第四章 ダンジョンの思いがけない恐怖



 ダンジョンというものがある。

 いつぱんに、地下にあるめいきゆうというイメージが定着しているが、深い森を指してそう呼んだり、とうであったり、城であったり、実に様々な種類が存在する。それらのきようつうこうは、出入り口が一ヵ所だけ、モンスターのそうくつと化している、さいおうにまるで誰かが用意したかのように宝が安置されている、といった点がある。

 俺も剣士フエンサー時代に何度かダンジョンこうりやくちようせんしたことがある。当時の俺が攻略できたのは低ランクのダンジョンばかりだったけど、それでも経験者としてダンジョンがどんなものかは理解しているつもりだ。

 今回、俺はそんなダンジョンたんさくへとり出されてしまった。

「全員、そろったな」

「隊長! 全員揃っております!!

「よし。気合い入れていくぞ、お前らぁ――っ!!

「「「「「おおおおおぉぉぉぉ―――っ!!!!」」」」」

 俺が見守る中、ダンジョンの入り口で王国兵達がえんじんを組んでたけっている。36にもなると、あの手のノリには正直ついていけない。

「元気ですね。あの人達」

「まったくだ」

 カーラも俺と同じ意見のよう。

 あの盛り上がっている連中は、攻略済みダンジョンとうかつ管理局――つうしようダン管――に所属する王国兵達だ。

 俺とカーラは、ハーリーンのすいせんで彼らの手伝いをするためにきゆうきよすけとしておくまれた。しかも、それはらいでもなんでもない。マジでただのお手伝いだから、ほうしゆうは1アープも発生しないときたもんだ。

「ダン管って、つい最近ギルド管理局から派生して出来たそうですよ。今回のダンジョンが記念すべき管理対象第一号ということで、かなり気合が入っているみたいです」

「入り過ぎだよ。中のモンスターもぜんめつしてんのに、なんだって全員揃ってあんな重武装してるんだか……」

「出来たばかりの局って、実績を上げられないとかたせまそうですもんね」

「ハーリーンが俺達を送り込んだのは、ダン管に恩を売るためだろうな。抜けのない人だよ」

 ダン管は、すでに攻略されてしまったダンジョンを調査・かいせきして、訓練せつとして改修することを目的とした組織だ。将来的には、王国兵のせんとう訓練や、新米ぼうけんしや向けにダンジョン攻略体験を行わせる予定らしい。

 ちなみに、攻略済みの定義は最奥の宝が回収されていること。

 たしかに攻略済みだからって打ちてておくと、とうぞくかくにしたり、のモンスターがみついたりといった問題が生じるのはわかる。だが、国が接収してダンジョンを再利用するなんて、よくそんなことを考えついたもんだ。

「カーラ殿どの、カルエル殿。参りましょうぞ!!

 王国兵のリーダーが力んだ顔で話しかけてきた。

「私達は後衛にて、万が一の時にえんいたします」

「その時はおたのみ申す。何せ、ダンジョンの仕組みはまだまだなぞが多い。このダンジョンD-17は、モンスターの全滅、およびトラップなしという報告を受けておりますが、万が一がありますからな!!

 D-17というのは、S・A・B・C・Dとある難易度でいうところの、最低難易度のダンジョンってことだ。17は、国がにんていした十七番目のDランクダンジョンという意味。どうにもおもしろみのない命名規則……こういうとこはお役所仕事だな。

「総員、進めぇ――っ!!

「「「「「うおおおおぉぉぉっ!!!!」」」」」

 まだそのノリ続けるのかよ。しかも、こぢんまりとしたじんけいを作っての徒歩行進。こいつら、テンションと行動がみ合ってねぇ。

「ちょっと待ちなっ!!

 俺達がダンジョンに入ろうとした時、突然声をけられた。今の声、聞き覚えがあるんだが……。

「誰だ、貴様らは!?

「このダンジョンは私有地だよ! 何勝手に入ろうとしてんのさ!?

「私有地だとぉ!? 我々は攻略済みダンジョン統括管理局だ! このダンジョンはとう報告があった直後に国が接収している! それを私有地とは何事だ!?

「そんなこと知るかよっ! あたいのやとぬしがそう言ってんだから、ちゃんと上で話つけてきてよ!!

 食ってかかってきたのはスターじゃないか。そのとなりには、弟子のデュエラがあたふたした様子でこちらを見入っている。

 なんでこの二人がこんなところに……?

「スター、デュエラ! 一体どういうことです!?

