エピローグ

ここ数日、テレビでは相当な頻度で同じニュースが流れていた。

大規模攻略隊全滅事故……そういう風に名付けられたものである。

─このように、攻略隊のメンバーは非常にバランスよく整えられており、編成上の問題はほぼ無かったと考えられるんですね─

─けれど、遺品すらほとんど見つからなかったと聞きますよ? それを考えると越後商会に責任を求める被害者の声を無視することは……─

結局のところ、クラン「越後商会」の大規模攻略隊、そしてクランマスターの越後八重香の件の真実は伏せられ「イレギュラーなモンスターの発生による全滅」という風に発表された。幸いにも報酬箱から「アメイヴァロードの核」が出てきたことから、その説明には相当な真実味があった。そしてそれは同時に狐神イナリという覚醒者の存在をより強く広めることにもなっていた。

悲劇を終わらせた、新進気鋭の新しいアイドル覚醒者。まあ、そんな感じである。

─御覧ください! 今街中では狐系と呼ばれるグッズが大流行です! フォックスフォンから発売されている狐耳をつけている人もいます。ちょっとお話を聞いてみましょう! もしもし、覚醒者の狐神イナリさんについてご存じですか?─

─知ってまーす!─

─可愛くて強いって凄いですよね! 私もイナリちゃんみたいに覚醒したいです!─

陰陽が正反対のものが共存しバランスをとるように、明るいニュースと暗いニュースも同時に存在すればその暗さは人々の中に大きな影を落とさなくなる。あるいは、誰も暗いニュースを覚えていたくないのかもしれない。あるいは悲しみから目を背ける為には希望が必要とか……まあ、理屈はいくらでもつけられる。ともかく、このままでいけば一カ月後には全てが日常に戻っていくだろう……というのが覚醒者協会の予測であるらしかった。

何はともあれ、あとは覚醒者協会日本本部が上手く情報操作をしてくれる。

邪悪な神が云々というのはあまりにも刺激が強すぎ、覚醒者協会の内部でも判断ができないというのが主な理由であった。

それでいいのかどうかはイナリには判断できない。できないが……まあ、イナリがどうこう言うことでもない。イナリには、人の世の複雑さは上手く理解できていないからだ。

だから、イナリが今何をしているかというと……ふりかけをたっぷりとかけたご飯を前に、キラキラと目を輝かせていた。

黄色のたまご味と、黒の海苔のコラボレーション。その下に見える白のご飯の輝き。

まるで「そうあるべし」と定められたかのような美しさの調和。

のりたまご味ふりかけの、基本にして究極たるその完成度。

素晴らしい、とイナリは思う。まさにこれは、人の英知の結晶だ。

この小さく黄色い粒に、細かい海苔に。歴史が詰まっている。

口の中に入れればザクッという食感と、それを受け止める米の織り成す旨味。

米がふりかけを受け止め、包み込んで。咀嚼そしゃくの楽しみを増やしてくれているのだ。

「ああ、美味い……ふりかけとは何故こんなに美味いんじゃろうのう……」

「狐神さんの稼ぎなら、もっとおいしいの食べられるんですが……値段の書いてないお店で毎日食材全部食べつくしても使いきれるか分かりませんよ?」

報告ついでに夕食にお呼ばれしてやってきたら、ふりかけご飯を出された安野がもぐもぐ食べながらそう愚痴る。

「そう言われてものう。ご飯にふりかけを思う存分かけるというのは、かなり贅沢だと思うんじゃが」

「金銭感覚しっかりしてて安心だあ……」

正直、安野にもちょっと分かるのでそれ以上は何も言えない。あんまり高級なものを食べても、味の違いが分からないからだ。しかしそれを認めてしまっては負けな気がして安野は考えるのをやめて。ふとテレビに視線を向ければ、なんだか油揚げが今人気とかやっていて「凄い全力でのっかっていくなあ……」と呟いてしまう。

「狐神さんは油揚げとか、お好きなんですか?」

「油揚げのう……嫌いではないが」

「ないが?」

「ほれ、油揚げにご飯を詰めたものを……いなり寿司とかって、呼ぶじゃろ?」

「呼びますね」

「自分と同じ名前のついたものを食べるってなんかこう……のう?」

「はあ」

その感覚よく分かんないです、とは安野は言わない。ふりかけご飯を口に入れて飲み込めば、余計な言葉もごっくんと喉の奥に流れていく。

「……ふりかけご飯、めっちゃ美味しいですよね」

「うむ。わし、三食これでいい……」

「私はそれはちょっと……」