丘陵の岩だなが
今では、馬に乗った兵達が
「……行ったか?」
「行きましたね」
「もう動いても
「念のため、もう少しだけじっとしていましょう」
「はぁ。なんでこうなるかなぁ」
「あなたのせいでしょ!」
俺とカーラは、息を殺しながら岩に交じって兵達をやり過ごしていた。厳密には、カーラの
「もしも俺が岩だなをぶった斬ったこと知られたら、どうなるんだ?」
「不当な景観
「マジで!?」
「マジです」
訓練場で
「……ん?」
隣にいるカーラが、ジトリとした目で俺を見上げている。
「言っておきますけど、魔法の威力をコントロールできない
「そうなの!?」
「当然でしょう。魔法は
カーラは腰に手を当ててムスッとしている。なんだかご
「……その、ごめん」
「
「だって怒ってるじゃないか」
「そんなことありませんっ」
頬を膨らませて、ぷいっとそっぽ向かれてしまった。やっぱり怒っているよなぁ。
最後に巡回兵を見送ってからしばらく。森の中に馬の
カーラもそう判断したのか、隠遁魔法を解除して
これでようやく修行が再開できそうだ。この子の機嫌を損ねたことがちょっと心配だけど……。
「しかし、まさか初歩魔法であれほどの威力が出るとはなぁ」
「カルエルの
「仕方ないだろ。魔法初心者なんだから……」
カーラが俺の持っている剣――じゃなかった、杖をまじまじと見つめている。
「これ、
「ああ。ゴードがデタラメ言ってなけりゃだけど」
「カルエルの魔力量はハーリーン様の折り紙付き。それがオリハルコンという最適な魔力伝導体を通して、一気に杖に伝わってしまったんでしょうね。おそらく
「マジで? この杖、ちゃんと凄い杖だったんだな」
「ゴードさんが作った魔法の杖ですもの。外れはありませんよ」
あのオヤジ、カーラがそこまで言うほどの杖職人なのか。ま、ドワーフは武器や防具を作らせると凄いと聞くし、魔法の杖も例外じゃないんだろうな。
「で、俺がまずやることって何?」
「魔力の調節訓練から始めないとですね。自在に魔力の
「魔力のコントロールかぁ。俺にできるかな」
「大丈夫。私、それを教えるの凄く得意です。すぐに普通に魔法を使えるようにしてあげますよ」
そこまで断言するなんて、娘――いや、
「魔力コントロールは
「えぇと……魔力の消費量にも
「はい。魔法とは、
「そう魔導書に書いてあったな」
「魔法は使えば使うほど魔力を消費します。魔力は時間と共に回復しますが、魔力を多く失うと
「ん? たしかに体が少し重いかも……」
「魔法を使い慣れていないのに、あんな威力の魔法を放ったからです。魔力の急激な消費で、精神疲労を起こしているんですよ」
「無理すると体に悪いってのは、魔法も同じなわけだ」
「
「前に言ってた精霊に付きまとわれるうんぬんて話は、そこに
「そうです。精霊は多くの魔力を放出する者を
「最悪、精霊に殺される可能性もあるってことか」
「精霊に憑りつかれて
「で、そのためには何をすればいいんだい?」
「まずは
「蛇口? 目盛り?」
「例えば、魔力は水道に似ます」
「水道……」
「水を
「そうだな」
「私やカルエルのように潜在魔力量が
言いながら、カーラは崩れた岩だなを指さす。
「――あんな事態になってしまう」
「そうか……だから目盛りか!」
蛇口の例えはわかりやすい。
……って、ちょっと待てよ。私やカルエルのようにって言ったけど、その言い方だとまるで……。
「もしかしてカーラも?」
「……はい。私もカルエルと同じく、初めて魔法を使った時に標的の岩もろとも後ろの山を砕いちゃって、
「そりゃ凄い」
「幸い、ハーリーン様のおかげで罪には問われませんでしたけど、他の
「天才
「人間ですもん」
カーラは照れ笑いを
「だから私にもカルエルを怒る資格はないんです。……さっき非難したことは謝ります、ごめんなさい」
そう言うと、カーラはぺこりと頭を下げた。
