アダムとクリストファーは大興奮である。いや、侯爵、エドワード、ロバートも興味津々で見つめている。そうかやっぱり男子はコレが好きか。

「じゃぁ、交互に動かしたい駒に命令してみて」

アダムとクリストファーがボードに手を置いて命令すると、ゴーレムたちは指示された場所に移動する。動けない場所を指示すると首を横に振って動けないことを教えてくれる親切設計だ。

また、相手の駒のある位置に動くとゴーレム同士が戦うようにしてあるので、取られるのがわかっているのについ自分の駒を応援してしまう兄弟が可愛かった。

「サラ、このチェスくれ!」

「偉そうだからイヤ」

アダムからのお願いを一刀両断すると、兄弟はわかりやすくしょんぼりする。

「でも、狩猟大会に来たお友達がいるところで、このチェスセットで遊んでくれるなら考えないこともないわよ?」

「本当か!」

「うん」

そして再び兄弟はチェスを開始した。

「あ、でも、ずっとやってると魔力枯渇起こすわよ……って手遅れだったか」

はしゃぎまくっていた兄弟は、くったりとソファーに倒れ込んでいた。

「伯父様、伯母様、ごめんなさい。二人には先に注意すべきでした」

「丁度いいわよ。もうすぐ寝る時間だもの」

「この子たちは魔法を発現していないから、枯渇するまで魔力を使うのは難しいんだ。枯渇したら魔力量が増えるんだけどな」

「じゃぁ、このチェスに魔力流しまくれば増えるかもしれませんね」

「魔法の威力はともかく、貴族の子弟として子供たちには魔法が発現してほしいんだが」

『ふむ。魔力強化の教材って視点もありか』

「ところで、コレ僕も欲しいな」

ロバートがいい笑顔でサラにおねだりした。

「じゃぁお父様は私に何をしてくれますか?」

もっといい笑顔で返すサラは、ある意味鬼畜である。

ロバートの要求が通るなら自分も欲しいなぁと思っていた侯爵とエドワードは、途端にがっかりした表情を浮かべた。大変によく似た親子である。

「このチェスの駒には魔石を入れていたが、魔石の魔力を使い切ったらどうなるんだ?」

「動かなくなりますね」

「じゃぁ使い捨てなのか?」

「これは試作品なのでその通りですが、使い捨てじゃないものも作れるかも」

「サラの近くにいなくても遊べるのか?」

「駒はチェスボードに従属していますので、このチェスボードに魔力を流せば誰でも動かせます。ただ、駒をボードから離すと土に還って魔石だけが残りますね。ボードから離せないように魔法的な制約をつけることはできますが、どんな事故が起きるかわからないので子供が触れるものには使いたくないです」

エドワードは少し考えこんだ。

「これは王室に献上するものを作ったほうが良いと思うが、作れるか?」

「グレードの高い細工が必要そうなのでやりたくありません」

「だが貴族子弟に見せびらかすつもりなのだろう?」

「そのつもりですが」

「僕も欲しいと思うくらいだから、アンドリュー王子もゲルハルト王太子も興味を示すはずだ」

「マジですか?」

「マジだ」

『男子ってもしかして永遠に子供なのか? 少年の心を失わないってやつか? ……なんか違う』

「誰かが献上品の駒のデザインと動きを考えてくれるならやっても良いですよ。なんなら音声付きにしても良いです」

「ほう、駒が話をするのか」

「動けない場所を指示された際の警告、バトル時の声、特殊ルール発動時、チェックなどを駒が教えてくれるようにできると思います」

「ふむ。デザイン指示があればすぐにできるのか?」

「二セットくらいなら一時間もあればできると思います」

「わかった。急ぎ用意させよう」

『でもチェスだと小さい子供は遊べないよねぇ』

ふと思い立ったサラは魔法で先ほどのチェスボードよりも大きな台を用意し、四隅にポールを立て、ポールの間に三本のロープを張った。その中に身長三十センチほどのゴーレムを二体作り、それぞれの魔石に前世の記憶にあるゲームっぽい戦闘パターンを刻み込んだ。

エドワードとロバートはサラの様子をキラキラした目で見ており、先ほどのアダムとクリストファーにそっくりだった。

「これは非売品です。すぐに商品化するつもりはありませんが、ちょっと試してみてください。お二人で同時に魔力を流すとゴーレムたちが戦います。放置しても勝手に戦いますが、魔力を流している人の指示もある程度聞きます」

