こうした表情がいちいちわいらしいところも反則である。

「そ、そうじゃなくて。第三王女なんだから、絶対お忙しいはずでしょう? なのにこんな所に来るなんて……」

「あら、アルフさんの家はこんなじゃありませんわ。世界を救った勇者様のお家なんですから」

 ラミアはそこまで口にすると、両手に持つバスケットを掲げた。

「勇者様には精力をつけてもらわないといけませんからね。今日の朝ごはんは私が作ります。アルフさんはぜひくつろいでいてください」

「えっ……」

 おい。

 おいおいおいおい。

 そりゃさすがにまずくないか?

 王族にめしを作らせるなんて、いくらなんでも不敬以外の何物でもない気がする。

「はぁ……。王女殿下、そのような説明ではアルフ殿も困惑されてしまうでしょう」

 と。

 ため息を吐きつつラミアの脇から姿を現したのは、カーリア・リムダス。

 たしかラミアの護衛を務めている女性兵士だな。

「別にいいじゃありませんか。私にとっては、アルフさんとの食事が一番の楽しみなんですから」

「それは存じております。私が言っているのは、そんな説明ではアルフ殿が困るということですよ」

 カーリアの言葉を受けて、ラミアがぷーっと頬をふくらませる。

 ……ああ、常識人がそばにいてくれて助かった。

 いきなり王族が家に押しかけてくるとか、マジでもうきょうがくする他ないもんな。

「それで、どうされますか? もしよろしければ、私のほうから説明いたしますが」

「いえ、大丈夫ですっ! 私にお話しさせてください!」

 ラミアは大声でそう言うと、まじまじと俺を見つめてきた。

 …………いやまあ、本当にめっちゃ可愛いんだよなラミア第三王女。

 名前を忘れたという俺の大嘘を信じたりとか、残念なところも少々あるが。

「アルフさん、あなたにお会いしたかったのは他でもありません。世界を救った勇者様に、世界各国の動向をお伝えしたくて……。朝ごはんは私が作りますから、ぜひお付き合いいただけませんか?」

「…………」

 なるほど、そういうことか。

 フェルドリア国王が暴走したことで、ヴァルムンド王国と周辺諸国の関係が怪しくなってきているのは前述した通り。だからこれ以上余計なトラブルが起きないように、俺に前もって話しておきたいことがあるのだろう。

「……朝からの来訪となり申し訳ございません、アルフ殿」

 ラミアの説明を補足するかのように、カーリアがいで口を開く。

「本当はお昼頃にお邪魔する予定だったのですが、いかんせん事情が事情ですから……。ユーシア王子殿下に話をつけて、こうしてムルミア村に足を運ばせていただいた次第です」