「カーラじゃないか! ……ちっ。オッサンもいるのかよ」

 なんで俺にだけゴミを見るような目を向けるんだ、この女は……。

「あたい達は雇い主の依頼で、このダンジョンに棲み付いたへびの野良モンスターを退治しに来たんだよ。ここは近々、雇い主が店の商品を管理するための倉庫に改造するから勝手されちゃ困るんだけど!?

「スターの雇い主って、商人さんですか?」

「王都で家具を取り扱ってる大問屋さ。王都からほど近く、モンスターもほとんど出ないこの土地にあるダンジョンは倉庫として使うに最適な立地なんだと」

「でも、ここは国がだいぶ前に接収しているって……」

「知らないね。大方、ギルド管理局とそこのなんとか局の間でれんけいが取れてないんだろ。あたいの雇い主はしんらいできるじんだよ」

 スターのきぬせぬ物言いがリーダーの不興を買った様子。彼は顔を真っ赤にしてスターへと詰め寄っていく。……これはめそうだぞ。

「本当に雇い主が商人なのか疑わしいな! 我々のやることに文句があるのなら、正式な書面でこういただこうか!!

「それは後で伝えとくよ。ただし、あたい達はダンジョンの調査をさせてもらうからね」

「断ぁる!! このダンジョンは、我々の場であるっ!!

「あ? 税金泥棒が舐めた口いてんじゃないよ」

「その税金泥棒が王都を守っているからこそ、貴様ら冒険者は好き勝手に依頼を選べる立場にあるのだろうが!!

「あぁん?」

「むぅん!?

 ……スターってどこでもこんな感じなのか。しかも、王国兵に対してもえんりよに突っかかっていくなんてらいが過ぎるだろ。俺がきらわれているんじゃなくて、単純に男ぜんぱんきらいなだけなのかもな。

「まぁまぁ! 二人とも落ち着いてくださいっ」

 カーラが二人の間にり込んだものの、スターとリーダーのにらみ合いは続く。

 いつもなら、レイブンがスターを落ち着かせてくれるからすぐにクールダウンするけど、彼女がいないとヒートアップする一方なんだな。そのうちつえでも取り出しそうで怖い。

 カーラがチラリと俺に視線を送ってくる。

 ……仕方ない。むすめに助けを求められては、放っておくわけにはいかない。俺が割り込んで収拾をつけるしかないな。

「おい、スター! 少しはれいわきまえろ!!

 あっ。ごろうつぷんのせいか、ちょっと強く言い過ぎちゃったかも。

「あぁ!?

 ドスの利いた声と、一睨みで人を殺してしまいそうな眼光で返答があった。ま、こうなることは想定済みだ。

「お前のその礼儀知らずな言動が、ハーリーンの――ひいては〈ニジジヤク〉の品位をおとしめることになるんだぞ!?

 どうだ、このかんぺきな正論。〈ニジジヤク〉のメンバーなら、これでだまらない方がおかしいってくらいの魔法の言葉だろ。

「うるせぇ!! あたいに指図するんじゃねぇよ、オッサン!!

 ……そうか。こいつは常識の通用しないタイプだったか。

「スタァ!! もぉいいかげんにしてくださいっ!!

 カーラが金切り声を上げた。そのけんまくに、さすがのスターも口を閉ざしてしまう。俺も、リーダーも、他の兵たちも思わず引いてしまうほどだ。

「カルエルの言う通りです! こんなつまらないことで、ハーリーン様と、ハーリーン様の作った〈ニジジヤク〉の名をけがすつもりですか!! そんなこと許しませんよ!?

 ここまでマジギレしたカーラは初めて見た。目のはしなみだかべるくらいに感情的になるいかり方。……母親にそっくりだ。

「ご、ごめんよ、カーラ。あたいが悪かったから、そんなに怒らないで。ねっ?」

 さすがのスターも折れた。その態度から察するに、カーラのマジギレはそうそうない出来事だとわかる。

「ぐすっ。王国兵のみなさんと冒険者は、持ちつ持たれつの関係なんです。争わずに仲良くしましょう」

「そうだね。そうそう。あははは、仲良くするよっ」

 スターが作り笑いでリーダーに話しかけた。

 一方、リーダーも場の空気を読んで不気味ながおを見せている。だん、笑い慣れていないやつの笑顔って怖いな。

「カーラ、これ」

「ありがと、カルエル」

 俺はハンカチをカーラに渡してあげた。

 彼女は涙をいた後、それで鼻をかんだ。……ま、別にいいけどさ。

「えぇと、とりあえず仲良く行こうってことで……どうする?」

「あたいが半分折れるよ。あんた達の公務を優先してくれていい」

「半分って?」

「あたいとデュエラもダンジョン内には同行させてもらうよ。このダンジョンの所有権がらいぬしと国のどっちにあるのかはあとで決着をつけるとして、あたいも依頼を受けてこの場にやってきた以上、何もせずに帰るわけにはいかないからね」

