「そりゃ杖だからな。ものとして使える必要はない」

「……でもこれ、どこからどう見ても剣だよな?」

「だから魔法の杖だって言ってんだろう。二度言わせるな」

「どこからどう見ても剣じゃねぇか!!

 ……いかんいかん。思わず怒鳴り散らしてしまった。ここは落ち着いて冷静にゴードと話し合おう。げんそこねなければ、ちゃんとした杖を作り直してくれるかもしれないし。

「お前はわかってねぇなぁ」

「な、何がっ!?

「魔法の杖は、本来は決まった形なんてありゃしないんだ。素材も形状も、手にする魔導士ウイザードが使いこなせる物でないとダメだ」

「だからってなんで剣!?

 理解に苦しむ。おれは元剣士フエンサーではあるが、新たに魔導士ウイザードの道を目指すかくを決めたんだぞ。今さらロングソード片手に剣士フエンサーとしてやり直せってのか?

「わしはけいがんというとくしゆな眼を持っていてな。つうじんには見えない魔法的事象を観測することができる」

「それは……すごそうだな」

「魔慧眼でお前さんの魔力を観察した結果と、お前さんの選択――それらを総合して、剣の形がお前さんの魔力にとってベストだと判断した」

「な、なつとくがいかないぞ! 俺は剣士フエンサーもどる気はないっ」

「戻る必要ないだろ。わしがお前さんにあたえたのは、まぎれもなく魔法の杖。鉄をベースに色々混ぜてあるが、魔力を扱うのにそれ以上のものはない」

「ぐぬぬ……っ」

「文句があるなら返してもらうぞ」

「……わ、わ、わかった、よ……っ」

 くそぅ。これで杖を受け取らずに帰ったらカーラに顔向けできない。かと言って、こんなもん持って帰ったところで何を言われるか……。

「例のオリハルコンもちゃんと使われてるんだろうなっ!?

「もちろんだ。分量が少なかったんで、ヒルトの部分にだけ使ってある。まぁ、見た目じゃわからんだろうがな」

「俺には確かめようがないぜ……」

「ちなみに、その杖の製作料は77万アープだ。あとでギルドにせいきゆうしておくからな」

「ななっ!?

 こんなもんが77万? 刃引きされたロングソードが77万アープ!? 武器屋でそんな額を請求しようものなら、系列の商人ギルドから追放されるぞ!!

「よし、帰れ。わしは別件の作業が残ってるからな」

「……」

 俺は半ば放心した状態で店を出た。けに、ゴードから杖がぴったり収まる木製のさやもらって。

 ……やっぱり剣じゃねぇか!!

 こんわくしながらも通りを歩いていると、ざつとうの中で知り合いのぼうけんしやグループとすれちがった。

「おい見ろよ。ラルフだぜ」

「うっそ。こいつ、まだ王都にいたんだ」

「〈猿鬼道エンキドウ〉をクビにされたくせに、よくもまぁずかしげもなく往来を歩けたもんだ」

「あの人、戦力外通告受けたんでしょ? もう剣士フエンサーとしては再起できないっしょ」

「でも、未練たらしくロングソード持ってんじゃん。だっせぇなぁ~」

「くすくす」

「ゲラゲラ」

 くそぅ。心機一転、栄光のロード(誰もが羨むウハウハ人生)を歩き始めたはずなのに、なんだこの敗北感は。

「ラルフ! 仕事がしけりゃ荷物持ちとして雇ってやるぞぉ~」

「アハハ。マジでやりそう」

「くすくす」

「ゲラゲラ」

 すれ違っただけなのに、奴らは散々俺を馬鹿にして去っていった。

 あいつら、俺よりも一回り年下のくせに目上の人間への態度がなっていない。もう少し若かったらなぐりかかっていたところだ!

 しかし、ラルフか……。魔導名を名乗ってまだ一週間しか経ってないのに、もうなつかしい感じがする。いっそラルフのことはみんなに忘れてほしいな。

ニジジヤク〉のギルドに戻ると、入り口でスターとデュエラのていとすれ違った。見れば、デュエラはワンド型の杖をこしに吊るしていた。ちゃんと魔導士ウイザードっぽい杖を手に入れられた彼女がうらやましい。

 それに比べて、俺は……。

「おかえりなさい、カルエル。どんな杖を作ってもらったんです?」

「た、ただいまカーラ……」

 ギルドに入って早々、カーラがきようしんしんの表情でけ寄ってきた。一体なんて言えばいいのか……。

「あら。その剣、どうしたんです?」

「え? ああ、これ? はは……」

「護身用ですか?」

「いやぁ、えぇと……」

「早く魔法の杖を見せてください。ワンド型ですか? もしかしてシガー型?」

「もう見せてる」

「はい?」

「その、これが……魔法の杖……です」

「……はぁ?」

 ま、予想通りの反応だな。



 その日の昼過ぎ。俺はカーラと共に、王都から北に3キロほど離れた森をおとずれた。

 つうしよう、岩場の森と呼ばれるこの小さな森は、やたらとでかい岩石が転がっていて、魔導士ウイザードの訓練の場に重宝されているという。たしかに岩石の中には、不自然にげ付いたあとごうかいくだかれたものがある。魔導士ウイザードが魔法の訓練に使っていたこんせきのようだ。

「ここらへんならちょうどいいかな。それじゃ、今日から魔法を直にあつかう修行を始めます!」

「やっと本格的な修行が始まるのか……」

「何を言っているんです。カルエルには、この一週間で魔導書を勉強してもらったじゃないですか。知識の吸収も立派な修行ですよ?」

 勉強とは言うけど、細かい文字がびっしり詰まった分厚い本を四六時中読まされて、目と脳みそがしんどかっただけだぞ。内容も難しい文章で書かれていて、俺の知らない単語ばかり。せめてさしがもう少し多ければよかったが、最終的にはほとんど流し読みしてしまって中身はほとんど覚えていない。

