教わったの? あのマスコット? だとしたら、私が一言言ってやるから」

「な、なんて言うの……?」

「そうね……一通り文句を言ってから、リリカをやめさせるように言って聞かせようかな」

「や、やめて……!」

 思わず、ルルカに対してそんなことを言っていた。ルルカにあまり否定的なことを言ったことはなかったから、わたしもだけど、ルルカも驚いているようだ。それから徐々に、ルルカは本当に心配そうな顔をする。

「どうして? あのマスコットに脅されでもした? 大丈夫。私がく話してみせるから」

「そ、そうじゃないの。わたし、自分でなりたいって言ったの」

 ルルカがまた、驚いた表情になる。それからすごくつらそうな顔にもなっていく……。

 ルルカにこんな表情をさせていると思ったら心が痛むけど、このままやめさせられるのはどうしても嫌だった。

 だからわたしは、きちんと話す。

「元々間に合わせみたいな変身だったし、魔力もないって言われてるけど……それでもこれまでに何体か、さっきみたいな怪物を倒してきたんだよ。ハピポンにも強くなった、って……」

 ルルカはまるでふらふらと、倒れ込みそうになった。

 わたしは急いで駆け寄って、ルルカの手を握る。

 その手は、どういう感情で震えているんだろう。やっぱり心配なのかな……?

「……リリカはきっと、あのマスコットにだまされてるんだよ」

「な、なんでそんなこと……!?

師と一緒だよ。巧みな話術で、そんな風に乗せられちゃってるんだって」

「そ、そんなことないよ!」

 同意を求めて、ハピポンのほうを向いた。

 するとハピポンは顔面そうはくになっていた。どうして……?

 よく分からないけど、同意は期待出来ないみたいだ。

「……これからもっと強い怪物みたいな存在が出てきたら、どうするの!」

「わ、わたしももっと強くなる!」

 わたしがそう答えた途端、世界に声や音が戻ってきた。だからかルルカは、開きかけた口を再び閉じてしまった。これ以上長くここで話すわけにはいかないって思ったんだろう。それか、用事を思い出したのかも。

「……とにかく、お願いだからよく考えてみて」

 ルルカはそう言ってから、無理やりな笑顔になった。

「今日は……今は、一緒に帰ろう?」

「う、うん」

 急いでハピポンのインストールされているスマホをかばんに入れて、ルルカと一緒に帰る。

 ルルカのほうから学校であったことを話そうとしてくれたけど、どうしてもぎこちない感じになってしまった。

 うう、なんでこんなことになっちゃうんだろう……。

 わたしは、特別になっちゃいけないのかな?

 そんなことないよね?

 それなのに、どうして……。


   ○


 ルルカに、魔法少女であることを知られてしまった。それに、そんなの危ないからって止められもした……。

 でも、わたしはそれを聞き入れなかった。

 だって、せっかくなることが出来た『特別』なんだもん。手放したくない。

 それに一度やめてしまったら、もう二度となれないだろう。

 そうなったら、また地道に頑張って特別を目指さなきゃいけない。でもそんな風に頑張っても、もう特別になれないような気がする。だって、魔法少女以上の特別なんて存在していないと思う。

 だから、魔法少女であり続けたい。

 そうわたしが言ってもルルカは不安そうな顔をしていたし、よく考えてって言われてしまったけど……わたしはよく考えているんだけどな。

 ルルカからしたら心配なんだろうけど、だって受け入れてのことだ。痛いけど、それも頑張ったあかしだっていうし。

 こうやって反発を買うのだって、きっと特別だからだ。

 ユメを追いかける人が反対されるような話なんて、いくらでもあるし……きっとそういうことなんだろう。

 そう考えるとやっぱり魔法少女って特別だし、やめたくない。何よりルルカが巻き込まれたんだ。また巻き込まれないとは限らないし、クラスメイトや知っている人も襲われるかもしれない。向こうは覚えてないかもしれないけど、それでも助けられるんなら……。

 あれ? どうしてルルカは、わたしが助けたことを覚えていられたんだろう……?