「いいんだ、カーラ。それよりも、どうやって魔力のコントロールができるようになったのか教えてほしい」
「もちろんです!」
カーラに笑顔が戻った。この笑顔、太陽よりも
「私はハーリーン様と
「どうやって?」
「指先でつまめる程度の小石――それを対象に魔法を放つことで、最低出力の感覚を掴もうとしたんです」
「なるほど」
「私の時は前例がなかったので半月ほどかかりましたが、今ならもっと早く改善させることができると思います」
「頼もしいな。さすが俺の師匠!」
「私が指導する以上、カルエルには立派な
面と向かってそう言われたものだから、俺は
しかし、今は違う。カーラは俺の欠点を細かく把握し、正しい方向へと導いてくれている。初めは子どもに教わるなんてダサいとか思っていたけど、とんでもない。俺には、この子が必要だ。
「
「基礎こそ奥義か。
目標がないとどうにも
それにしても、この子も駆け出しの
「な、何笑ってるんですか。気持ち悪いなぁ」
「……
「それじゃ、今から
「それは構わないけど、小石はどうするんだ?」
「自分で探してくるに決まってるでしょ」
「えっ。この森の中で!?」
「さ、早く拾い集めてきてください! 修行道具を集めることも修行のうち!」
「ひえぇ~~っ」
その後、俺は森の中を小石集めに
◇
一週間後、俺は再びカーラと共に岩場の森を訪れた。前回と同じ条件で、再び〝
「やった! 成功だっ!!」
――訓練の
それを見ていたカーラもご
「お見事。これで次の段階に進めますね」
「ああ! 次は何をする!?」
「モンスター退治……いっちゃいますか!」
「マジで? もう実戦訓練させてもらえるのか!?」
「なんだかんだモンスター退治の依頼は多いですから。それに、
「いいねぇ! 相手はゴブリンか? それともオーク?」
「実戦は実戦でも、そういうガチ寄りじゃないです」
「どういうこと?」
「まずは最弱モンスターを相手に、魔力コントロールをより
「最弱モンスター……?」
◇
カーラに連れてこられたのは、王都の
「たしかこっちの道だったかな」
「なぁカーラ。俺達、モンスターを退治するのにどうして街中を歩いてるんだ?」
「そのモンスターが街中に現れるからですよ」
「えぇっ!? 王国兵だって巡回してるのに、この区画にモンスターが
「グレムリンって知りません?
「聞いたことあるけど、見たことはないな。そんなに弱っちぃ奴なのか?」
「国がランク付けしているモンスターの危険度指定ではDってところですね。その気になれば子ども達だけでも追い
「そんな弱い奴ら相手に修行になるのか?」
「弱いからこそですよ。カルエルには、そのグレムリンを生け
「なるほど。弱い相手だからこそ、殺さずに生かしたままやっつけるのが難しいわけか。やってやろうじゃないか!」
「その意気です!」
しばらく通りを歩いていくと、カーラが大きな
その屋敷は外観こそ
「グレムリンが棲み付いているのは、このお屋敷です」
「ここって無人なのか?」
「ずいぶん前に、
カーラは
「私は入り口で待っていますから、グレムリンの対処はカルエルにお任せします」
「えっ。そうなの?」
「魔力コントロールを誤って屋敷の中の物を
「マジかよ……。実はこれ、めちゃくちゃ
「カルエルなら大丈夫です! 頑張ってっ」
笑顔で
この子の期待を裏切るわけにはいかないな。ノーミスで
「行ってくる!」
「行ってらっしゃ~い」
カーラに見送られて、俺は屋敷の中へと飛び
俺は飛び込んで一分もしないうちに、
「どうしました?」
「いや、ランプを持ってこようかと……」
「カルエル。あなたの今の
「え?
「だったら、ランプになんて
「あ。そっか」
火がないなら火を
「カルエルを迷わせる
杖先から小さな火が現れ、屋敷の中を照らす――
「どわああぁぁっ!?」
――どころの騒ぎじゃない。火力が強過ぎた!