「はは……、大丈夫ですよ。俺としても、今後どうしようか悩んでいたところですから」

「ありがとうございます。そのように言っていただけると助かります」

「む、む〜」

 そんな俺たちのやり取りを見て、ラミアがまたも頬を膨らませる。

「カーリアって、ほんとなんでもできてすごいよね……。剣が強いだけじゃなくて、私の執事も同時にこなしてるし」

「……そんなことはありません。太陽神教の襲撃には遅れを取りましたし、それに……ラミア様も、私にはない良いところをいっぱいお持ちではありませんか」

「うん。そうかな……」

 そう言って顔を俯かせるラミア。

 ……よくわからないが、彼女も彼女でいろいろと思うところがあるのだろう。庶民の俺には推察する余地もないが。

「とりあえず、そういうことでしたら中でお話ししましょう。何もない家ではありますが、歓迎させていただきますよ」


 ちなみにだが、朝食は本当にラミア一人で作ることになった。

 手伝い(というか交代)を申し出たものの、それは断固として却下される始末。なぜか近衛このえへいたるカーリアも何も言わず、王族たる彼女をキッチンに立たせていた。

 ……本当にもう、見る人が見たら卒倒するような状況だよな。

 俺もまったく心が休まらないが、

「アルフさんのために一生懸命練習してきたんです!」

「私一人で頑張ってみせますから、どうか座っててください!」

「大丈夫です! これでも料理は得意ですから!」

 と言うものだから、さすがに手の出しようがなかった。

 なんでそんなに気合を入れているのか、俺にはまったく理解ができないけどな。

「…………」

 それでもたしかに、ラミアの腕前は本物っぽいな。

 キッチンからは香ばしい匂いが漂ってきて、それに釣られて腹の音を鳴らしてしまうほどだった。それを聞きつけたラミアは、くすっと可愛らしく笑っていた。

 ということで。

「お待たせしました! 朝ごはんの完成ですよ!」

 待つこと数十分、食卓には様々な料理が並べられることとなった。

 主食はパン。こんがり焼かれたトーストの上に、ハムと卵が乗せられているな。思ったよりも庶民的な料理で、思いがけずラミアに親近感を抱くところだった。

 ぐつぐつ煮込まれたにんじんとじゃがいも、玉ねぎが入ったコンソメスープ。

 香ばしい香りのするドレッシングがかけられた野菜サラダ。

 他にもおいしそうな料理がテーブルに所狭しと並べられていて、俺は思わずうなってしまった。

「すごい……。こう言っちゃなんですが、王族の方って自分ではあまり料理しないイメージがあったんですが……」

「ふふ、喜んでもらえたなら何よりです」

 そう言って、やっぱりめちゃめちゃ可愛い笑顔を浮かべるラミア。

 ムルミア村に来た当時、シャーリーも同じく朝食を振る舞ってくれた。

 あの時も希少な香辛料であるユリミソウを用いてくれたが、ラミアもヴァルムンドの王家に生まれし者。上述のユリミソウに限らず、他にも高価な調味料や食材を惜しげもなく料理に使用していた。

 もちろん俺も止めにかかったが、

「これくらい気にしないでください♪」

 と言って一切のちゅうちょもない始末。

 さすがは王族というべきところだが、こんな俺なんかに高級な食材を使ってもいいのかと、正直不安が拭えない。

「ごくり……」

 ということで。

 俺は生まれて初めて、王族が作ってくれた料理をしょくすことになった。

 ……いや、こんな経験をする人なんてめっにいないだろうな。

 そう思うと緊張してきたぞ。

「ど、どうかしましたか? もしかしておいしくなさそうですか?」

 俺が一人で固まっていると、ラミアが不安そうに見つめてきた。眉を八の字にして、居づらそうにモジモジしている。

「い、いや……、そういうわけじゃないんですが……」

「アルフ殿は恐縮なさっているのでしょう。平民が王家の方に料理を作らせるなど、本来ありえないことですから」

 言いよどんでいると、カーリアが俺の気持ちを代弁してくれた。

「ですがアルフ殿、ここはどうか気にせず召し上がってください。これは貴殿に心身ともにリラックスしてほしいという、王女殿下なりの気遣いでもあるのです」

「カ、カーリアさん……」

 なるほど。

 恐れ多いことには変わりないが、これも俺をいたわってくれてのことか。

 だったらここで尻ごみしていてはむしろ失礼にあたるよな。

 ……なんでカーリアは手伝おうともしなかったのか、そこだけは謎に包まれたままだが。

「では、いただきます」

 俺はそう言って両手を合わせると、まずはハムエッグの乗せられたトーストを頬張る。

「…………!」

 その瞬間、パンのサクサクした食感と、絶妙な火加減で調理されたハムエッグの味が同時に口に広がり、俺は思わず目を見開いた。

 サク、サク、と。

 さっきまでの躊躇はどこへやら、俺は無我夢中でトーストをすべて口の中に押し込んでいた。

 ラミアの腕前が高いのもあるだろうが、たぶん良質な食材を使ってくれてるんだろうな。彼女は両手でバスケットを抱えていた。そこにはたくさんの野菜や肉が入っていて……ぱっと見ではわからなかったが、相当に上質な食材だったんだろう。