 なんだか嫌な予感がするけど、気のせいだよ、ね……?


   ○


 ルルカに魔法少女であることを知られて、止められた日の次の日。

 学校では特にそれらしいことを言われることもなく、普通にルルカは接してくれた。

 いつ魔法少女についてまた説得されるか分からなくて、一日中ビクビクしちゃって疲れちゃった……。

 そんな中で帰ろうとしていたところ、スマホから通知音が鳴った。

 校舎から出て道路に入っていたので、一旦立ち止まってスマホを確認する。

 意外にも、ハピポンからの通知だった。ルルカに止められたから、しばらくはもう何も反応はないと思っていたのに。

「あの、怪物が現れてるんだケド……良ければ、止めに行ってくれナイ?」

 やっぱり、一応は止められたのが響いているせいなんだろうか。

 ハピポンはやや控えめに、わたしに怪物が現れたことを知らせてくれた。

 この前ルルカから目をらせないまま顔面そうはくだったのは、おびえていたからなのかな?

 やっぱり、ルルカがこのハピポンを作ったから……?

 だとしたら、ルルカがまるで知らない存在みたいに話していたこの前のは、一体なんなんだろう。

 わけが分からなくて頭は混乱するけど、特別であることを続けたいのは変わらない。

「あんなことがあったのに、誘っていいの?」

 でもマスコット的には大丈夫なのか気になったので、そう聞いてみる。

 ハピポンは遠慮がちな微笑をやめて、ニヤリと笑った。

「そんなことでめげるリリカじゃないデショ?」

 随分と挑発的なセリフだったが、わたしを奮い立たせるのには充分だった。

 魔法少女たちも、最初は危ないって止められるものだ。それでやめてたら、特別にはなれない!

「ここでめげてる場合じゃないもんね!」

「それに扱いやす……ゴニョゴニョ」

 ハピポンは笑顔でなにかを言おうとしていたけど、よく聞き取れなかった。

「ん? それに?」

「ううん! なんでもナイヨ☆ それで、行くのかナ?」

「もちろん、行くよ!」

「そうこなくっちゃネ☆」

 わたしはハピポンに促されるまま、怪物がいるという地点に急いで向かった。

「あれ……?」

 向かった先。

「ただの人……?」

 そこには、いつものような怪物はいなかった。その代わりにというように、怪しげな女の人が立っている。パーカーをぶかかぶっていることと、短すぎるくらいのショートパンツがよく目立っている。ちょっと直視しづらい……。

 とはいえ怪しげとはいっても人間の姿をしているし、これから怪物が生まれてくるところなんだろうか?

 それとも、場所を間違えた?

 それにしては、周りの建物がかなり荒らされているんだけど……この女の人が、既に倒したのかな?

「気をつけテ!」

 けれどハピポンは、そんなことを言う。

「ごめん。まさか怪人がいるなんて……!」

「怪人……?」

 ということは、あの人はディジェネレーターの人……?

 そんな風には見えないと思ってもう一度女の人を見ようとした。でも、さっきまで女の人がいた場所には誰もいなかった。

「油断すると、痛い目を見るよ♪」

「うっ……!

 いつの間にか女の人はゼロ距離まで近づいてきていて、おなかを蹴られてしまった。

 ヒールの先が鋭くて、ものすごく痛い……!!

ひきようダゾ!」

 ハピポンが声を荒らげる。けれど女の人は、バカにするように鼻で笑った。

「戦いに卑怯もなにもないでしょ。バカなの?」

 女の人は、かぶっていたフードをあげた。れいな顔があらわになる。

 それと同時に、無数のしよくしゆが彼女の体を中心に出現した。

 まさしく怪物、いや、ハピポンの言葉を使うなら怪人……!

「でもまぁ……変身するくらいは待ってあげる」

 いかにも余裕って感じで、触手をまるで髪の毛のようにいじりはじめてしまった。

 思わずあつにとられてしまうけど……怪人であれなんであれ、倒さなきゃいけないことには変わりないよね!

