魔導編隊・海上自衛隊へ出向?

 観艦式。

 それは三年に一度行われる、海上自衛隊の一大イベント。

 国内外に自衛隊の精強さをアピールするためのイベントであり、同時に国際親善や防衛交流を行うための場でもある。

 平時ならば、日本国海上自衛隊のみで行われるのであるが、今年は例年とは少し異なる。

 それは、今年は国際観艦式が執り行われること。総計十三カ国、二十一隻の艦船が参加することとなった。

 しかも、いつもの観艦式は受閲部隊(各国から参加し観閲される艦船)が動かない停泊式だったのに対し、今回は観閲、受閲両部隊がともに動く移動式が採用されたのである。

 これは定められた航路を定められた時間に通過する必要があり、各国ともに操船練度、艦船性能の高さが求められる。

 そう、国際観艦式は、まさに日本の威信をかけた一大イベントなのである。

 たしか……こんな感じですよね、国際観艦式って。


 ――横須賀港・ヘリコプター搭載護衛艦『かが』甲板上

 さて。

 どうして陸上自衛隊第1空挺団魔導編隊の私が、海上自衛隊のイベントに参加しているのでしょうか。その答えは一つ。

 日本国政府が、他国に対して見栄を張ったから。

 ばっかじゃないの、と心の中で叫びましたけれど。あれを見せつけられた以上は、そうなりますよねぇ。

 アメリカからやってきた海軍空母ロナルド・レーガンの甲板上で、最新型魔法の箒の整備をしているスティーブ・ギャレットの姿がニュースに流れたのですよ、私にお呼びがかかるのは当然ですよねぇ。

 そして二式魔法箒と二式魔法絨毯の搭乗員として、一ノ瀬2曹と有働3佐、そして大越3曹まで呼び出されているなんて、誰が想像つくと思いますか?

「……ええっと、俺は有働3佐と共に二式魔法絨毯に搭乗。一ノ瀬2曹は二式魔法箒に搭乗し、先頭を飛ぶ如月3曹と共に会場の合流地点で『DDH184かが』に着艦。これで間違いはないよな?」

「うん、そうだね。移動時は私が先頭に立ちますけれど、着艦のときは二式魔法箒、二式魔法絨毯の順番で着艦。そして私がF35Bの着艦ののち、ラストを飾る……っていうことらしいけれどさ」

 まさか、またこいつを引っ張り出すだなんて、予想もしていませんでしたよ。

 魔法の箒試作型・三号機。現在の機体コードネームは『ホーネット・ビーハイブ』。

 本体である三号機がホーネットであり、後部接続魔導兵装ユニットが蜂の巣ビーハイブという名称で、いつのまにか決定しています。

 もっとも、私のコードネームは空挺ハニーのままですので、問題はまったくありませんとも、ええ。

「……それで、如月3曹は一体、なにをしているんだ?」

「はっ、万が一のときのために、魔法の箒試作四号機、五号機、六号機に急遽『闘気循環ユニット』を接続しています。あとは搭乗員登録を行う事で、有働3佐、一ノ瀬2曹、大越3曹でも使用可能となります」

「……はぁ。一体何をしているかと思えば……例のあれですか。有働3佐、急遽、搭乗する魔法の箒の申請変更を行うことは可能でしょうか? すでに近藤陸将補からは、可能なら好きにやりなさいと許可は得てありますが」

 一ノ瀬2曹が、傍らで苦笑している有働3佐に問いかけていますが。

 実は、私の方で近藤陸将補には話を通してありまして。一ノ瀬2曹にもこのことについては説明してありました。ただ、当日の状況如何で、どうなるかわからなかったからギリギリまで伏せてあったのですよ。

