いや、そういえばこの前も、俺とデミウルゴスが泉で水浴びをしているところに突貫してきたことがあったんだったか……いや! だからってダメだろこれは!?
「お前が入るなら俺が出る! つうか前を隠せっ、前を!」
ユグドラシルは完全なお子様体型ではあるが、それでも女の子の体なのだ。俺に幼女趣味はないが、それでも彼女の白い肌を直視するのは躊躇われる。むしろ子供の体だからこそ、見てはいけないものだという意識が強く働く。
「あはっ、別に見たって楽しい体でもないんだし、気にし過ぎだってば~」
「気にするだろ!? だいたい何で来たんだよ!?」
「だから~、妹の旦那さんであるアー君……
「それ絶対におかしいからな!」
同性ならその理屈にも納得するが、異性で裸の付き合いとか聞いたことない! そもそもユグドラシルとはまだ会ったばかりでこのようなことになる間柄では断じてない。
「まぁまぁ、いいじゃないの~。あたしとしては、アー君と少しお話がしたかったんだよ~。ここなら盗み聞きされる心配は少ないからね~……って、みんなして寝てるんだったっけ?」
「は、話なら別の場所でもいいだろうが! 何もこんなところで!」
「もう~、あまり駄々をこねるとここにディーちゃんとかヒーちゃんを呼んじゃうよ? 『きゃ~!』って大声で悲鳴とかあげちゃうよ~?」
「ぐっ……そ、それは卑怯だろ……」
「あたしだってできればそんなことはしたくないよ~? でも~、アー君があたしと一緒にお風呂に入るのを嫌がるなら~、やっぱり~……(チラッ)」
こ、こいつは~~……
横目にこちらの様子を窺い、口元にいやらしい笑みを浮かべるユグドラシル。
俺は湯船の中で拳をわなわなと振るわせる。
だが、ここでデミウルゴスはもちろん、ベヒーモスが目を覚ましてここに来るような事態は絶対に避けたい。特にベヒーモスは執拗に俺と性交をしようと迫ってくるのだ。こんな逃げ場のない風呂の中で襲われたらさすがに危険だ。
最悪、俺とベヒーモスが致している現場をデミウルゴスに目撃などされてみろ……最悪の未来しか想像できん。
「ああくそっ! わかったわかりましたよ! ただし、話を聞いたらすぐに上がらせてもらうからな!?」
「よしよし。潔い子はお姉さん嫌いじゃないぞ、あはっ♪」
いい笑顔を見せながら、ユグドラシルはテトテトと湯船に近づき、
「ほらほら、先に背中を流してあげるから、上がって上がって~!」
強引に俺を湯船の中から引っ張り上げ、簡素な木製の台座(作:俺)を椅子代わりに、無理やり腰掛けさせられた。
するとすかさず、ユグドラシルはどこから取り出したのか目の粗い手ぬぐいを手に、俺の背中を流し始めた。
「んしょ、んしょ……アー君、力加減、こんな感じでいい?」
「……いや、もう少し強くてもいいぞ」
「じゃ、これ、くらいっ?」
俺の言葉に、ユグドラシルは擦る力を少しだけ強くした。
加減で言えばまだ少しだけ弱いくらいだが、それでも自分じゃ手の届かないところを丁寧に擦ってもらえるのは、思いのほか気持ちがいい。
「で、話ってのは何だ?」
男の風呂に突入してくるほどだ。しかもデミウルゴスたちには聞かれたくない話というくらいだから、もしかしたらそれなりに重要な内容かもしれない。
しかし、彼女の奔放な性格を見ていると、別にそこまで大した内容でなくとも、こんなことをしでかしている可能性もゼロではないような気がする。どちらにしても、彼女とはまだ出会って一週間も経っていないのだ。
俺はまだ彼女の表面的な部分しか理解できてはいない。そういった意味では、今回は彼女を知るいい機会なのかもしれないが。
とはいえ、裸で乗り込んでくるのは勘弁願いたいところだ。男の理性とか、しっかりと考えてほしい。
「せっかちだね~……まだ洗い始めたばっかりだよ~? そんなにあたしと一緒にお風呂に入ってるのが嫌~?」
「そういうわけじゃなくて、みだりに女性が男の前で肌を晒すもんでもないし、こういうことはお互いに好き合ってる者同士がやることだろ」
「あたしはアー君のこと好きだよ? 素直で可愛い反応してくれるし、何より、あたしの大事な大事なディーちゃんの旦那様だもん~」
