羊羹ようかんとは何か。練り羊羹、水羊羹、蒸羊羹。寒天の量や材料の違いなど、一口に羊羹といっても色々存在する。柚子羊羹や抹茶羊羹、同じ羊羹の分類ではあるが色々と異なる芋羊羹などの変わり種もあるが……やはり羊羹といえば黒色の小豆餡の羊羹だろう。

伝統的な和菓子であるだけに「何処の羊羹が一番おいしいか?」という問いには様々な答えが出るだろう。しかしながら「手土産に最適な羊羹は何処のものか?」という問いであれば、比較的穏やかに幾つかの答えが返ってくることだろう。

そして羊羹に限らず今の時代、百貨店などではお土産に最適なお菓子類を売っていることも多い。

そう、デパートだ。今の時代、ショッピングモールに加え其処に行けばある程度何でも手に入るデパートが復活し始めていた。それはある意味でモンスター災害への恐怖もあり一度で買い物を済ませたいという顧客需要に応えたものであるのだろうが、その辺の事情はさておいて。

旧秋葉原駅、現在は秋葉原バスターミナルとなっている場所の近くにも、一つのデパートがあった。

秋葉原デパート。デパートというには少し小さい地下一階、地上七階の建物だ。

このデパートの名前を聞くと懐かしい顔をする人間もいるというが……その辺りはさておいて地下食品街には、様々なものが売っている。

パン、野菜に肉、魚、総菜……そしてケーキやマカロン、クッキーなどの洋菓子類に煎餅などの和菓子類だ。お菓子類はどれもお土産に持っていくには良さげなものばかりで、イナリはその中を物珍しげな表情で歩いていく。

「おお、色々あるのう……ほうほう、はいからなものばかり売っておる」

綺麗なサラダにコロッケ、ローストビーフ……どれもこれも、ご家庭で作るには少しばかり面倒なものが多い。それでいて、ちょっとした高級感のあるものばかりだ。この辺りはコンビニやスーパーとは違うデパートならではと言えるが、そんな中を歩きながらイナリは「おっ」と声をあげる。

「此処から先が菓子を扱っておるのじゃな? どれどれ」

お菓子も和菓子コーナーと洋菓子コーナーで区分が分かれているが、別に壁で区切られているわけでもないので合わせてお菓子コーナーで誰もが認識している。

実際、こういった場所では様々な有名メーカーが軒を連ねてまさに「街」のようになっているため、目的のものを探す以外では特に気にしなくても大丈夫だ。

「ふむふむ。ちょこれいとか。こういうのは若者は好きじゃろうが……」

「美味しいですよ! 季節限定のお品などもございます」

「おお、そうなのかえ」

チョコレート。子どもは皆チョコレートが大好きだとイナリは思っている。人による。さておいて。

今イナリが選んでいるのは、使用人被服工房とフォックスフォンに持っていく手土産だ。

出来れば持っていくものに差などつけたくはないから、両方に喜ばれるものを持っていく必要がある。チョコレートは無難に思えるが、問題はイナリにある。

(ううむ……ちょこれいとのことは分からん)

たぶん美味しいのだろうと思うが、正直よく分からない。大人が食べても美味しいものなのだろうか? イナリはそういうのにあまり詳しくはない。

ひとまず歩いていくと、今度はバームクーヘンが目に入る。

「ふむ……まるで木の年輪か何かのようじゃ」

「実際、木のケーキ……という意味なんですよ」

「ほう! なるほど納得じゃ」

面白いが、これも一度保留にして次へ。キャンディにグミ、そのまま和菓子コーナーに進み煎餅屋の前へ。

(煎餅も良いが……音が結構するからのう。仕事場での茶請けにはどうかのう)

その辺りは職場の雰囲気にもよるが、ひとまずそのまま次へ。そこは、羊羹を売っている店だ。名前は……羊羹の最上屋。何やら歴史がありそうな雰囲気だ。

「なるほど、羊羹か。良いかもしれんのう」

色々と羊羹がショーケースに並べられているが、イナリが目を止めたのは誰もが「羊羹だ」と分かる黒い羊羹だ。

実に美しい色をしている……イナリの記憶にある羊羹よりも更に綺麗で洗練されていて、如何にも「美味しい」と自己主張しているような羊羹だ。

「よろしかったら試食がございますので、いかがですか?」

「試食? うむ、貰おうかのう」

店員からつまようじに刺さった、羊羹を小さく切ったものを受け取るとイナリは口に含む。

そうすると、小豆の甘みと程よい食感が口の中に広がっていく。これが実に……美味いのだ。小豆をたっぷり使っていることが分かる食感は、しかし口の中に残留感を残さない滑らかさだ。あんの出来が良いのだろうか、それとも製法によるものだろうか?

とにかく美味しい羊羹に、イナリの表情がパッと明るくなる。これならば何処に持っていっても失礼にならない。そう感じたのだ。

「これを二本頂けるかのう? 贈り物なので、二つを別々の袋に入れてもらえると嬉しいんじゃが」

「はい、承りました!」

「支払いは……覚醒者かあどでお願いするのじゃ」

「ではこちらにタッチをお願いします」

そうして手に入れたのは、美味しい羊羹。きっと喜んでもらえるだろうと、イナリはそう思い微笑むのだった。