「それじゃ、こういう取り決めで行こう。ダン管の皆さんは予定通りダンジョンの調査と解析、スターとデュエラは野良モンスターがかくにんできたらそのとうばつ。いかが?」

 俺がスターとリーダーに提案すると、二人ともこくりとうなずいた。

 よかった。これでなんとか話が進む。



 ダン管のリーダーを先頭にして、俺達はダンジョンへと入った。

 持ち込まれたランプの数が多いので、ダンジョン内は真昼のように明るい。事前に聞いた通り、コンパクトで単純な構造のダンジョンだ。たしかにこれは最低難易度でちがいないな。

「ダンジョンって明るいんですね」

「カーラってダンジョンは初めてなのか?」

「はい。ぶんけんを読んで知識はありましたが、実際に足を踏み入れるのは初めてです」

 これは良いことを聞いた。カーラにダンジョンについて色々教えてあげれば、この子の俺への評価がグンと上がるんじゃないか?

「ダンジョンにはマヒカリゴケが使われてるんだよ」

「マヒカリゴケ? それって、小さなろうそく程度のあかりさえあれば、数メートル四方を明るく照らし出すっていうこけのことですよね?」

「そう。ダンジョンはマヒカリゴケが壁一面に苔むしてるから、ランプ一つあれば探検に困らないんだ。でも、ダンジョン内のマヒカリゴケをけずり取って外に持ち出すと、たんに発光機能を失っちまうんだぜ。不思議だろ?」

「ふぅん。まるでダンジョンのために存在するような苔ですね」

 入り口から続く通路を進んでいくと、広い空間に出た。

 そこで、俺達は驚くべき物を目にする。なんと広間には小さなテントが張ってあったのだ。

「なぁカーラ。あれってどう見てもテントだよな?」

「はい。どう見てもテントです」

 ダン管の連中もこのじようきようは想定外のようで、けいかいを強めている。

 かれらがテントを包囲しようとした時――

「あなた達、何者!?

 ――おくの方から女の声が聞こえた。

 テントの向こう側に見える通路から二つのひとかげが現れ、こちらに向かってくる。

「レイブン!?

 スターが真っ先に声を上げた。

 かのじよの言う通り、奥から歩いてきたのはレイブンだった。その隣には、弟子のアイヴィーが驚いた顔でこちらを見入っている。

 なんでこの二人がこんなところに……? って、またこのくだりかよ!

「スター、デュエラ。それにカーラとカルエルまで! なぜ王国兵といつしよにいるの?」

「……オッサン。説明頼むわ」

 いきなりスターにられた。こいつ、めんどうくさいことは他人任せにするクチか。

 俺が説明しようとした矢先、奥からもう一人だれかがやってきた。

 三つ目の人影――それは白衣を羽織った学者然とした人物だった。長いくろかみが印象的な長身の女性で、けっこう美人だぞ。

「レイブンくん、何の騒ぎ?」

「教授」

 レイブンに教授と呼ばれた女性は、こんわくした様子で俺達を見渡している。

 ただダンジョンを見て回るだけのはずだったのに、どうしてこんな想定外の出来事ばかり起こるんだ……。



 レイブンとアイヴィーは、マヒカリゴケの研究者であるヴェロニカ女史からの依頼を受けて、ダンジョンD-17へとおとずれたのだと言う。かのじよたちはすでに数日前からダンジョン内を探索しており、現在は最奥の間の調査をしているところだとか。

