「わぁ、楽しい! それにこの子とってもいい子だわ!」

「ま、待て、ちょ、速い、俺を置いて……ジュリア!」

「あら。ごめんなさい」

 先日の約束通り遠駆けに誘ってくれたフェルナン様。多少なら馬を走らせられる、なんて言っていたが実際は多少どころでなく、広大な土地で流石公爵家といったところである。馬たちも愛情いっぱいで育てられているのかとても友好的で、初めて会った私も背に乗せて走ってくれた。

(……のが嬉しくて速度を上げすぎてしまったかしら)

 焦ったように名前を呼ばれた私が速度を落とし振り返ると、思ったよりも遠くにフェルナン様がいる。好きに走っていいという言葉通り思い切り走らせた結果、完全に置いてきてしまったようだ。

「そろそろこの子も休ませてあげなくちゃね。乗せてくれてありがとう」

 少し前のめりになり首周りを撫でると、嬉しそうに鼻を鳴らして頭を振る。辺りを見回すと近くに川が流れていたので、そこで水分補給をさせながらフェルナン様を待った。

「凄く、けほっ、速いんだな……」

「アルヘル領ではこういった遊びしか出来ないので」

「そ、そうか」

 ゼェゼェと息をあげながら追いついた彼も私に倣い馬から降りて水を飲ませる。馬たちを休ませながら私たちも木陰へと腰をおろすと、気持ちいい木漏れ日に心が癒やされるようだった。

「伸び伸びとした領地なんだな」

「そうですね、自由に好きなことが出来る場所です。……とは言ってももちろん出来ないこともありますが」

「例えば?」

 出来ないこと、という内容が気になったらしく、不思議そうな顔でそう尋ねてくる彼に小さく笑う。口をツンと曲げていることが多いフェルナン様だが、こういった表情の時はいつもより少し幼く見えるのだ。

「そもそも若い人が凄く少ないので、誰かと一緒に遊んだりは出来ないですね」

「そんなに少ないのか?」

「働き手の年齢になると、王都を夢見るのか皆一度出てしまうんです。結婚し夫婦で戻って来てくれたりもしますが、私に近しい年齢の方はあまり領地にはおりません」

 一番年齢が近いのは兄だし、兄以外にはもういない。兄が結婚すれば義姉も年齢の近しいひとりになるので、現在婚約中の兄の結婚を今か今かと待っている状態である。義姉が来てくれたあとは年齢の近い女の子同士で一緒に色んな話をしてみたいし、本で読んだパジャマパーティーなんてものにも憧れるが、新婚である兄夫婦の仲を邪魔するのは本意ではないのでそれも当分はお預けだろう。きっと先日王都の湖で見た恋人同士のように、兄たちも仲睦まじく寄り添うのだろうから。

(そう考えると、案外出来ないことって多いわね)

 なんでも自由に出来る気になっていたが、それはひとりで出来ることだけ。相手が必要なことだと出来ることは極端に少ないということに改めて気付く。友人とおしゃべりなんかは、私に親しい友人が出来れば手紙のやり取りなどで出来なくもないが、恋人同士でイチャイチャ、なんてことは夢のまた夢だった。しかも私は婚約破棄されたばかりなのだ。相手に対し未練がこれっぽっちもないことは幸いだが、一方的に婚約破棄された『傷物令嬢』という事実は消えない。しかも他の令嬢に婚約者を寝取られたのだ。寝取られる程度の女だというレッテルまで貼られてしまった。ただでさえ自領に近しい年齢の相手がおらず、王都でもこんなことになってしまった私にはもう結婚なんて正直厳しい。そんなことが頭を過ったせいだろうか。

「私もイチャイチャ、してみたかったな」

 そんな言葉がポツリと私の口から溢れてしまう。

「イチャ、イチャ?」

「え? あっ、ちが、今のは違うんです」

 あ、と思った時にはもう遅く、私の言葉を聞いたフェルナン様が唖然とした顔をし、そしてどこか考え込むように俯いてしまった。この空気がいたたまれない。まだ馬たちの休憩を終えるには早すぎる気もしたが、ここから逃げ出したくなった私は心の中で馬に謝罪し再び走らせるべく馬たちの元へ行こうとした時だった。

