「やっ、だめえ、もう、やめて。おかしく、なっちゃうよ……っ」

「はぁ……可愛すぎ。殺し文句だな」

 くすりと笑って、鹿嶋は片手で知代の背中を抱きしめる。

「指でされるのと、舌で吸われるの、どっちがいい?」

 きゅっと片手で乳首をつねり、もう片方の尖りに吸いつく。

 両方の胸を攻められて、知代は痛いくらいに下唇を噛んだ。

「ど……っちも、感じて、なんか」

「こら、唇が腫れてるぞ。そこまで我慢することないだろうに」

 鹿嶋は知代をたしなめ、噛んで腫れ上がった唇にキスを落とした。まるで傷を癒やすみたいに下唇を舐められる。

「は、ぁ、はっ」

 息をつくヒマさえない。鹿嶋の唇は柔らかくて甘やかで、かたくなだった知代の身体はみるみるとかんしていく。

 だが、唾液で濡れた乳首に指で触れられ、再びビクッと震えた。

「キスが好きなんだな。目がとろんとしてる」

「そんなの、知らな……あむっ」

 反論しようとしたら、唇を塞がれる。

「んーっ! んんっ」

 隙間がないほどぴったりと唇を重ねて、乳首をこねくり回されて。

 もはや自分をごまかすことなどできない。これが官能なのだ。みだらでいやらしい、知代の中に隠されていた本能のひとつ。

 引きずり出されて、暴かれて。

 知代は羞恥で顔を熱くしながら、快感に震える。

 深いキスは呼吸さえ許してくれない。酸欠に喘ぎながら、絶え間なく性感帯をいじられて、知代の頭は快感と混乱の渦の中。

(どうして、こんなことに?)

 頭の隅にずっとこびりつく疑問。鹿嶋が言っていた。もう限界だと思ったのだと。

 どうしたらいいかわからなくて、こんな最悪な手しか思いつかなかったとも口にしていた。

 嫌がらせではない。

 触れられるのなら誰でもよかった……という感じもしない。

 明確に『知代に触れたい』という意思だけは伝わってくる。だが、それ以上の気持ちはどうしてもわからなかった。

 じわりと知代の目に涙が溜まる。悲しみではない。切なくて胸が痛くなったのだ。

 彼は今までどんな想いを持って、知代を見ていたのだろう。

(私、鹿嶋さんに勝つことしか考えてなくて、鹿嶋さんのこと、何も知ろうとしなかった……)

 無我夢中で彼の背中を追いかけていた。そうすれば全てうまくいくと思い込んでいた。

 だが決して、鹿嶋を見下して高笑いをしたかったわけじゃない。

(ただ私は――鹿嶋さんの、隣に……)

 その時、鹿嶋の指がふいに動いた。胸から腹にかけて、人差し指でツツと下がる。

「んっ」

 くすぐったさに、ぴくんと身体が揺れた。

 鹿嶋の指は、へそのくぼみをつるりと撫でたあと、更に下へと下がっていく。

 さすがに、わからない知代ではない。

 彼が望んでいること。触れたいと思っていること。瞬時に察知して、知代は慌てて彼の手首をガシッと掴んだ。

「か、か、鹿嶋さん……っ」

 顔から湯気でも出そうなほど、自分の顔は真っ赤になっているだろう。

 しかし知代は羞恥を我慢して、唇を引き結び、鹿嶋を見つめた。

「わわっ、わ、私、は、初めて……だからっ」

 ――怖い。それだけは怖かった。男性を受け入れるなんて想像もできないし、心の準備はもちろんできていない。

 じわじわと涙が浮かんで、そんな自分が情けなくて。知代は切なく眉を下げて、鹿嶋にお願いする。

「せ、せめて、もうちょっと……時間が、欲しい……というか……っ」

 今更だと言われるだろうか。ここまで来て拒むのかと怒るだろうか。

 しかしどうしても怖いのだ。覚悟ができない。こういうことは勢いでしてはいけないと、心の中にいる自分自身が言っている。

 知代は怖々と鹿嶋を見た。怒っている様子ではないが、真剣に知代を見つめている。

 やがて、彼は小さく息を吐いた。

「――わかった」

「鹿嶋さん……」

「無理強いはしたくない。それに、ここまですれば君は否応なく俺を意識する。それが目的のひとつだったから、最後まではしない」

 知代は、安堵で身体中の力が抜けるのを感じた。ほっと息をつく。

(よかった。やっぱり、話せばわかってもらえるんだ)