 話を聞く限り、野良モンスターがこのダンジョンに棲み付いたけいせきはなさそうだ。それを聞いたスターは、ばつの悪そうな顔をしている。

「ヴェロニカ女史。ダンジョン調査のしんせいは出されているのかな?」

「申請? ダンジョンは誰の所有物でもないでしょう。過去のじんのこした歴史的財産をせんゆうしようなんて、おこがましいわ」

 ヴェロニカ女史の言葉に、リーダーは閉口してしまう。傍にいるスターも同様だ。

「コホンッ。この際、あなたに先んじられたことにはれまい。〈ニジジヤク〉の方々、我々はさつそく仕事に移りたいのだが、構わないね?」

「あ、はい。どうぞ」

「それでは失礼する。ヴェロニカ女史には、後ほどダンジョン内の調査結果を我々と共有していただきたい!」

 リーダーはそこで話を切り上げるや、部下に指示をあたえて広間の調査を始めた。

いやねぇ。王国兵はおうへい殿とのがたが多くて。ダンジョンを宝物のある古代せきとしか思っていないんじゃないの?」

 ヴェロニカ女史がふんがいしている。

 ……すみません。俺もダンジョンのことをそう思っていました。

「レイブンくん。あたし、もう最奥の間にもどって調査を続けたいんだけど?」

「承知しました。では、参りましょう」

「せっかくだし、カーラちゃんとスターくんとお弟子さん達もこちらにいかが? むさい男どもに囲まれているよりはいいと思うけど」

「カーラもスターも、依頼内容はモンスターの対処でしょ。このダンジョンにはもうモンスターはいないから、彼らについていなくてもいいんじゃない?」

 レイブンのさそいもあって、カーラとスターはヴェロニカ女史についていってしまう。この場合、男の俺もついていっていいのかな……?

「カルエル、早く!」

 カーラが呼んでくれたので、俺はホッとして彼女達を追いかけた。



 ダンジョンD-17は、三層構造の簡易迷宮型に分類される。

 入り口から入って、通路――広間――通路というように1フロアが構成されており、それが全部で3フロア連なっている。各フロアの間は分厚いとびらで仕切られており、フロアごとにモンスターを全滅させると扉は開かれ、先に進めるというけだ。そして、最終フロアの扉を開いた先――通称、最奥の間――にこそ、宝が安置されている。

 このダンジョンはすでに攻略済みなので、モンスターは一びきも残っていないし、扉もすべて開かれていて、簡単に最奥の間までたどり着くことができた。

「ここが最奥の間ですか。狭い部屋に石の台が一つだけ……この上に宝物が安置されていたんですね」

 カーラが興味深そうに空の石台をのぞき込んでいる。

 ヴェロニカ女史は、そんなカーラに得意げな顔で語り始めた。

「グラングレイル国内だけでも、発見されているダンジョンは百以上。そのうち、攻略済みとされているものが半数。いずれも宝が確認されているのは最奥の間だけで、例外なく石台の上に安置されていたそうよ」

「ここにはどんな宝物が?」

「記録によれば、D-17で回収された宝はガラスのたんけんよ。今は、王立博物館に所蔵されているはずだわ」

「こんな場所にどうしてそんな物が安置されていたんでしょう。冒険者がここにたどり着くまで、何十年もずっと置き去りにされていたんですよね?」

「何十年どころじゃないわ。研究者の間では、ダンジョンは数百年前にエルフが建造したという仮説もあるのよ」

「エルフが!?

「今では隣の大陸にしかいない種族だけど、昔はこっちにもいたんでしょうね。そんな彼らが何を思ってダンジョンを造り、貴重なアイテムを遺していったのか、理由は誰にもわからないけど……」

「興味深い存在ですよね、エルフって。たしか耳が長くてとんがっているんでしたっけ。いつか会ってみたいなぁ」

 カーラが目をかがやかせている。

 エルフと言えば、きわめて魔法適性マージセンスが高く、過去数千年間、魔法文明をけん引してきた種族だ。言わば、おれたち魔導士ウイザードにとってだいなる先達ってやつだな。カーラが興味を持つのもわかる。

 しかし、エルフなんて冒険者をやっていても一生のうちに一度会えるかどうかってな存在だ。俺自身、エルフなんて見たことないし、知り合いで会ったことがある奴もいない。一体どんな連中なのか想像もつかないな。

「さて、仕事再開っ。せっかくだし、みんなあたしの仕事を手伝ってみない?」

 いきなりヴェロニカ女史が手伝いを要求してきた。ただでさえタダ働きなのに、なんであんたの仕事を手伝わなきゃならないんだよ――

「何をすればいいですか?」

 ――と思ったら、カーラは思いのほか乗り気だった。

「この部屋にあるマヒカリゴケを回収するのを手伝ってほしいの。他のフロアのものとちがいがないか、生態を調べたいのよ」

「マヒカリゴケってダンジョンの外だと発光機能を失うのでは?」

「そうよ。だからその機能をとどめたまま外の世界に持ち出せないか、改良の糸口を探しているの。それが実現すれば、夜の町もランプいらずになるわ!」

 なるほど。マヒカリゴケが人里でも使えるようになれば、日がしずんでも町が真っ暗にならずに済むのか。帰りがおそくなることの多いカーラも、安心して家に帰ってこられるようになるわけだ。これは協力する価値があるな!

「よぉし。壁に生えてる苔を全部がしてかごに詰めりゃいいんだな!?

