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一方その頃。
アルフの父──ファオス・レイフォートは苦難の日々を送っていた。
「お、おのれ……。なぜ私がこんな場所に……」
「お〜いおっさん。やっぱ仕事やらんの?」
「はっ! やりますやります! ぜひやらせてください!」
ヴァルムンド王国。ボーダーブラッド街。
王都から遠く離れたこの街は、俗に言う〝スラム街〟とでも呼ぶべき場所だった。
訳ありの者たちが
ほとんどの者が過去に何かしらの事情を抱えているため、互いに詮索することなく、自分の身分も知られずに過ごせる街……。
そうしたことから、ファオスはこのボーダーブラッド街に身を置くことに決めた。
やはり剣帝ファオス・レイフォートの名はかなりの知名度を誇っており、普通の街や村では穏便に過ごすことができない……。
平穏を手にするためには、もはやこのスラム街で過ごすしかなかったのだ。
「建設現場の作業員。資材をひたすら運ぶ作業で、拘束八時間の銀貨一枚。どう?」
「…………ぐぐ」
「嫌ならやめてもいいけどね。でも、最近は元国王のせいで不景気になっちゃってるし……断ったら今日仕事できるかわからんよ? どうする?」
「や、やります。やらせてください」
「は〜い、了解。とりあえず四十代のおっさんなら、まあ向こうも喜ぶでしょ」
ここボーダーブラッド街の求人方法はかなり特殊だ。
所定の時間になると、いつもの場所に求人募集のスタッフがやってくる。
建設現場、謎の場所の警備、農作業、漁業、資材集め……。
冒険者ギルドでも請け負わないような低賃金の仕事が、ここで募集をかけられる形だ。
ギルドの依頼と違って、ここでの仕事は身分の証明が一切いらない。
ある程度年齢が若く、また健康体でありさえすれば、基本的にはそのまま希望が受諾されていく。
ファオスは現在四十七歳。
世間一般の価値観ではもう全然若くないが、それでも、ここボーダーブラッド街なら比較的若いほうだ──。
だからこそ非常に仕事を見つけやすく、都合よく身分も詮索されない、その日暮らしができる場所……。
ファオスがこの場に流れ着くのはごく自然な流れだと言えた。
以前までのファオスなら、スラム街に住むなどプライドが許さなかったが──。
《剣帝》スキルを失って、今やなんの特技も持たない彼にとっては、ここしか日銭を稼げる場所がない。
「それじゃ、あと十分くらいしたら案内の人来るからね〜。そこの列に並んで待っててよ、おっさん」
「は、はい……」
自分より若いスタッフにそう指示され、ファオスは指定の列に並ぶ。
かなり屈辱的なことではあるが、ここで荒波を立てても良いことはない。
ここは歯を食いしばり、なんとか耐え抜くしかない……。
「はぁ……」
こういう時思うのが、二人息子が今何をしているのかである。
人々の噂を聞いた話だと、アルフはなんと、凶暴化したフレイヤ神を討ち倒したらしい。乱心して世界中を敵にまわそうとしたフェルドリア国王に立ち向かい、世界を救った英雄として、今は国内外で持て
一方、弟のベルダは消息不明だ。
スキルを失い、人目を避けてコソコソ歩き回るファオスに嫌気が差したのか──以降は自分一人で生きていくと言って、ファオスのもとを離れたのである。
ベルダのほうはともかくとして、アルフは現在、かなり華やかな日々を送っていることが推察される。
今どこにいるのかはわからないが、もし生活が立ちゆかなくなったりしたら、いずれは彼を頼るしかないのか……。
「はぁ……」
そこまで思索を巡らせて、ファオスはひとりため息を吐く。
今後のことを考えると気持ちが暗くなってしまう。
──自分はもう、ただのしがないおっさんでしかない……。
そう割り切って生きていくしかないと、改めて〝後ろ向きな決意〟をするのだった。