 そして有働3佐も、なるほどなぁという顔をしています。

「本日は総監部より、『魔法の箒を実戦使用しているという雄姿を見せつけてきなさい』としか命じられていないからな。それで如月3曹、それはいつ頃、使用可能になる?」

「はっ、すでに最終調整も完了しています。操作方法も、普段使いの二式飛行魔導具と扱いは同じであります」

 ビシッと敬礼したのち、すみやかに進言。

 ちなみに試作五号機は大規模魔導スラスター搭載型で、名称は『カーペンター』。

 試作六号機は通常兵装用ペイロードを搭載した重爆撃型で、名称は『キラービー』。

 そして試作四号機は、七号機に搭載されていた後部魔導兵装ユニットに偵察用レドームを搭載した通信・観測用です。名称は『ペーパーワスプ』です。

 ええ、あの宇宙から帰還したのち、残っている魔法の箒を全面改修して用途別に使えるようにしたものです。二号機は魔竜との戦いで木っ端みじんにされたようですから。

 しかも『こんなこともあろうかと』、後付で闘気循環ユニットがセットできるようにしましたよ、発案は近藤陸将補でしたありがとうございます、ええ。

 きっと私たちの雄姿を見て、総監室でお腹を抱えて爆笑して頂けるでしょう。

 いつも私が総監部の無茶に振り回されているのを見て、怒っていましたから。

 もっとも、無茶といっても私にしかできないことばかりなので、仕方がないと言えば仕方がないのですけれどね。

「よし。それでは、メンテナンス終了後、それらはアイテムボックスに収納するように。ぎりぎりまで、その機体は外に出さない方がいいだろう」

「はっ!!

 まあ、そうはいいましても、航空自衛隊の隊員の皆さんは、興味津々でこちらを見ていましたけれど。

 ああ、ここから発艦してみたいなぁ。

 蒸気カタパルトとか、電磁カタパルトでガーッって打ち出されてみたいですよ、BGMはあれでお願いします、ほら、実在する米国海軍戦闘機兵器学校を舞台にした青春映画があったじゃないですか、あれですよ、あれ。

「……如月3曹、この『DDHかが』には、カタパルトは付いていないからな!」

「なんですと!! って、大越3曹、なんで私の考えを見抜いたのですか……では?」

「傾斜滑走路もないって。そもそもこれは護衛艦だからさ。この状況で甲板をじっと眺めつつ、ニマニマしていたら考えていることぐらいは想像つくんだが。そうですよね、有働3佐」

 ハッ!!

 慌てて有働3佐を見ますと、静かに頷いています。

 ああっ、穴があったら入りたいですよ。

 と、そんなことをしているうちにすべてのメンテナンスが終了。

 そののち、私たちはかがの通信管制室で着艦についてのレクチャーを受けてから下船し、横須賀の海上自衛隊基地・逸見岸壁へと移動することになりました。

 そこで離陸するそうですよ、飛行用魔導具は垂直離着陸可能ですし、そこからなら観客からも見えるとかで。

 さあ、スティーブ、見ていらっしゃい。

 この最新型の魔法の箒シリーズを。


 ………

 ……

 …


 いよいよ観艦式が始まりました。

 護衛艦いずもの出港ののち、東京国際クルーズターミナルに設置された観閲会場からは、大勢の人々が続々と集まりつつある外国の艦船に熱い視線を送っているようです。

「如月3曹、現在の様子は?」

「スケジュール通りですね。高崎総理がヘリでいずもに到着したようです」

「では、各員、二式飛行魔導具に搭乗!!

「「「了解!!」」」

 有働3佐の指示と同時に、発着場に並べられていた二式魔法絨毯、二式魔法箒、そして私の魔法の箒・初号機が一斉に姿を消します。

 当然、ここで私たちが離陸テイク・オフするのを、目の前にある海上自衛隊幕僚監部広報室と自衛隊神奈川地方協力本部(神奈川地本)の広報官が撮影しています。

 その撮影中に突然、搭乗するはずであった魔法の箒と魔法の絨毯が姿を変えたのだから、驚くのは無理もありませんよね。

「空挺ハニーよりベース・ワン、応答願いします」

『こちらベース・ワン。緊急事態か?』

「近藤陸将補の要請に従い、機種変更を行います」

『了解。すでに申請その他は受理されている、良い旅を』

「了解」

 さて。

 すでに近藤陸将補との話し合いは終わっていますし、私たちに味方してくれている『統合幕僚長』にも申請は終えています。今回の機種変更も、私たち魔導編隊の強さを諸外国に見せつけようと画策している幹部たちに一泡吹かせるためのものですから。

 そして、私たちの機種変更を見て、広報官のみなさんは呆然としています。

「まさか、ここにきて魔導編隊も最新型だって? 待て、そんな話は聞いていないぞ」

「おい、急いで資料を持ってこい……まだ飛ぶなよ、もう少し撮影させてくれ」

「うひゃー。これですよ、これ。さすがは空挺ハニー、いろいろと変わるものですねぇ」

 ええ、これで『変わるわよっ』、なんて呟いて投げキッスでもしたら、皆さんは納得するかもしれませんけれどね。

 ですが、すでに離陸時間です。

「第一空挺団魔導編隊・一号機如月弥生3曹、いきます!!

