エピローグ
1
「──というのが、事の
「す、すごい……! さすがにそれは、波乱万丈すぎるね……!」
それから一週間後。
無事にヴァルムンド王国に帰国した俺は、ムルミア村の自宅にて、ラミアに事のあらましを報告していた。
リュシアの過去について。
レシアータという極悪人について。
ディスティーダ団長との再会について。
そして、ファグスティス皇帝の思惑について……。
さすがにリュシアの過去を勝手に話すのは気が引けたので少しだけボカさせてもらったが、帝国に起こった出来事のすべてを、俺は彼女に伝えることにした。
国際情勢が関わっている以上、さすがに帝国のことはできるだけ彼女に伝えたほうがいいだろうしな。
ラミアの紹介があって帝国に渡れたという側面もあるので、ここは包み隠さず報告したほうがいいと判断した形である。
「たった三日間でこんなに事件を体験してくるなんて……。私だったら、正直めまいがしちゃうかも……」
「はは、そうだね。さすがに俺もちょっと疲れたよ」
──第三王女、ラミア・ディ・ヴァルムンド。
本来であれば、庶民である俺には関わることさえできない相手だ。
にもかかわらず俺がタメ口でやり取りしているのは、ルズベルト帝国に向かう前、彼女自身からそう要請があったからだよな。
こうして改めて話してみると、本当に恐れ多いことこの上ないんだが──。
しかし王女本人の希望である以上、
ばりばりに違和感を抱きながら、俺も探り探りで話している最中だった。
「しかし、結果的にはアルフ殿に出国していただいて良かったですね」
と会話に入り込んできたのは、ラミアの専属護衛、カーリア・リムダスだ。
「レシアータという人物を野放しにしておけば、本当に取り返しのつかないことになっていたでしょう。一応、ファグスティス皇帝が兵士を引き連れてきていたとはいえ……」
「そうですね。レシアータには治癒神の力が宿っていましたから、いくら帝国軍が押し寄せてきたとて、奴の陰謀を食い止められていたかどうかはわかりません」
今回の事件を思い起こした時、これが一番の疑問なんだよな。
ひとまず俺とリュシアがレシアータを止められたからいいが、もし仮に俺たちが負けてしまった場合──いったいどうするつもりだったのか。
ファグスティス皇帝は抜け目のない男だ。
レシアータが治癒神の力を取り込んでいる以上、自国の兵士だけでは勝ち目がないことはわかっていたはず。
「──たぶんその場合は、別の一手を打ってきたと思う」
と。
俺の考え事を読み取ったのか、ラミアが真剣極まる表情でそう言った。
「ファグスティス皇帝はかなり
「……うん、そうだね。たしかにそうなりそうな気がする」
ラミアの言っている通り、ファグスティス皇帝は
今回は俺のほうから疑問を投げかけたゆえに、ディスティーダ団長を呼び出した経緯を語ってくれたが──。
もし俺やリュシアが何も気づかなかったとしたら、おそらく何も打ち明けてこなかっただろう。
その時その時に応じて、自分が最も有利になるように行動する──。
たしかに、そんな狡猾さがファグスティス皇帝からは感じられた。
「それでラミア。あの時、ファグスティス皇帝は戦争しないように計らっておくと言っていたけど……実際、何かしらのコンタクトはあったのかな?」
「ああ、そうね。それも話しておかないとだわ」
ラミアはそこで目を見開くと、さっきまでとは幾分か表情を
「──まあ、結論から言うと友好協定の申し出があったわ。強硬派がいる手前、公式には発表できないそうだけどね……。ひとまずは前進って言えると思う」
「おお……、それは良かった……!!」
俺がルズベルト帝国に向かった当初の目的は、ヴァルムンド王国との戦争を防ぐためでもあったからな。
それが無事に成し遂げられたのならば、こんなに嬉しいことはない。
「うっふっふ♡ さすがはアルフね♪ リュシアちゃんの事件を解決に導いただけじゃなくて、戦争回避にまで持っていくなんて!」
「い、いやいやいや……。それに関しては、別に俺が何かしたってわけじゃないし……」
むしろ自然の成り行きでこうなったっていう状況だもんな。
あんまり褒められても、それはそれでラミアを騙しているようで申し訳なくなる。
「ふふ、気にしなくていいのよアルフ。あなたが頑張ったのは間違いないんだから、ここは堂々と胸を張ってちょうだい」
「ラ、ラミア……」
「そうですね。それに関しては私も同意です」
ラミアの言葉を引き継ぐ形で、カーリアが言葉を紡ぐ。
「たとえ国を救ったのが偶然の産物だったとしても、これはアルフ殿が勇気を持って立ち向かったからこその結果。ですからぜひ、私からもお礼を言わせてください」
「カ、カーリアさんまで……」
まあ、ここまで言われるのなら、素直に頷いておかないとむしろ失礼か。
俺がリュシアや頑張り続けたのは事実なんだし。
「あ、ちなみになんだけどさ、アルフ」
俺が黙りこくっていると、ふいにラミアがそう話を切り出してきた。
「あのリュシアちゃんって子、今は何してるんだっけ? 帝国を出たところまでは一緒に行動してたんだよね?」
「ああ、《闇夜の黒獅子》の里に帰ったよ。一緒にムルミア村に来ないかって言ってみたんだけど、里に戻りたいって……」
「そっか……。そうだよね、あんな事件があったばかりだもん」
「うん。そういうことさ」
少し寂しくもあるが、俺とリュシアの関わりはここまで。
ディスティーダ団長に彼女のことを任されはしたが、一番に優先すべきは彼女の意志だからな。
ディスティーダ団長から発破をかけられていたことだし、今後はきっと、立派な傭兵として成長していくことだろう。
願わくは、敵として戦うことのないようにあってほしいもんだけどな。
──と。
「し、失礼しま〜す。アルフさんはいらっしゃいますか?」
ノック音と共に、なんだか聞き覚えのある声が聞こえた。
「あ、あれ……?」
っていうか、おかしい。
この声、もろにリュシア本人なんだが……。
いったいどういうことだ?
