──二時間後。

「ふう、ひとまずは落ち着いたか……!」

 広場にあるベンチにて、俺は青年と共に腰を落ち着けていた。

 近くではリュシアや他の住民たち、休憩中の医者も寛いでいる。

「本当に助かったよ。アールくん、と言ったっけか。医療にはたずさわっていないというが、すごい的確に指示振りをしてくれたみたいじゃないか」

 自身の汗を拭いながら、青年が朗らかな笑みを浮かべて俺の背を叩く。

「たしか君は、さっきの襲撃時も兵士たちと戦ってくれてたよね。僕より若いのに、なんでもできるじゃないか」

「いえいえ、買いかぶりすぎですよ」

 やはり新能力の「管理画面《ステータス》の表示」はかなり役に立ってくれた。

 頭上に表示されている横線の長さを見て、軽症者か重傷者かを判断する……。このようにして負傷者たちを振り分けていったおかげで、医者たちもスムーズに診察できたようだ。医療現場では特に、診察に要するまでの時間が生死を分けるだろうしな。

 今回は特殊なケースではあるものの、これは戦闘でも役立つ能力だと言えるだろう。

 敵に囲まれた時、残り体力の少ない魔物から蹴散らしていくとか──今まではできなかったような、新しい戦い方ができると思われる。

「ふふ、でも実際に助かったよ。君のおかげで救われた命はいくつもある。私からも礼を言わせてくれたまえ」

 次にそう告げてきたのは、白衣を纏った医者だった。

「やはり世界を救った英雄なだけあって、立派な洞察力と勇気を持ち合わせているようだね。ヴァルムンド王国出身──アルフ・レイフォート君」

「えっ…………」

 思わぬ発言に、俺は思わず目を丸くする。

「ははは……。気づかれていましたか」

「当然だろう? 君は我が国を救った英雄でもあるからね」

 そう言って快活な笑みを浮かべる医者。

 いや──彼だけではない。

 この場にいる人たちも最初からわかっていたのか、俺の名前を聞いても誰一人として動じていない。さっき俺に声をかけてきた住民だって、完全に俺の正体を悟っていたからな。

「す、すみません。余計なトラブルが起きたら大変なので、念のため変装してただけなんですが……」

「わかってるさ。君は死者たちに勇敢に立ち向かっただけじゃなく、今も帝都の復興に手を貸してくれている……。ここまでしてくれた人物を突き放すなんて、僕たちはそんな冷たい人間じゃないよ」

「…………」

「もちろん、今の国際情勢は大変ではあるけどね。──でも、少なくとも僕らは君を歓迎したいと思っている。このことに嘘はないよ」

「あ…………」

 マ、マジか……。

 かのフェルドリア国王は、完全にルズベルト帝国を滅ぼそうとしていたのに……。一歩間違えば、この国そのものがなくなっていたはずなのに……。

 それでも俺を迎え入れてくれるなんて、どれだけ心が広いんだ。

「すまないな、アルフ・レイフォートよ」

 戸惑っている俺に向けて、今度は別の人物が声をかけてきた。

 銀色のかっちゅうを身に纏った兵士──おそらく、さっき皇城の手前を警護していた人物だ。

「我々のそんな態度に、先ほどは不快な思いをしたかもしれんが……。まあ、あれも職務上必要なものでな。ルズベルト国内において、貴殿を悪く思っている者はそうおらんだろうよ。その点はどうか安心していただきたい」

「そ、そうなんですか……?」

「うむ。変装もする必要はないだろう」

 こりゃ驚いた。

 たしかにフレイヤ神を倒したっていう功績はあれど、こんなにも温かく受け入れてもらえるなんてな……。

 おそらくだが、これが帝国の国民性なんだと思う。

 辛い現実にただ打ちのめされるんじゃなくて、自分たちでもできることを考えて……。苦しんでいる人がいたら、国任せにするのではなく、率先して自分から助けにいって……。

 そうした温かい国民性があるからこそ、俺を受け入れることさえできるんだろうな。

「リュシアちゃん、違うの。それはここが食べられるんだよ!」

「ええええ〜〜〜!? その発想はなかったです!」

「あらあ。リュシアちゃん、レッショウガニって食べたことないの?」

「はいっ! ずっと里暮らしでしたから!」

「へぇ〜! 里暮らしってどんな感じなの?」

 見れば、リュシアも無事に住民たちと打ち解けているようだな。

 彼女はかなり純朴な性格だから、人と仲良くなるのも早いのだろう。

「そうですね! だいたい剣と銃を振り回してます!」

「へ、へぇ……! なんか思ってたのと違うわね」

 ……純朴すぎるがゆえに、空気が読めないのは玉にキズか。

 まあ、それでも住民たちは彼女を受け入れているようだし、特に問題ないだろう。

「皆さ〜ん! 聞いてくださ〜い!」

 と。

 中年の女性が広場へ走り寄ってくるなり、俺たちに向けて大きな声を張った。

「復興を手伝ってくれた皆さんへのお礼にと、都長がおいしい炊き出しを用意してくれました〜! ぜひお越しください〜〜〜!」

「おおっ、いいね! 炊き出しか!」

「わぁぁああ! なんかおいしそうな匂いすると思ったんだよね」

 一気に湧き出す住民たち。

 たしかにぶっ通しの作業で結構疲れたし、ここで食事をいただけるのはかなり助かるよな。

「さあアルフ、君も一緒に行こう」

「は、はい。ありがとうございます…………!」

 大勢の住民たちに囲まれながら、俺とリュシアは炊き出し会場へ向かうのだった。


 ──その日の夜。

「すう……すう……」

 宿に戻ってきた俺とリュシアは、その日の疲れを癒すべく、それぞれのベッドで横になっていた。

 時刻はもう二十三時。

「むにゃむにゃ……パパ……ママ……」

 可愛らしい寝言を口にしながら寝返りをうつリュシア。

 今日もいろいろあったからな。

 彼女もさぞ疲れていることだろう。

 ──べ、別に、一緒のベッドで寝たいとは思ってないですからね!?──

 急にこんなことを言い出した時はどうしようかと思ったが、今はすっかり静かなものだ。

「…………」

 俺もベッドで寝返りをうちながら、今後の動きについて考える。

 住民たちに受け入れてもらえたおかげで、帝都ではだいぶ動きやすくなった。

 シャーリーもレシアータの動向を探ってくれていることだし、明日以降は、俺たちのほうでも聞き込み調査を行ってみるか……?

 今日の様子だと、きっと協力的に応じてもらえそうだしな。

 これも悪くない選択肢だろう。

「すや……すや……。パパ、早く、帰って、きて……」

 隣のベッドでは、リュシアが切なげな寝言を喋っている。

「…………」

 やっぱり、彼女にとっては気が気じゃないよな。

 今日はたっぷり英気を養って、また明日以降、しっかりと活動していくとしよう。一刻も早くレシアータを倒し、ディスティーダ団長を見つけだすために。

 そう考えながら、俺も眠りにつくのだった。