番外編
猪田知代は、かつてないほど、敗北し続けていた。
このままではいけないと、強い焦燥に駆られる。
なんとかして、そう、どうにか知識を掻き集めて、そろそろ一矢を報いたい。
それは、ありていに言えば夜の営みの話である――。
「人生に必要なもの、これすなわち予習復習練習! この三つさえ誠実にこなせば、だいたいのことはうまくできるし、失敗も少ないの。わかる?」
ある日鹿嶋のマンションで、知代は懇々と諭す。
「それはわかるけど、どうしたいきなり?」
心底わからないらしく、鹿嶋は首を傾げている。
「胸に手を当て、思い出してみなさい。これまで私たちがしてきた……夜の、あれやこれやのことを!」
「あれやこれって、セックスのこと?」
「みなまで言うな! でもそうです!」
知代は潔く認める。そう、知代が負け続けているのは、歯に衣着せぬ言い方をするとセックスなのだ。
「紆余曲折ありつつも、利央さんとおつきあいを初めて早八ヵ月。私は二週間に一回くらいのペースであなたのマンションにお邪魔し、そのたび致してるわけですが」
ぐぐっと知代は拳を握りしめた。
「いつもいつもあなたの主導で、私は毎回、気持ちいいだけ!」
「い、いいことだと思うけど……?」
「よくない。私だって、利央さんを気持ちよくしたい」
きっぱり言うと、鹿嶋は口の中でもごもごと「いや、俺も充分気持ちいいんだけど……」と呟いた。
「それで、さっきの話に戻るの」
「予習復習練習?」
「そう。予習は、主にネットで知識を集めたよ。復習は、利央さんとのアレコレを思い出すことで反省しました。思い出したらすごく恥ずかしいけど……頑張って思い出しました」
思わず顔が熱くなってしまう。鹿嶋が自分の口を手で塞いだ。
「ちょっ……俺とのことをひとりで思い出して、恥ずかしがってた? なんで俺の前でやらないんだよ、それ」
「な、なんで利央さんの前で、利央さんとのえっちの内容を思い出さないといけないの!」
そんなの羞恥プレイどころではない。知代が必死に訴えると、次は鹿嶋が額を押さえた。
「なんなら、今から実地込みで全部思い出させてあげたいけど……?」
「け、結構です。復習はもうしたからいいの! あと最後の練習。そう、私に足りないのは練習だったのよ!」
びし、と指をさして指摘すると、鹿嶋は考え込むように俯いた。
「知代に足りないのは練習。練習というのはセックスの練習。つまり君は、セックスがうまくなるために、俺以外の男で練習しようと……?」
そう呟いた途端、鹿嶋は嫉妬の炎が燃え上がるように、
「つまりね、しばらくの間、私の練習につきあってほしいの。利央さん」
知代が真剣にお願いすると、利央の動きがピタリと止まった。
「俺が、練習に?」
「そうだよ。他にいないじゃない」
こんなこと頼めるのは、恋人である鹿嶋以外にいない。しばらくは
すると、鹿嶋は心底ホッとしたように胸を撫で下ろした。
「よかった。世界中の男を皆殺しにしないといけないかなって思った……」
「何をどうやったらそんな突飛な発想になるのよ……」
また妙なネガティブ思考に走ったのだろうか。まったく――会社の人は彼のこんな一面なんて知らないんだろうなあと思いつつ、知代はため息をついた。
寝室のベッドに鹿嶋を寝かせて、知代はベッドの奥から乗り込むと、ずりずりと鹿嶋の身体に近づいた。そして彼の太ももの上に座ると、彼のスウェットズボンに両手をかける。
「いきますよ!」
「そのノリ、できればやめてほしい……。
滅多に文句を言わない鹿嶋がクレームをつける。体育会系のノリはセックスに不必要……と、知代は頭の中でメモをした。
「で、では、失礼します……」
なんと言えばいいかわからず、そんな言葉を口にして、知代は今度こそスウェットズボンをゆっくりずらした。
下着と一緒に下げたから、彼の性器が飛び出てくる。
「うわっ!」
びっくりしたあと、知代はおそるおそる、ソレに触れてみた。
「うわ……うわぁ……うわ」
「その、さ。引いた声も、やめてほしい。割と傷つく」