俺はラミアと顔を見合わせると、とりあえず玄関前まで移動。そしておそるおそるドアを開けると、目の前にはリュシア・エムリオットがいた。
「あ、アルフさん! あ〜良かった、このお家で合ってましたよね!」
俺の顔を見て、リュシアがぱあああっと目を輝かせる。
……おいおいおい、ちょっと待てよ。
いったい全体何がどうなってんだ。
「リュシア、おまえ、里に帰るんじゃなかったのか……?」
「え? 帰りましたよ?」
何を言ってるのかわからないといったふうに小首を傾げるリュシア。
「アルフさんと一緒に住みたいのは山々ですけど、さすがに団のみんなに何も言わずに抜けるわけにもいきませんから。だからみんなに挨拶して、それでここに戻ってきたんです!」
「…………」
マジかよ。
あれはそういう意味だったのかよ。
俺はてっきり、これで今生の別れになると思ってたんだが……。
「え……。その反応、もしかして、駄目ですか……?」
俺の沈黙をどう捉えたか、不安げに上目遣いをしてくるリュシア。
──アルフ殿。図々しい頼みなのはわかってますが……どうか、この娘のことをお願いできますか。これまでの旅で痛感されたとは思いますが、戦闘的にも精神的にも、まだまだ未熟なところがありますんでな……──
──へへ……ありがとうございます。アルフ殿に預けられるのなら、もう安心だ……。もう思い残すことはねえ…………──
ディスティーダ団長とこう約束した手前、俺としては断る理由はない。
……というか、ここでリュシアを拒むのはあまりに不義理だからな。
「そんな顔をするな。もちろん歓迎するから、早くあがってくれ」
「ほ、ほんとですか!? やった〜〜〜!」
一転して表情を輝かせ、さながら少年のような無邪気さで家に入るリュシア。
「あ、あなたは前にお会いした……、えっと、らみあさんでしたっけ?」
「ふふ、正解です♡ また会えましたね!」
「はい、またお会いできて嬉しいです! ──でも今日は兵士さん、らみあさんをガードしなくて大丈夫なんですか?」
「……ええ、その必要はないでしょう。あなたのお話については、アルフ殿からいろいろと聞いていることですし」
「あ、ほんとですか! わ〜い!」
……まったく、賑やかなことこの上ないな。
まあ、これはこれで悪くないか。
「あら♡ そしたら、私もお邪魔していいですか?」
「えっ…………」
玄関前で立ち尽くしていると、またも聞き覚えのある声が聞こえた。
──シャーリー・ミロライド。
Aランク冒険者にして、無限神教の教皇でもある女性だ。
「シャ、シャーリーさん! もう大丈夫なんですか?」
「ええ、もうすっかり元気ですわ♪ ……執行部にも甚大な被害が出てしまいましたから、ご挨拶に来るのが少し遅れてしまいましたけれど」
「あ……。そうか、そうでしたね……」
たしか俺たちが帝都の宿で眠っていた時、傷だらけになった執行部が現れたんだよな。
その執行部はレシアータの妖術にかけられており、彼が握っていた手紙を俺たちが読んだ瞬間、妖術が発動して死亡してしまった……。
「シャーリーさんすみません、えっと……」
「ふふ、いいんですよ。あれはすべてレシアータの策謀……。ここで私たちがいがみ合ってしまえば、まさしく彼の思うつぼでしょう」
「そうですね……その通りです」
死んでもなお、俺たちに禍根を残そうとしてきたレシアータ・バフェム。
帝国ではいろいろあったが、そんな化け物を倒すことができただけでも──ひとまずは良しとするか。
「ふふ、それよりもなんだか楽しそうな雰囲気ですね? リュシアちゃんもここに来てるんですよね?」
「あ、そうです。ついさっきここに来たばかりで」
「あら♡ それなら私もお邪魔させてくださいな♡ 帝国での事件が解決したお祝いに、私も今日は盛大に遊びたいですわ♪」
「はは……別にいいですけど、ほどほどにしてくださいね?」
「もちろんです♡」
ラミアにカーリア、シャーリーにリュシア。
大勢の仲間たちが集まったということで、本日は久々に、みんなで楽しくパーティーを満喫することになるのであった。