レイブンの号令に従い、俺達はその場に伏せた。
「……収まってきたな」
地震が小さくなってきた。
しかし、部屋の中央にある石台だけは今もガタガタと揺れ続けている。なんだか不自然な揺れ
「ヴェロニカ女史。この石台、どうなってるんです?」
「さぁ……」
石台はさらに激しく揺れ始めた。どうやらこの石台は、床に開けられた穴にすっぽり収まるような形ではめ込まれているらしい。それが今、内側から
石台がすっぽ
「きゃあああっ!!」
――表面がヌメヌメした
「なんだこいつはぁ―――っ!?」
俺が杖を抜こうとした
「先手必勝――
スターが魔法で
「やったの!?」
「いや、まだだ。気を付けろ、レイブン!!」
今の
目玉の
「こいつ、ローパーだ!!」
「ローパーだって!? これが……!」
スターの発したローパーという言葉を聞いて、俺は以前カーラが遊んでいたノリノリローパーという
「ローパー種の中でも、こいつは特に大型のグランドローパーだわ! なんでこんなモンスターがDランクダンジョンなんかに
「さぁね。でも、あたいは依頼を果たすことができそうだよ!」
「何言ってるの! こいつは野良モンスターじゃないわよ!?」
「見ろよ、レイブン。こいつの触手……見ようによっては蛇に見えるだろ?」
「た、たしかに……」
「雇い主は、こいつの触手を蛇のモンスターだと思ったんだ。ここはあたいにやらせてもらうよ。文句ないね、オッサン!?」
スターに睨まれて、俺は思わず頷き返した。
触手を蛇に
「アイヴィー、教授を連れてダンジョンから
「デュエラ! お前は王国兵の連中に事情を話して外へ連れ出せ!!」
ここは俺も師匠のカーラにビシッと命令を出してもらいたい。……だが、いつまで経ってもカーラの声は聞こえてこない。
「カーラ、俺はどうする!?」
「あわわ……」
なんとカーラはその場で
「な、何やってんだ!?」
「ご、ごめんなさい。実物のローパーを見たの初めてで……。その、あまりにも見た目が気持ち悪くて、腰が……」
「しっかりしてくれぇぇぇ!!」
「ここ、この子はわたしががっ」
戻ってきたアイヴィーに
その時、彼女が俺に残した言葉は――
「カルエル! 二人を援護してあげてっ」
――戦闘参加を許可する命令だった。
「俺も手伝うぜ。スター、レイブン!」
「いらねぇよ。ひよっこは引っ込んでな」
「そうね。危ないから下がっていてくれないかしら、カルエル」
……スターとレイブンの態度は素っ気ない。そりゃ二人に比べれば俺なんてひよっこもいいところだけど、言い方があんまりだ。
直後、再びダンジョンが揺れ始める。
今度は何だと思っていると、なんと床や壁をぶち割って大量の触手が現れ始めた。
「うへぇっ。気持ち悪っ」
「ちょっとこれは目の毒過ぎるわ!」
スターとレイブンがその光景を目にして顔をしかめている。俺も同じだ。まるで馬鹿でかいミミズが大量に
……なかなか
「……おいおい。これってもしかして」
ローパーを観察するうち、俺は触手の這った
「こいつ、マヒカリゴケを植え付けてるのか!!」
よくよく見れば、触手が這った
「
とっくに
とっさにデュエラが
「
スターが杖先から流星のような光を
……ん? ちょっと待てよ。今、スターは
「スター、今のどうやったんだ!?」
「ひよっこには想像もつかない技術が魔法にはあるんだよ!」
そう言うや、スターは続けざまに別の魔法を放った。やはり無
しかし、ローパーは魔法を直撃させてもまったく
「火属性魔法じゃ効果は
スターが飛び
彼女はその手にワンド型の真っ黒い杖を握り――
「〝
――やはり無詠唱で
床に伸びていたローパーの影から、まるで
千切られた胴体の上半分は床にぶちまけられ、急激に
胴体が再生しきると、奴は再び大きな目を開いた。触手も千切れた部分から新たに生えてきて、さっき以上にウネウネと蠢き始める。
「いくらなんでもキモ過ぎるんだけど、こいつ!」
「こういうのはあまり直視したくないわねぇ。ローパーって獲物を殺す時、穴という穴に触手を突っ
ローパーはマヒカリゴケを生やすのをやめて、
「どうやら全身を一息に焼き
「こんな
スターがレイブンの手を引いて
ローパーは床を這いながら、狭い通路を追いかけてきた。二人から引っ込んでいろと言われた俺が、真っ先に狙われる状況になっているのは
「くっ! このままじゃ追いつかれる!!」
思いのほかローパーの足(?)が速い。
広間へ出た後、より一層ローパーの速度が増す。奴は無数の触手で床を這って、移動速度を上げているようだ。まるで巨大な馬車に追いかけられている気分になって、生きた
再び通路に入った時、ローパーの
ここぞとばかりに距離を引き
俺の安全を確保しつつ、スター達にローパーを攻撃させたいが、どうすればいい!?