「あっ、ごめんなさい……。えっと、じゃあ、触るね?」
一言断ってから、さわさわと触れてみる。思っていたよりもサラサラした手触りだ。そして先端はつるっとしていて、握ってみると
(最初は……そう、舐めるんだよね)
ネットで集めた知識をもとに、知代はおずおずと愛撫を始める。できるだけ口を大きく開けて、ぱくりと食べるように先端を口に含んだ。
「…………っ」
びく、と鹿嶋の身体が反応する。気持ちいいのだろうか? まだ、確証は持てない。
知代は竿の部分を両手で持ち、先端を舌先でチロチロと舐め始める。
「はっ、ア……っ、ち、知代……っ」
鹿嶋がたまらなくなったように声を上げた。
「ちょっ……これ、きつい」
「きつい? 痛いってこと?」
「違う。我慢するのが……。思ってたより、きつい」
我慢とは、なんの我慢だろう。もしかして、知代の愛撫が不快なのだろうか。
「ご、ごめんね。こうしたらいいのかな」
情けない話だが二十六にもなってフェラのひとつも知らないとか、大人の女としてどうかと思ってしまう。だが、鹿嶋に出会うまで色恋沙汰とはまったく縁がなかったのだ。最初が拙いのは、どうにか許してほしい。
知代は自分で調べた知識を総動員させて、肉杭を柔らかく握り、ゆっくりと上下に擦る。デリケートな部分なので、乱暴に扱ってはいけない。
優しく、優しく。いたわるように。
知代は赤い舌を伸ばし、性器の先端にあるくぼみを優しく舐めた。
「はっ、ア……っ! くっ」
鹿嶋が辛そうな顔をして、懸命に歯を食いしばる。
(どうしよう。想像してたのと違う)
もっと気持ちよくなってくれるものだと思っていた。それなのにどうしてうまくいかないのだろう。
知代は杭を擦りながらちゅくちゅくと先端を吸った。
「ふっ、あぁっ! あ、知代……っ!」
鹿嶋の声が大きくなっていく。もはや、この行為が間違っているのか正しいのか、それすらもわからない。
だから知代は、切なく瞳を揺らし、鹿嶋に訴えた。
「利央さん……痛い?」
「え?」
「ずっと、辛そうな顔をしているから、気持ちよくないのかなって」
鹿嶋はふはっと困ったように笑った。
「そんなことない。ずっと、気持ちいいよ」
「そうなの?」
「うん。でも……やっぱり俺は、一方的に何かされるより、知代に触れたい」
そう言って、鹿嶋はゆっくりと手を伸ばした。
「一緒に気持ちよくなろう?」
「……一緒に?」
手を引かれながら、彼の言葉を繰り返す。
鹿嶋は身を起こして座ると、知代の腰を抱きしめた。
「こうやって、座りながら挿れるんだ。セックスにも色々な体勢があるんだよ」
「あ、それは、どこかで聞いた気がする」
フェラについて調べていた時に、性交に種類があるという知識を得た。鹿嶋はこくりと頷き、知代の頬に触れる。
「俺はむしろ、こっちのほうをしてみたい。ダメかな?」
「そ、そんなことない! 利央さんがしたいほうを、やろう」
いつまでも辛そうな顔をさせるよりもずっといい。知代は鹿嶋に言われるまま、体勢を変えた。
「個人的には、知代がこういうことに積極的なのは嬉しいんだよ」
「そ、そうなの?」
裸になってほしいと頼まれたので、知代だけが真っ裸である。なぜか利央は上も下も着ていて、ほんのり不公平さを感じた。
「うん、でも……ひとりで頑張らなくていいんだ。俺も知代を気持ちよくさせたくて、色々調べたり、買ったりしてるから、もしよかったら事前に相談してほしい」
「なるほど。相談かぁ……って、調べたり……買ったりって、何を買ってるの?」
ふと気になって尋ねると、鹿嶋は少し遠い目をする。
「世の中には、こういう行為に関して、色々と便利なものが売っててね……」
「へえ、そこまで調べてなかったなあ」
情報収集能力は、知代よりも鹿嶋のほうが一枚上手のようだ。少し悔しい。
「じゃあ、まずは準備するよ」
「……準備?」
首を傾げるが、愛撫のようなことをするのだろうか。鹿嶋はベッドの横にある棚の引き出しから、小さな小瓶を取り出す。
「これはローション。化粧品でも使われているね」
「さすがにわかるけど。それがもしかして、便利なもの?」