 シャーリーの料理もだったが、それとはまた一線を画している気がする。

「ど、どうですか……?」

 俺がトーストを飲みこむと、ラミアが心配そうな顔つきで問いかけてきた。

「めちゃめちゃおいしいですよ!! これなら絶対お店を開けますって!」

「へ? お、お店ですか?」

 から立ち上がって興奮気味に答える俺に、ラミアが両目をぱちぱちさせる。

「はい、これくらいおいしいなら絶対──って、あ……」

 そこまで言いかけて、俺は我に返り、後頭部を掻きながら椅子に腰かけた。

「す、すみません……。王女殿下に何言ってるんだって感じですよね。つい……」

「ふふ、いえいえ。いいんですよ」

 くすくすと笑うラミア王女。

「というか、むしろそんなに恐縮しないでください。フランクに接してくれたほうが、私としても個人的に嬉しいですから」

 個人的に? どういうことだ?

「いえいえ、王女殿下に失礼はできませんから……」

「それですそれ。その王女殿下っていう呼び方、地味に寂しいんですよ。なんだか他人行儀みたいで」

「え…………」

 おいおい。

 じゃあなんて呼べばいいんだよ。

 俺が戸惑っていると、ラミアは頬に人差し指をあて、思案するような表情を浮かべてみせた。

「そうですね……。アルフさんには、普通にラミアって呼んでもらえると嬉しいです」

「なっ……! そ、そんなことできませんよ!!

「えっ……。どうしてですか?」

 再び眉を八の字にし、あからさまに悲しそうな顔になるラミア。

「だって、私たちこんなに親しいじゃないですか。なのにそんなに嫌がるなんて……もしかして、私のことお嫌いなんですか?」

「い、いえ、そういうわけじゃないんですが……」

 王女を呼び捨てとか、さすがにやばすぎるだろ。

 不敬罪どころの話じゃないんだが。

「皆さん、私が《王女だから》って理由で気を遣ってくれますけど……本当に気にしないでください。今回ここにお邪魔させてもらったのは、王国の今後を話し合うのと同時に、アルフさんと個人的に仲良くなりたいのもあるんですから」

「こ、個人的に……?」

「はい。本当は呼び捨てだけじゃなく、タメ口でお話ししてほしいんですけどね」

 そう言うラミアの表情からは、心なしかうれいの感情が読み取れた。

 ……よくわからないが、彼女も彼女なりの理由があるのかもしれないな。俺にはまったく想像がつかないが。

「アルフ殿、私からもお願いいたします」

 と。

 今まで黙っていたカーリアが、大真面目な様子で会話に入ってくる。

「私も国に仕える身ですから、王女殿下に恐縮する気持ちはとてもよくわかります。……ですがラミア王女殿下は、今回のためにお一人で料理の練習をしてこられました。アルフ殿に良い印象を持たれたいがためです」

