第四章 ダンジョンの思いがけない恐怖
ダンジョンというものがある。
俺も
今回、俺はそんなダンジョン
「全員、
「隊長! 全員揃っております!!」
「よし。気合い入れていくぞ、お前らぁ――っ!!」
「「「「「おおおおおぉぉぉぉ―――っ!!!!」」」」」
俺が見守る中、ダンジョンの入り口で王国兵達が
「元気ですね。あの人達」
「まったくだ」
カーラも俺と同じ意見のよう。
あの盛り上がっている連中は、攻略済みダンジョン
俺とカーラは、ハーリーンの
「ダン管って、つい最近ギルド管理局から派生して出来たそうですよ。今回のダンジョンが記念すべき管理対象第一号ということで、かなり気合が入っているみたいです」
「入り過ぎだよ。中のモンスターも
「出来たばかりの局って、実績を上げられないと
「ハーリーンが俺達を送り込んだのは、ダン管に恩を売るためだろうな。抜け
ダン管は、すでに攻略されてしまったダンジョンを調査・
ちなみに、攻略済みの定義は最奥の宝が回収されていること。
たしかに攻略済みだからって打ち
「カーラ
王国兵のリーダーが力んだ顔で話しかけてきた。
「私達は後衛にて、万が一の時に
「その時はお
D-17というのは、S・A・B・C・Dとある難易度でいうところの、最低難易度のダンジョンってことだ。17は、国が
「総員、進めぇ――っ!!」
「「「「「うおおおおぉぉぉっ!!!!」」」」」
まだそのノリ続けるのかよ。しかも、こぢんまりとした
「ちょっと待ちなっ!!」
俺達がダンジョンに入ろうとした時、突然声を
「誰だ、貴様らは!?」
「このダンジョンは私有地だよ! 何勝手に入ろうとしてんのさ!?」
「私有地だとぉ!? 我々は攻略済みダンジョン統括管理局だ! このダンジョンは
「そんなこと知るかよっ! あたいの
食ってかかってきたのはスターじゃないか。その
なんでこの二人がこんなところに……?
「スター、デュエラ! 一体どういうことです!?」
「カーラじゃないか! ……ちっ。オッサンもいるのかよ」
なんで俺にだけゴミを見るような目を向けるんだ、この女は……。
「あたい達は雇い主の依頼で、このダンジョンに棲み付いた
「スターの雇い主って、商人さんですか?」
「王都で家具を取り扱ってる大問屋さ。王都からほど近く、モンスターもほとんど出ないこの土地にあるダンジョンは倉庫として使うに最適な立地なんだと」
「でも、ここは国がだいぶ前に接収しているって……」
「知らないね。大方、ギルド管理局とそこのなんとか局の間で
スターの
「本当に雇い主が商人なのか疑わしいな! 我々のやることに文句があるのなら、正式な書面で
「それは後で伝えとくよ。ただし、あたい達はダンジョンの調査をさせてもらうからね」
「断ぁる!! このダンジョンは、我々の場であるっ!!」
「あ? 税金泥棒が舐めた口
「その税金泥棒が王都を守っているからこそ、貴様ら冒険者は好き勝手に依頼を選べる立場にあるのだろうが!!」
「あぁん?」
「むぅん!?」
……スターってどこでもこんな感じなのか。しかも、王国兵に対しても
「まぁまぁ! 二人とも落ち着いてくださいっ」
カーラが二人の間に
いつもなら、レイブンがスターを落ち着かせてくれるからすぐにクールダウンするけど、彼女がいないとヒートアップする一方なんだな。そのうち
カーラがチラリと俺に視線を送ってくる。
……仕方ない。
「おい、スター! 少しは
あっ。
「あぁ!?」
ドスの利いた声と、一睨みで人を殺してしまいそうな眼光で返答があった。ま、こうなることは想定済みだ。
「お前のその礼儀知らずな言動が、ハーリーンの――ひいては〈
どうだ、この
「うるせぇ!! あたいに指図するんじゃねぇよ、オッサン!!」
……そうか。こいつは常識の通用しないタイプだったか。
「スタァ!! もぉいいかげんにしてくださいっ!!」
カーラが金切り声を上げた。その
「カルエルの言う通りです! こんなつまらないことで、ハーリーン様と、ハーリーン様の作った〈
ここまでマジギレしたカーラは初めて見た。目の
「ご、ごめんよ、カーラ。あたいが悪かったから、そんなに怒らないで。ねっ?」
さすがのスターも折れた。その態度から察するに、カーラのマジギレはそうそうない出来事だとわかる。
「ぐすっ。王国兵の
「そうだね。そうそう。あははは、仲良くするよっ」
スターが作り笑いでリーダーに話しかけた。
一方、リーダーも場の空気を読んで不気味な
「カーラ、これ」
「ありがと、カルエル」
俺はハンカチをカーラに渡してあげた。
彼女は涙を
「えぇと、とりあえず仲良く行こうってことで……どうする?」
「あたいが半分折れるよ。あんた達の公務を優先してくれていい」
「半分って?」
「あたいとデュエラもダンジョン内には同行させてもらうよ。このダンジョンの所有権が
「それじゃ、こういう取り決めで行こう。ダン管の皆さんは予定通りダンジョンの調査と解析、スターとデュエラは野良モンスターが
俺がスターとリーダーに提案すると、二人ともこくりと
よかった。これでなんとか話が進む。
◇
ダン管のリーダーを先頭にして、俺達はダンジョンへと入った。
持ち込まれたランプの数が多いので、ダンジョン内は真昼のように明るい。事前に聞いた通り、コンパクトで単純な構造のダンジョンだ。たしかにこれは最低難易度で
「ダンジョンって明るいんですね」
「カーラってダンジョンは初めてなのか?」
「はい。
これは良いことを聞いた。カーラにダンジョンについて色々教えてあげれば、この子の俺への評価がグンと上がるんじゃないか?