「いやそうじゃなくて、好きと言っても恋人とか、夫婦間にある愛情というか」
ユグドラシルが言う好きは、近しい者に対する親愛の感情だ。いや、本当にそういった感情を持ってくれているのかどうか怪しいものだが。まぁ、嫌われてはいないんじゃないかと思う。多分だが。
しかし、こうやって全裸で押しかけてこられるような関係ではないな。間違いなく。
「昨日からなんとな~く思ってたけど、アー君ってわりと貞操観念が固いよね~? もうゴリゴリ。硬くするのは下半身だけでいいのに~」
「そこ。その見た目で下ネタ禁止。というかオッサンですか、あんたは……」
「あはっ♪ あたしは君からすれば物凄いババァだよ? オッサンなんて目じゃないね」
「では訂正、女性ならそういう下品なことを言わんで下さい。仮にも
「あはっ。あたしを義姉だとは思ってくれるんだ? 嬉しいね~」
背中越しに聞こえてくるユグドラシルの声はコロコロと調子が変わる。
喜怒哀楽がはっきりしているというか。
「ふふん。そんな嬉しいことを言ってくれる
「はい?」
「えいっ」
──ぷにっ。
「っ!?」
突如、俺の背中に柔らかい感触が当たる。
起伏に乏しくとも見た目年齢より若干発育した体が、思いっきり押し当てられる。
「な、なななっ、何してんですか!?」
「当ててんの。おっぱいとかお腹とか全部」
「おっ!? いやいや! からかうのも大概にしてくれ!」
「ええ~、気持ちよくない? 男の人ってこういうの好きだと思ってたんだけど?」
「それどこ情報ですか!?」
いや、確かに好きか嫌いかでは訊かれれば好きと答える。これがデミウルゴスからされていたのなら飛び上がるほどに興奮していただろう。
しかし相手は義理の姉(幼女)である。気持ちよくなったら色々とマズイだろ!?
「あたし、ず~っと世界を見てたんだよ? ディーちゃんよりいっぱいね。だから、色んなこと、知ってるんだから~」
「なら今こうしてることが人間的には普通じゃないことも知ってると思うんだが!? 離れて下さい!」
「あははっ、君の顔、真っ赤っか~」
「誰のせいですか! 誰の!」
ああもう! これ以上は本当にマズイ!
小さくともやはりそこは女の子の胸……硬さよりも柔らかさを感じてしまう。
俺の理性もぐらぐらだ……これはもう、逃げよう!
これ以上状況が悪化する前に、俺は浴室から脱出する決意を固めた。
しかし、不意にユグドラシルが俺の肩に手を置き、耳元で小さく声を発した。
「ふふ……からかいがいのある
「っ……!?」
何だ……? 急に、ユグドラシルの声音が……それに喋り方も変わって……
「『あたくし』の愚妹に、そうも義理立てしてくれてはるいうんは……姉として、嬉しい限りやなぁ」
「……お前……誰だ?」
「何を言うてはります? あたくしはあたくし……ユグドラシルやないの」
「随分と、キャラが変わったじゃないか」
「ええまぁ、ちぃっとばかし、まじめなお話、しよう思いまして……このままで、失礼させてもらいます」
声や喋り方だけではない。雰囲気が先ほどまでとはまるで別人だ。背中から押し潰されそうなほど強烈なプレッシャーが圧し掛かってくる。今までの天真爛漫、自由奔放な幼女の姿はそこになく、世界を支える世界樹の精霊としての彼女が、今、俺の背後にいる。
それを実感させられるだけの強烈な圧力が浴室を満たしていた。
「恐がらんでもいい……別にとって食ったりなんてしません。ただ、あんさんに少し、話しておきたいことがありましてなぁ……」
「それが、ここに来た目的か?」
「そうやね。その通りや」
「わざわざ男の風呂にまで突入して来て、話すことなのか?」
「ええまぁ……あまり時間をかけてもいられないようやし、単刀直入に言わしてもらいましょか……」
ん? 時間がない? それはどういう……
彼女の言葉に違和感を覚えつつも、それを俺が問う前に、ユグドラシルは耳元で呟いた。
「もし……いつまでもあの子と一緒に生きて行きたいというのであれば、あの子の『力』を使うんは、お控えなされ」
「え……?」
それは、どういう意味だ? 力を、使うな?
