数日後、ラエルは妻とワトプ商会から派遣された職人との不貞現場に踏み込み、その場で離縁を言い渡した。だがワトプ商会との契約を破棄することはせず、堂々とソフィアからの依頼で教科書を印刷した。これは契約違反であるため、契約魔法が発動して派遣された職人はその場で図画印刷魔法が使用できなくなった。

契約違反が発生したことはすぐにワトプ商会の知るところとなり、商会長のワトプが怒鳴りこんできた。しかしラエルは涼しい顔で「そうですね。契約に違反したので、そちらの職人に魔法を使ってもらえなくなりましたね」と冷たく言い捨てた。ワトプは「違約金を払え」とまくし立てたが、ラエルは契約書をワトプの前に突き付けた。

「確かに契約に違反はしています。ですが私たちは契約破棄を望んでいません。この契約書には、違約金は契約破棄を言い出した側が支払うと明記されていますよ」

ワトプは頭から湯気が出そうなくらい怒り狂ったが、ラエルは表情を変えることなく飄々とした態度を貫いた。

なお、ソフィアの方もニーナの無茶な要求を一切断らず、金の力ですべての素材を目の前に積み上げてみせた。ニーナが自ら手掛ける特製本は、かつてワトプ商会が扱っていた本よりも高く評価され、多くの貴族家が資産目録に記載するほどの芸術品となっていく。また、その収益の一部はニーナの意向により、初等教育に使う教科書の印刷代として使われることになるのだが、その教科書の奥付には必ず次の一文が書かれていた。


『常に理想を追い求めよ』