『グッドラック』

 管制塔からの指示を受けて、私は一気に魔導ブースターを全開に。

 いえ、ちゃんと後ろから追従する皆さんに合わせての離陸です。

 そして私の離陸後に、次々と魔法の箒が飛び立ちました。

 そして綺麗なダイヤモンド編隊で移動……って、きれいじゃないですね、歪んでます。

 どっちかというと、四角ですよ四角。

 ああっ、ひょっとして私以外は航空徽章を持っていないのですか、そりゃあ無茶っていうものですよ。

「こちら空挺ハニー、有働3佐と一ノ瀬2曹は、航空徽章は所持していますか?」

『こちらカーペンターの一ノ瀬2曹、私は持っています』

『こちらキラービーの有働3佐だ、若い時代に修得している』

『こちらペーパーワスプの大越3曹です、航空徽章って、陸自でも取れるのですかぁ?』

 ああっ、ダイヤモンドが四角になった元凶を発見。

 そりゃそっか、飛行魔導具で空を飛ぶ場合は、航空徽章も必要ですけれど、大越3曹はそのことは知らないようで……って、知らないはずが無いでしょうがぁ、貴方も魔導編隊の隊員ですからね、よし、取らせましょう……。

 そうでした、大越3曹は有働3佐と同乗する予定でしたので、単独飛行なんて予想外だったのですよね。

 でも、習志野では練習していたはずですから、こうして飛ぶことはできるのか……。

「空挺ハニーより各機へ。これより低空飛行に切り替えます。現在の速度を維持、沖合の『DDHかが』との合流時間は、十一時三十分ヒトヒトサンゼロ

『了解』

『了』

『りょ』

 胸の通信機で各機に指示。

 ちょうど外国艦艇の観閲が始まったらしく、アメリカはデモンストレーションで勇者スティーブが魔法の箒に乗って着艦するようです。

 ほら、私たちの前方を超高速で飛んでいくスティーブ。

「あ~、あれは確か、試作七号機だったなぁ。早いなぁ、さすがは超高速タイプですよ」

 そんな感じで、ノンビリと飛んでいますと。

『こちらペーパーワスプ……あの、レドームがなんか見つけたらしいんだけれど、これってどうやって確認するんだ?』

「ちょっと待って、私、レドームの索敵モードは切っているはずだよ、なんで勝手に……ってああ、魔力波長の自動探査機能は随時動いているんだった。多分、近くの海域に魔力反応があるのですよ、きっと」

『りょ……つまりは大丈夫なんだよな?』

 そんなわけあるかぁぁぁ。

 また海魔でも出たの、あの化け物、増えたの?

 まさか海魔の子供? いやいやそんなはずはないですよ。

「アラート。各機は作戦通りにDDHかがへ。私は魔力波長の探査に向かいます。指揮権を有働3佐へ。ユーコピー」

『こちらキラービー。アイコピー……ということで、残り二機は現状の速度を維持、如月3曹が緊急離脱した理由を他国艦船に悟られるな……』

 通信で有働3佐の声が聞こえてきましたので。

 私は急遽、水中へと吶喊!!

 瞬時に結界を展開し、空気を結界内部に満たします。

 ええ、宇宙飛行術式を展開しました。

 そして大越3曹が発見したらしい魔力波長を探すことにします。

「七織の魔導師が誓願します。我が体に五織の超感覚を与えたまえ……我はその代償に、魔力一万二千五百を献上します」 

 ――キィィィィィィン

 魔法のアクティブソナーを発動。

 これで範囲内の生命体を確認することが出来ますし、魔力を有しているものはその魔力強度も図ることが出来ます。

 ――ピッピッピッピピッピッピッピッ

 うん、これは凄い。

 東京海底谷、そこをゆっくりと流れる魔力。

 正確には、海底の奥底で魔力が噴出している地点があるようです。

 そこから噴出した魔力が海水に溶け込み、海底谷の底を漂っているようです。

「ははぁ……自然噴出している魔力泉かぁ……って、いや、あれは駄目、深海魚が魔力進化する、やばいやばすぎますって……」

 いそぎ通信機をオン。

「空挺ハニーよりベース・ワンへダイレクト。東京海底谷で魔力泉を確認。海底で魔力が混在した海水が漂っています。現時点での生態系への影響は確認できず、ただ、海底では何が起きているか分かりません」

