丘陵の岩だながくずれたことで、森はにわかにさわがしくなった。どうやら他の場所で訓練していた魔導士ウイザードたちがいたようで、異常事態だと判断したかれらが王国兵に通報したらしい。

 今では、馬に乗った兵達がじゆんかいを始めて修行どころじゃなくなってしまった。

「……行ったか?」

「行きましたね」

「もう動いてもだいじようか?」

「念のため、もう少しだけじっとしていましょう」

「はぁ。なんでこうなるかなぁ」

「あなたのせいでしょ!」

 俺とカーラは、息を殺しながら岩に交じって兵達をやり過ごしていた。厳密には、カーラのいんとんほうおれたちの姿を見えなくしてかくれている。周囲を念入りにさぐっている兵達が目の前を通り過ぎていくのは、なんだか不思議な気分だった。

「もしも俺が岩だなをぶった斬ったこと知られたら、どうなるんだ?」

「不当な景観かいの罪でつかまるでしょうね」

「マジで!?

「マジです」

 訓練場でほうの修行をしていただけなのに、犯罪者扱いとかじようだんじゃない。そもそも初めて使う魔法であんな威力が出るなんて思わないだろ。

「……ん?」

 隣にいるカーラが、ジトリとした目で俺を見上げている。

「言っておきますけど、魔法の威力をコントロールできない魔導士ウイザード魔導士ウイザードとして認められませんからね?」

「そうなの!?

「当然でしょう。魔法はせんとうから日常生活まであらゆる局面で使われます。それなのに、いつでもどこでもあんな威力の魔法を放っていたら誰も寄り付きませんよ」

 カーラは腰に手を当ててムスッとしている。なんだかごげんななめな様子。

「……その、ごめん」

あやまられても困ります」

「だって怒ってるじゃないか」

「そんなことありませんっ」

 頬を膨らませて、ぷいっとそっぽ向かれてしまった。やっぱり怒っているよなぁ。

 最後に巡回兵を見送ってからしばらく。森の中に馬のひづめの音は聞こえなくなり、小動物や小鳥の鳴き声ばかりが耳につくようになった。どうやら見回りは終わったらしい。

 カーラもそう判断したのか、隠遁魔法を解除していわかげから出ていく。

 これでようやく修行が再開できそうだ。この子の機嫌を損ねたことがちょっと心配だけど……。

「しかし、まさか初歩魔法であれほどの威力が出るとはなぁ」

「カルエルのせんざいりよくは水晶玉を砕くほどとは聞いていましたが、私もびっくりしました。ぜんっぜん魔力のコントロールができていませんね!」

「仕方ないだろ。魔法初心者なんだから……」

 カーラが俺の持っている剣――じゃなかった、杖をまじまじと見つめている。

「これ、ヒルトの部分にオリハルコンが使われていると言っていましたよね?」

「ああ。ゴードがデタラメ言ってなけりゃだけど」

「カルエルの魔力量はハーリーン様の折り紙付き。それがオリハルコンという最適な魔力伝導体を通して、一気に杖に伝わってしまったんでしょうね。おそらくいつぱんてきな素材の杖よりも遥かに高出力の魔法が放てると思いますよ」

「マジで? この杖、ちゃんと凄い杖だったんだな」

「ゴードさんが作った魔法の杖ですもの。外れはありませんよ」

 あのオヤジ、カーラがそこまで言うほどの杖職人なのか。ま、ドワーフは武器や防具を作らせると凄いと聞くし、魔法の杖も例外じゃないんだろうな。

「で、俺がまずやることって何?」

「魔力の調節訓練から始めないとですね。自在に魔力のをコントロールできるようにならないと、お話になりません」

「魔力のコントロールかぁ。俺にできるかな」

「大丈夫。私、それを教えるの凄く得意です。すぐに普通に魔法を使えるようにしてあげますよ」

 そこまで断言するなんて、娘――いや、しようたのもしい。

「魔力コントロールは魔導士ウイザードとして死活問題。この意味、わかりますよね?」

「えぇと……魔力の消費量にもえいきようするから、かな?」

「はい。魔法とは、魔導士ウイザードが精霊に働きかけることで顕現します。その意味するところは、自分の魔力をえさに精霊を行使するということ――つまり魔力は消費されるものなのです」

「そう魔導書に書いてあったな」

「魔法は使えば使うほど魔力を消費します。魔力は時間と共に回復しますが、魔力を多く失うとろう感が増し、場合によっては死に至ることもあります。カルエルも今、ちょっとつかれが出ているんじゃありませんか?」

