怖くて仕方なくて、声が震えた。
「静かに。殿下にばれてもいいのですかな?」
「っ!?」
こんな姿を見られたら、殿下にまで自分は淫乱だと、淫らな女だと思われるのだろうか。
それは、嫌だった。
けれど、触れられる手が、気持ち悪くて、涙が溢れる。
その時だった。
『触るな』
「え?」
目の前で起こる光景が、ゆっくりとスローモーションで見えた。
エドガー様が殴り飛ばされ、地面へと「へぶしっ!」と奇妙な声を上げながら打ち付けられる。
男性のそのような奇妙な声は初めて聞いたなと、私が呆然としていると、温かな何かが私をぎゅっと抱き上げた。
「失礼。エレノア嬢。場所を変えましょう」
「え?」
見上げると、そこには私を抱き上げるアシェル殿下の姿があった。
心臓の音が近くで聞こえる。
それなのに、不思議と、心の声は聞こえなかった。何故なのだろうかと私はただ疑問を抱く。
「ダドリー公爵を連れてこい」
「はっ」
騎士たちは慌ただしく動き、意識の飛んでいるダドリー公爵を担ぎ上げると、アシェル殿下の後についてくる。
私は体が震え、視線を動かす。
「大丈夫です。心配しないで」
アシェル殿下の心の声が聞こえない。何故だろうかと思っていたがふと気づく。
アシェル殿下の表情から怒りの感情がわずかに感じ取れた。おそらくだが、アシェル殿下は怒りを今表面に出さないようにしている。だからこそ心の声が聞こえなくなっているのかもしれない。
そう私が予想を立てていると周りの騎士達の心の声が
『わぁぁ。これでダドリー公爵も終わりだなぁ。護衛でついていた俺達に、離れろって命令を出して、その上、殿下の婚約者に不埒なことをしようとするとはなぁ。ばかだなー』
『あー。俺達も命令違反になるのか? けど、しょうがないよなー。公爵の命令だもんなー。まぁでも、すぐに殿下に知らせに走ったから、ぎりぎり間に合ってよかった』
二人の騎士はそう呟き、そしてもう一人、アシェル殿下の横に控える男性からは、いつもの声が聞こえた。
『ぼん、きゅー、ぼーん』
「殿下、部屋は確保してあります。そちらへとお願いします。これまでのダドリー公爵のエレノア嬢に対してのストーキング行為についても、資料をまとめてありますので、ご確認ください」
眼鏡を掛けて、真面目な印象の銀髪に琥珀色をした瞳のアシェル殿下の側近はコナー侯爵家の次男であるハリー様である。
ハリー様は眼鏡をくいっとあげている。
「騒ぎにならないうちに、移動しましょう」