尋ねると、鹿嶋は「うん」と頷いた。
「ちょっとひやっとするかもしれないけど、すぐに馴染むから」
彼は手の平にローションを垂らして、軽く両手で擦る。そして、ぺたんと座っている知代の両足を持ち上げて開き、その秘所にローションを塗り始めた。
「やっ、ちょ……これ、ヌルッてする……!」
その感覚は新しい。舌で舐められる愛撫に似ているが、ぬるぬるした感覚は酷く甘く、直接的な気持ちよさがある。
「要するに、ローションは滑りをよくするんだ。その分、気持ちいいだろ?」
「き、気持ちいいけど……これ、なんか、いけない予感が……する……っ」
知代の頭に、サイレンが鳴り響いているのだ。このまま鹿嶋のペースに巻き込まれたらいけない。また、快感に負けてしまうぞと、自分自身が囁いている。
「大丈夫。ほら、ナカにもちゃんと塗って、滑りをよくしておこう」
「そっ、そこまで……っ!? ひゃ、あ、ああぁっ!」
ローションを足して、鹿嶋はとろとろになった人差し指と中指を、蜜口に滑り込ませていく。
ぬるりと侵入していく指。ぞくぞくするような快感が襲ってきて、知代は腰を大きく震わせる。
「や、あ、ローション……ついた、指……が、んんっ」
知代は急激に何かにすがりたくなって、鹿嶋の首に抱きつく。
彼はくすくす笑って「ほんと、敏感だな」と呟いた。
「『準備』をしてるだけなのに、もうよがっているのか? 百戦錬磨の営業さんが情けないな」
「そ、そんなの、今は関係ないじゃない~!」
たまらなくなって、知代はイヤイヤと首を横に振る。はあ、と鹿嶋が熱いため息をついた。
「時々、めちゃくちゃにしたくなるよ。こんなにも好きなのにな」
小さく呟いて、存分に膣内を掻き回した鹿嶋は、ゆっくりと指を抜く。
「ほら、準備完了。ここからが本番だよ」
「ほ、本番」
さっきの指でも危うかったが、そういえば、これから性交をするのだった。
利央は手早く避妊具を装着し、知代の身体を抱き寄せる。
「……なにそんなムスッとした顔してるんだ?」
知代はジト目になって、鹿嶋を睨んでいたのだ。知代は「だって」と唇を尖らせる。
「利央さんも私が初めてだったはずなのに、どんどん、手慣れていくんだもの。ゴムだってさ、もう片手でぱちんってつけちゃうし、私を気持ちよくするのも上手だし……。それなのに私は、ぜんぜん上達してない気がして……」
さすがにションボリしてしまう。自分から予習して、恥ずかしいけど復習もして、鹿嶋を相手に練習させてもらおうとしたのは、それが理由だ。
営業と同じ。どんどん、置いていかれる気がして。
一緒に歩調を合わせて歩きたいのに、やっぱり鹿嶋が先に進んでしまう気がして。
それがどうしても、悔しかった。
鹿嶋は少し驚いた顔をしたあと、優しく微笑む。
「知代は本当に真面目だな」
「え……?」
「俺のことを考えて、そこまで悩んでくれるのがすごく嬉しい。……大丈夫だよ。前にも言ったけど、俺はね。――君なしには、生きられない」
穏やかな口調で、笑みさえ浮かべているけれど、鹿嶋の目は笑っていなかった。
真剣に、知代だけを見つめている。
「だから俺は、もっと知代に夢中になってもらいたい。俺とこうするのが気持ちいいって、たくさん、その頭に覚えさせたい。そうすれば、君は絶対に俺から離れられなくなるからね」
ぎゅっと知代の腰を抱きしめて、その胸元に口づける。
「だから、知代は無理に頑張らなくていい。ただ……気持ちよくなって、たくさん感じて、可愛い啼き声を聞かせてほしい」
――それだけで、俺は幸せだから。
最後にそう呟いて、鹿嶋は知代の腰を持ち上げると、片手で秘裂を大きく開かせる。
その下に待ち構えているのは、今か今かと猛り立つ、彼の楔。
それを蜜口にあてがうと、知代の身体を離した。
「あっ、ああぁああっ!」
ずぶりと勢いよく、楔が膣内に侵入していく。暴力的で、衝動的な挿入は、強い快感をもたらした。
丁寧にローションを塗られた膣内は恐ろしいほど滑りがよく、自分から分泌される蜜など比べものにならない。