「……そうだっ」
このダンジョンの構造を思い出し、俺はローパーの
しかし、一刻を争う状況でスター達に
俺はスター達が第二層の広間を抜けようとしているのを見て、大声で
「スター、レイブン!! 今すぐローパーに魔法を撃ってくれぇぇぇ!!」
俺の声に気付いて振り返るも、二人は
「んなことしたら、てめぇも一緒に吹っ飛ぶだろがっ!」
「反撃は外に出てからよ! 急いで、カルエル!!」
俺を
「奴が通路から這い出す前に、全力で魔法をブチ込めぇぇっ!!」
背後からは、ローパーが通路の壁と天井を削りながら
「死にたいのか、あいつ!?」
「いえ、待って。そうか――あの人の言いたいことがわかったわ!」
レイブンには伝わったようで良かった。
彼女はスターの手を引いて足を止め、俺の方へと向き直る。
「レイブン、マジでやるのか? あいつ死ぬぞ!」
「
「……わかったよ。それじゃ、久々にやるか?」
「ええ!」
彼女達は
「「〝
目が
しかし、今はそんな心配をしている場合じゃない。今度は俺があの火球を
二層の広間へと
「カルエルの行く先を吹き付けよ――〝
足元へ吹き付けた風が、床に
「やるじゃん、オッサン!」
「スター、行くわよ!」
俺は広間の天井に
「「〝
杖から放たれる火球の魔力が
「ギュアアアァァァアアアアァァァッ!!」
――通路の奥から
「「やったぁ!!」」
ダンジョンに
「ちょっとは見直したよ、オッサン!」
「ええ。とっさの機転、大したものだわ」
「……あれ? オッサンどこ行った?」
二人からお褒めに預かり光栄だ。でも、まずは俺の状況に気付いてほしい。
「お~い。助けてくれぇ~」
加減せずに〝
「……上にいらしたわね」
「だっさ」
これだけ体を張ったのに、結局けなされるのか……。
◇
事件後、ローパーの出現はすぐにお
さらに、ヴェロニカ女史の報告で、すべてのダンジョンにローパーが
彼女からすれば、マヒカリゴケの生態を明らかにする好機と見て報告したんだろうが、結局ローパーが危険視される結果となってしまった。マヒカリゴケの生態が判明するのは、まだまだ先のことになりそうだ。
ギルド管理局によってあの新種のローパーは危険度B級と指定され、
「あれ? これは……」
翌日、俺は家のゴミ箱で思いがけない物を見つけた。
ゴミ箱の近くを横切ったら、突然ウインウインと何かが動きだしたので覗いてみたら、カーラがよく遊んでいたノリノリローパーの魔玩具だったのだ。どうやら俺の魔力に反応して動きだしたらしい。
「ったく、あの子は……」
俺はまだちゃんと動くその魔玩具を取り上げて、机の上に置いた。
時計は夜の七時――もうすぐカーラが帰ってくる時間だ。
物を