「ダンジョンにはマヒカリゴケが使われてるんだよ」
「マヒカリゴケ? それって、小さな
「そう。ダンジョンはマヒカリゴケが壁一面に苔むしてるから、ランプ一つあれば探検に困らないんだ。でも、ダンジョン内のマヒカリゴケを
「ふぅん。まるでダンジョンのために存在するような苔ですね」
入り口から続く通路を進んでいくと、広い空間に出た。
そこで、俺達は驚くべき物を目にする。なんと広間には小さなテントが張ってあったのだ。
「なぁカーラ。あれってどう見てもテントだよな?」
「はい。どう見てもテントです」
ダン管の連中もこの
「あなた達、何者!?」
――
テントの向こう側に見える通路から二つの
「レイブン!?」
スターが真っ先に声を上げた。
なんでこの二人がこんなところに……? って、またこのくだりかよ!
「スター、デュエラ。それにカーラとカルエルまで! なぜ王国兵と
「……オッサン。説明頼むわ」
いきなりスターに
俺が説明しようとした矢先、奥からもう一人
三つ目の人影――それは白衣を羽織った学者然とした人物だった。長い
「レイブンくん、何の騒ぎ?」
「教授」
レイブンに教授と呼ばれた女性は、
ただダンジョンを見て回るだけのはずだったのに、どうしてこんな想定外の出来事ばかり起こるんだ……。
◇
レイブンとアイヴィーは、マヒカリゴケの研究者であるヴェロニカ女史からの依頼を受けて、ダンジョンD-17へと
話を聞く限り、野良モンスターがこのダンジョンに棲み付いた
「ヴェロニカ女史。ダンジョン調査の
「申請? ダンジョンは誰の所有物でもないでしょう。過去の
ヴェロニカ女史の言葉に、リーダーは閉口してしまう。傍にいるスターも同様だ。
「コホンッ。この際、あなたに先んじられたことには
「あ、はい。どうぞ」
「それでは失礼する。ヴェロニカ女史には、後ほどダンジョン内の調査結果を我々と共有していただきたい!」
リーダーはそこで話を切り上げるや、部下に指示を
「
ヴェロニカ女史が
……すみません。俺もダンジョンのことをそう思っていました。
「レイブンくん。あたし、もう最奥の間に
「承知しました。では、参りましょう」
「せっかくだし、カーラちゃんとスターくんとお弟子さん達もこちらにいかが? むさい男どもに囲まれているよりはいいと思うけど」
「カーラもスターも、依頼内容はモンスターの対処でしょ。このダンジョンにはもうモンスターはいないから、彼らについていなくてもいいんじゃない?」
レイブンの
「カルエル、早く!」
カーラが呼んでくれたので、俺はホッとして彼女達を追いかけた。
◇
ダンジョンD-17は、三層構造の簡易迷宮型に分類される。
入り口から入って、通路――広間――通路というように1フロアが構成されており、それが全部で3フロア連なっている。各フロアの間は分厚い
このダンジョンはすでに攻略済みなので、モンスターは一
「ここが最奥の間ですか。狭い部屋に石の台が一つだけ……この上に宝物が安置されていたんですね」
カーラが興味深そうに空の石台を
ヴェロニカ女史は、そんなカーラに得意げな顔で語り始めた。
「グラングレイル国内だけでも、発見されているダンジョンは百以上。そのうち、攻略済みとされているものが半数。いずれも宝が確認されているのは最奥の間だけで、例外なく石台の上に安置されていたそうよ」
「ここにはどんな宝物が?」
「記録によれば、D-17で回収された宝はガラスの
「こんな場所にどうしてそんな物が安置されていたんでしょう。冒険者がここにたどり着くまで、何十年もずっと置き去りにされていたんですよね?」
「何十年どころじゃないわ。研究者の間では、ダンジョンは数百年前にエルフが建造したという仮説もあるのよ」
「エルフが!?」
