リュシアの奮闘記


「いやぁぁああああああっ!!

「攻撃の軌道が丸見えだ! スピードに自信があるからって慢心するな!」

「だぁぁぁぁあああああっ!」

「一撃が弱い! もっと力を出してこい!」


 ──ある日の朝。

 俺ことアルフ・レイフォートは、リュシアの頼みもあり、しばらく稽古に付き合っていた。

 彼女の腕前はたしかだが、ディスティーダ団長の言っていた通り、まだまだ鍛えられる余地はあるからな。それを俺が特訓している形である。

 もちろん、俺はスキルのおかげで突出した実力を持っているだけ。

 だからディスティーダ団長と比べれば力不足かもしれないが、それでも、彼女の頼みとあっては断る理由もなかった。

「はぁ、はぁ……。さすがはアルフさん、とんでもなく強いですね……」

「そうでもないさ。リュシアだって着実に強くなってるぞ」

「だ、だといいんですけど……」

 そして現在は、リュシアとともに自宅で休息を取っている。

 俺たちの特訓を見て、村の人たちがパンを差し入れてくれたからな。それを二人でいただいているところだった。

「でも、私まだまだ強くならなきゃいけないんです。《やみくろ》の名に恥じないためにも、あと、ディスティーダ団長の遺志を継ぐためにも……」

「…………」

「だから、こんなところで立ち止まっていられないんです。もっともっと強くならないといけませんから」

 そこまで言ったところで、リュシアはすっと椅子から立ち上がった。

「どうか、お願いします。引き続き特訓に付き合っていただけませんか?」

「…………」

 俺はそこでふうとため息をくと、立ち上がって言った。

「それもいいが、今日は近くの街で祭りが開催されるっぽいからな。せっかくだし行ってみないか?」

「へ? お、お祭りですか? でもそんなことしてる場合じゃ──」

「たまには息抜きも大事だからな。さあ、行こう」

「あっ、待ってください……!」

 困惑しっぱなしのリュシアを連れて、俺たちは近くの街に繰り出すのだった。


 三十分後。ファーレ街にて。

「わぁ…………!」

 多くの屋台がのきを連ねている光景を見て、リュシアが感嘆の声をあげた。

「す、すごい……! ルズベルトの帝都よりも賑わってますね……!」

「ははは、そうだな。お祭りだからな」

 俺たちと同じように、祭りを目当てにしている観光客が大勢いるんだろう。

 食べ物やお菓子を売っていたり、くじや射的ゲームなどで盛り上がっている店があったり……とにかく今のファーレ街はたくさんの活気で溢れていた。

 国際情勢が不安定だし、開催するかどうかは街もギリギリまで悩んでいたらしいが──。

 しかしそんな状況だからこそ、国民たちの気持ちを盛り上げることに意味がある。そうした判断のもと、こうして例年通り、祭りが開催されることになったようだ。

「ママ〜、あっちあっち!」

「あそこのご飯おいしかったよ、また買おうよ!」

 そのもあってか、参加者はみな祭りを満喫しているな。

「う、うううううう〜〜〜〜〜!」

 そして当のリュシアも、その光景を見てもじもじし始めていた。

「アルフさん! 一緒に食べ歩きしましょう! 特訓はそのあとで!!

「はは、いいよ。まずは好きに見て回ろうか」

 こうして俺たちは、初めて帝都に訪れた時と同じように、祭りの屋台を見て回るのだった。


「はぁぁああ……。おいしかった」

 それから二時間後。

 一通りの食べ歩きを終えた俺たちは、互いにベンチに座って休息を取っていた。

 少し前にパンを食べたばかりではあるが、やっぱり祭りとなると特別感が湧くからな。まさに別腹と言わんばかりに、リュシアは屋台の食事をあっという間に平らげた。

「ありがとうございます、アルフさん……」

 そしてやっと一息ついたタイミングで、リュシアは俺にそう話しかけてきた。

「たぶんですけど、私に息抜きさせるために、お祭りに誘ってくれたんですよね……?」

「ははは……気づいてたか」

「はい。アルフさんが無理やりお祭りに連れてくるなんて、何か理由があるはずですから」

 リュシアはそこでふうと息を吐くと、小声で続きの言葉を紡いだ。

「時々わからなくなるんです。レシアータが倒れた今、私は何をすればいいのか。パパは最強のようへいになれって言ってましたけど、そのために何をすればいいのか……」

 なるほどな……。

 その気持ちは俺にも痛いほどよくわかる。

 特にレイフォート家を追放されたばかりの時は、目の前が真っ白になっていたしな。

「実はな、今、ある予感がしてるんだ」

「へ……? ある予感、ですか?」

「ああ。フレイヤ神に続いて、今度は治癒神の力までもが俺たちに立ちはだかってきた。となると今度は、最後の邪神……知恵神にまつわる事件が起こる可能性が高いってな」

「あ…………」

「もし本当にそうなった時、リュシアがいてくれると心強いんだ。どうだ、俺に協力してくれないか? 必然的に、リュシアの実力も磨かれるだろうし」

「わ、わかりました!」

 俺の言葉を受けて、リュシアが力強くそう頷いた。

「どこまで力になれるかわかりませんけど、私も精一杯、力を尽くします! パパもきっと、それを応援してくれるでしょうから……!」

 その瞬間、どこからともなく温かい風が吹いてきて、俺たちを包み込んでいった。