第三章 揺るがぬ決意とともに



「そういえば、皆さんのためにおいしいお菓子を用意してきましたよ♪」

 宿の部屋に入った途端、シャーリーが両手を重ね合わせ、ほがらかな声を発した。

「外は今大変な状況ですが、私たちまで暗くなっては仕方ありません。今後に備える意味でも、ぜひ今のうちに英気を養っておきましょう♡」

 と言ってシャーリーがバッグから取り出したのは、茶色い板状の物体。

 銀色の紙でその板を包んでいるようだが、あれはいったい……?

「ふふ、初めて見ますよね? 実はこれ、異国で最近開発されたチョコレートというお菓子です」

「チョ、チョコレート……?」

「はい。液状のスイートチョコレートに濃縮ミルクを入れ、その後に長時間冷やすんです。そうすると、ミルクの成分に変化が生じ、固形物になる……。それがこのチョコレートです」

「は、はあ……」

 詳しく解説されても、俺は料理人でも研究者でもないからな。

 専門的なことは全然わからないが、一つはっきりしていることは、そのチョコレートなるものが新しい食べ物であるということか。

「ふふ、不思議そうな顔をしていらっしゃいますね。……では言い方を変えましょう。これは世界各国の富豪がいくらお金を積んでも簡単には手に入らない、幻のお菓子であると」

「えっ…………!?

「でも、そんなことより今は英気を養うことのほうが重要ですからね。どうぞ遠慮なくお食べください♪」

 言うなり、ひょいっと板チョコレートを軽く投げてくるシャーリー。

「わ、わわわわっ!」

 俺は慌てて両手を差し出すと、すんでのところでチョコレートをキャッチ。危うく幻のお菓子を地面に落下させることだけは避けられた。

「な、何するんですかシャーリーさん! そんなことして、チョコレートが割れたらどうするんですか!」

「ふふ、大丈夫ですよ♡ アルフ様ならしっかりキャッチしてくれると思ってましたし……それに、こうでもしないと受け取ってくれないでしょうから」

「だからって投げることはないでしょうに……」

 まあこれがシャーリーらしいといえばシャーリーらしいか。

 初めてムルミア村を訪れた時も、いきなり家に押しかけてきてはサンドイッチを振る舞ってくれたんだよな。しかもその時も、王家でさえ滅多に手に入らないという調味料を使ってくれて……。

 今思えば、無限神教の教皇ゆえに、世界各地に出向くことが多いのかもしれないな。

 今回のチョコレートだって、異国で最近できたばかりのお菓子だっていうし。

「はぁ……」

 俺は深くため息を吐くと、ちらと背後に視線を向ける。

「…………」

 そこには、ベッドの上でちょこんと両膝を抱えているリュシア・エムリオットの姿があった。

 視線も完全に下を向いており、酷く塞ぎ込んでいる様子が見て取れる。

「……リュシア、どうだ。一緒に食べないか。おいしいらしいぞ」

「…………」

 返事なし──か。

 彼女と出会ってまだ二日くらいだが、その間ずっと素直に俺に付き添ってくれた。

 ちょっと抜けているところはあれど、それでも純粋に、真っすぐに、団長と再会するために頑張り続けていた。

 そんな彼女がこんなにも落ち込んでしまうとは……さっきの件がよほどショックだったんだろうな。

 ……無理もない。

 あのレシアータが、昔〝施設〟で自分を痛めつけてきた張本人で。

 今度はなんと、そのレシアータが自分の父親にさえも手を出している──。

 彼女の半生を思えば、このことに衝撃を受けないわけがないんだよな。

「ごめんなさい、アルフさん……。今はまだ、ちょっとその元気がなくて……」

「……いや、俺のほうこそ申し訳ない。調子出ない時は、無理しなくてもいいからな」

「…………」

 俺はそう言うと、シャーリーに振り向いて言った。

「できれば、このチョコレートはリュシアと一緒に食べたいです。それで腐ったりはしないですかね?」

「はい……そうですね。それなりに日持ちすると思います」

 シャーリーもまた、今回は大人しく引き下がってくれるようだった。

「そんなに暖かくもないですしね、ルズベルト帝国は」

「ありがとうございます。今回はすみませんが、後で食べることにしますね」

「ふふ……食べ終わりましたら、ぜひ感想を聞かせてください」

 そう言って控えめに笑うシャーリー。

 リュシアのことを気遣ってくれているのかもしれないな。

 ……できればこのままそっとしておきたいところだが、しかし事態は急を要する。国境門でのレシアータの思想や口ぶりからすると、よからぬことを考えているのは間違いないからな。