『ベース・ワンより空挺ハニー、海底谷の調査は可能か?』

 んんん、今からそっちの調査に向かうと、観艦式のデモンストレーションには間に合いそうにないですけれど。

「空挺ハニーより、可能ですが観艦式に出られなくなります」

『ベース・ワンより空挺ハニー。緊急時対応を優先。調査をお願いします』

「りょ」

 さて。それじゃあ超高速で行きますかぁ。

 宇宙の次は海底ですよ、本当に魔導師づかいが荒いことで。


 ………

 ……

 …


 海底谷の調査結果。

 ただの自然噴出でしたので、吹き出し口に杖をブッ差したのち、私の魔力を細い糸状に伸ばして魔力瘤までアクセス。そこから遠隔コントロールで自然噴出を止めることに成功しました。

 ええ、本当に簡単な処理ですよ、あっちの世界でも魔力泉が湧き出てしまい一つの村が大変なことになったという事故がありましたので、それを止めた時と同じ処理です。

 ちなみについ先ほどまで、全長四メートルほどのダイオウグソクムシさんに追いかけまわされましたけれど、一撃急所を突いてアイテムボックスにシュートしました。

 それらを回収したのち、ゆっくりと上昇を開始しましたが。

 ――キィィィィン……キィィィィン……

 うん? 潜水艦?

 私の浮上ルートに潜水艦を二隻確認。ゆっくりと浮上を開始しています。

 ああ、確かスケジュールにあった『訓練展示』ですね。潜水艦の潜航・浮上訓練をリアルタイムで見てもらう奴ですね。

 それなら私も、一緒に浮上することにします、潜水艦に追従する形で浮上開始です。

 ――ザッパァァァァン

 そして潜水艦の船体が海面より上に現れた時点で、私は上昇を開始します。

「……こちら空挺ハニー。キラービーにダイレクト」

『こちらキラービー。すでにDDHかがに着艦。急いで合流できるか?』

「了解」

 さて、アクティブセンサーは稼働したままなので、皆さんの魔法の箒が何処にあるかチェック。

 そちらの方角に向かって加速を開始します。

 とりあえず、スケジュール的にもう間もなく始まる『内閣総理大臣 訓示』までには戻らないと。

 ということで、無事にDDHかがを確認。

 かが航空管制室に通信を送ったのち、急ぎ着艦準備を開始します。

 ああっ、あれですよ、映画で見た奴。

 速度を下げつつ甲板上に着陸して、ワイヤーで停止する奴。

 あれを体験できるのですね!!

『かが航空管制室より空挺ハニーへ。垂直着陸、いけるか?』

 はーい、ワイヤーも使わないようですよ、ええ、実に残念です。

 垂直着陸ですか、魔法の箒の十八番ですよ。

「空挺ハニーよりかが航空管制室。問題ありません」

『了解』

 通信の後、ヘリの着陸地点近くに誘導員が走ります。

 着艦地点は甲板に白くマーキングされているので、実に分かりやすいですよね。

 あとはゆっくりと速度を落とし、着艦地点上空まで移動。

 そして徐々に高度を落とすと、無事に着艦成功です。

 あとは誘導に従い、セーフティパーキングラインへホーネット・ビーハイブを移動させます。

 うん、有働3佐たちもそこで待機しているようで、今は海自の関係者の皆さんが集まって、各魔法の箒を見学しているところですか。

「如月弥生3曹、無事着艦しました」

「ご苦労。あとはスケジュール通りだ」

「はっ!!

 では、この後のスケジュールは……って、お偉いさんたちのありがたいお話ばかりじゃないですか。

 海上幕僚長のコメントでしょ? そのあとが海自の歴史についての話。

 あとはまあ、外国海軍の紹介とか、海自のCMとか。

 そしてお偉いさんたちの退艦……うん、あと一時間はここで待機ですか。

 昔から校長先生の話しとか、そういうのは苦手だったんですよ。

 とほほ。

 全て終わったら、この巨大ダイオウグソクムシでもぶつけてやりたいですよ。