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治癒神神聖教団。その地下通路の終着点にて。
今までは薄暗い通路ばかりが続いてきたが、最後の部屋だけは異様に明るかった。
最奥部分には治癒神を
そして壁面に貼られているのは──おそらく《治癒神神聖教団》のスローガンだろうか。
──
──かつてルズベルトを見守っていた治癒神の力を取り戻し、再び帝国に栄光を!
──新しき軟弱な慣習は徹底的に破壊せよ!
主張の激しい垂れ幕が各所に貼られており、これだけでも偏った思想が垣間見える。
フレイヤ神は主にヴァルムンド王国に肩入れしていたが、治癒神に関しては、ここルズベルト帝国を重点的に見守り続けていたんだよな。
その古き時代を取り戻そうというのが、《治癒神神聖教団》の考えということか。
そして現在、その教団のトップに立つ極悪人こそが──。
「やあ、二人とも♡ やっぱり障害を突破してきたか」
祭壇の前に立つ、現《治癒神神聖教団》の最高責任者──レシアータ・バフェムが、くるりとこちらを振り向いて言った。
「教団のメンバーや、実験によって生み出した悪魔たち……。彼らを討ち破るのは簡単じゃなかったと思うけど、さすがは《∞の神》の力を受け継いでいるだけあるね♡ イラっとするほど強いわけだ。呼びだしておいて正解だったよ♠」
……やはりか。
俺たちだけを呼び寄せたのは、レシアータにとって俺たちが邪魔だったからのようだ。
教団の作戦を実行に移す前に、先んじて俺とリュシアを始末する……。これが目的だと思われる。
「レシアータ……」
「あっはっは! そう怖い顔しないでよ♡ 手紙に書いた通り、女の身体には一ミリも興味がない。あそこのシャーリー・ミロライドにはまったく触れていないからさ♪」
と言ってレシアータが手を向けた先には、壁に
「シャ、シャーリーさん……!」
思わず叫んでしまったが、レシアータの言う通り、酷い傷を負わされたわけではなさそうだな。激戦の末に敗北し、そのまま壁に捕らえられたような──そんな様子が伝わってくる。
とはいえ、彼女は気絶しているようだからな。
一刻も早く連れて帰って、念のため医者に診てもらわねばならないだろう。
そして──気になるのはシャーリーだけじゃない。
「レシアータ・バフェム! パパが──ディスティーダ団長が〝治癒神に会いに行った〟こともわかっています! これまでの言動も含めて、あなたなら何か知っているでしょう!」
「おや……?」
リュシアの大声を受けて、レシアータがわずかながら目を見開く。
「こりゃ驚いたねぇ。十年前は僕を見ただけですっかり怯えきっていたのに……まさか君のほうから啖呵を切ってくるなんてね。アルフ君と一緒にいて、君自身も見違えるほどに成長したわけだ♠」
「はぐらかさないでください! 質問してるのはこっちのほうです!」
そう言って、リュシアはレシアータにハルバードの切っ先を向ける。
国境門や街中で相対してきたレシアータは思念体の姿だったが、今目の前にいるこいつは紛れもなく実体。
ここでリュシアが攻撃を仕掛けたら、レシアータにも看過できぬダメージが通るだろう。
「はははは、そう怒らないでくれよ。君から言われなくても、僕のほうから《感動の再会》のシナリオを用意していたんだからさ♪」
「感動の、再会……?」
「そうそう♡ まあ、説明するより見たほうが早いでしょ。ほ〜ら♪」
そう言いつつ、レシアータがパチンと指を鳴らす。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……! と。
重々しい音をたてながら、壁面の一部が横にずれていく。どうやら壁の一部が〝隠し扉〟になっていたようだな。
そして、その壁面の奥にいた人物こそが──。
「リュ、リュシア……? リュシアなのか……?」
「え? パ、パパ……!?」
──そう。
最強の傭兵団、《闇夜の黒獅子》団長……ディスティーダ・エムリオット。
かつて俺の父でさえ怖れていた傭兵が、目の前にいたのである。
「パパ、パパぁ────────!」
一気に緊張の糸が切れたのかもしれない。
リュシアは一目散にディスティーダのもとに駆け寄り、その胸に抱き着く。