ベヒーモスの締め技が完璧にきまっているため、俺の腰がギチギチと嫌な音を鳴らしていた。
あ、やばい……本格的に意識が……
「オスはいっぱいのメスを孕ませることに喜びを見出す……それがオスの本能……」
「旦那様をその辺の
「ずるい……このオスの子種、ボクだってほしい……龍神たちだって、欲しいでしょ……?」
俺の腰を締め付けたまま、ベヒーモスが後ろの三人に問いかける。
「え!? わ、わたしはいらないわよ! そんな奴の種なんて!」
「オレ、あんまそういうのに興味は……あ、でも嫌がるオレを無理やり組み敷いて、強引に中に出される、ってのは燃えるかもな……はぁ、はぁ……!」
「あらあら、いけませんよベヒーモス。お母様のものに手を出しては……ただ、わたくしたちと番になれるほどの男性はほとんどいないでしょうから、ベヒーモスの気持ちもわからなくはないですけど……」
フェニックスは即座に否定。ティターンはなにやら妖しい笑みを浮かべ、龍神はのほほんとした様子でベヒーモスを嗜める。
しかしその間もデミウルゴスとベヒーモスの攻防は続き、俺の腰はいよいよ限界であった。
「ええい! いい加減に離さぬかベヒーモス! 旦那様は絶対に渡さぬ~!!」
「ボクだって交尾したい……強いオスの子種、欲しい……!」
「お、お前ら、いい加減……離して……死ぬ……」

「む~……」
夜。デミウルゴスはいまだお冠であった。
最近は俺と一緒に寝ようとはしなかったデミウルゴスが、今日は俺を何かからガードするように寄り添っている。
「ベヒーモスめ……戻って早々に旦那様に目を付けるとは……油断ならん奴じゃ……」
大きな樹のウロを利用して作った簡易的な寝床。
デミウルゴスは既に服を脱ぎ、いつもの就寝スタイルで俺の体にしがみついていた。柔らかい体が押し付けられて落ち着かない。
結局あの後。ベヒーモスは龍神によって説得され、渋々といった様子で俺から離れてくれた。
だが、去り際に「絶対に、子種、奪取……じゅる……」とか、恐ろしい言葉を残して、手ごろな寝床を求めて森へと消えていった。
余談だが、四強魔たち……フェニックスもティターンも、自分の寝床は自分で勝手に作り、そこで寝泊りをしている。今日エルフの森に合流した龍神とベヒーモスも、自らに適した寝床を作り、そこで眠るのだそうだ。
それと、明日からさっそく世界樹の育成に、龍神とベヒーモスも参加するということで話は決まった。今以上にアニマクリスタルの収穫が見込めるうえ、あの二人が保有するマナの一部を世界樹に与えてくれるそうだ。
これでまた、世界滅亡の回避に一歩近づいたと言っていいだろう。
だが、喜んでばかりもいられない。
「旦那様は我の物じゃ……絶対に他の女に渡してなるものか……たとえそれが、身内であっても……」
素肌を晒した状態で、警戒心まで赤裸々に剥き出しにしているデミウルゴス。
つい昨日までは、俺と距離を取っていたというのに、今では全力で俺にひっついて離れない。それ自体は非常に嬉しいことなのだが、彼女の表情は不機嫌一色。それというのも全て、ベヒーモスが俺に性交を迫ってきたためだ。デミウルゴスは思いのほか独占欲が強いらしく、俺を取られまいとこうしてすぐ近くで横になっている。
これでは夫婦間の甘い雰囲気に発展するはずもなく、俺はデミウルゴスと久方ぶりに肌を合わせているというのに、なんとも寂しい限りである。ただ、俺はそれ以上にかなりの安堵も覚えていた。こんな状況だというのに、口元には笑みが浮かんでしまう。
「む? 旦那様よ、何を笑っておるのじゃ!」
と、こんな暗い中でも俺の表情に目ざとく気付いたデミウルゴスが、ジト目で睨みつけてくる。だが、今の俺はそれすらも愛おしく感じてしまい、頬の緩みを抑えられずにいた。
「もしや、ベヒーモスに言い寄られていい気になっておるのではあるまいな!?」
声に険を滲ませて、怒りを露にするデミウルゴス。
俺は彼女の目をまっすぐに見つめて、自分の気持ちを正直に話すことにした。
「悪い悪い……ただ少し、安心しちまってな」
「む!? 安心とはなんじゃ! 我はベヒーモスが夜這いでもかけてこないか、ずっと気を揉んでおるというのに!」
なるほど。ガードするように、ではなく、本当に俺のことをベヒーモスからガードするために添い寝してくれているようだ。ますますこの銀髪の創造神様が愛らしく映る。
「その、なんていうかな……俺、実は今日までずっと、お前に避けられてるんじゃないかって、思ってたから……」
「我が旦那様を避ける? 一体何を言っておるのじゃ? 我は一度たりとも、旦那様を避けたりなどしておらぬ」
自覚なしか。ということは、ああして俺との接触を極力避けていたのは、俺との初体験に対して何か思うところがあったってわけでもなさそうだな。
今の言葉を聞いて、より俺は胸の中でつかえていたものが取れた気分であった。
俺は肩をいからせるデミウルゴスをそっと抱き寄せて、その柔らかい体をそっと包み込んだ。
「初めて結ばれた日からさ、俺たち、まだ一度もその、してないだろ?」
「していないとは、情交のことかの?」