「ん? たしかに体が少し重いかも……」

「魔法を使い慣れていないのに、あんな威力の魔法を放ったからです。魔力の急激な消費で、精神疲労を起こしているんですよ」

「無理すると体に悪いってのは、魔法も同じなわけだ」

魔導士ウイザードの場合、そこに精霊の存在も影響します。彼らは魔力をかてとして存在するので、魔力とそれをあやつ魔導士ウイザードが大好きなんです」

「前に言ってた精霊に付きまとわれるうんぬんて話は、そこにかってくるのか」

「そうです。精霊は多くの魔力を放出する者をさがして、常に世界のあらゆる場所をさまよっています。ゆえに、魔力コントロールが下手だと、彼らに必要以上の魔力を吸われてしまう危険があります」

「最悪、精霊に殺される可能性もあるってことか」

「精霊に憑りつかれてすいじやくする魔導士ウイザードまれに報告されます。でも、うっかり呪文詠唱でしんめいを言うポカをしなければ、命に関わるほどのせいれいきは起こりません。私達が魔導名を名乗るのは、精霊にしんめいを隠すための自衛手段ですから」

 こわい怖い。精霊ってのは、はちみつに群がるこんちゆうと同じだな。やつらにとって、今の俺は好物を安売りしている都合のいい寄生先ってわけだ。こりゃ急いでコントロールを覚えないとマジでヤバいな。

「で、そのためには何をすればいいんだい?」

「まずはじやぐちに目盛りをつけることがかんようです」

「蛇口? 目盛り?」

「例えば、魔力は水道に似ます」

「水道……」

「水をむ時は、蛇口をひねって水を出すでしょう。軽くひねるのと、思いきりひねるのとでは、蛇口から流れ出る水の量が違いますよね」

「そうだな」

「私やカルエルのように潜在魔力量がぼうだいな人は、その蛇口が平均的な魔導士ウイザードよりも大きい。だから出力加減をミスってしまうと――」

 言いながら、カーラは崩れた岩だなを指さす。

「――あんな事態になってしまう」

「そうか……だから目盛りか!」

 蛇口の例えはわかりやすい。じようきように応じて、どこまでひねれば問題ないかを自分自身であくできるようにしろってことだな。

 ……って、ちょっと待てよ。私やカルエルのようにって言ったけど、その言い方だとまるで……。

「もしかしてカーラも?」

「……はい。私もカルエルと同じく、初めて魔法を使った時に標的の岩もろとも後ろの山を砕いちゃって、しやくずれを起こしたんです」

「そりゃ凄い」

「幸い、ハーリーン様のおかげで罪には問われませんでしたけど、他の魔導士ウイザード達からは修練場の一つをつぶしたことでずいぶん悪く言われました」

「天才魔導士ウイザードにも失敗はあるんだな」

「人間ですもん」

 カーラは照れ笑いをかべた。しかし、そのがおはすぐに消えてしまう。

「だから私にもカルエルを怒る資格はないんです。……さっき非難したことは謝ります、ごめんなさい」

 そう言うと、カーラはぺこりと頭を下げた。なおで純真……いい子に育ったなぁ。

「いいんだ、カーラ。それよりも、どうやって魔力のコントロールができるようになったのか教えてほしい」

「もちろんです!」

 カーラに笑顔が戻った。この笑顔、太陽よりもまぶしく感じるぞ。

「私はハーリーン様といつしよに、最低出力で魔法を顕現することに努めました」

「どうやって?」

「指先でつまめる程度の小石――それを対象に魔法を放つことで、最低出力の感覚を掴もうとしたんです」

「なるほど」

「私の時は前例がなかったので半月ほどかかりましたが、今ならもっと早く改善させることができると思います」

「頼もしいな。さすが俺の師匠!」

「私が指導する以上、カルエルには立派な魔導士ウイザードになってもらいたいですから」

 面と向かってそう言われたものだから、俺はずかしくなった。同時に、正解へと導いてくれる者がいることに、これほどの安心感を得られるものなのだとはだに感じた。

 剣士フエンサー時代は師匠などおらず、すべてがさぐりだった。基礎もはんに修めていたので、結果として将来のび代を潰しちまった。

 しかし、今は違う。カーラは俺の欠点を細かく把握し、正しい方向へと導いてくれている。初めは子どもに教わるなんてダサいとか思っていたけど、とんでもない。俺には、この子が必要だ。