「自分で動いてみて。上下に身体を揺らすんだ」
「へ……」
最奥まで貫かれる快感に震えていると、下からなんだか極悪なことを言われた。
思わず鹿嶋を見下ろすと、彼は薄く笑っている。
「俺を気持ちよくさせたいんだろ? フェラでなくても、この体位は女性優位なんだ」
「な、なる、ほど。確かに……?」
知代は息も絶え絶えになりながら頷いた。鹿嶋が言う通り、正常位よりもずっと身体が動かしやすい。でも、自分で彼のモノを擦るなんて、うまくできるだろうか。
(で、でも、自分から頑張ろうって決めたんだし、やらなきゃ)
うん、と決意し、知代はおそるおそる腰を上げてみる。
途端に、膣内でズルッと楔がこすれて、びくびくと震えた。
「あっ、やぁ、ンっ!」
ちょっと腰を上げただけなのに、こんなにも気持ちいい。知代は痙攣する太ももに力を入れて、ぎりぎりまで上げた。というか、どこまで上げたらいいかわからない。
「こ、この……くらい?」
震えながら、次はゆっくりと腰を沈める。
「ひっ、や、あぁああんっ!」
尾てい骨から背骨を伝ってビリビリと快感が走るよう。
「やっ、きもち、いいよぅ……だめ、こんなの……」
頑張らなきゃ、という気持ちと、こんな快感耐えられないという気持ちがせめぎ合う。
知代が泣きそうになりながら、もう一度腰を上げようとすると「はあ」と熱い吐息が聞こえた。
「……たまらない。知代、君は可愛すぎるよ」
「え……ァ、きゃっ!」
唐突に鹿嶋の手が伸びて、知代の豊満な乳房を掴む。そしてツンと尖る乳首を親指で撫でて、きゅっと摘まんだ。
「あぁあっ」
そんなところ、気持ちいいからダメだ。動けなくなってしまう。
知代はイヤイヤと首を横に振って抵抗した。しかし、次は鹿嶋が腰を大きく突き上げた。「ひゃっ!」
身体がバウンドして、それはまるで重力に任せるような抽挿。楔は無慈悲に膣内を擦り上げ、ローションでほぐれたそこは、快感しかもたらさない。
「ほら、知代。もっと気持ちよくしてあげるよ。自分の乳首を、俺の口に持ってきてごらん」
「え、そ、そんな……」
さすがに恥ずかしい。自分から、そこを舐めてもらいたいとおねだりするみたいで。
「……俺のために、頑張るって決めたんだろ?」
さすさすと乳首を摘まんで擦りながら、鹿嶋が優しい声色で言う。
知代は泣きそうになって、きゅっと唇を尖らせた。
「な、なんか、今日の利央さん、意地悪」
「フフ、俺は元々こういう性格だよ。……嫌になった?」
瞳を和ませて、鹿嶋が穏やかに尋ねる。
しかし、やはりその目は笑ってなどいなかった。
拒否を許さない。離れるなど言語道断。逃げたら、どこまでも追いかけると。
強い――強い、執着の目が、知代の身体を射貫いている。
知代はゆっくりと、しかしはっきりと、首を横に振る。
「嫌……じゃない。でも、意地悪は、嫌です」
「ああ、そういうところ本当に大好きだなあ。ごめんね、加減はするから。……でも、自分からおねだりはしてほしい。……俺に、いやらしいことを……望んでほしい」
それはワガママにも似た、願いに聞こえた。もしかしたら、鹿嶋はまだ怖いのかもしれない。こうやって少しずつ自分の本性を出しているのは、嫌われるのを何よりも恐れているから。
(仕方ない人だなあ。でも、ちょっと可愛いかも)
表では完璧を振る舞っているけれど、本当は未熟で、恋愛感情も上手にコントロールできない。執着が強くて、ヤキモチ焼きで、すぐに拗ねてしまう。でも、愛だけは絶対に揺るぎない。鹿嶋利央は、本当に不思議な人だ。
知代は自分の乳房を持ち上げると、ゆっくり身体を下ろしていく。
どきどき、どきどき。恥ずかしくて、口から心臓が飛び出してしまいそう。
つ、と彼の唇に乳首が当たって、ぴくんと身体が震えた。
「舐めてほしい?」
嬉しそうに問われて、知代は顔を熱くして俯く。
「な、舐めて……」
「吸ったり、転がしたり? いやらしく音を立てて、むしゃぶりついたり、してほしい?」
どうしてか、キュンと下腹が疼いた。思わずぎゅっと膣内に力を入れてしまう。
すると鹿嶋はクスクス笑った。