「ああ……正直さ、あの後はティターンのこととか色々あって、全然お前とそういう雰囲気になれなくて……でも、いざそれも落ち着いたと思ったら、お前は俺に触れるのを避けるみたいにしてたから……」
「いやっ、それは違っ……」
「てっきり、俺から求められるのを
「そ、そのようなことはない! 我だって、
「なら、どうして俺を避けてたんだ? これでも、結構に気にしてたんぞ?」
「う……それは悪かったのじゃ……じゃが、仕方がなかったのじゃよ……じゃって、そうせぬと……我が、旦那様を求めて、求めて……歯止めが利かなくなりそうだったんじゃもん!」
思いがけず出て来たデミウルゴスからの告白に、俺は顔をかぁっと熱くさせてしまう。それだけではなく、同時に心臓がドキドキとやかましいくらいに高鳴ってしまった。
というか「じゃもん!」って、可愛すぎだろ……
「あの夜から、何度主と肌を重ねたいと……抱いて欲しいと思ったかわからぬ……」
ぎゅう、とデミウルゴスが更に強く密着してくる。瞳を潤ませた彼女に見つめられると、胸の中が勢いよく熱くなっていく。
「じゃが、そんなことばかり考えておる
ああ、もうやめてくれ! そんな可愛い理由で避けられていたなんて言われたら、俺は自分の鼓動だけで死ねてしまう。いや、そもそもだ。
「俺は、どれだけお前から求めてきたって、どれだけエッチだって、嫌いになるわけがない……むしろ、俺としてはもっとお前と愛し合いたい……何度でも、何度でもだ」
「だ、旦那様……うむっ!?」
俺は顔を真っ赤に染め上げたデミウルゴスの頭をそっと抱えると、彼女の濡れた唇に自分の唇を重ねた。
「デミウルゴス……今日、何で俺がベヒーモスとの試合をすぐに受け入れたと思う?」
「む。それは、ベヒーモスが実力を示してみろと挑発してきたから」
「違う。いや、それもないわけじゃないが、そんなことよりもな」
俺はデミウルゴスの瞳を真っ直ぐに見つめる。どことなく、デミウルゴスの頬に差した赤みが強くなった気がする。
「俺が、お前に相応しい男だってことを、四強魔の全員に知ってもらいたかったからだ」
「ぴゅっ!? だ、だんにゃさま!? にゃ、にゃにを、急に!」
頬の朱が顔全体に広がり、噛み噛みになっているデミウルゴス。かなり動揺している様子だ。とはいえ、俺も顔が熱くなっているのだが。
「ベヒーモスが龍神に言ってただろ……『主様の隣に相応しくない男がいるのを許せるのか』ってさ……俺、アレ聞いてけっこうカチンときたんだぞ」
あれは、デミウルゴスの隣にいる資格があるのかと問われることも同様だ。ベヒーモスの感情を頭では理解できても、感情的な部分では冷静になりきれず、その問いかけをされたことに腹が立った。俺以外の男がこいつに相応しいなどありえないと、まるで傲慢な考えが頭に浮かび……しかしそんな汚い感情を覆い隠すように。ベヒーモスと戦う正当な理由を頭に並びたてて、勝負を了承したのだ。
「初めての夜に、俺は言ったな……お前を本気で好きになるって……もう俺は、どうあってもお前を手放せないくらいに、好きになっているみたいだ……あの時はハッキリした答えを返せなかったが、今なら自信を持って言える……」
呆けたように目を丸くするデミウルゴスの腰に腕を回し、彼女の頬に俺は手を添えた。
「俺はお前が好きだ、デミウルゴス……本気で、愛している」
「だ、旦那様、それは本当……うむっ!?」
みなまで言わせることなく、俺はデミウルゴスの口を塞いだ。いかに俺の大事な妻とはいえ、俺の気持ちを疑るような言葉は聞きたくない。俺は彼女の唇を強引に奪い、貪るようにキスを交わす。
今までお預けを食らっていた状態だからこそ、デミウルゴスが欲しいという気持ちが止まらない。しかもこうなった理由……彼女が俺を避けていた理由というのが『俺を求めすぎるから』などと聞かされては、理性など保ちようがない。というか、こいつはそれを狙ってやってたんじゃなかろうか。
とてもじゃないが、今日の俺はこのまま終わることなんてできそうもない。目の前にいる愛おしい彼女のことを、滅茶苦茶にしてしまいたいという欲求が膨れ上がって止まらないのだ。
「だ、旦那様、そんな、強引……ん、む……っ!?」
「ん……ちゅっ……」
唇をついばむようなキスから、今度は相手の唇を割り開き、舌を強引に口内へと潜り込ませる。
「はぁ……だんな、さま……ちゅ、くちゅ……れろ……あ、はげし……んん~!」
僅かに外から差し込む月明かりが、真っ暗なウロの中を僅かに照らし、とろけたデミウルゴスの顔を俺に見せてくれる。
「綺麗だ、デミウルゴス……俺は今日、お前を抱くぞ……愛する妻として」
「うむ、よいぞ……なればもう、我も抑えぬ……今夜の我は、旦那様をただ求めるだけの、一人の女になってしまうぞ? よいのじゃな?」
「それは、むしろ俺としても望むところだな……ん、ちゅ……」
「ちゅ……ああ、旦那様……我も、愛しておる……」
その夜、俺とデミウルゴスは、これまでの時間を埋めるがごとくお互いを求め合い、貪りあった。闇の中に木霊する彼女の嬌声に、俺の中に眠るオスの本能が刺激される。
初体験以来の営みは以前にもまして激しく……夜通し行われた情交は、空が白むころまで続いたのだった──