 ──だからさ、僕が代わりに開戦のきっかけを作りにきてあげたんだ♠ そこにいる彼がラミアからの差し金だっていうんなら、ちょうどいいんじゃない?──


 ただでさえ微妙な世界情勢で、さらに厄介なことをされてしまっては困る。

 最悪、またしても全面戦争に突入してしまう可能性さえあるだろう。

 だからリュシアには申し訳ないが、ここは今のうちに、シャーリーと情報共有させてもらうことにする。

「ふふふ……。アルフ様、いろいろと聞きたそうなお顔ですね」

 その気持ちが表情に出ていたのだろう。

 俺のほうから切り出す前に、シャーリーに機先を制されてしまった。

「いいですよ。私たち無限神教にとっても、邪神の力を放っておくわけにはいきません。お互いに情報を共有していけると助かります」

「はは……。本当に敵いませんね、シャーリーさんには」

 俺は後頭部を掻いて苦笑を浮かべると、数秒だけリュシアに視線を向け──さっそく本題を切り出した。

「真っ先に聞きたいのは……他でもありません。あの謎の男、レシアータ・バフェムの正体についてです」

 俺たちの会話が気になるのだろう。

 リュシアの背中が、一瞬だけびくっとしたのを俺は見逃さなかった。

「ええ……わかりました」

 俺の言葉を受けて、シャーリーがこくりと頷く。

「アルフ様が帝国に来てから、まだ二日目くらいだと思いますが……それでも、あのレシアータという男の恐ろしさを思い知らされたようですね」

「ええ……。それはもう、痛いほどに」

「わかります。私もまた、あれほど胸糞悪い人物に会ったことはありませんよ」

 シャーリーはそこで一拍置くと、俺の目を見つめて質問に答え始めた。

 ──しんしんせいきょうだん

 今から十年ほど前、レシアータはこのような教団に属していたのだという。

 その名の通り、邪神たる治癒神を異常なまでに崇めつつ、政治思想的にもかなり右にかたよった危険集団……。

 このように認識されている教団だったらしい。

「アルフ様が倒したフレイヤ神と違い、治癒神はその神体を完全に失っていました。ご存じの通り、《∞の神》によって完全に消滅させられた形ですね」

「え……。でも、当時の人々は治癒神の神体をかくまったりしなかったんですか?」

「やろうとはしたそうです。ですが当時のルズベルト帝国は、治癒神の回復力に強く依存していましたからね。その治癒神がいなくなったからこそ、皮肉なことに、まともに治癒魔法を扱える人がいなかったんです」

「な、なるほど……」

「ですから《∞の神》との戦闘を経て、治癒神そのものは完全に死亡しました。ですが人間の欲というのは、時に強烈な妄執を生み出すもの……。たとえ治癒神は蘇らせられなくても、せめてその力だけは再現しようとしたんです。その先頭に立った教団こそが──前述の《治癒神神聖教団》でした」

「……そうか、そういうことでしたか……」

 レシアータはさっき、おそるべき力を用いて死者の傷を癒していった。

 なんとも人間離れした所業ではあったが──あれこそ、まさに治癒神の力を再現していたというわけか。

 そんな思索を巡らせていると、シャーリーが続いて口を開いた。

「ですが、治癒神とて〝神の領域〟に立つ存在。人間がいくら努力し続けてきたとて、簡単にはその領域には辿り着けないはずですが……」

「──レシアータの振るっていた力を見るに、もはや治癒神の力そのものを手に入れつつある。……そういうわけですね」

「ええ、そういうことになります」

 そう答えるシャーリーの表情からは、心なしか憂いの感情が読み取れた。

「人類が誕生する、はるか前を生きていたとされる神様たち……。その力を再現することはとても難しく、私たちでさえ《∞の神》の力を完全には解明できていないというのに……」