「余裕ぶられるのはしやくだけど……変身しようネ!」

「う、うん!」

 ハピポンに言われるまま、変身をする。

「リリカル☆マジカル!」

 足が震えている気がするけど、きっと気のせいだ。

「魔法少女リリカ! みんなのユメを奪うなんて、許さないんだから……!」

 いつもの名乗りもなんだか弱々しくなってしまった気がするけど、それも気のせいだ。

 魔法少女は、こんなことじゃくじけない。

 そうでなくっちゃ、ルルカに反抗して魔法少女としてあり続けることすら難しいだろう。

 わたしはステッキを振りかぶる。そして、先端から光を放った。

 怪人は、触手で光を受け止めた。一瞬で光は砕け散る。

「これだけ?」

「……まだまだ!」

 ステッキを出来るだけたくさん振って、光をいっぱい放つ。

 けれどそれは一つ一つ、最初の光と同じようにしよくしゆによって砕かれる。

「ど、どうしよう……!」

 全然わたしの攻撃は効きそうにないし、ハピポンはもはや笑いながらこれは最悪すぎるかもと言っている。

 怪人は変わらず、ニヤニヤと余裕そうに笑いながら攻撃をけ続けている。

 こんな状況で、どうすればいいんだろう。

 ……いや、どうするかなんて考えちゃダメだ。どうにかすることだけを、考えなきゃならない。わたしは今、魔法少女なんだから。きっと、どうにかするすべがあるはずだ。

「そろそろ飽きたから、こっちから攻撃させてもらうね」

 怪人の女の人は、ため息を吐き出してそんなことを言った。

 そして、触手が白く光りだす。

 そんな……! 同じように、光を放って攻撃してくるの……!?

 どうやって避ければいいのか分からずに、その場でワタワタしてしまう。

 ハピポンが逃げてって言ってるような気がするけど、逃げたらまた周りに被害が出てしまう……!

「リリカル☆マジカル!」

 その時、そんな声が辺りに響いた。それと同時に、光が辺り一面を埋め尽くす。わたしは目を開けていられなくて、思わず目を閉じてしまった。

 次の瞬間、大きな音が聞こえる。だから慌てて目を開けると、ディジェネレーターの放った光を、別の光が受け止めていた。その光は、わたしが変身する時のものとよく似ている。違うところといえば、ピンクではなくオレンジってことだろうか。

 ……オレンジということに、何かが引っ掛かる。

「魔法少女ルルカ! ユメを光に! 愛を届けに!」

 名乗りの声は、聞いたことがある声だった。それどころか、いつも聞いている。

 わたしは思わず、その場に力なく座り込んでしまった。

 現れた魔法少女は、なんとルルカだった!

 どうして、ルルカが……?

 ルルカは素早くディジェネレーターの怪人に近寄ると、ステッキで殴りかかった。怪人は急いで避けたように見えたけど、ステッキの先から光が飛び散り、それが当たった。

 あんな戦い方もすることが出来るんだと、驚いてしまう。

 でも、ルルカがやっているんだと思うとあまり違和感はなかった。ルルカなら、戦いだって完璧にこなせるに決まってる。

「オレンジの魔法少女が来るなんて、聞いてないんだけど!?

 怪人は、思わずといったように舌打ちをした。

 そしてそのまま、考えるような素振りをしたかと思うと……姿を消していなくなってしまった。

 あっけない結末だ。ただでさえ体には力が入らないのに、そのことにも安心して体から力が抜けてしまった。しばらくの間は、立ち上がれないかもしれない。

「ルルカが、魔法少女……?」

 何よりも、その事実がわたしを動けなくしていた。

 ルルカはこちらに振り返ると、どこか悲しそうな顔で笑った。そのまま変身を解除して、わたしに近寄ってくる。

「リリカに関わってほしくないから言ってなかったけど……実はそうなんだ」

 ただでさえ完璧なルルカが、魔法少女として戦っていたの?