「そういうこと。……カルエルくんだっけ? あなた、なかなかたよあるわね!」

 ついでに女史からもめられた。ぜんやる気が出てくるな。

「ヴェロニカ女史の研究は人間社会にこうけんする善行だ。喜んで協力するぜ!」

「あ、ありがとう。まぁやる気になってくれたならうれしいわ」

 ちょっと張り切り過ぎたかな。ヴェロニカ女史が心なしか引いている気がする。

「オッサン。下心が見え見えでキモイんだけど」

「ねー。ちょっと引いちゃうわね」

 スターとレイブンが俺を貶めるようなことを言ってきた。

 カーラの前でなんてこと言いやがる。変な誤解されたら、今までの好感度がすべて吹っ飛びかねないぞ! そうなったらどうしてくれるんだ!?

「? なんですか、下心って」

「……さ。仕事始めようか」

 カーラにも知らない言葉があって良かった。



 籠いっぱいに詰まったマヒカリゴケを前に、俺は一仕事終えた気になった。

「カルエルさん、ずいぶん張り切りましたね」

「いい、一番、働いていましたっ!」

 デュエラとアイヴィーがねぎらいの言葉をかけてくれた。嬉しい。

 それに比べて、この二人のしようときたら、ずっとすみで仲良くおしやべりばかりして苔の一つも剥がしゃしねぇ! ……いやまぁ、手伝いは強制ってわけじゃなかったけど。

「レイブンさんってお師匠と仲良いよね」

「ですね。おお、お師匠様から、スター様と一緒にぼうけんしてたころの話、よよく聞きましたけど、とととても、楽しそうに話してましたっ」

「十年以上の付き合いだって言ってたな。歴戦の友ってやつだね。かつこういいな」

「わわ、わたし達も!」

「うん、そうだね。ぼくとアイヴィー、それとカーラもそんな風になれたらいいね」

「歴戦の友……いいでつねっ!」

 輝かしい未来を持つ少女達のガールズトーク――心が洗われる。

 それに比べて……。

「こないだゴードのろうに杖の新調を依頼しに行ったらさ、別件で立て込んでるから今度にしてくれって言われたよ。最悪だよ、あのオヤジ!」

「仕方ないでしょ。王都の魔導士ウイザードが使う杖の半数はゴードの製作だもの」

「あいつに一番高い金はらってるのはウチのギルドだよ!? ゆうずうしてくれてもいいじゃないか。こっちゃ危険度A級のモンスター退治をひかえてたっていうのにさ!」

「きっと王立魔導士機関ロイヤルウイザーズからの発注でしょうね。あそこの人達、湯水のごとくお金を使うからお得意様なんでしょ」

 なんだかがらい話が聞こえてきて、心がすさんできちまった。あの二人にもデュエラ達のような時代があったんだろうけど、まったく想像できないな。むしろ昔からあんな感じな気がする。

「レイブンくん、そろそろ王都に戻ろうか。マヒカリゴケを剥がしまくったから、ダン管の連中が来た時に文句言われそうだし」

「わかりました。荷物はあたし達が魔法で運びます。アイヴィー、こないだ教えた物質移動の魔法をためしてみて」

「は、はいぃっ!!

 レイブンに言われて早々、アイヴィーが籠の前にすっ飛んでいってじゆもんを唱え始めた。

「お師匠、アイヴィー一人だけだと大変そうです。僕も手伝っても?」

「デュエラは相変わらず友達思いだね。いいよ、行ってきな!」

「はいっ!」

 俺のことはゴミのようにあつかうくせに、自分の弟子にはやさしいんだな、スターは。

 こうして見ていると、アイヴィーもデュエラも師匠をずいぶんと立てているな。俺なんてカーラのこと呼び捨てにしているし、何ならタメ口まで利いちゃっているんだけど……これって実はまずいことなのか?

「おい、オッサン。あたいのしりを見てるんじゃないよ!」

「ちょ、誤解だっ!」

 ただ勤勉な少女達をながめていただけなのに、スターがっかかってきた。

「ダメよ、カルエル。あの子達はれんあいよりも魔法に夢中なんだから」

「な、何言ってんだ、レイブン!? 俺は別に……っ」

 レイブンが余計なことを言うもんだから、スターのまゆがますますり上がっていく。

「デュエラとアイヴィー、それとカーラ。あの三人に手を出したら、マジでただじゃおかないからね」

「誤解だっつーの!!

 デュエラとアイヴィーならまだしも、娘に手を出すかよ!

!?

 その時、とつぜんダンジョンがれ始めた。グラングレイルはしんが少ない土地なのにめずらしいな。

「教授、ゆかせて! みんなも!!