「…………」

 しかして、かの《治癒神神聖教団》はそれを突き止めてしまったわけか。

 あの執行部が言っていたように、たしかにすさまじいまでの妄執を感じるな。

 いや。

 もしかすれば、こんなにも早く治癒神の力を再現できたのは──。

「あ、あの。ちょっといいですか……?」

 と。

 俺が黙りこくっていると、ふいにリュシアが会話に割り込んできた。

 まだ完全には立ち直っていないようで、酷く身を縮こまらせているな。しかもそれだけじゃなく、小刻みに全身を震わせている。

 つまりはそれだけ──あの男レシアータに酷い目に遭わされてきたのかもしれない。

「リュシア……、もう大丈夫なのか?」

「はい。まだあの人は怖いですが、でも、せめて、お二人の力にはなりたくて……」

「リ、リュシア……」

 ほんとに強いだな、リュシアは。

 彼女にとって、あのレシアータはトラウマそのものであるはず。それでもただ引きこもっているだけじゃなく、しっかりと前へと進もうとしているとは……。

 その強さは、当然俺も見習うべきだよな。

「えっと……。重い話で申し訳ないんですけど……」

 リュシアは自身の片腕をさすりながら、思い出すようにぽつぽつと語り始めた。

「施設の中で、私が酷い暴力を受けていた時……。あの人は、ずっと私に変な魔法をかけ続けていました。あの人はそれを《実験》と言ってて……。毎回その質に差はありましたが、回復魔法であることはたしかでした」

「なるほど……。そうでしたか」

 彼女の話を受けて、シャーリーが神妙に頷く。

「ちなみにですが、他にも同様の目に遭っている子がいたかはわかりますか?」

「はい。私と同じように、みんな、殴られ続けては回復されて……。その繰り返しだったようです」

「……そうですか。辛いことを思い出させてしまいましたね。申し訳ございません」

 ぺこりと丁寧にお辞儀をするシャーリーだが、その瞳は怒りに燃えていた。

 そりゃそうだよな。

 こんな胸糞悪い話、俺も聞いていてが出そうである。

 本来、人間が辿り着けないはずの〝神の領域〟──。

 ごく短い間で《治癒神神聖教団》がそこに辿り着いたのには、裏でこうしたせいさんな実験を繰り返していたからだろう。

 良識ある人間がためらうような悪事でさえ、実験のためなら軽々とやってのけて──。

 その妄執の果てに、今、治癒神の力を再現しようとしているのだ。

「こほん」

 降りてきた沈黙を振り払うかのように、シャーリーがそう切り出した。

「当然、そのような悪事をルズベルト帝国が放っておくわけがありません。政治的な思惑もありつつ、十年前、《治癒神神聖教団》の掃討作戦が繰り広げられたと聞いています」

「はい。そして当時その作戦の矢面に立っていたのが、《闇夜の黒獅子》という傭兵団……そして私のパパ、ディスティーダ・エムリオット団長でした」

 きっと、気のせいではないだろう。

《闇夜の黒獅子》について語りだした瞬間、リュシアの表情が柔らかくなったのは。

「あの時のパパたちは本当にかっこよかったです。さんざん私を痛めつけてきた人たちを、なんの苦労もなく倒していって……。私以外の子どもにも、優しい表情で手を差し伸べてくれて……。それを見て、この人たちみたいに強くなりたいなって……そう思ったんです」

 自身の胸に手を当て、少し誇らしそうにそう語るリュシア。

「だから、パパや団員のみんなは、私の目標なんです。まだまだ未熟者で、すぐカッとなっちゃう私だけれど……いつか、パパのように強くなりたいって。将来は、昔の私のように困っている子どもたちを救っていきたいって……」

「リュシア……」

 すごい。

 本当に立派なものだと思う。

 俺も昔から剣一筋で生きてきたが、幼い時から一心不乱に努力できる者は周りにいなかった。剣帝の息子として生まれたベルダでさえ、修行の時にはなまけてばかりだったからな。

 幼少期に味わった辛い経験が、今の強いリュシアを作り出しているのかもしれない。

「でも……! でもっ……!」

 と。

 さっきまで誇らしげな表情を浮かべていたリュシアが、ふいに両の拳をぎゅっと握り締める。

「そんな私の憧れの人たちでさえ、またあのレシアータって人が奪おうとしてる。そんなの、許せない……! 許せるはずがないっ!!