「今では隣の大陸にしかいない種族だけど、昔はこっちにもいたんでしょうね。そんな彼らが何を思ってダンジョンを造り、貴重なアイテムを遺していったのか、理由は誰にもわからないけど……」
「興味深い存在ですよね、エルフって。たしか耳が長くてとんがっているんでしたっけ。いつか会ってみたいなぁ」
カーラが目を
エルフと言えば、
しかし、エルフなんて冒険者をやっていても一生のうちに一度会えるかどうかって
「さて、仕事再開っ。せっかくだし、みんなあたしの仕事を手伝ってみない?」
いきなりヴェロニカ女史が手伝いを要求してきた。ただでさえタダ働きなのに、なんであんたの仕事を手伝わなきゃならないんだよ――
「何をすればいいですか?」
――と思ったら、カーラは思いのほか乗り気だった。
「この部屋にあるマヒカリゴケを回収するのを手伝ってほしいの。他のフロアのものと
「マヒカリゴケってダンジョンの外だと発光機能を失うのでは?」
「そうよ。だからその機能を
なるほど。マヒカリゴケが人里でも使えるようになれば、日が
「よぉし。壁に生えてる苔を全部
「そういうこと。……カルエルくんだっけ? あなた、なかなか
ついでに女史からも
「ヴェロニカ女史の研究は人間社会に
「あ、ありがとう。まぁやる気になってくれたなら
ちょっと張り切り過ぎたかな。ヴェロニカ女史が心なしか引いている気がする。
「オッサン。下心が見え見えでキモイんだけど」
「ねー。ちょっと引いちゃうわね」
スターとレイブンが俺を貶めるようなことを言ってきた。
カーラの前でなんてこと言いやがる。変な誤解されたら、今までの好感度がすべて吹っ飛びかねないぞ! そうなったらどうしてくれるんだ!?
「? なんですか、下心って」
「……さ。仕事始めようか」
カーラにも知らない言葉があって良かった。
◇
籠いっぱいに詰まったマヒカリゴケを前に、俺は一仕事終えた気になった。
「カルエルさん、ずいぶん張り切りましたね」
「いい、一番、働いていましたっ!」
デュエラとアイヴィーが
それに比べて、この二人の
「レイブンさんってお師匠と仲良いよね」
「ですね。おお、お師匠様から、スター様と一緒に
「十年以上の付き合いだって言ってたな。歴戦の友ってやつだね。
「わわ、わたし達も!」
「うん、そうだね。
「歴戦の友……いいでつねっ!」
輝かしい未来を持つ少女達のガールズトーク――心が洗われる。
それに比べて……。
「こないだゴードの
「仕方ないでしょ。王都の
「あいつに一番高い金
「きっと
なんだか
「レイブンくん、そろそろ王都に戻ろうか。マヒカリゴケを剥がしまくったから、ダン管の連中が来た時に文句言われそうだし」
「わかりました。荷物はあたし達が魔法で運びます。アイヴィー、こないだ教えた物質移動の魔法を
「は、はいぃっ!!」
レイブンに言われて早々、アイヴィーが籠の前にすっ飛んでいって
「お師匠、アイヴィー一人だけだと大変そうです。僕も手伝っても?」
「デュエラは相変わらず友達思いだね。いいよ、行ってきな!」
「はいっ!」
俺のことはゴミのように
こうして見ていると、アイヴィーもデュエラも師匠をずいぶんと立てているな。俺なんてカーラのこと呼び捨てにしているし、何ならタメ口まで利いちゃっているんだけど……これって実はまずいことなのか?
「おい、オッサン。あたいの
「ちょ、誤解だっ!」
ただ勤勉な少女達を
「ダメよ、カルエル。あの子達は
「な、何言ってんだ、レイブン!? 俺は別に……っ」
レイブンが余計なことを言うもんだから、スターの
「デュエラとアイヴィー、それとカーラ。あの三人に手を出したら、マジでただじゃおかないからね」
「誤解だっつーの!!」
デュエラとアイヴィーならまだしも、娘に手を出すかよ!
「!?」
その時、
「教授、