「――それは、こういうことか?」

 立ち上がろうとした私の手を掴んだフェルナン様が、指を一本ずつ私の指へと絡めてくる。するりと少し骨ばった長い指が私の指の付け根から第二関節に絡み、私を引き留めるように手を握った。突然の出来事に驚く私の手が引かれ、バランスを崩すように彼の方へと倒れ込むと、気付けば私は上半身を抱きかかえられるようにして彼の腕の中へと納まってしまう。

「フェルナンさ……、んっ」

 呆然とフェルナン様を見上げた私に彼の顔が近付いてきたと思ったら、ふにゅ、と案外柔らかい彼の唇が私の唇に押し付けられた。その一瞬の出来事にぽかんとしたまま彼を見上げる。

(今のは、口づけ?)

 状況が飲み込めずぼんやりと見つめていると、何故か同じく驚いた表情をしているフェルナン様と目が合った。彼の耳や目元がじわじわと赤く染まり始めるのを眺めていると、焦ったように私から顔を逸らす。

「ちが、俺はここまでするつもりはなくて」

「ならどこまでするつもりだったのですか?」

「手を握って、その、抱きしめようと……それなのにジュリアが可愛い顔で見つめてくるから吸い寄せられたっていうか」

「私、可愛いですか?」

「は? ジュリアが可愛くなかったらこの世界の誰も可愛くはないだろう」

 あまりにも自己本位な価値観の暴論。それを堂々と言い切られて思わず吹き出すと、フェルナン様がムッと口を曲げてしまう。

「婚約者はあっさり別の令嬢に乗り換えましたけど」

「そもそも会ったこともない相手だったんだろ。ジュリアを一目でも見ていれば君に夢中だったはずだ」

 確かに婚約者とは初対面。いや、そもそも私は婚約していたことも知らなかったレベル。だが相手は私を認識していたし、だからこそ婚約破棄を面と向かって告げてきたのだ。だから彼の一目でも見ていればという言葉はやはり暴論だ。暴論、だけど。

「フェルナン様なら、夢中になってくれますか?」

「当たり前だ、俺はすでに――、ッ!」

 ちゅ、と今度は私から彼の言葉を遮るように唇を重ねる。

(さっきみたいに驚いた顔をしているのかしら)

 そんな顔がもっと見たい。もっと彼に近付きたい。どうせ次の結婚が厳しいのなら、もう少しだけこの触れ合いに浸っていたいとそう思った。


 三度目の口づけはどちらからだったのだろうか。最初は唇に唇を押し付けるようなぎこちないものだったのに、いつの間にか彼の舌が私の口腔内へと入っている。歯列をなぞられるとゾワリとした快感が背筋を駆け、熱い舌で私の舌が扱かれた。蠢く舌に唾液を絡ませ、ちゅくちゅくと淫靡な音が漏れ聞こえる。両腕を彼の首に回し、貪るような口づけに夢中になっていると、そっと下から持ち上げるようにフェルナン様の手のひらが私の胸を覆った。

「あ、ん……っ」

 触れられる初めての感覚に思わず声をあげると一瞬彼の手が止まったが、私がぎゅうっと更に腕へと力を入れ口づけを深くすると、ゆっくりと触れる手のひらに力が入る。ふにゅりと乳房が握り込まれ、感触を楽しむように何度も揉まれると段々と私の息があがった。

 厚い胸当てを着けてはいるが、コルセットほど締め付けていないせいで胸に触れる彼の手の感覚がわかり心臓がバクバクと大きく跳ねる。

「ジュリアのここ、凄くドキドキしてる」

「だ、だって」

「俺も同じくらい、その、ドキドキしてるから」

 はっ、と短く息を吐きながらそう告げられ、そっと首に回していた腕を解いた私が彼の胸元へと手を伸ばすと、確かに私と同じくらい早い鼓動が振動となって伝わってきてきゅんと胸が高鳴った。

「もっと触っていいか?」

「ですが」

 ここは外だ。思わず辺りを見回してしまうと、そんな私の額に彼がちゅ、と口づけを落とす。

「ここは公爵家の領地だ。他に誰もいない」

 だったらいいのだろうか。このまま彼に委ねても。

(恥ずかしい、けど……嫌じゃないわ)