 そんな、そんなのって。

 わたしは、目の前が真っ暗になるような感覚がした。

「リリカ、すっごく顔が疲れてるよ。うーん、苦戦したんだからしょうがないか……。私が家まで送るから、一緒に帰ろうね」

「うん……」

 それから家に帰ったけど、その道中のことは何一つとして覚えていない。

 気がついたら部屋のベッドに横たわっていた。

 おかあさんからの晩御飯よという言葉で、目が覚めたくらいだ。

 ルルカと交わした言葉も覚えてないから、ずっとぼうっとしていたんだろう。

 後で謝っておかないと……。

 そう思って晩御飯を食べてからスマホを手にとっても、メッセージを送るのが躊躇ためらわれた。怖いっていうか、嫌っていうか……。

 思い出すのは魔法少女としてのルルカの姿だ。

 それはひどく美しく、そしてひどくわたしの心を傷つける。

「わたしよりずっと、さまになってた……」

 変身する時にディジェネレーターの攻撃を受け止めていた強い光は、きっと魔法だろう。あんなに強そうな魔法を使えるなんて……魔法少女としても、わたしはかなわない。

 もちろん、ルルカに敵うだなんて思ってない。

 でも、魔法少女はわたしの特権だと思っていたんだ。それが違ったなんて。

「わたしにはやっぱり、なんにも出来っこないのかな」

 魔法少女としても、ハピポンに止められるくらい才能がないんだ。

 リリカなんて、リリカなんて……!


   ○


 今日は、学校がお休みの日だ。

 朝ごはんを食べてすぐの早い今の段階から課題をやったほうがいいのは分かるけど……なんにもする気力が湧いてこない。

 よくないって分かっているけど、もう一度ベッドに入って寝転がっていた。

 スマホから何回か音がしたのは、きっとルルカからの心配するメッセージを知らせるものだろう。

 返さなきゃいけないって分かってる。

 分かってるけど、勉強机に置いたまま放置してしまっている。

 申し訳ない気持ちでいっぱいなのは事実だけど……それだけじゃない感情も、自分の中にあるのが分かる。

 魔法少女は、わたしだけの特権だと思っていた。

 けど、どうやら違ったらしい。

 しかも他にもいる魔法少女は、なんとルルカだった。

 ……どこにも勝てる要素はない。

 あの様子だと、魔力だってたくさんあるんだろう。

 どうしてルルカには、あんなにいろんな才能があるんだろう。努力しても届かないんだから、きっと最初から備わっている才能こそが大事なんだろう。

 わたしには何もない。

 努力しているはずなのに、もっと頑張れと言われてしまう。

 それに対して、自分で反論出来る力も持っていない。

 なんて無力なんだろう。

 ……こんなことを考えてしまう自分にも、モヤモヤしてしまう。

 人を助けるためになったっていう、建前のほうが大事なのに。

 特別になることにばかり気を取られてしまって、魔法少女としてこれからやっていく自信がない。

 そんなことだから、特別になれないのかもしれない。

 そう思うと自分の全部を否定するような気がして、悔しくて涙が出てしまう。


「特別になりたいと思うのって悪いことなのかな……」


 なんにもない自分を変えたいって思うのは、変なことなのかな。自分になにか欲しいって思うのは、何か間違っていることなんだろうか。

 ……それとも、不純な動機で魔法少女になったのがよくなかったのかな。

 ちょっと怪物を倒せたからって調子に乗って。

 出来もしないのに、体育のマットなんて運ぼうとしたし。

 結局運べなくて、ルルカの手を借りてしまったし……。

 この前も怪人の女の人に苦戦して、ルルカに助けてもらった。

 それまでにも、いっぱいルルカの手を借りてきた。

 わたしは結局、ルルカがいないと何も出来ないんだ。

 それはルルカの特別さを、これでもかというくらいに教えてくれている。

 ルルカのことは好きだけど、ルルカがいないとまるで何も出来ない自分のことは嫌いでしかたがない。

 わたしは、いつまでも特別になれないのかな。