「言った傍から何しているんですか!!」
「ご、ごめんっ!!」
「もうっ! 天井は焦げていないでしょうね!?」
「大丈夫。不幸中の幸いと言うか、火は届いてない」
「人様のお屋敷だってこと、くれぐれも忘れないように!!」
「はい……」
さっき
その後、魔力に注意を払ってなんとか
カーラの心配そうな顔を
「よしっ!」
「よしって言いますけど、お屋敷の中で火は危ないです。私なら光球にしていましたよ」
「……勉強になります」
俺に足りないのは、経験もそうだが知識だな。
◇
魔法で灯した火を頼りに、俺は二階へと上がった。
一階はすべての部屋を
屋敷の中では、俺が
「お~い。出てこい、グレムリ~ン」
そんなこと言って出てくるわけもないが、ずっと無言だと
二階の通路を進み始めた時、背後から何かが走る音が聞こえた。とっさに振り返って火を照らしてみたものの、音の聞こえた場所には何もいない。……
「ようやく出てきたか。一体どんな姿してやがるんだ?」
再び通路を進んでいくと、
足音を殺しながら、そっと部屋の中を覗き込んでみると――
「クフー。キャッキャッ」
――何やら動物の鳴き声にも似た
暗闇の中で目を
「キャキャッ」
「キャーッ」
片方がもう片方に当たると聞こえてくる
もしかして、あの丸っこいのがグレムリンで、自分達をボールに見立てて二
早速、杖先に灯る火で部屋の中を照らしてみた。すると――
「「キャアアァァァーッ!!」」
――二匹
俺が目にしたのは、黄緑色をした毛むくじゃらの丸っこい動物だった。
子どもが
二匹のグレムリンが背筋を正したので、
「「キュウゥ~」」
しかし、二匹は次の
「……?」
一向に動きを見せないので、部屋に入ってグレムリンを覗き込んでみると、なんと白目を
「……なるほど。たしかに最弱だ」
人間と顔を合わせただけで気絶するとは、ザコ過ぎるだろ……。これじゃまったく魔法の修行にならない。
その時、
「なんだぁっ!?」
この丸み、このサイズ、
グレムリンの集団は列を作って、一斉に階段へと
その時、三匹ほどが階段の手すりから
「ったくよぅ!!」
俺は二階の手すりから身を乗り出し、落下するグレムリン達へと杖を振った。
「カルエルの行く先を吹き付けよ――〝
ホールに起きた風がグレムリン達を落下寸前で浮かび上がらせ、コロンと床に転がした。奴らはコロコロとホールを転がっていき、壁にぶつかると動かなくなった。……気絶しているみたいだ。
一方、階段を無事に降りたグレムリン達は、そのまま入り口を通って外に出ていってしまう。カーラはそれを何もせずに見送った後、階下から俺に向かって手を振ってきた。
「最後の
「そりゃどうも……」
とりあえずカーラのテストは合格できたみたいだ。
少しでも加減を誤ればグレムリン達を壁に
火魔法の失敗もあったし、
◇
屋敷からの帰り道。俺とカーラは庭で見つけた板切れに生け捕りにしたグレムリン達を
「本当に殺さずに解放していいのか?」
「害はないですし、ちょっと可愛いので殺すまでは……」
カーラが可愛い物好きだとわかったのは嬉しいけど、仮にもモンスターを
「……ちなみに、今回の
「報酬はお金じゃありませんよ。代わりに、商人さんが
「そうなのか。一体どんな商品なんだ? 希少な素材とか?」
「今、王都で
「それ、魔法の修行に使うのか?」
「そんなわけないでしょ。玩具なんだから
「個人的に貰うのかよっ! つーかローパーって、サボテンに
「オジサンにはわからないかなぁ!? 王都の女の子達の間では、キモ可愛いって大人気なんですよ! 近くで魔力を感知すると、ノリノリに
「……」
いらねぇ~! ……とは言えない。