がんってください。魔力のコントロールは基礎中の基礎ですが、それがおうでもありますから」

「基礎こそ奥義か。けんじゆつりや型のけいこそが頂きへと通じるってけんせいも言ってたしな。……せいいつぱいやってみるよ」

 目標がないとどうにもなまけちまう俺にとって、明確な課題ができたのはよかったかもしれない。何より、娘にいいところを見せる絶好のチャンスだ。

 それにしても、この子も駆け出しのころは魔力のコントロールが下手だったんだな。俺と同じ……やっぱり親子ってことなのかなぁ。どんな形であれ、娘と共通点が見つかるのはうれしい。自然と口元がにやけてくる。

「な、何笑ってるんですか。気持ち悪いなぁ」

「……ひどい言われよう」

「それじゃ、今からさつそくコントロールの修行開始ですっ」

「それは構わないけど、小石はどうするんだ?」

「自分で探してくるに決まってるでしょ」

「えっ。この森の中で!?

「さ、早く拾い集めてきてください! 修行道具を集めることも修行のうち!」

「ひえぇ~~っ」

 その後、俺は森の中を小石集めにほんそうすることになった。しかも、ごろな石が見つからなかったので、岩のそばに落ちている大きなへんを集めて地道に砕いていくはめに。あまりにも非効率な作業に、魔法で石が砕ければと何度思ったことか。……じゆんだなぁ。



 一週間後、俺は再びカーラと共に岩場の森を訪れた。前回と同じ条件で、再び〝破砕シントリヴイ〟を放った俺は――

「やった! 成功だっ!!

 ――訓練のあって、見事に岩だけを打ち砕くことができた。

 それを見ていたカーラもごまんえつの様子。彼女からはくしゆを送られ、俺は魔導士ウイザードとして魔法道をみ出したことを実感した。

「お見事。これで次の段階に進めますね」

「ああ! 次は何をする!?

「モンスター退治……いっちゃいますか!」

「マジで? もう実戦訓練させてもらえるのか!?

「なんだかんだモンスター退治の依頼は多いですから。それに、剣士フエンサー時代に実戦を経験しているカルエルなら、そっちの方が効率的に成長できると思いますし」

「いいねぇ! 相手はゴブリンか? それともオーク?」

「実戦は実戦でも、そういうガチ寄りじゃないです」

「どういうこと?」

「まずは最弱モンスターを相手に、魔力コントロールをよりかんぺきなものにしましょう!」

「最弱モンスター……?」



 カーラに連れてこられたのは、王都の中層区画ミドルベルトの一角だった。ここは中流貴族や商人の他、ある程度の職と財産を持つしよみんが暮らす区画だ。

 ごうとうゆうかいなども起こるので、その犯人をらしめるって言うのならわかるが、こんな街中でモンスター退治ってどういうことだ?

「たしかこっちの道だったかな」

「なぁカーラ。俺達、モンスターを退治するのにどうして街中を歩いてるんだ?」

「そのモンスターが街中に現れるからですよ」

「えぇっ!? 王国兵だって巡回してるのに、この区画にモンスターがみ付くような場所があるのか!?

「グレムリンって知りません? 悪戯いたずらはするけど、大事になるほどではないっていうモンスターなんですが、けっこう王都に棲みついているんです」

「聞いたことあるけど、見たことはないな。そんなに弱っちぃ奴なのか?」

「国がランク付けしているモンスターの危険度指定ではDってところですね。その気になれば子ども達だけでも追いはらえる弱さですけど、数が多いのでギルドにとうばつらいが来るんです」

「そんな弱い奴ら相手に修行になるのか?」

「弱いからこそですよ。カルエルには、そのグレムリンを生けりにしてもらいます。魔力コントロールの最終テストと言ったところですね」

「なるほど。弱い相手だからこそ、殺さずに生かしたままやっつけるのが難しいわけか。やってやろうじゃないか!」

「その意気です!」

 しばらく通りを歩いていくと、カーラが大きなしきの前で足を止めた。

 その屋敷は外観こそれいだが、庭は草が伸びていて、窓はよろいどで閉じられている。人が住んでいる気配は感じられない。

「グレムリンが棲み付いているのは、このお屋敷です」

「ここって無人なのか?」

「ずいぶん前に、ぼつらくした貴族が手放した屋敷だそうです。新しい所有者は商人さんなのですが、グレムリンが棲み付いていることに気付いて〈ニジジヤク〉に討伐依頼をしてきたんですよ」

 カーラはもんを開いて庭へと入っていく。俺もその後に続くが、背の高い草の中からいつモンスターが飛び出してくるかと思って身構えてしまう。

「私は入り口で待っていますから、グレムリンの対処はカルエルにお任せします」

「えっ。そうなの?」

「魔力コントロールを誤って屋敷の中の物をこわさないでくださいね。最悪、ばいしようせいきゆうされることもあり得ますから」

「マジかよ……。実はこれ、めちゃくちゃやつかいしゆぎようじゃないか?」

「カルエルなら大丈夫です! 頑張ってっ」

 笑顔ではげましてくれるカーラ可愛かわいい。さすがむすめ

 この子の期待を裏切るわけにはいかないな。ノーミスでしきないのグレムリンをぜんめつさせて――じゃない、生け捕りにしてやる!

