「すげぇなぁ、小さいのになんて働き者なんだ……」

「はいっ! これくらいのことは里でやり慣れてますから!」

 数時間後。

 住民たちに合流した俺たちは、ひとまず資材の運び出しから行うことにした。

 まずは負傷者の手当てが最優先だからな。

 ──一つでも多く仮設テントを作成し、負傷者を安静にさせる。そしてその上で、医療従事者たちに治療を任せる──。

 今はこのような流れになっているようだった。

 だからまずは、その第一段階たる仮説テントの建設を、俺たちが手伝っている形である。

 たぶん、人並み以上に訓練してきたことが大きいんだろうな。俺もリュシアも、人並み以上の体力にまかせてテキパキ動くことができている。

 特にリュシアはまだ十五歳なのに、重い資材を軽々と持ち上げているわけだしな。

 住民たちに驚かれるのもごく当然のことと言えた。

「はは、アンタだって若いのに頑張ってるじゃないか。ひょっとして兵士より力持ちなんじゃないかい?」

 と。

 俺も資材を運んでいる最中、住民にそう声をかけられることがあった。

「いえいえ、そんな恐れ多いですよ。……中には、怪我してるのに復興を手伝ってる人もいるみたいだし」

「まあね。私たちルズベルト帝国の人間は、ずっと昔からそうしてきた。困ってる人がいたら手を差し伸べよ、ってね」

「はは……。そうでしたか」

 なんだ。

 今の言い方、なんだか俺の出自に気づいていそうな気がするが……。

「そういう意味じゃ、アンタも私たちと同じってことさね。みのない帝都の人のために、こうやって手を貸してくれてんだから」

「は、ははは……」

 こりゃ確定だな。

 この人は俺の出身を気づいてはいるものの、そのうえで受け入れてくれている。

「だから感謝するよ。私たちを助けてくれてね」

「いやいや……、とんでもないことです」

 ……ほんと、俺たちヴァルムンド王国の住人とさして変わらないよな。

 この住民だって、王都によくいる〝お節介おばさん〟と同じようなもの。はじめから距離を置く必要なんてなかったんじゃないかと、少しずつ思い始めていた。

 その後も、俺とリュシアは資材運びを続行し──。

 ひとまず休憩時間となったところで、俺はふと思い出したことがあった。


 ◎現在使えるチートアビリティ一覧


 ・神聖魔法 全使用可

 ・ヘイト操作

 ・煉獄剣の使用可

 ・無限剣の使用可

 ・管理画面《ステータス》の表示

 ・攻撃力の操作



 現在使える能力の中で、たしか「管理画面《ステータス》の表示」だけ使ったことがないんだよな。

 管理画面、そしてステータス……。

 この言葉の意味を何度か考えてみたが、ぜんとしてわからないままだ。

 先に手に入れた《ヘイト操作》も最初は意味がわからなかったし、今回も一度使ってみるまでは、効果がわからないかもしれないな。

「アル……アールさん、どうしたんですか?」

 一緒にベンチに座っているリュシアが、げんそうにそう訊ねてきた。

「いや、せっかくだから試したいことがあってね。念のため、俺から離れてもらえるか?」

「え…………? い、いいですけど」

「すまない。助かるよ」

 リュシアが数歩離れたのを確認し、俺は胸中でこう唱えた。

 ──能力発動、管理画面《ステータス》の表示──

「おっと……?」

 瞬間、俺の視界に見慣れぬものが表示された。

 なんだろう……うまく表現できないが、人々の頭上に〝横線〟が浮かんでいるように見えるのだ。そしてその横線の長さは、人によってまるで違う。

 特にリュシアの頭上にある横線は、他人と比べてだいぶ長そうだな。

「リュシア。今、自分の頭上に横線が浮かんでるのが見えるか?」

「へ? よ、横線ですか?」

 不思議そうな表情を浮かべるリュシア。

 顔を上に向けるも、得心のいかなそうな表情だった。

「い、いえ……。何も見えませんけど」

「そっか……。すまない、ありがとう」

 となると、やはりこの横線は俺だけに見えているようだな。

 つまり、これが《ステータス》っていうやつなのだろうか……? いまいち理解が及ばない。

 と。

「はぁ、はぁ……と、到着しました……! ひとまず、どの方からましょうか……?」

「すみません。今、なかなか混乱してまして……。ひとまず、あちらのテントに集めている重傷者から診てもらえると……」

「へ? し、しかし、別のテントではより重傷の方がいたような……」

「あ、そうでしたか……! すみません、私たち素人しろうとで……」

 これは仮説テントで行われたやり取りだ。

 おそらく遠方から医者が駆けつけてきて、状況を確認していたところだと思われる。

 だが、やはり医療には詳しくない者が多いんだろうな。軽傷者と重傷者をうまく分けることができず、かなり混乱している様子が伝わってくる。

 もちろん、俺とて医学にはてんで詳しくないからな。

 ここは余計な口出しをするまいと思っていたのだが……。

「ん…………?」

 テントの奥に視線を向けると、やはり患者の頭上にも横線が浮かんでいる。

 外にいる者たちと比べてその横線は極めて短く、さっきテントに入っていった医者は、その横線が短い者から優先して診察しているようだった。

「ま、まさか……」

 俺の予想が正しければ、この横線が意味しているものは……。

「あ、あの、アールさん、本当にどうしたんですか……?」

「しっ。すまないがちょっと集中させてほしい」

 その後もしばらく医者の動きを観察していたが、やはり間違いなさそうだ。

 頭上の横線が示しているのは、おそらく残りの体力。

 これが短ければ短いほど、急を要する事態に陥っているとみるのが自然だろう。

「ほいっさ、ほいっさ……」

「えっと〜、この方はどのテントに運べばいいですかね……?」

 そして今も、タンカに乗せられた負傷者たちが運ばれてきた。

 見ただけで重傷者とわかる場合ならいいが、やはり素人である以上、そのあたりを正確に判断できていなさそうだ。

 今も横線が残りわずかな負傷者を軽症者と見なしているようだ。

「ひとまず、軽症者のテントへ連れていってください。辛そうですが、もっと多くのお医者さんを呼んでいますので……」

 残念ながら治療優先度を判別できる医者は、重傷者の治療に専念していてこちらに力を割く余裕はない。

 このままでは状況がさらに混乱しそうだ。

「あの、すみません。よろしければその役割、俺が代わりましょうか?」

「へ…………?」

 さっきまで指示振りをしていた青年に声をかけると、案の定、目を丸くされた。

「なんだい君は。医療従事者かい?」

「いえ、そうではないですけど……。でも、あなたもずっとここに立ちっぱなしでお辛いのではないですか?」

「む…………」

 図星だったのか、青年が口を閉ざす。

「医療従事者じゃないとは言いましたが、まったく何もわからないわけではありません。どうかお手伝いさせてください」

「ふむ、わかった。今は猫の手も借りたいところだしな、むしろ助かるよ」

「ありがとうございます。精一杯頑張りますんで……!」

 そう言って、俺はこの新能力を有効活用し、重傷者と軽症者をうまく振り分けていくのだった。