 一瞬迷うが、迷った理由が嫌悪感ではないことに気付いた私は小さく頷いた。それを合図に、彼の指先が私の首元のボタンへと伸ばされる。プチプチとひとつずつボタンが外され、胸当てを締める紐が解かれた。シャツの前面を大きく開き、紐が解かれた胸当てだけをするりと抜かれると誰にも見せたことも触れられたこともなかったおっぱいがふるりとまろび出る。露わになったおっぱいにこくりと喉を上下させたフェルナン様の手が今度は直接素肌に触れた。

「柔らかいな」

「っ、あ」

 むにゅむにゅと彼の手の中で胸が形を変えていく。感触を楽しむように揉みしだかれていると、彼の指先がまだ柔らかい先端を掠めた。

「ひゃっ!」

 思わず声をあげると、私の反応を確認しながら彼の指先が何度もそこへと触れる。撫でるように触れ、引っ掻くようにカリカリと刺激されると私の乳首はあっという間に芯を持った。その尖りをキュッと摘ままれれば、再び私の口から嬌声が溢れる。

「やっ、あぁん、フェルナン、さま……っ」

「可愛いな」

「ん、んっ」

 乳首を捏ねながら口づけられる。すぐに舌を伸ばすと、私の舌と彼の舌が深く絡まった。互いの舌を擦り合わせ、唾液を混ぜながら角度を変えて何度も唇を重ね合わせる。それらの行為を繰り返していると、急にばさりとフェルナン様が上着を脱いだ。

 そして脱いだ上着を地面へ敷き、そこに私を寝転がせる。組み敷いた私へと覆いかぶさったフェルナン様と再び唇を重ねると、そのままするりと彼の唇が頬へと滑り、首筋をなぞった。鎖骨には軽く歯を立てられ、胸の上部が強く吸われるとピリッとした鋭い痛みが走り赤い痕が残される。その色づいた鬱血痕を軽く舐めたフェルナン様の唇が更にさがり、そしてとうとうツンと立っていた乳首へと触れた。

「あ……」

 先端をペロリと舐められ、乳輪をなぞるように尖らせた舌が円を描くように動く。そしてちゅうっと乳首に吸い付かれた。

「ひ、あぁあ!」

 体を抑え込まれたまましゃぶられる。その強い刺激に思わず体を捩って逃げようとするが、抑え込まれているせいで逃げることは叶わなかった。

 ちゅぱちゅぱと淫靡な音をたてながら舌で乳首が扱かれる。先端を潰すように押し込まれ、次は弾くように動かされるとビクンと私の腰が跳ねた。カリッと甘噛みされ、口で蹂躙されている方とは反対の乳首は指先で捏ねられている。彼から与えられるその刺激が、甘い快感となって体を駆け巡り下腹部の奥がじゅんと熱を孕んだ。

「ジュリアのここ、さっきまで柔らかかったのにもう固くなっている」

「や、見ちゃだめ」

「どうして? こんなの見ない選択肢はない。可愛い、赤くぽってりとしていて美味しそうだ」

「ひんッ」

 今度はさっき指先で弄っていた方の乳首にぢゅっと吸い付かれる。彼の唾液で濡れていく先端がてらてらと光を反射し、恥ずかしくて顔を逸らすが止める気がないのか夢中で私を攻め立てた。嬲り、追い詰めるような愛撫。だが相変わらず嫌悪感どころか、むしろ彼にならもっと触れて欲しいとさえ感じ、気付けば私は彼の頭を抱きかかえるようにして自ら胸を押し付けていた。

 私のおっぱいを揉む手が止まり、つつ、と人差し指が腹をなぞる。大きな手のひらが臍近くを撫で、私のベルトへと手を伸ばした。カチャリと金具が小さな金属音を立て、乗馬ズボンの留め具も外される。そして下着ごと一気に引き下げられた。

