「プライベートだと眼鏡を替えているんだね」
「に、似合ってませんかっ!?」
「ううん。似合っているよ。可愛い!」
三人が並んで歩き始めたので、俺もすかさず後を追った。
男一人に、女二人。ちょっと想定と違う状況になってきたな。
「もしかしてデートじゃないのか?」
しばらくカーラ達の様子を見守っていると、三人は公園の屋台を回り始めた。
途中、迷子になった子どもを親のもとまで届けたり、若者に
……良い子達じゃないか。
一時間ほど
「
突然、人混みの中から
俺だけでなく、カーラ達もその声に向き直っている。
声がした方から人混みを掻き分けて現れたのは、
「その子どもを
男の子を追いかけているのは、どうやら商人のようだ。太った体を左右に
「どけよっ! どけどけぇ~~!!」
男の子は必死に商人から
俺は
「大人しくしろっ」
すかさず悪い虫が男の子を
「は、放せっ!」
「暴れないで! 大人しくしなさいっ」
「放せぇ~!!」
「うわっ」
男の子が暴れたことで、悪い虫が帽子を落としてしまう。
直後、俺は奴の
「デュエラ!?」
悪い虫は、どこからどう見てもデュエラだった。
「てことは……っ」
黒ぶち眼鏡の女は、アイヴィーかよ!
カーラがこっそり会っていたのは、デュエラとアイヴィーだった。その事実を
「はぁっ、はぁっ。よく捕まえてくれたな!」
ようやく商人が追いついた。男の子は必死に逃げ出そうとジタバタするが、デュエラの
「これがあなたのお店の商品ですか?」
「ああ、そうだ!」
カーラが変な形をしたぬいぐるみを拾って、商人へと
「このガキ、今まで何度もわしの店から商品を盗みおって。王国兵に
商人は組み伏せられている男の子の頭を
「暴力はやめてください!」
「こいつらはウチの商品を散々盗んで、売り上げに損失を
「でも、まだ子どもですよ!」
「関係ないわい。
商人は男の子を
「待って! 反省しているようだし、許してあげても――」
「反省?
あの男、酷い言い草だな。
たしかに
「待っ――」
「無駄だよ、カーラ」
商人に追いすがろうとしたカーラをデュエラが止めた。
「どうして止めるの、デュエラ!? このままじゃあの子、どんな酷いことされるか」
「でも、あの子が犯罪を
「でもっ」
「それが法律なんだ。誰か一人を特別
「だからって……」
「残念だけど、
「……」
デュエラの言うことは正論だが、カーラは
俺にはカーラの気持ちがよくわかる。だって、彼女なら――あの子の母親なら、必ずあの男の子を助けるだろうから。国が決めた法よりも、自分の信念を
「法なんて関係ないです――」
落ち着き始めた場に、
「――あの商人は弱者を
今のはアイヴィーの声か?
俺が視線を戻すと、なんとアイヴィーが杖を
「ちょ、アイヴィー!? 何をする気!?」
アイヴィーの
「ダメだってば! こんな人の多い場所で魔法を使うなんて、あなたにはまだ早いから!!」
「止めないでくださいっ。ああやって法を
アイヴィーから杖を
しかし、その間にも彼女の杖には魔力が集まっていく。このままだと、魔法が暴走して周りに
「仕方ない!」
俺は杖を抜いて、最大限まで
「痛っ!」
「えっ。今のは〝
周りを
「でも、アイヴィーには驚いたな……」
あの子にあんな
ギルドでの自己
騒ぎを聞きつけて、いよいよ王国兵が集まり始めた。カーラ達には悪いけど、俺は一足先に退散しよう。娘に悪い虫がついていないとわかって安心したし、長居は無用だ。
しかし、カーラには困ったもんだ。友達とイベントに遊びに行くなら、そう言ってくれればよかったのに。
「……」
公園を出ようとした時、俺は足を止めた。どうにも煮え切らないモヤモヤが残っていたためだ。
「カーラの母親なら、どんな事情であれ、弱い者を見捨てることはしないよな」
不意に、
「娘の
俺は露天商からグレムリンのお面を
◇
「このガキ、仲間の居所を吐かんかっ」
「ひいぃっ! や、やめてっ」
公園からやや離れた路地裏では、商人がその取り巻きらしい男達と共に、捕まえた男の子を
まったく酷い光景だ。公の場で裁くのならまだしも、こんな人気のない場所に連れ込んで追い込むとは。金貸し連中の取り立ての方が