「ちょっ、カーリア! そこまで言わないでよ!」

 顔をにして反論するラミア。

 ……なるほど、さっきカーリアが料理を手伝わなかった理由はそこか。

 なんで俺に好印象を与えようとしているのかは不明だが。

「ですからどうか、王女殿下の気持ちもんであげてください。王女殿下はもう、ずっとアルフ殿のことしか考えておられませんから」

「だ! か! ら! そこまで言わないでってば!」

「…………このままお二人だけだと話が平行線になりそうでしたので。それに嘘は言ってないではありませんか」

「も〜〜〜〜!」

「は、ははは……」

 このたんのない掛け合い、二人は本当に仲がいいんだな。

 たぶんだが、ずっと昔から距離が近かったんだと思う。

「──わかりましたよ。さすがにすぐにタメ口にするのは恐れ多いけど、そこまで言うなら、今後は呼び捨てとタメ口でいくよ。ラミア」

「あ…………!」

 そこで嬉しそうに顔をほころばせるラミア。

「はいっ、ありがとうございます! え……と、私も今日からは、呼び捨てとタメ口でいいですか?」

「はは……はい。大丈夫だよ」

「やった……! ありがとう!」

 そう言って、やはり嬉しそうに頷くラミア第三王女だった。


 さて。

 それから二十分ほどかけて、俺たちは朝食をすべてたいらげた。

「ふう……。本当においしかったよ、ラミア」

 最初に食べたトーストもめちゃくちゃ美味かったが、スープもサラダも一瞬で完食してしまうほどに美味だった。

 こう言っちゃなんだが、本当に意外だよな……。

 俺の両親だって、自分では料理なんかまったくしなかった。すべて使用人任せで、自分でフライパンを持ったこともないだろう。

 にもかかわらず、王族たるラミアがこんなに料理上手だなんて……。

 本当、人は身分によらないというべきか。

「ふふ、満足してもらえたなら良かった。こういう機会でもないと、自分の料理を振る舞うことなんてないから」

「…………」

 なんだ。

 急にカーリアが暗い表情で俯きだしたぞ。

「あの、いったいどうし──」

 だがそれについて問いかける間もなく、カーリアが王女に向かって口を開く。

「……ラミア王女殿下。そろそろ本題に入られてはいかがでしょう」

「あ、そうね。そうだったわ」

 ラミアは目を瞬かせると、バッグから一冊の古書を取り出した。

 ──《エストリア大陸の詩》。

 たしか古くから王家に保管されている書物で、未来を予言しているとしか思えない内容が記載されているんだったか。

 文章が詩にも小説にも思えるので、真相はいまだわかっていないが……。


 ──フレイヤ神の偉業、長く時を経た後世にて、広く語り継がれることとなろう──

 ──フレイヤ神の恩恵は世に繁栄をもたらすことになろう。恩恵を獲得せぬ者は神に見放されし者となろう──

 ──しかし混迷の世を救いし英雄は恩恵を授かりし者ではなく、神に見放されし者──

 ──その英雄が初めて力をけんげんさせるは、大勢の人々が住まう場所、その外れになろう──

 ──神をも超えた力に人々は恐れおののき、ある者は尊敬し、ある者はし、ある者は憎悪を抱く──

 ──しかし世界を創造せし邪神の阻止が入り、世界は死の海と化す──


 これが《エストリア大陸の詩》の一節だったな。

 フレイヤ神への信仰が世界を包み込み、《外れスキル所持者》は呪われし者として扱われることになる……。ここも含めて、文中に書いてある通りの歴史を辿っているわけだ。


 ──かつて世界を滅ぼさんとしたフレイヤ神、無限の神により、無数の剣にて封印される。その封印を解く鍵となるのは、英雄の片割れでもあり、フレイヤ神からのちょうあいを受けし者──


 そしてこの一文の通り、フレイヤ神の封印は解かれた。

 太陽神教が各地の剣を抜き、そして父ファオスや弟ベルダがかいらいとなることで、フレイヤ神が目覚めたんだよな。

「実はこの本に、前までなかったはずの文章が追加されてて……。これは絶対、アルフに伝えたいって思ったのよ」

「え……!? 文章が追加って、どういうこと……?」

「うん、何言ってるかよくわからないよね。先に、この本読んでみて」

 そう言って、ラミアは《エストリア大陸の詩》を差し出してきた。

「追加された文章はここ。前までは空白だったはずなんだけど……」

 ラミアが指差した箇所を、俺は目を細めて読み始める。


 ──かくして、英雄の手によりフレイヤ神は打ち倒されることになる──

 ──しかしながらその一方で、世界の崩壊は着々と近づきゆく──

 ──歴史の強制力は揺るがない。たとえ迷路の中途にて行き先を変えたとて、辿り着く未来はしょせん同様のもの──

 ──世界を支配せし邪神たちが再び猛威をふるい、世界を混沌の闇に包むだろう──

 ──人々は己の無力さに打ちひしがれ、絶望に呑み込まれることとなろう──


「ぐ……」

 該当の文章をすべて読んだ時、俺は思わず顔をしかめてしまった。

 なんだこの不穏な文は。

 やはり俺の見越していた通り、事態はまだ何も決着していないということか……!

