「二発目」パシーン!「いっ!」

 挑発的なティターン。それを黙らせるように次なるスパンキングを行う。森に響く打撃音。ティターンは小さな悲鳴を上げて体を硬直させて、涙を浮かべる瞳で俺を睨んできた。

「てめぇ、この」

「三発目」パシーン!「んぎっ!」

「四発目」パシーン!「んン~っ!」

 五、六、七、八、九、一〇……

 パシーン! パシーン! パシーン! パシーン! パシーン!!

 小気味いい音が平手打ちのたびに響き、それと同時にティターンの口からも声が漏れる。褐色肌であるためわかり辛いが、ティターンのお尻がうっすらと赤くなっているのが見てとれる。

「一〇発……どうだ? 自分のしたことを反省する気になっ」

「舐めんな! たかがこれしきのことで四強魔であるオレが屈するわけな、」

「なら続行だ。次は倍の二〇発。お前が心の底から『ごめんなさい』と言うまで続けるからな」

「っ! ……上等じゃねぇか。オレはぜってぇ頭なんざ下げねぇ。てめぇのやわな手が先に悲鳴を上げるのが先」

「ほれ」

 バシーン!

「づ~~~~っ!」

 マナで強化された肉体ならまだしも、今の脆弱な体では俺のスパンキングでもそれなりの痛みを与えられる。とはいえ相手は四強魔……世界最強の魔物であり、人間からは『幻獣』の名で恐れられた存在だ。いかに守りが薄くなろうと並みの人間では本当に腕を骨折しかねない。しかし俺には常時肉体を強化するすべがある。オレはティターンが反省の色を見せるまでお仕置きを続けることを腹に決めて、再度腕を振り上げた。

 バシーン!

「ひんっ!」

 尻を叩かれる度にティターンの体が跳ね上がる。

「これは長丁場になりそうじゃ。しかし、あのお尻ペンペン、なかなかに痛そうじゃのう」

「自業自得ですよ。殺されないだけましです……まぁ、私ならあんな恥ずかしい恰好をさせられたら死にたくなりますけど」

「うむ。なんとなく、我でもあの姿が屈辱的じゃとは思うのう」

 デミウルゴスとフェニックスがこちらを見つめてくる中、俺は第二ラウンドを締め括る一発をティターンに見舞った。

「──これで、二〇発」

 バシーン!!

「ひぎ~~!」

 全二〇発を終えて、俺は手首を振った。

 荒い呼吸を繰り返すティターン。体からは汗が噴き出て、褐色の肌を濡らしている。彼女の尻は痛々しく真っ赤に腫れていた。

「ティターン。いい加減に反省」

「するか! この程度で、オレは絶対に屈しない!」

「なら追加だ。今度は四〇発」

「っ!?

 一瞬、ティターンの顔が引きつったのを俺は見逃さなかった。いくら尻を叩いているだけとはいえ俺は本気でスパンキングを行っている。

「お前が反省の態度を見せない限り、数を倍々に増やしていく。覚悟しろよ」

 これが終われば計七〇発尻を叩かれたことになる。人間相手であればすでに懲罰の一歩手前。次に数が倍になって八〇発に増えれば、計一五〇発……もはや拷問の領域だ。できればそこに行き着く前に終わってほしいところだが、相手はかなり強情な様子。お仕置きは根競べの様相を呈し始めた。どちらが折れるのが先か。

 デミウルゴスとフェニックスが状況を見守る中、状況は第三ラウンドへと突入した。

 バシーン!

「うぎっ!?

 ティターンの尻をアレスが引っ叩く。これでちょうど一〇〇発目。すでに第三ラウンドは過ぎて、第四ラウンド。ティターンの尻は発熱しているかのごとく赤く腫れ上がり、感覚が鋭敏になっていた。

 バシーン!

「い~~っ!」

 敵の攻撃をここまでまともに受けたことなんてなかった。仮に受けたとしても、ティターンの肉体は鋼の強度を超えている。万全であればこの程度の平手打ちなどものともしない。

 そもそも相手にまともな一撃を撃たせる前にティターンは全ての勝負に決着をつけてきた。故に、これまで彼女は痛みというものをまともに知ることもないまま生きてきたのだ。

 まさかそれが仇となるとは。痛みに対する耐性がまるでないティターンは、「お尻ペンペン」などというふざけたネーミングの仕置きに歯を食いしばって耐えている。

 しかも尻を突き出した格好を強要されているこの状況は激しい羞恥心さえも与えてきた。なまじ人間と比べて頑丈であるだけに、普通であれば激しく内出血を起こしていてもおかしくないほどの仕打ちにも体が耐えてしまう。

 しかもデミウルゴスとフェニックスに見られながら、という更なる羞恥責めまでセットである。人間に組み伏せられているという屈辱も相まって、ティターンは顔から火が出そうだった。

 ……しかしどういうことだろうか?