「行ってくる!」

「行ってらっしゃ~い」

 カーラに見送られて、俺は屋敷の中へと飛びんだ。

 げんかんさきのホールにはモンスターらしきかげは見られない。というか、窓がふさがっているからめちゃ暗い! これじゃ屋敷のたんさくなんて無理だ。

 俺は飛び込んで一分もしないうちに、きびすを返して入り口へと戻った。

「どうしました?」

「いや、ランプを持ってこようかと……」

「カルエル。あなたの今の職能クラスってなんですか?」

「え? 魔導士ウイザードだけど」

「だったら、ランプになんてたよる必要ないじゃないですか」

「あ。そっか」

 火がないなら火をともせばいい。それが魔導士ウイザードだ。

 おれは鞘からけん――じゃなかった、つえいて、照明の代わりになる魔法を唱えた。

「カルエルを迷わせるくらやみに、道を開く火種を与えたまえ――〝火よピユール!!

 杖先から小さな火が現れ、屋敷の中を照らす――

「どわああぁぁっ!?

 ――どころの騒ぎじゃない。火力が強過ぎた!

 てんじよう近くまで勢いよく燃え上がった炎は、あやうく俺の顔面を焼くところだった。まえがみが少し焦げただけで済んだけど、それよりもらいぬしの屋敷を燃やしちまわなくて本当によかった……。

「言った傍から何しているんですか!!

「ご、ごめんっ!!

「もうっ! 天井は焦げていないでしょうね!?

「大丈夫。不幸中の幸いと言うか、火は届いてない」

「人様のお屋敷だってこと、くれぐれも忘れないように!!

「はい……」

 さっきめられたばかりだったのに、いきなり怒られてしまった。しょぼん。

 その後、魔力に注意を払ってなんとかさかる炎を小さくしていき、想定していた大きさの火を杖先に灯すことができた。

 カーラの心配そうな顔をしりに、俺はランプ代わりの杖を真っ暗なホールへとき出した。すると、思いのほかおくまでわたせるようになった。

「よしっ!」

「よしって言いますけど、お屋敷の中で火は危ないです。私なら光球にしていましたよ」

「……勉強になります」

 俺に足りないのは、経験もそうだが知識だな。



 魔法で灯した火を頼りに、俺は二階へと上がった。

 一階はすべての部屋をのぞいてみたが、何かがひそんでいる気配はしなかった。地下室もないようなので、グレムリンがいるとしたら二階だろう。

 屋敷の中では、俺がゆかを踏む音しか聞こえない。うすぐらいこともあって、ちょっと不気味だな。

「お~い。出てこい、グレムリ~ン」

 そんなこと言って出てくるわけもないが、ずっと無言だときんちようしてくるのでついつい声を上げてしまう。

 二階の通路を進み始めた時、背後から何かが走る音が聞こえた。とっさに振り返って火を照らしてみたものの、音の聞こえた場所には何もいない。……ねずみじゃないよな。

「ようやく出てきたか。一体どんな姿してやがるんだ?」

 再び通路を進んでいくと、とびらが開いている部屋があった。無人の屋敷でこれは不自然だよな……。

 足音を殺しながら、そっと部屋の中を覗き込んでみると――

「クフー。キャッキャッ」

 ――何やら動物の鳴き声にも似たせいが聞こえてくる。

 暗闇の中で目をらすと、部屋の中央で何か丸っこいものがいくつか転がっている。なんだありゃ? ボールがひとりでに動いているのか?