「だから、第三王女として改めてお願いしにきたの。きっとこの一連の事件は、そもそも何も始まってさえいない。だからまた大勢の人たちが苦しむ前に、アルフにお願いできたらなって……」

「…………」

 王女の言葉を受けて、俺は黙り込む。

 ──謎のスキル、《∞チートアビリティ》。

 これは世界を創造せしめた《∞の神》の力が、スキルという形になって俺に託されているものだという。

 もちろん、俺ごときが世界を救えるとは思ってもいないが……。

 フレイヤ神に唯一対抗できたのがこの《∞チートアビリティ》だったことを踏まえても、俺が何もしないわけにはいかないだろう。

「わかりました、ラミア王女殿下」

 俺はラミアの目をまっすぐ見つめ、ここはあえて丁寧な口調で言葉をつむぐ。

「俺にできることは限られているとは思いますが……。これでも、《∞の神》から力を託された身。できるだけのことはやります」

「あ…………!」

 俺の言葉を受けて、ラミアが大きく目を見開く。

「ありがとう……! アルフがいてくれたら百人力だよ!」

「はは……。さすがにそれは言いすぎだと思うけど……」

 後頭部を掻いて苦笑する俺。

 彼女の笑顔が見られるだけでも、こうして決断して良かったと思えるよな。

「でも、そうするとどうしよっか。〝世界崩壊の危機〟ってなると、やっぱり隣国のルズベルト帝国のことが思い浮かぶけど……」

「そうだね。まずは帝国のことを調べたほうが──」

 ラミアがそこまで言いかけた、その瞬間。

「…………っ」

 俺はふいに異様な気配を感じ、思わず眉をひそめた。

「…………!」

 カーリアも同様の気配を感じ取ったようで、がっと椅子から立ち上がる。

「え? 何? どうしたの?」

 非戦闘員たるラミアだけが目を白黒させていたが、ここは詳しく説明している場合ではない。彼女の護衛はカーリアに任せ、俺は急いで玄関のドアを開け放った。

「わわっ!」

 そして家の前にいたのは──なんと小さな女の子だった。

「は…………?」

 思わぬ来訪者に、俺も思わず目を見開く。

 前述の通り、俺はついさっきまで〝異様な気配〟を感じていた。その気配というのは、できるだけ自身の発する気配を抑えつけ、それでいて周囲への警戒を忘れない……。いわば戦闘慣れした者の気配だったのだ。

 だが目の前にいる人間はどうだ。

 年齢はだいたい十五歳ほどで、俺よりも年下なのは明らか。

 薄紫色のショートヘアに、くりっと丸い瞳、そして純朴そうな顔つき……。幼い少女という言葉がぴったりの来訪者が、目の前に立っているのだ。

「…………」

 だが、そので立ちだけですべてを判断するのは早計だろう。

 ラミアよりも小柄なその女の子だが、なんとも巨大なハルバードを背負っている。よく見れば身体もやや筋肉質で、日頃から鍛えていることが推察できた。

 一瞬面食らったが……やはり、油断できない相手であることには変わりないだろう。

「わ、わー……! びっくりしました。あなたがアルフ・レイフォートさんですか?」

 口の前に片手をあげ、驚いたような仕草をする少女。

「……その前に、できればあんたから名乗ってほしいんだけどな」

「あ、そうでしたね。ごめんなさい」

 少女はそう言って軽く頭を下げると、自身の胸に右手を当てて口を開いた。

「私はリュシア・エムリオット。《やみくろ》に所属するようへいです」

「よ、傭兵だって……!?

 どうりで幼い割に動きが洗練されているわけだ。

 しかも《闇夜の黒獅子》といえば……!

「聞いたことがあるな。たしか、世界最強の傭兵団の一つ──だったか」

「はい。そのように呼ばれているのは知っています。ですが……」

 そこで視線を落とすリュシア。

「どうか、お願いします。このままじゃ、私……!」

「え…………」

 おいおいおい。

 いきなりどうしたんだよ。

 急に泣き始めているんだが。

「アルフさんのお力を見込んで、どうかお願いします……! ルズベルト帝国に行ったきり帰ってこなくなったパパたちを、助けてほしいんです……!!

「おわっ……!」

 急に俺の胸に飛び込んできたリュシアに、俺は終始目を白黒させるのだった。