「ああ……そうだよな」

 ──レシアータ・バフェム。

 怪しげな妖術を使うだけじゃなく、なかなかに悪知恵も働きそうな男だからな。

 十年前の掃討作戦をうまく切り抜けて、《治癒神神聖教団》の残党として行動していてもおかしくないだろう。

 今回ディスティーダ団長を呼び寄せたのも、過去の復讐という目的があるかもしれないな。

「シャーリーさん。今の《治癒神神聖教団》の状態について、何か知っていることはありますか?」

「ええ、もちろんです」

 そう言うと、シャーリーは両目を閉じ、記憶を辿るように語り始めた。

「現在の最高幹部は、もちろんレシアータ・バフェム。他にも、掃討作戦から逃げのびた構成員や、新しく取り込んだ構成員もいることが確認できています。総勢で五十名ほどでしょう」

「五十名……」

 その数だけ聞くとたいしたことなさそうに思えるが、もちろん油断はできない。

 何しろ、あのレシアータは治癒神の力をほぼ再現できる状態だからな。

 さっき帝都が襲撃された時と同じように、数え尽くせないほどの死者を操ってくる可能性もある。中には剣王のような強敵もいるだろうし、まったくあなどれる相手ではない。

 さらに、その死者たちを無限に蘇らせられる可能性を考えれば──。

 率直に言って、かのフレイヤ神よりも厄介な相手だと言えるかもしれない。

 単純な戦闘力だけならフレイヤ神のほうが上かもしれないが、今回の場合は、それ以外にも手こずりそうな要素がたくさんあるからな。

 だが──それでも俺は戦わねばならない。

 レシアータの目的が「ヴァルムンド王国との全面衝突」にある以上、さすがに放っておくことはできないからな。

 そして。

「リュシア。今の話を聞いた上で……それでも、レシアータに立ち向かっていくか?」

「はい……! もちろんです」

 俺の問いかけに対し、リュシアは決然と言い放つ。

「正直まだあの人のことは怖いですけど、ここで逃げるわけにはいきません。かつて私を救ってくれたパパたちを、今度は、私がこの手で救ってみせるんです……!!

「ああ、わかった。その意気なら大丈夫そうだな」

 これまでの戦闘で、彼女の突出した強さはわかっている。

 きっと戦場でも頼りになるだろうし、ディスティーダ団長を想うその気持ちは、きっとレシアータと戦う際の原動力になると思う。

「安心してくれ。ディスティーダ団長ほどは頼もしくないかもしれないが、俺だってリュシアを精一杯守ってみせる。アルフ・レイフォートの名に誓って、絶対にレシアータの好きにはさせないさ」

 そう言って、俺はリュシアの頭を優しくでてみせた。

 女の子に気安く触るものではないが、これで少しでも元気を出してほしいという、俺からの激励だった。

「あ…………」

 なんだろう。

 リュシアがそこで目を大きく見開いた。

「えへへ……。なんでしょう、この気持ち……。パパとはちょっと違うんですが、なんだかすっごく安心します……」

「はは……、さすがにディスティーダ団長と比べられたら困るな」

 苦笑を浮かべつつ立ち上がり、俺はテーブルに置いていたチョコレートをリュシアに差し出す。

「良かったら、一緒に食べよう。シャーリーさんがわざわざ持ってきてくれたんだ、きっととびきりに美味いぞ」

「うふ♡ ただの直感ですけど、リュシアちゃんはきっとハマると思います♪ 特に女の子に大人気ですからね、チョコレートは」

「えっ……、そうなんですか?」

 少し興味が出てきたのか、不思議そうに銀紙を剥いたチョコレートを眺めるリュシア。

 その後数秒だけ間を置くと、パキッと小気味良い音をたてながら、そのチョコレートを食べ始めた。

「…………!!