 自分を押さえつけているアレスの腕に、これまでは忌々しさしか感じていなかったというのに、不意に彼女はそこに力強さを感じるような一瞬があった。デミウルゴスたちが自分を見つめてくる視線にも、体の奥で小さく震えるような、ゾクゾクとした感覚を覚え始める。

 すると、あろうことかアレスが平手打ちを繰り返すたびに、ティターンは響く衝撃で下腹部を疼かせ始めたのである。

 バシーン!

「ひゃう!」

 なんで……こんな屈辱的な状況だってのに……痛みが……心地いい?

 ティターンは己の体に生じた変化に驚愕を覚える。それはあるいは、痛みから逃れるために彼女が分泌した脳内物質によるものだったのかもしれない。

 ティターンはプライドを砕かれ、獣のような恰好で無様を晒す。

 バシーン!

「ひんっ!」

 自分に勝った相手が己を組み伏せ、一方的にこちらを蹂躙してくる。その事実に悔しさを覚えると同時に、体に妙な熱が蓄積していく。つい先ほども、これと似た熱が体に生じた。しかし今度は微熱などではない。臀部から伝わるものでもなく、もっと体の奥から溢れ出てくる激しい灼熱だ。それを外に向けて放出するように、呼吸は更に荒れて息が熱くなっている。

 バシーン!!

「ン~~ッ!」

 第四ラウンド最後の一発……一五〇発目がティターンの尻を激しく打った。

 しばらくぶりに訪れる静寂。それを受けてティターンは、え? 終わり? と、妙な『寂しさ』を感じてしまい……

「どうだ? さすがにそろそろお前でもキツイだろ? いい加減謝罪したらどうだ?」

「はぁ、はぁ、はぁ………………わ……」

「うん?」

 荒い呼吸を繰り返しながら、ティターンがおもむろにアレスへと振り返り、濡れた瞳でアレスを見上げながら、

「わる、かった……謝る……悪かった……」

「「「!?」」」

 遂に。ティターンは謝罪を口にしたのだ。

 途端、アレスを始めとして一同全員が目を見開く。あれだけ傲慢な態度を崩さず、謝罪を拒んでいたティターンが、瞳に涙を滲ませて謝罪の言葉を告げた。

 アレスとしては、第三ラウンドを超えた時点でかなりの長丁場を覚悟していただけに、こうもあっさりとティターンが反省の態度を見せたことに目を丸くした。

 しかし、それ以上の衝撃的な発言がティターンから飛び出すとは、この時の彼にはまるで想像もできていなかった……

「……姉御にも、お前にも、ついでにフェニックスも、迷惑をかけて、本当に悪かった……」

「ティターン……そうか……ようやく己の過ちを認める気になったのじゃな。うむ。確かに手を焼かされる思いはしたが、お前が反省したのであれば、それでよい。代わりに、これからは我らと共に新しい可能性を育てていこうぞ」

 ティターンの謝罪にデミウルゴスが優しい声音でそう口にする。フェニックスは不満気な様子だが、デミウルゴスの手前露骨に顔を顰めるのを堪えている様子だ。

「ああ。本当に悪かった……謝る、謝るから……だから」

「もうよい、ティターン。お前の謝罪はしっかりと受け止めた」

 デミウルゴスが諭すように柔らかい口調でティターンに語り掛ける。

 が、何故かティターンはデミウルゴスではなくアレスに目を向けて、

「この通り、ちゃんと謝る……だから……だから……」

「お、おいティターン?」

 さすがに異常を感じ取ったアレス。ティターンの頬は熱を帯びて紅潮し、その瞳はとろけて妖しい光を宿す。漏れる吐息は淫靡な熱が宿っていた。

 やりすぎたか? と慌てて回復魔法をかけようとした刹那、ティターンの口が再度開かれて、

「ちゃんと謝る。だから……だからもっと……もっとオレを…………………『虐めて』くれ!!

 などというとんでもないことを口にして、散々痛めつけられた尻を、くいっと持ち上げて見せつけてきたのだ。

「「「…………」」」

 しばらくの静寂。しかし次の瞬間、

「「「はぁ~~~~っ!?」」」

 エルフの森に三人の声が響き渡り、空に向かって木霊するのであった──