「魔法の基礎は重要なんですからね。せいれいの取り扱いを間違えれば、とんでもない災難が降りかかってくるんですから」

「わかってるよ。本に書いてあったから」

「魔法をけんげんさせる手順はしっかり覚えていますか?」

「一応」

「……心配だなぁ」

 カーラがげんそうな表情を向けてくる。まったく娘にしんらいされていない感じで、父親としては歯がゆい。

「まずは私が目の前でじつせんしてみせますから、してやってみてくださいね」

「わかった」

 カーラは肩に背負ったポーチからワンド型の杖を取り出した。

魔導士ウイザードは魔法を使う数ある職能クラスの中でも、もっとも実戦向きです。七門――つまり七種類の属性がしっかり体系立てられていて、各属性ごとに低位、中位、高位といった区分もあります」

「それは覚えてる」

「属性の種類は?」

「えぇと……火、水、風、地、光、やみ、無だったよな」

「正解です。そして、七門の属性の中でこうげき系の魔法と言えば火属性。ですが、他の属性にもそれぞれ攻撃系の魔法は存在します。属性ごとにこうげきほうがある理由は?」

「え? それは……」

「もうっ。ちゃんと魔導書を読んだんですか!?

「よ、読んだに決まってるだろっ」

 流し読みだけど……。

「属性にはあいしようがあるからです! 例えば、紙や木などを燃やす時には火属性魔法が最適ですが、水を燃やすことはできません。仮に川を渡りたい時は、地属性魔法で地面を盛り上げて流れをせき止めるといった対処が良いでしょう」

「上流にでかいほのおをぶっ放せば、水が蒸発して渡れるようになるんじゃないか?」

「魔力効率が悪過ぎるでしょ! ……まぁ、それもせんたくの一つではありますけど」

「効率かぁ……。俺、そういうの苦手」

「そして、岩ばかりのこの場所では、風属性による岩砕きの魔法を実践します!」

 言いながら、カーラは近くに転がっている岩石へと向けて杖を構えた。

「岩を砕く魔法ねぇ」

魔導士ウイザードなら誰もが最初に学ぶ攻撃魔法の一つですよ。魔導書を読みました!?

「ごめん……」

 カーラはほおふくらませて俺をにらんでくる。……このおこった顔、彼女を思い出すなぁ。

「それじゃいきますよ!」

 カーラは杖のせんたんをくるくる回しながら、小さくつぶやき始める。

「大地にく風、けること知らず。カーラの指し示すかべ穿うがて――」

 杖の先端にはぼんやりと緑色にかがやく光の玉が現れていく。

「――〝破砕シントリヴイ!!

 カーラが発声した瞬間、光の玉が流れ星のように空中を走る。それが岩にぶつかると、まるできよだいなハンマーで殴りつけたように粉々に砕け散った。圧巻のりよくだ。

「これがもっとも初歩的な風属性の攻撃魔法です」

「初歩的って言うけど、俺が前にパーティーを組んでた魔導士ウイザードの〝破砕シントリヴイ〟よりも威力があるぞ」

「そうですか? まぁ、練度によって魔法の威力は変わりますから」

「そういうものなのね……」

 カーラは杖をしまうと、砕かれた岩のとなりにある小さな岩を指さした。

 次は、俺にあの岩を砕けって言うのか。……この剣で。

「魔法を使ってくださいね? りかかっちゃダメですよ」

「わかってるよっ」

 剣を見るカーラの怪訝な表情は相変わらず。俺自身、今もこの剣を魔法の杖だとは思えない。こんなもので魔法を使えるのかすら疑わしい……。

「始めの一歩ですし、気負わないで。ただ思いきりやってみてください!」

「そうする」

 岩と向かい合って、剣――じゃなかった、杖をりかぶる。……普通に剣を構える姿勢になっちゃっているんだけど、いいのかなこれで?

 魔法の顕現とは、次の四つの動作から成る――

 一つ、体内に魔力を実感。

 二つ、精霊に働きかけるためのじゆもんえいしよう

 三つ、意識下で対象を選定、あるいは杖で標的を決定。

 四つ、を発言。

 ――これらをとどこおりなく行うことで、魔法は顕現する。

 杖を頭上にかかげて、まずは精神集中。魔導書に書かれていた通り、魔力が体内に満ちあふれ、うでぜんわん、手のひら、指先、杖へとめぐっていく流れをイメージ。そして、呪文詠唱の後に標的へとねらいを定める。

「大地に吹く風、避けること知らず。カルエルの指し示す壁を穿て――」

 体内を何か不思議な感覚が巡っているのを感じる。もしかして、これが魔力ってやつか? それに、視界の外から何か光が注いでくる。げんかくじゃない。杖の先端に光の玉が出来上がっているんだ。

「――〝破砕シントリヴイ!!

 魔名を唱えるのと同時に、杖を岩に向かって振り下ろす。杖の先から光の玉が飛んでいくのが見えた直後――

「えっ」

 ――大地が斬れた。

 岩は真っ二つに割れ、その後ろの木々ごと地面に巨大なれつが生じ、はる彼方かなたの岩だながばっくりとけ、きゆうりようの形が変わってしまった。

 ……これ、俺がやったのか?

 ちらりとカーラの様子をうかがってみたところ、岩だなの方を見たままぜんとしていた。ハッと我に返ったかのじよは俺に向き直るや、血相を変えてつかみかかってきた。

「だ、誰がここまでやれって言いましたっ!? 馬鹿じゃないですかっ!?

 思いきりやれって言ったじゃん……。