幕間 凶報


「ソフィア様、お客様がお見えです」

「え? あ、はい。え~と、誰でしょうか?」

 薄暗い蔵書の管理倉庫。その最奥に設えてある年期を含んだ執務机の上で、ソフィアは寄贈された書籍の目録に目を通していた。その最中に入った来客の知らせに、ソフィアは首を傾げる。

「騎士団長のマルティーナ様です。何やら大事な話があるとかで」

「大事なお話? 分かりした。応接間に通して下さい」

 司書長としての仕事を任されてから二年……マルティーナと顔を合わせる機会も少なくなっていた。お互いに、責任ある立場となった身。時間が合わないことが増えたのだ。それでも、時間を見つけては共に食事を取り、交流は今でも続いている。

「──久しぶりね、ソフィア。前に会ったのは、二か月くらい前だったかしら」

 騎士団長の制服に身を包んだマルティーナ。ここ数年で、彼女はだいぶ大人びた印象を受ける。しばらくお互いに近況などを報告し、少しの世間話を交わしたのち、マルティーナは緊張した面持ちで切り出してきた。

「実は、カムイ国と我が国で、幻獣の姿が、計三体、確認されたわ」

 おもむろに切り出された話題に、ソフィアは手にしたカップを取り落としそうになった。

「進行方向からの予測だけど、全ての個体が、リーンガルドに集結したものと見られているわ」

 目撃されたのは、龍神、ベヒーモス、ティターンである。三体の幻獣が、一度に姿を見せたという話はソフィアも聞いたことがなかった。デミウルゴスが消えた影響か。はたまた別の要因があって動き始めたのか。いずれにしろ、なるほど確かに。

 これはかなり──『大事な話』だ。

 その一体で国が滅ぼされるほどの力を有した化け物が、一か所に集結したというのか。

 冗談を通り越して悪夢である……いや、悪夢ですら可愛いと思える異常事態だ。

「いずれ、カムイ国の調査団も交えた、大規模な現地調査を実施する予定よ。でも、その前に現地の状況を確認しておかなきゃいけない。そこで、先行してあたしの部下を何人かリーンガルドに派遣することにしたわ」

 リーンガルドにはシドという小さな町がある。そこが現在どうなっているのか。もしも幻獣の出現でパニックとなっているようなら、事態の鎮静化も視野に入れて、調査隊とは別に騎士団を向かわせるという。王都から直接騎士が派遣されてくれば、国が地方にも意識を向けていると示すことができる。地元住民たちの混乱もいくらか落ち着くかもしれない。

「もしも本当に幻獣が一か所に集中しているなら、あんたにも表に出てきてもらうことになると思う。きっと、かなり大規模な戦闘になるわ……だから、今のうちに準備をしておいてほしいの。今日はそれを伝えに来ただけ。調査に進展があったら、また報告に来るから」

 それを最後に、マルティーナは席を立ちあがった。しかし、ソフィアは咄嗟にそれを止めて、

「マルティーナさん、よろしければその先行調査、わたしも同行させてもらえないでしょうか?」

「え?」

 マルティーナがポカンと口を半分開いた状態で固まる中、ソフィアは前髪に隠れた色違いの瞳を、真っ直ぐに旧友に向けていた。