「待っ」

 慌てて制止するがすでに遅く、彼の手のひらが私の蜜口に直接触れる。

「濡れてる」

「嘘、なんで……あぁ!」

 指の腹で滴る愛液を掬い、くちゅりと音を零しながら蜜口をなぞった。少しずつ秘部を暴くように彼の指先が動き、ツプリと蜜壺へと指が挿入される。浅いところを擦りながら徐々に深く指が埋められ、その初めての感覚に息を呑んだ。

 異物感と圧迫感に耐えようとぎゅっと強く唇を噛む。その唇にフェルナン様の舌が這う。僅かに鉄の味が滲んだそこを労わるように舐められると、私の体から力が抜けた。

「唇を噛むな、傷がつく。堪える必要もない。どうしてもというなら俺を噛んだらいいから」

 彼の左手が私の後頭部に回され、支えられるように肩口をあてがわれる。こんなところを噛んだら痛いどころじゃないと思うのだが、それでも彼のその行動に躊躇いが見られなくてこんな状態だと言うのに少し笑ってしまった。

「じゃあ、少しだけ」

 ポツリと呟き彼の肩に唇を押し付ける。さっきされたことを真似して思い切り吸ってみるが、思ったような痕は残らなかった。

(おかしいわ、フェルナン様が吸ったら痕がついたのに)

 思わず眉を寄せ、再びちゅうちゅうと吸ってみるが痕がつかない。なんだかムキになってきた私が再び強く彼の肩に唇を押し付けた時だった。

「――ッ!」

 グリッとナカが強く擦られ息を詰める。浅いところを擦っていたはずの彼の指が深く挿入され、徐々に抽挿の速度があがった。異物感は相変わらずなのに、彼が指を動かす度に熱いなにかがせり上がる。その〝なにか〟が〝快感〟だと気付くのにそう時間はかからず、膣壁が刺激される度に甲高い声が私の口から零れ出た。その溢れる嬌声ごと貪るように口づけられる。口腔内を蠢く舌を誤って噛んでしまわないように彼の背中に腕を回ししがみつく。そうやってさっきよりも互いの隙間が埋まったからだろう。私の太股にゴリ、と硬いモノが当たったことに気が付いた。

(これって)

「っ、ジュリア」

 その硬いモノの正体に気付く前に、彼の口から熱い吐息が漏れ名を呼ばれる。少し上擦った声色にドキッと一気に私の心拍数があがった。

 劣情を孕んだ視線が私をじっと見つめ、きゅうっとナカが収縮し彼の指を締め付ける。指がちゅぽんと抜かれトラウザーズを寛げた彼が、自身の猛りを下履きから取り出したことに気付くと、いよいよなのかと息を呑んだ。指よりも熱く、少し弾力のある切っ先が蜜口を擦りくちゅくちゅと粘液質な音を響かせる。媚肉を掻き分けるように動き剛直がつぷ、と蜜口に触れたと思ったらぐちゅっと愛液を絡めながら表面をなぞった。いつ挿入ってもおかしくないのに、わざと焦らしているのかひたすら入り口を擦られるだけ。彼のモノが蜜口を擦る度にその少し先にある愛芽も掠め、ジンジンと痺れたような快感に身を捩る。じれったくてもどかしい。純潔を散らしてしまう行為だとわかっているし、相手は婚約者でもなんでもない。

(だからフェルナン様も最後の一線を躊躇っているのかしら)

 私に対して劣情を滲ませた視線を向けるくせに、ギリギリで留まり蜜口と擦り合わせるだけ。少し彼が角度を変えればいつ挿入ってしまってもおかしくないのに、その瞬間が訪れないのは劣情の先に僅かに見え隠れする躊躇いがあるからだろう。きっと私の体と、そして世間体も気にしているのだ。

 だが婚約者にも見向きをされず結婚も絶望的になった傷物である私が、この先を知る機会なんてもう訪れない。なら。

(もっと先まで、知ってみたい)

 これは彼を利用しているということなのだろうか。そんな不安が一瞬私の胸を掠め翳りを与えるが、だがどうしてだろう。相手はフェルナン様がいいとそう思った。彼じゃないなら知らなくてもいいとも思った私が僅かに腰を浮かせる。さっきと角度が変わったからか、よりしっかりと彼の剛直が蜜口に突っかかった。あと少し、あと少し腰を動かせば蜜壺へと挿入る――だが、そこでピタッとフェルナン様が動きを止める。