 瞬間、彼女の目が大きく見開かれる。

「おひはい! ひょっほふおあひいてふよ!」

「はは。よく聞き取れなかったが、ニュアンスはなんとなく伝わってきたよ」

 たぶんだが、『おいしい! すっごくおいしいですよ!』と言っていたんだと思う。あくまで推察に過ぎないが。

 その後もリュシアは夢中でチョコレートを食べ続け、あっという間に平らげてしまった。

「すごい……。こんなにおいしいお菓子が、この世に存在していたなんて」

 ちなみに俺もリュシアと一緒に食べてみたが、たしかにめちゃめちゃ美味いな。

 とろけるような甘みがありながら、それでいて甘すぎることもない。パキっとやや食感が固いのも好印象だった。

「ふふ、気に入っていただけて何よりです♡ ヴァルムンド王国やルズベルト帝国にはまだ普及されていませんから、また折を見て持ってきますね♪」

 シャーリーもまた、両手のひらを合わせて喜びを表現していた。

「アルフ様もリュシアちゃんも十分にお強いですけど、やっぱり、戦うことってそれだけで神経を使いますから。頑張った後は、よく休んで、よく食べる。これが大事だと思います♪」

「はは……、たしかにそうですね」

 さすがは無限神教のトップ、といったところか。

 わざわざ希少なお菓子を持ってきてくれたのも、こうして俺たちの英気を養うためだったのだろう。

「…………じ〜」

 と。

 今のやり取りを見て何か思うところがあったのか、リュシアが俺とシャーリーを不思議そうに見つめている。

「ん? どうしたんだ、リュシア」

「いえ……。今までなんとなくスルーしてきましたけど、お二人ってどういう関係なのかなって。特にシャーリーさんなんて、アルフさんに様付けしてますし……」

「あらあらあら♡ リュシアちゃん、私たちの〝大人の関係〟が気になるんですか?」

「ふえっ!? お、大人の関係ですか!?

 そこでかあっと頬を赤らめるリュシア。

「いやいやいや、何言ってんですかシャーリーさん……! 教育に悪いこと言わないでくださいよ……!」

 ほんと、油断も隙もあったもんじゃないな。

 この危機的状況においても、シャーリーはシャーリーということか。

「はぁぁああ、いいですね♡ ちょっとまだ純朴そうですが、少しずつ性を意識し始めるお年頃……。アルフ様のことが気になってるんですか?」

「え……? そ、そうなんですかね? さっき頭を撫でられた時、胸がキュンってしたんですけど……そういうことでしょうか? こんな気持ち、パパや団員さんからは感じたことがなくて……。わかんないんです」

「わ〜♡ そうです、そういうことですよ♡」

「ほ、本人の前でそういう話を始めないでくださいっ!!

 思わず大きな声をあげてしまう俺。

 まさか俺を目の前にして、俺に関わる恋愛話をするとは……。

 それを聞かされる身にもなってほしいものである。

「へ? アルフさん、なんでそんなに顔赤いんですか?」

「リュシアもこれ以上この話を掘らんでいい!」

 こりゃあ厄介だぞ。

 出会った当初は異性への興味がなさそうだと思っていたリュシアだが、実際はそうではなく、興味が芽生える前のギリギリのラインに立っているようだ。

 この時期は特にせんさいだろうから、余計なことを言うもんではない。

「と、とにかく! あまり深く自己紹介できてなかったのはその通りだし、ここらで改めて、俺たちの自己紹介をしていこう!」

「うふふふ♡ あからさまに話題をらすなんて、アルフ様も可愛いところがおありですね♡」

「だからもう、これ以上あおらないでくださいって!!

 相変わらず妖艶な笑みを浮かべるシャーリーに、俺は全力のツッコミを入れるのだった。


 レシアータ・バフェム──および《治癒神神聖教団》との戦いは混迷を極めることが予想される。

 その前に、もっとお互いのことを知っておいたほうがいいのは間違いない。

 うまいこと連携を取れるようにしておけば、本来なら勝てないはずの強敵にさえ勝てるかもしれないからな。

 ということで、俺は恋愛話から逃れるために、無理やり自己紹介の時間を設けるのだった。