 しかしそう思ったのもつかの間、鹿嶋は知代を抱きしめる腕に力を込める。

「だが、君の記憶をもっと鮮烈にしておく。――優しく、するから」

「えっ、優しくって……ひ、っ、あ……っ」

 鹿嶋の指が再び動く。下腹をなぞって、更に下へ。

 鹿嶋は知代のパンツスーツをするりと脱がし、飾り気のないショーツも取り払った。

 一糸まとわぬ、生まれたままの姿――。身体の全てを異性に晒すのはもちろん初めてで、知代は隠しきれない羞恥に顔を熱くした。

 彼は身を起こすと、両手で知代の秘裂をくちりと開く。

「やっ! う……、そんなとこ、見ちゃだめ……っ」

「ああ。知代の白い肌が赤く染まって、すごく恥ずかしがってるのがわかる。……すごく、可愛いよ。たまらない」

 自分でもまじまじと見ないようなところを、間近で見られる。これほど恥ずかしいことはない。

 知代は自分の顔を両手で覆った。すると、すぐさま鹿嶋に取り払われる。

「もっと見せて。恥ずかしがってる知代を、もっと見たい」

「や、やだ……っ」

「ほら、もっと気持ちよくなろう。君の乱れる姿は、俺だけで独占したい」

 開いた秘裂に、スーッとした冷たさを感じる。

 そこに、ぬるりとした感触が襲ってきて、知代の身体はビクッと跳ねた。

「ヤッ……あっ、あぁあああっ!」

 それは知らない快感だった。そんなところを舐めるなんてという驚きや、汚いからやめてというもっともな主張は、官能の波にさらわれてあっという間に飛んでいく。

 ちゅっ、じゅる。

 鹿嶋は自分の口の周りが唾液で汚れるのも気にせず、いっそ大胆に秘所を舐めた。

 花びらのように秘裂をめくり、丁寧にあますことなく、唾液でたっぷり濡らした舌を伝わせていく。

 それは耐えがたい気持ちよさ。

 頭がバカになってしまいそう。知代はシーツをぎゅっと掴んで、必死に快感に耐えようとする。だが、そんな努力をあざ笑うように、鹿嶋の指が蜜口を辿った。

「はっ、はっ、あっ、ああっ」

 犬のように舌を出して息を吐き、両足は大きく開かれて。鹿嶋はじゅくじゅくとはしたない音を鳴らして秘所に吸いつき、いんに舐める。

「だめっ……! いや、だめなの! こんなの、おかしくなる……っ!」

「おかしくなれよ。ほら、ここはどうかな?」

 ちゅっと秘芽にキスをして、舌先でチロチロと弄る。

「あぁああっ!!

 こんなの知らない。こんな快感があるなんて嘘だ。

 知代は混乱しきった頭で、まったく抗えない快感にむせびく。

 下腹の奥がきゅっと収縮して痛い。なのに、同じ場所がずくずくと疼く。

「なあ、気持ちいいのか。知代」

 人差し指で蜜口をくるりとなぞり、穢れを知らないその中に、挿し入れる――。

「はっ、は、はあ、きもち……い……から……っ」

 やめて、もうやめて。おかしくなる。

 誰よりも気に入らなくて、誰よりも勝ちたくて、誰よりも――尊敬している彼。

 鹿嶋にだけは見られたくない。

 こんな恥ずかしくて情けない自分は見せたくない。

 それなのに、なんてことだろう。誰よりも知代を乱れさせたいのは、その鹿嶋本人だなんて。

「もう……やめて……っ! み、見ちゃ、嫌なのっ」

「ダメだ、聞かない。知代がヨガって喘いでイッてる顔が見たいんだ。俺にしか、見せることは許さない」

 だから、と鹿嶋は身体を上げて、知代の耳元で甘く囁いた。

「俺の指で、イッてくれ、知代」

 膣内に埋めた指の関節を曲げて、ぐりぐりと抽挿し始める。同時に親指で秘芽をこねられて、知代はビクビクと身体を震わせた。

 ぐちゅっ、ぐちゅ。

 彼が指を動かすたび、おびただしい水音がする。それと共に、快感がずるずると引きずり出されるよう。

「ああ、こんなに濡らして。本当にお前はたまらないよ」

 もう片方の手で乳房を揉みしだき、唇を重ねる。

「んんーっ! んっ、むっ」

 舌同士が絡み合い、乳首を抓られ、秘所はみだらに弄られて。

 全身を攻めるような愛撫に、知代の未熟な官能は一気に高みへと上り詰める。

「あ、ぁ、ああああっ!」

 何が何だかわからないまま、頭の中が白くスパークする。きぃんと耳鳴りがして、身体中が硬く戦慄いた。

 やがて、長い吐息と共に虚脱感と強い睡魔が襲ってくる。

 思い出したようにグラグラと頭が揺れ、ばたりと知代はベッドに倒れ込んだ。

(そう……だった、私……酔っ払って……)

 快感に次ぐ快感ですっかり忘れていたが、泥酔するほど酒を飲んでいたのだ。

 達した疲労も相まって、知代の意識は急激に夢の世界へといざなわれていく。

 意識が途切れる寸前。

「知代……。俺はずっと、君のことが……」

 そんな、まるで愛の告白のような言葉が、聞こえた気がした。