電子書籍版特典ショートストーリー『カーラの休日』



「最近、誰かにつけられてる気がするんだよね」

 ギルドが非番の日、私はデュエラとアイヴィーを誘って、キモカワグッズのお店巡りをしていた。そんな時にふと口をついて出たのが、その一言だった。

「誰かにって……それ、本当?」

「もも、もしかして、それって今ギルドで問題になってるストーカーというものではっ!?

 ハッとした様子のデュエラに、あからさまに慌てるアイヴィー。二人は私の言葉にいつも違った反応を返してくれるから面白い。

「ストーカー……付きまとい行為のことね」

「そう。王都では度々女性が被害に遭って問題になっているんだ。つい先日も、お師匠がストーカー被害に遭ったってぼやいていたよ」

「スターが? 彼女はどうやって対処したの?」

「さぁ。二度と付きまとえないように説得したって言っていたけど」

 ……スターの説得となると、なんとなくどんなものか察せるなぁ。

「わわ、わたしのお師匠様も、ストーカー被害に遭ってましたっ」

「レイブンも? どんな対処をしたか聞いてる?」

「捕まえて王国兵に突き出したって言ってましたっ」

「なるほど。それが無難な落としどころなのかな」

 付きまとい行為は気持ち悪いけど、個人的なことで騒ぎを起こすのもギルドの信用に関わりかねないし、穏便に王国兵に突き出すくらいがちょうどよさそう。

「カーラ、まさか今も……?」

「うん。背中に視線を感じるから、たぶん」

 そう言うと、デュエラが周囲の様子を伺い始めた。

 私達がいる通りには、大勢の人が往来している。そんな中、確かに私は見られているのを感じるのだ。ねっとりとした視線――今朝からずっと感じるその視線が気になって、せっかくの休日を楽しめない。

「どど、どうしまつかっ!? 巡回中の王国兵の人に相談するとか!?

「あはは。それは大げさだよ~」

「でも、カーラさんに何かあったら……!」

「アイヴィーは心配性だなぁ。大丈夫だよ。私、これでも魔導士ウィザードだよ?」

「でもぉ~!」

 泣きそうなくらい私のことを心配してくれるアイヴィー、可愛い。

「とは言え、〈虹孔雀ニジクジャク〉の魔導士ウィザードとしては甘く見られないようにしなくちゃね」

 元王立魔導士機関ロイヤルウィザーズのハーリーン様が結成したこともあって、私達のギルド〈虹孔雀ニジクジャク〉は元々知名度が高い。それが少し前――私とカルエルがマンティコアを討伐した頃――を境に、ハーリーン様以外のギルドメンバーにも注目が集まり始めた。付きまとい行為は、ギルドメンバーの人気上昇に伴う必然とも言えるのだろう。

 しかし、日常での付きまといなんて言語道断。気持ち悪いから絶対にやめてほしい。

「カーラ! 今、向こうの建物の陰に怪しい人影が見えた」

「わわ、わたしも見ましたっ! こんな良い天気なのに、頭まですっぽりフードを被った人でした! 怪し過ぎますっ」

「視線を感じてた方向ね――」

 チラリと視線を向けると、本当に建物の陰からこっちを覗く人影が見えた。

 魔導士ウィザードは戦闘から日常生活に至るまで、見て聞いて話して感じて学ぶもの。だからこそ、非番の日でも杖だけは手放さない。

 私はポーチからそっと杖を取り出し、静かにその先端へと魔力を集中させる。

「――この場でストーカーさんを捕まえちゃおう!」

「「了解!!」」

 デュエラもアイヴィーも、視線の主に気付かれないように杖を取り出す。

「まさか非番の日に捕り物をすることになるとはね」

「友達を怖がらせるなんて許せない! あの悪党に生きてる価値なんてありません!!

「デュエラ、せっかくの休みにごめんね。アイヴィー、くれぐれもやり過ぎないようにしてね?」

 私達は三人で依頼に臨むこともあるから、息はピッタリ。街中での騒ぎを最小限に抑えるために、細心の注意を払った連携でストーカーさん(疑惑)を仕留める!!

「あれ?」

 ストーカーさん(疑惑)が足早に駆けて行ってしまった。

 ……逃げた? まさか私達が魔法を使おうとしたことに気付かれたの?

「ストーカーめ、逃げる気か! 追いかけよう!!

 デュエラを先頭に、私達とストーカーさん(疑惑)の追いかけっこが始まった。

 彼(?)は嫌に勘が良く、私達があの手この手で追い詰めようとしても追跡を躱してしまう。しばらく追いかけていたけど、その姿はチラリとしか見ていないから男か女かすらわからない。

「このぉっ! 逃がしてたまるか、悪党~~~っ!!

 そして、とうとう痺れを切らしたアイヴィーが街中で大きめな魔法を使ってしまい、ぜんぜん穏便じゃ済まない騒ぎになってしまった。

 ストーカーには逃げられるし、休日は潰れるし、なんて最悪な一日なの……!?



 巡回の王国兵さんに怒られて、私達はとぼとぼと帰宅することになった。

 せっかく三人揃って非番の日だったのに、ストーカーのせいで楽しめずに終わるなんて……。次にあの視線を感じたら、意地でも捕まえてやるんだから!

「や、やぁ。おかえり、カーラ」

 家に帰ると、頭や腕に包帯を巻いたカルエルが出迎えてくれた。

「今日はもう帰ってたんですね。……なんでそんな怪我してるんです?」

「あぇっ!? こ、これは……ちょっと仕事でミスって……っ」

「えぇ~? しっかりしてくださいよ。あなたは私の弟子なんですからね!?

「はい……」

 カルエルは苦虫を噛み潰したような顔をして、さっさと二階へと上がっていってしまった。いつもはしつこく話しかけてくるのに、今日に限ってどうしたのかな?

「変なの」

 不愉快な一日であっても、家に帰ってあの顔を見るとなぜか落ち着く不思議。ハーリーン様と暮らしていた時も同じように思ったっけ。

「誰かが家で待っていてくれるって……いいな」

 独り言ちた後、私は自然と口元が緩んでいることに気が付いた。