「おい、それって……」
「言葉のままや……『
「後悔?」
何だ? 彼女は何が言いたいんだ?
「忠告はしましたでな。あとはアレス……ぬし次第でありんす。デミウルゴスを悲しませたくないのであれば、力の乱用は避けたほうが懸命やさかい、よう心に留めておき」
「ちょっと待ってくれ。言っている意味がわから……」
「すまんが、もう時間はのうなってしまったみたいや」
「は?」
それこそ、どういう……?
俺がユグドラシルの言葉に首を傾げていると、勢いよく、浴室の扉が開かれた。
「え?」
「あ、『ディーちゃん』来ちゃった~。まぁ、あれだけ騒げば気付かれるよね~……」
「お、お主ら……一体ここで、何をしておるのじゃ……?」
扉を開けて現れたのは、デミウルゴスであった。
その表情は髪に隠れてよく見えないが、声が震えているのはわかる。
さて、この状況を客観的に分析してみよう。
裸の状態である俺とユグドラシルが、浴室でニ人っきり。果ては俺の背中にユグドラシルが抱き付いて、小さなお胸をしっかりと押し付けていらっしゃる。
………………うん。まるっきり浮気の現行犯だわ、これ。
「旦那様、主は我という者がありながら、そのようなお子様体型のつるぺたにうつつを~~~……」
「まぁ待てデミウルゴス」
「何じゃ? 何か言い訳でもあると言うのかのう?」
「言い訳じゃない。誓って言うが、これは決してお前が考えているような状況じゃない」
「ほぉ……では、何だと言うのかのう……?」
こういう場面で、男は慌ててはいけない。興奮している相手に、こちらまで興奮しての対応は下策。落ち着いて、慎重に、真実を話せばいい。大丈夫だ。俺に後ろ暗いところはないのだから。
「俺は、彼女に背中を流してもらっていただけだ」
ただそれだけ。あとはちょっと話をしただけにすぎない。ほら、何にも問題はないじゃないか。
「うん。あたしのちっちゃいおっぱいをアー君に押し当てて、背中を流してあげてたの~! アー君も気持ちよさそうだったよ~? ね~♪」
う~ん惜しい。そこで余計なもんをくっつけなければ完璧だったのにな~義姉さん。それと現在進行形でぷにぷにと押し付けているものも離してくれるともっとありがたいんだけどな~義姉さん。
「こ、こ、こ……」
「う~ん? ニワトリさんのマネかな? コケコッコ~?」
ユグドラシルはこの期に及んで、まだアホなことを抜かす。
しかし次の瞬間、デミウルゴスから強烈な雷が降り注いだ。
「こ、この戯け共めが~~~~~~~~っ!!!?」
ですよね~!
その後、俺とユグドラシルは素っ裸のまま、浴室で長時間デミウルゴスからこってりと絞られました。
ついでに言えば、その日の夜はお仕置きという名目で俺の精もこれでもかというくらいに搾り取られてしまい……
翌日の俺は、まともに立ち上がることもできなくなってしまったのだった。