第一章 外れスキル所持者、新たな日々を送る



 フレイヤ神を倒してから数時間後。

「おおお……!」

「あのお方が、かのアルフ・レイフォート様……!」

「なんという神聖なお力か……!!

 壇上に上がっている俺を見て、無限神教の信者たちが一斉に頭を下げる。

 そうだな……総勢で五百名ほどか。

 教皇シャーリー・ミロライドが言うには、世界各地に散らばっている信者たちは他にもまだまだいるらしいが……。

 とにもかくにも、いま俺は、大勢の信者たちに熱い声援を浴びせられていた。

「は……ははは……」

 その光景を見て、俺は苦笑を禁じえない。

 俺なんて、そんなにたいした人物じゃないんだけどな。

 それでも彼らが俺に熱狂的な視線を向けてきているのは、ひとえに《むげんチートアビリティ》というスキルのおかげだろう。

 ──《∞チートアビリティ》。

 名前だけでは能力がわかりにくいこのスキルは、俺の立場を大きく変えた。

 当時けんていの息子として期待されていた俺は、父から必ず「強力なスキル」を授かるだろうと信頼されていた。にもかかわらず俺が授かったのは、《∞チートアビリティ》という、使い勝手もわからない未知のスキル。その一方で、弟のベルダは《神聖剣》という期待通りのスキルを授かって──。

 こうしたいざこざを経て、俺は実家から勘当されることになったんだよな。

 はずれスキルを所持している者は、太陽神フレイヤのおんちょうを得ることができなかった〝呪われし者〟であり、たとえその《外れスキル所持者》と血縁関係にあろうとも、その者とは絶対に関わってはならない。

 こうした太陽神教の教えが一般的になっている現代では、親が子を捨てる光景はなんら不思議なものではない。きっと俺の他にも、外れスキルが原因で、親に捨てられた者が大勢いるだろう。

 そしてこのことに違和感を抱いたのが、ヴァルムンド王国の第三王女たるラミア・ディ・ヴァルムンド。そして無限教神の教皇たるシャーリーだ。

 彼女たちと関わるうちに、俺はこの《∞チートアビリティ》に隠されし真実があることを知る。

 それはこのスキルがかつて《∞の神》がのこしたであろうスキルであること。その《∞の神》は王国の歴史から抹消されているが、本当は世界の創造主であること。

 さらに世界的に有名な《太陽神》《治癒神》《知恵神》の三柱は、実はこの《∞の神》から世界を奪った邪神であること。

 そうした世界の真実を、俺はつい最近知ったんだよな。

 つまりこの《∞チートアビリティ》は、《∞の神》の力の結晶であり──。

 その《∞の神》を信仰している無限神教の信者たちが、俺にも強い信仰心を向けるのはある意味当然のことだった。

「そうけんそんなさらないでください。アルフさんはもう、世界を救った英雄なんですよ」

 と。

 後頭部をいて戸惑っている俺に、横から一人の女性が話しかけてきた。

 ──シャーリー・ミロライド。

 無限神教の教皇たる彼女は、大勢の信者の前でも動じることなく、いつも通りのまし顔を浮かべていた。

「お忘れになったわけではないでしょう? 世界を恐怖のどん底におとしいれた、恐るべきフレイヤ神……。一瞬にして一国を滅ぼしたあの大怪物に、アルフ様は勝ってみせたんですから」

「い、いやぁ……。それはそうなんですが……」

 シャーリーの言う通り、フレイヤ神は信じられない力を秘めていた。

 記憶に新しいところでは、やはりヴァレスト帝国の壊滅か。

 フェルドリア国王によって目覚めさせられたフレイヤ神は、その力をもって、敵対している帝国を一瞬にして火の海にしてみせたのだ。

 それのせいで世界は恐怖に染め上げられた。

 俺はそんなフレイヤ神を倒したのだから、たしかに見る者にとっては英雄に映っているかもしれないが──。

「だとしても、俺なんてたいした人間じゃないですよ。まだまだ修行不足な点もありますし……」

「ふふ、そういうけんきょなところが素敵なんですけどね♡」

「そ、そうですか……」

 駄目だ。

 何を言っても聞き入れてもらえそうにない。

「アルフ様!」

「アルフ様!」

 無限神教の信者たちもまた、俺を見上げては熱狂的に叫び続けるのみ。

 本当に疑問だよな。

 こんな俺なんかのどこがいいんだか……。

「それはさておき、アルフ様」

 俺が恐縮していると、ふいにシャーリーが表情を引き締めて言った。

「世界を救ったあなたに、ぜひお渡ししたい物がございます。……右手を出していただけませんか?」

「わ、渡したい物……?」

 オウム返しにそう呟きながら、俺は言われた通りに右手を差し出す。

 するとその手の平に、透明にきらめく宝石が乗せられた。

「お、おお……!」

「それは……!」

 信者たちはいち早く宝石の正体を感じ取ったのか、なかば興奮したように大声をあげる。

「…………?」

 だがもちろん、当の俺はこれがなんなのかわからない。

「シャ、シャーリーさん……? これは?」

「無限神教の〝執行部〟を呼びだす宝石です。彼らも厳しい特訓を受けていますから、いざという時は頼りになりますよ」

「…………」

 シャーリーがそう言っている間にも、新しい気配が複数、こちらに迫ってきた。

 あまりのスピードのため、肉眼では黒い残像が近づいてきているようにしか見えないが──。

 フレイヤ神との戦いを経て、俺も以前より実力が高まってきたのかもしれない。

「なるほど……。合計で五名。これが〝執行部〟の実力ってことですか」

「ふふ……、さすがですね」

 シャーリーがそう呟いた途端、俺の周りを五名の男が取り囲んだ。

 全員が黒装束を身にまとい、腰のあたりに後ろ手を組んでいる。まさに無駄一つない、極めて洗練された動きだった。

「もちろん、〝執行部〟はこの五名だけではありません。ご用命の際はこの宝石に念じていただけると、彼らがすぐに駆けつけてくれるでしょう」

「…………」

 なるほど。

 彼女はもう、俺がやろうとしていることを薄々察しているようだな。

 たしかに俺の目的を考えれば、助っ人が多いに越したことはない。

「ありがとうございます。有意義に活用させていただきますよ」

「ええ。私たちもまた、全面的にアルフ様を支援させていただきます。……いえ、それだけではなく、個人的にもね」

「…………」

 無限神教の教皇──シャーリー・ミロライド。

 彼女と最初に出会った時は、たしかムルミア村の冒険者仲間という関係だったよな。

 しかもすごうでのAランク冒険者でもあり、村に訪れたばかりの俺にとても良くしてくれた記憶がある。

 常時メイド服を着ていることといい、ただものではない気配は感じていたが──。

 まさか宗教団体の教皇を務めているとは、さすがに予想もしていなかったぞ。

「ふふ、そう恐縮しないでくださいな。私はあくまでシャーリー・ミロライド。素はアルフ様がよく知っている、ただのちょっとえっちなお姉さんでしかありませんから♡」

「いやいや、公衆の面前で何を言ってるんですか……」

 いつもの調子を崩さないシャーリーに、俺はやっぱりいつも通り、深くため息をくのだった。