「
「そのようだな」
「こういう後先考えないガキは、しっかりと心と体を
「うむ。仕方あるまい!」
取り巻きの一人がポケットからナイフを取り出した。それを見るや、男の子は顔を真っ青にしてしまう。
「大人を
「や、やめて。誰か助けてっ!」
「
取り巻きがナイフを振り上げた。
その
「なっ!?」
商人も取り巻きも、
「な、なんだ貴様はっ!?」
「いい
「悪戯で済むか! こっちは売り物を盗まれとるんだぞ!!」
「……ま、そう言われると返す言葉もない」
「なんなんだ貴様は!? おかしな仮面をつけよってからにっ」
「俺か? 俺は通りすがりの――」
わざわざ
「――グレムリン仮面だ!!」
……ヒュウゥと風が
「馬鹿にしおって! お前達、片付けてしまえっ」
小悪党の定番とも取れるセリフを吐きながら、商人が取り巻きをけしかけてきた。
俺と奴らまでの距離は実に10
「風の悪戯。土の
俺はできるだけ小声で
「お、お前達っ!?」
「さて、どうする旦那。この件を
「待てっ! わかった、この子どもからは手を引く!!」
「よろしい。では、解散!」
「ひいいぃぃっ!!」
「ま、待ってくれ旦那ぁぁぁっ」
商人を追いかけて、取り巻き連中も
マジで教科書に
「た、助けてくれてありがとう……」
「おう」
男の子が
いきなり変なお面をつけた男が乱入して、商人どもを魔法でぶっ飛ばしたんだ。
「おい、
「はいっ!?」
「これから毒にも薬にもならないつまらねぇ正論言うけど、とりあえず聞け」
「はい……」
「盗みはよくない。ああいう
「……」
「とは言え、その日暮らしの子どもに正論言って帰るだけじゃ、
「本当!?」
「食うに困ってんなら、
「ぼくにもできる?」
「たぶんな。とりあえずギルドを探して、親方に
「オジサンもやったことあるの?」
「ん? まぁ
「……ありがとう」
男の子が笑った。良い顔で笑うじゃないか。俺はついついその表情にカーラを重ねてしまった。
「じゃあな、小僧」
格好つけて
「ありがとう、グレムリン仮面!!」
――そう呼ばれて、思わずコケるところだった。とっさに名乗ったとは言え、もう少しマシな名前にすればよかった。
◇
その後、ギルドに戻った
書類整理の仕事をサボったと思われて――事実そうなのだが――、スターとレイブンに激詰めされた後――主にスターからだけど――、俺は心身ともにヘロヘロになって家路につくことになった。
すぐにでもベッドに
「お帰りなさい、カルエル」
「あえっ!? た、ただいま……」
腕を組んで頬を膨らませているカーラを見て、俺はまた何か彼女を
「今日、どこにいたの?」
「どこにって……今までずっとギルドだよ」
「本当?」
カーラが
「今日、王立公園でちょっとした事件があったんです」
その話を聞いて、俺はギクリとした。
「カルエル、私と同じ時間に公園にいたでしょ!?」
うわぁ! バレてる!!
「そ、そんなわけないだろ。ずっとギルドで書類整理だよっ」
「
……しまった。魔力は個人で異なるから、知っている相手の魔力だとすぐにわかっちまうんだった。基本的なことを忘れていた……。
「もしかして私のことを尾行していたんですか!?」
「ち、違うよっ」
「じゃあどうして公園にいたんです。しかも、こっそり私達を助けるような
「それは……っ」
男ができたのかと思って、心配になって後をつけていました――なんて口が
「説明してもらいましょうか、カルエル」
カーラが怖い顔で
「……っ」
かくなる上は……!
「これを買うためにギルドを抜け出してたんだよっ!!」
言いながら、俺はグレムリンのお面をカーラに差し出した。
「えっ。これを?」
「あの公園の露天商でしか売ってない
……苦しいかな? 苦しいよな。言い訳ミスったよなぁ!?
「あ、ありがと」
「えっ」
「私が買おうとした時には、もう売り切れていたやつです。……貰っておきます」
そう言うと、カーラは俺からお面を取り上げた。
「善行した人を怒ったりなんてしませんよ。助けてくれてありがとう、カルエル」
カーラは
ありがとう――たったそれだけの一言で、俺はこの数日の苦労が