「……ジュリア、このままだとその、君のナカに」

「い、や」

「――っ、そう、だよな。悪か……」

「体が凄く熱いんです。このままじゃ、嫌」

「ッ」

「お願いです、フェルナン様。もっと私に触れてください」

 懇願するように彼に縋り、今度は彼の首筋に強く吸い付く。力いっぱい吸ったからか、それとも肩口よりも皮膚が薄い部位だったからか薄っすらと赤い痕が残った。その事実が嬉しくてちゅ、ちゅと何度も首筋へ口づけると、ごくりと喉が嚥下する。そして。

「あ、あ――!」

 ずぷっ、と彼の剛直が私の膣壁を掻き分け挿入された。ゆっくりと時間をかけ、蜜壺の奥へと沈めていく。ナカが彼のモノで抉られると引きつったようにピリピリとした痛みが私を襲った。指を挿入された時よりも異物感・圧迫感が増え、息が苦しい。上手く酸素が吸えずはくはくと口を動かしながら思い切り背を反らすと、ふるりと彼の顔前で揺れた胸にすかさず吸い付かれた。ぢゅるりと強く乳首がしゃぶられ、舌先が何度も先端を弾く。上下同時に与えられるその刺激に私が堪らず嬌声をあげると、ぐちゅんとより深く彼のモノが奥まで挿入った。

「ごめん、痛いよな」

 どこか苦しそうに告げられた吐息混じりのその言葉が私の耳をくすぐり、甘さが心にじわりと広がる。

(堪えてくれてるんだわ)

 本当は欲望のまま快感を求め動きたいのだろう。だが私のために必死に我慢しているその姿が何故かいじらしく見え、私の胸をときめかせた。この気持ちを愛おしい、と呼ぶのかもしれない。

「構いません」

 そっと彼の髪を撫で、そう呟く。思ったよりも小さな声になってしまったが、ちゃんと聞こえていたようで真っ赤なルビーのようなその瞳がきょとんと私を見つめていた。

「痛くない訳ではないですが。でも、フェルナン様に与えられるならそれすらもその、気持ち、いいです」

 それは嘘ではなかった。気持ちが昂っているのもあるし、それに彼がしっかりと解してくれたお陰か私の体は少しずつ快感も拾い始めていたのだ。そしてその言葉を合図にしたように、ぱちゅんと一気に貫かれる。奥を突かれる度に快感が広がり、肌が粟立つのを感じた。

「あっ、ん、はぁ……ん!」

 ばちゅばちゅと淫靡な音を立てながら溢れる愛液を泡立てるように何度も体を揺すられる。私が逃げるのを阻止するように押さえられた腰すらもゾクゾクと甘い痺れを孕み、下腹部の奥が刺激された。

「く、ジュリアのナカがうねって絡みついてくる」

「あんっ、や、深いですっ、ナカが凄く熱くてっ」

 肌と肌がぶつかり合う音が鼓膜に響き、溢れる愛液が臀部に滴る。そのどれもが私へ快感を与え余裕を奪った。

「フェルナン様っ、あっ、気持ちいい、んん、気持ちいいですっ」

「俺も気持ちいい、ジュリアのナカが締め付けてきて……っ」

 はっはっと荒い吐息が頬を掠める。私の全てで彼の欲望を受けているのだと思うと多幸感が溢れ堪らない気持ちになった。その気持ちに呼応するようにナカが収縮し、彼のモノをきゅうきゅうと締め付ける。痙攣するように膣壁が猛りを抱きしめると、フェルナン様の腰の動きがどんどん速くなった。

「ジュリア、ジュリア……っ」

「あぁん、ひぁっ、フェルナンさまっ」

「ごめん、俺、もう……!」

「んっ、きて、きてくださ……あぁあ!」

 体が昂るのを感じ、もっともっとと強請るように自身の腰が揺れた。その私の気持ちに応えるように、フェルナン様が最奥を抉るように深く突き刺す。与えられた快感で、降りて来ていた子宮口の入り口を抉じ開けるように更に深く貫かれ、そしてびゅくりと彼のモノが震えるのを感じた。じわりと熱い劣情が私の奥に放たれ広がっていく。