「キャキャッ」

「キャーッ」

 片方がもう片方に当たると聞こえてくるなぞの声。

 もしかして、あの丸っこいのがグレムリンで、自分達をボールに見立てて二ひきで遊んでいるのか? とりあえずこの部屋にはあの二匹しかいないようだし、まずはどんな姿なのかお目にかかってみるか。

 早速、杖先に灯る火で部屋の中を照らしてみた。すると――

「「キャアアァァァーッ!!」」

 ――二匹そろって、かんだかい声を上げながらこちらを向いた。

 俺が目にしたのは、黄緑色をした毛むくじゃらの丸っこい動物だった。

 子どもがせて丸まっているくらいの体長で、一見するとモフモフしたぬいぐるみのよう。ひょうきんな顔をしていて、なんともさわごこのよさそうな頬に目が行ってしまうが、たしかにモンスターにちがいない。これがグレムリンか。

 二匹のグレムリンが背筋を正したので、おそい掛かってくるのをけいかいして身構える。

「「キュウゥ~」」

 しかし、二匹は次のしゆんかんあおけにたおれてしまった。

「……?」

 一向に動きを見せないので、部屋に入ってグレムリンを覗き込んでみると、なんと白目をいて気絶していた。

「……なるほど。たしかに最弱だ」

 人間と顔を合わせただけで気絶するとは、ザコ過ぎるだろ……。これじゃまったく魔法の修行にならない。

 その時、ろうからいつせいに扉を開く音が聞こえてきた。次の瞬間には、廊下をドタドタと走り回る集団の足音が。

「なんだぁっ!?

 おどろいて部屋から飛び出すと、俺の足元を丸い物体が一斉に通り過ぎていく。

 この丸み、このサイズ、ちがいなくグレムリン――その集団だ! ざっと数えて二十匹はいるぞ!

 グレムリンの集団は列を作って、一斉に階段へとけていく。後を追いかけると、奴らはおしくらまんじゅうの末に階段を転げ落ちていった。

 その時、三匹ほどが階段の手すりからし出された。空中に投げ出されたそのグレムリン達は、無防備のまま一階へと落下していく。いくらモンスターとは言え、俺の姿を見ただけで気絶するような最弱種が階段から落ちて助かるのか? ……無理そう。

「ったくよぅ!!

 俺は二階の手すりから身を乗り出し、落下するグレムリン達へと杖を振った。

「カルエルの行く先を吹き付けよ――〝風よアネモス!!

 ホールに起きた風がグレムリン達を落下寸前で浮かび上がらせ、コロンと床に転がした。奴らはコロコロとホールを転がっていき、壁にぶつかると動かなくなった。……気絶しているみたいだ。

 一方、階段を無事に降りたグレムリン達は、そのまま入り口を通って外に出ていってしまう。カーラはそれを何もせずに見送った後、階下から俺に向かって手を振ってきた。

「最後のかぜほう、良かったですよ! グレムリン達をあおっても無事な威力におさえられていました!」

「そりゃどうも……」

 とりあえずカーラのテストは合格できたみたいだ。

 少しでも加減を誤ればグレムリン達を壁にたたきつけて圧死させかねない際どいタイミングだっただけに、魔力を調整する感覚を掴むのに大いに役立った。

 火魔法の失敗もあったし、めい返上できたのは幸いだ。本格的な戦闘にはならなかったけど、これはこれでグレムリン達には感謝だな。



 屋敷からの帰り道。俺とカーラは庭で見つけた板切れに生け捕りにしたグレムリン達をしばり付けて、王都の正門へと向かっていた。こいつらを町の外に放すためだ。

「本当に殺さずに解放していいのか?」

「害はないですし、ちょっと可愛いので殺すまでは……」

 カーラが可愛い物好きだとわかったのは嬉しいけど、仮にもモンスターをがしてしまうのはいいのかなと思ってしまう。ま、こいつらザコだし、また王都に入ってきたところで大した問題は起こさないだろ。

「……ちなみに、今回のほうしゆうっていくらになるんだ?」

「報酬はお金じゃありませんよ。代わりに、商人さんがあつかっている商品をもらうことになっています」

「そうなのか。一体どんな商品なんだ? 希少な素材とか?」

「今、王都でっているノリノリローパーっていうがんですよ。売り切れ続出でどこにも売っていなかったんですけど、今回の報酬でゆずってもらえることになったんです!」

 いやに嬉しそうな顔で言うけど、玩具おもちやなんて貰ってどうする気だ……?

「それ、魔法の修行に使うのか?」

「そんなわけないでしょ。玩具なんだからつうに遊びますよ!」

「個人的に貰うのかよっ! つーかローパーって、サボテンにしよくしゆが生えたような気持ち悪いモンスターだろ。よりによってなんでそんなもんしがるんだ?」

「オジサンにはわからないかなぁ!? 王都の女の子達の間では、キモ可愛いって大人気なんですよ! 近くで魔力を感知すると、ノリノリにおどってくれるおもしろアイテムなんですからっ」

「……」

 いらねぇ~! ……とは言えない。