「身体は素直だな。俺に、むちゃくちゃに
「あっ」
ちゅるっと乳首を吸われて、知代は甘い声を上げた。そのままじゅくじゅくと口腔で舐められて、知代はビクビクと身体を震わせる。
「はっ、あ、ああっ」
ちゅう、と強く乳首を吸い、もう片方の乳首は、親指でくにくにとこねられる。
「あっ、やぁ、きもちいい……ひ、ぁっ!?」
鹿嶋が腰を突き上げる。ぐちゅっと音がして、知代の下半身が跳ね上がった。
重力に任せて楔が穿たれ、胸と膣奥を同時に攻められ、知代は発情した猫のような啼き声を上げた。
「あぁあン、ふぁっ、ヤ、ひゃああん!」
どっちに感じたらいいかわからない。どっちも気持ちがよくて、気が狂いそうになる。
「だっ……メ、や、いっちゃ……っ」
「イキなよ。見ててあげるから」
「やだやだ! はずかし……っ、ひ、ぁあああんっ」
もう止められなかった。快感は快感を呼び、知代の身体はあっという間に快楽の渦へと誘われる。
雷にも似た衝撃は知代の頭の中を白く溶かし、気持ちいいと――ただ、それだけになる。
「知代のイキ顔はね、すごく可愛いよ」
達して力をなくし、鹿嶋の胸に力なく寄りかかった知代は、はぁはぁと呼吸を繰り返した。
「ああ、俺もイキたい。ちょっと乱暴に扱う。……ごめんな」
鹿嶋は知代の身体を抱きしめると、何度も腰を突き上げ始めた。
「あっ、アッ、あ、んっ!」
下から突かれるというのは、こんなにも感覚が違うのか。
なんというか、当たる場所が違う、と言おうか。
正常位とまた違う快感がひっきりなしに襲いかかって、知代は鹿嶋の胸にすがりながら、壊れたように嬌声を上げ続ける。
やがて、衝動的な抽挿は鹿嶋の昂ぶりと共に終わりを告げ――。
達したふたりはくたりとベッドの上で寝そべるのだった。
「知代、今日は色々無理をさせてしまったけど、頑張ってくれてありがとう」
なでなでと頭を撫でられて、知代はむうと顔をしかめる。
「あ、あんまり意地悪しないでね?」
「う~ん、努力する。でも、難しい」
「そこはしっかり頑張って!」
「だって知代が可愛いんだ。俺の嬉しいことばかり言ってくれるし、そんなの、ちょっとはいじめておかないと、俺の理性が保たない」
「意味が、わかりません」
可愛いと思うのなら、そこで留まってほしい。なぜそこから意地悪したいに変わるんだ。
解せぬ……と、思いながら、知代はころんと鹿嶋の腕に頭を乗せた。
「明日は休みだっけ」
ぼうっと天井を見ながら、鹿嶋が尋ねる。
「セミナーも勉強会もないし、休みだと思う。クライアントから電話が来ない限りは」
「営業は本当に、ろくでもない仕事だな」
思わず零した鹿嶋の愚痴に、知代はクスクス笑ってしまう。
あんなにも人のいい聖人君子を気取っておいて、本当の彼はこんなにも人間らしい。
「そろそろ、桜が見られるかなあ」
「まだ早いよ。梅ならまだ咲いてるかも。散り際かもしれないけど」
「じゃあ明日は、街をぷらぷらして、梅がある公園にでも行こうか。それで、次は」
「……スーパー銭湯?」
知代が尋ねると、鹿嶋は「うん」と頷く。
なんだか、たまらなくなった。知代はぎゅっと鹿嶋の身体を抱きしめる。
「どうした? 可愛いけど」
「べ、別に可愛いことしてるつもりないから。単に、幸せだなあって思ったの」
昔から負けず嫌いだったから、人よりも努力を重ねてきた。そんな知代の人生は、勉強と部活で忙しく、休日に遊びに行く機会は殆どなかった。
会社に入っても、その生活は変わらない。
休日はひとりで過ごすことが多かった。きっと鹿嶋も同じような感じなんだろう。
そう、知代と鹿嶋は似ている。性格は真逆だけど、歩んできた人生が似ていた。
(ああ、だから――恋をしたのかもね)
結局は、知代も寂しかったということだ。自分の理解者、傍にいてくれる人が欲しかった。
「利央さん、ありがとう。……明日、楽しみにしてる、ね」
性交の疲れが押し寄せて、知代の意識は眠りの世界に落ちていく。
その間際。
「ゆっくりお休み。愛してるよ、俺の知代」
こめかみに、優しい唇を感じた。