数分後、いい大人たちは完全にゴーレムバトルに夢中になった。床に直置きしたので、二人は床に腹ばいになって大興奮で叫んでいる。しかも、途中で侯爵まで参戦し、取り合いになっている。

『あ、これは絶対に貴族家に持ち込んだらダメなヤツだ。行儀悪すぎる』

レベッカとエリザベスは、自分のパートナーとその父の様子を遠巻きに見ており、クロエはサラに近づいてきた。

「ねぇ、サラ。お父様たちがやってるアレはなに?」

「アダムとクリストファーがチェスで楽しそうにしてたから、もうちょっと小さい子でも遊べそうなものを考えたつもりだったんだけど」

「結果的に大きな子供が遊んでるわけね?」

「完全に想定外だったわ」

「放っておいて大丈夫? アダムとクリスみたいにならない?」

「あ!」

手遅れであった。

こうしてグランチェスター家の直系男子は全員が魔力枯渇でバッタリと倒れ、使用人たちに運ばれることになったのである。

『これ、安全装置つけないとダメだわ』

「ねぇサラ、さっき美容関連の商品の話してたよね?」

「うん。まだ本格的に売れるのはハンドクリームくらいだけど」

「あのさ、髪の毛の艶が戻るやつとかない?」

『あ、忘れてた。クロエのキューティクルにダメージ入れまくってたわ!』

「そういう商品はまだないけど魔法かけようか?」

「できるの!?

「ウ、ウン。デキルヨ」

ちょっとだけ目が泳いで、言葉が棒読みになった気もする。

「じゃぁお願い! 最近起きると髪の毛が絡んじゃって痛いの!」

「ちょっと待ってね」

サラは結い上げてあるクロエの髪を解き、以前にかけた水属性の魔法キューティクルの呪いを解除し、光属性の治癒魔法をかけた後、再び水属性の魔法で水分を補った。キラキラとした魔法の光が収まると、クロエの髪は綺麗な金褐色に戻っていた。いや、心なしか以前よりも美しくなっているように見える。

サラはメイドに鏡を持ってこさせて、クロエに渡した。

「これでどうかな?」

「うわっ、凄い! 元に戻ってる!! サラありがとう~~~」

感激したクロエはサラにギュッと抱き着いた。

「いっぱい意地悪してごめんね。本当に反省してるわ。サラが池に落ちた時、本当は凄く怖くて、助かったって知ったときにはホッとしたの。でも、邸に運び込まれたサラは高い熱でうなされてて、そのまま死んじゃったらどうしようって胸が苦しかった」

「そっか。じゃぁその時の怖かったり苦しかったりしたことを忘れないでね」

「そうするわ」

『ヤバい。もう私が犯人だと名乗りだせない空気だよコレ!』

この後、サラは少しだけクロエに優しくなった。王都でのことを許したわけではないので、あくまでも少しだけだ。

「あ、伯母様。王子様方はいつも王族が滞在される旧館の西翼と東翼にそれぞれお部屋を用意させています。お母様からの意見を参考に私が用意いたしましたが、後でご確認ください」

「わかったわ。飾る花は多い方が素敵だけれど、アンドリュー王子はユリが近くにあるとくしゃみが止まらなくなるそうよ。使わないよう気を付けて」

「他の花でそういった症状が出そうなものはありますか?」

「特に聞いていないわね」

サラとレベッカはエリザベスの情報を手元のメモに書き込んでいく。

「今回はゲルハルト王太子殿下がお越しになることで騎士が例年より多くなると伺っております」

「ええ、私もそう伺っているわ。でもグランチェスター城の厩舎なら十分なキャパシティがあると思っているのだけど」

「乗馬だけでなく馬車馬もおりますので、仮設の厩舎をいくつか用意してあります。急ぎでしたので、土属性の魔法と木属性の魔法で急遽放牧場も拡げてあります」

こうして淡々と事務的に打ち合わせは進み、男性陣が全員遊びすぎて倒れるというカオスな家族団欒イベントは終了した。なお、魔石ビジネスは短期間でビジネスプランを立てるべきではないということで認識が一致し、今後ゆっくり検討することとなった。

サラはこの期に及んで気付いたことがあった。

『男性陣いない方が打ち合わせははかどる!』