第三章 動き始めるストーリー

暗殺事件の一件にて、過激派は沈静化され、関わった者達は処罰されることに決まったとの知らせに私はほっとしたのであった。

私は本格的に妃教育が始まり、公爵家の実家から住まいを王城内へと移し、それにともなって専属の侍女も王城から割り当てられることとなった。

王城の侍女たちは洗練された女性ばかりで、そして私のこともとても好意的に受け入れてくれていた。

「第二王子殿下の一件が落ち着いて良かったわね」

そういうと、侍女は鼻息荒くしながら言葉を返してきた。

「お嬢様、良かったではありません! これから良いことがあるのですから!」

『さぁぁ! うちのお嬢様を磨き上げるわよぉ! はぁ、幸せ!』

鏡の前に私は座っており、侍女から朝一番に体を磨き上げられ、そしてこれから化粧と着替えが待っている。

緑が生き生きとする季節。太陽の日差しも強くなり始めた。

着替える洋服も出来るだけ通気性の良い肌触りの良い物が選ばれるようになった。

今日はアシェル殿下との城下町デートの予定である。

最近少しずつアシェル殿下との距離も近くなってきている。それもあって私は一緒に出掛けられることが楽しみであった。

そう、楽しみではある。心が浮き立つほどに楽しみではあるのだが、それ以上に微かに不安があった。

いつか、アシェル殿下の前にヒロインが出てきたらどうしたらいいのだろうかと、私は不安になる。

そう思っている間に、侍女達は手際よく仕上げていく。

髪の毛は編みこみ、可愛らしく二つのお下げに仕上げる。そして色とりどりの花の飾りをあしらう。

洋服は白いフリルのついた半袖のシャツに、ロングの薄紅色のスカートを着るが、スカートにさりげなく刺繍された蝶の模様は美しく、一流の職人の技が光る。

鏡に映る姿は明らかに町娘風の衣装を着た貴族の令嬢であった。

「本当に、これで大丈夫かしら?」

思わず小首をかしげる。

『はぁぁぁぁ、可愛いの権化がここにいる』

『いい』

『うちのお嬢様は世界一だわ!』

心の中で侍女達は歓声を上げ、侍女達が楽しそうならまあいいかとほほ笑むのであった。

アシェル殿下は時間通りに迎えに来てくれたのだが、私はその姿を見て、息を呑んだ。

何と言うか、おそらくこれは、おそろいコーデというものではないであろうか。

服の色合いはあわせられており、私は少し恥ずかしくって顔を伏せる。

舞踏会のように皆がそのようならば恥ずかしくもないのであるが、町でとなるとまた違った雰囲気である。

「っ……エレノア嬢。今日の装いも大変にあっていますね。可愛らしいです。楽しみましょう」

『ふわぁぁぁ! 可愛い! えー! 何それ! これは反則だよー。はい。エレノア嬢の勝ち! もう誰もエレノア嬢には敵わないよね! ふふ。可愛いー!』

アシェル殿下の心の声はウキウキと跳ね、私はそれがまた恥ずかしくて顔が熱くなる。

「アシェル殿下も素敵です」

「ありがとうございます。そう言ってもらえて光栄です。では行きましょうか」

『デートか。うん、気合を入れて行こう。あぁぁ、予習してきたから、大丈夫だよね? うん。大丈夫。きっと。よし! 頑張るぞー!』

自分と出かけることを楽しみにしてくれているアシェル殿下を、私は嬉しく思う。

こうやって誰かと出かけるのが楽しみというのは、初めての事である。あまり街にこれまで出かけたこともなかったので、わくわくと心が躍る。

「よろしくお願いします」

「こちらこそ」

『頑張るぞ! エイエイ、おー!』

私は頷きながら、ふと、きょろきょろと見回す。

いつもの声が聞こえないと、それはそれで、何となくそわそわする。

「殿下、あの、ハリー様は?」

「ん? あぁ、今日は城で仕事に励んでいます」

『僕の分の仕事まで、頑張ってくれよ。ハリー』

なるほど、と私は思いながら、城で仕事を頑張ってくれているハリー様に感謝した。

城下町は賑わっており、道にはたくさんの露店が並ぶ。

売られているのは、果物から装飾品まで様々であり、私はウキウキとしながら馬車からおりた。

思っていた以上にたくさんの音が溢れ、そして街は色々な匂いがした。

人々がにぎわい話す声が聞こえ、子どもが遊び、笑いながら路地を走り抜けていく。

店では客引きの為に大きな声で呼び込む声がし、出店の屋台からは煙と共に肉が焼ける匂いがした。

「すごいですね。とても、活気に溢れています!」

「ええ。嬉しい限りです」

『町が賑わうのは、平和な証拠だから、本当に嬉しいことだなぁー』

アシェル殿下は私の手をそっと取ると言った。

「護衛はついていますし、大丈夫だとは思いますが、はぐれないようにしましょうね」

『大丈夫だとは思うけれど、エレノア嬢は綺麗な人だから狙われそうー。しっかり守らないとね!』

守ってくれるのだと、そう思うと何故か嬉しくて私はアシェル殿下の手を握り返した。

「はい!」

『可愛い! え?! もう可愛いがすぎるよー!』

アシェル殿下は歩き始め、私はついていく。

心の声も、ここでは様々な人々の生活の音で溢れている。

『さぁ、売るぜ!』

『あら、うちの子ったら、またお菓子ばかり食べてー!』

『まぁまぁ! このネックレス素敵!』

賑やかな人々の声は、舞踏会とは違う。生き生きと、人々の日常の生活が垣間見え、そして活気に溢れていた。

「エレノア嬢、ほら、あっちに雑貨屋がありますよ。行ってみますか?」

『エレノア嬢に何かプレゼントしたいな。願わくばお揃いとか、そんなのが欲しい』

その声に、私は大きくうなずいた。

「行きたいです!」

下町の恋人同士はお揃いの物をつけるという。そうしたちょっとした物が恋人っぽくて憧れる。

『王子様みーつけた。はぁぁぁ! アシェル最高! 完璧王子様だわ!』

不意に、他の声よりも際立って可愛らしい声が聞こえた。

可愛らしい声のはずだ。それなのに、私は背中がぞわりと寒くなり、鳥肌がたった。

私の鼓動は速くなり、思わず辺りを見回す。

けれど、声の主らしき人は見えない。

『悪役令嬢もみーつけた。ふふっ! 悪役令嬢には少しの間、退場願いますかね』

緊張が走る。

「エレノア嬢?」

『急に、どうしたのかな?』

「アシェル殿下……!?

キラリと何かが光って見えた。私は思わずアシェル殿下の腕を引っ張る。

するとその時、建物の陰から少女が飛び出てきた。

「危ない!」