 そっと腹部を撫でると、何かが変わった訳ではないはずなのに嬉しさが込み上げた。

 自然と頬が緩み、そして意識が遠くなる。

「ジュリア、体は……ジュリア?」

(瞼が重いわ、もう目を開けてられないかも)

 何か言わなきゃいけないような気がしたが、体が怠く、眠くて仕方ない。心の中で「少しだけ」と思いながら私は意識を手放した。


 ハッと目が覚めた時、何故か私はフェルナン様に膝枕をして貰っていた。

「え、これってどういう」

「目が覚めたか? 気分はどうだ。痛いところはないか?」

 心配そうに顔を覗かれドキリとする。どうやらあの情事の後私は寝てしまったらしかった。

(服……は、着てるわね)

 しっかりと全ての衣服を着用しており、体がベタつくような不快感もない。どうやら私が眠っている間に、彼が私の体を清め衣服を着せてくれたらしかった。何から何まで手間をかけてしまったことに気付き、慌てて起き上がろうとするが、彼がそれを制しそっと頭を撫でてくる。

「あの……?」

「まだ日が落ちるまで時間がある。起きてすぐ動く必要はない」

 フン、と鼻を鳴らしながら素っ気なくそう告げられるが、私を労わるように撫でるその手のひらがあまりにも優しくて思わず笑みが溢れる。相変わらず素直じゃない彼に甘え、私はもう少しだけこの状況を楽しむことにした。

「フェルナン様」

「なんだ」

 ごろんと彼の膝の上で寝返りを打ちフェルナン様を見上げると、私の前髪をそっと掻き分けるように彼の指が動く。じっと見下ろすその目があまりにも美しくて見惚れていると、じわじわと彼の耳が赤くなった。

(さっきもっと凄いことをした気がするのだけど)

 段々恥ずかしそうにそわそわし出すフェルナン様が可愛い。なんだかずっと見ていたくて見続けていると、とうとう耐えられなくなったのか両目をぎゅっと瞑り顔を思い切り逸らされた。

「何か言いたいことがあるなら早く言え……!」

「言いたいこと、ですか」

 可愛い彼の姿を見ていたかったから、なんて理由は認められるのだろうか。そもそも殿方に可愛いは褒め言葉ではないわよね? と考え口をつぐむ。だが何か言わないとただ見つめていたかっただけということが暴かれてしまい、それは私が気恥ずかしい。そこまで考えた私は、少し迷いながら口を開いた。

「瞳が……ルビーのようだと思って見ていました」

「俺のか?」

「はい。髪は黒曜石ですね」

 彼から贈られたドレスと、黒曜石の髪飾りのことを思い出しながら告げた私の言葉を聞き、フェルナン様が少し考える様子を見せる。

「ならジュリアの淡い金髪はシトロン、その美しい青紫の瞳はアイオライトだな」

「私の贈ったピアスと同じ色ですね」

 あまり高価な上質の物は買えなかったのに、ドレスのお礼として贈ったアイオライトのピアスが今日も彼の耳に輝いていて私の心をくすぐる。今日は私と約束をしていたから着けて来てくれたのだろうが、少しでも彼のお気に召したのならこれ以上に嬉しいことはない。

「シトロンは友愛という意味がある」

 友愛、と言われ僅かに胸の奥に痛みが走る。私と彼の関係は何なのだろう。たまたま婚約破棄の場に居合わせ、見苦しいからと助けてくれたフェルナン様。そんな彼に何故か王都を案内して貰い、ドレスを贈って貰い、私からは装飾品を贈った。そのピアスは今も彼の耳を彩り、今日は求めるまま体を重ねたけれど、私たちの関係に名前はない。

 田舎の伯爵令嬢である私と公爵家嫡男の彼とでは身分が釣り合うなんて思っていないし、結婚して欲しいなんておこがましいことは考えていないけれど、それでも彼との関係が『友愛』だなんて名前がつくのは少し嫌だと思ってしまう。そんなことを思いながらつい目を伏せてしまうが、フェルナン様はそのまま話を続けた。

「それからアイオライトは道を示すという意味がある。それから愛を……」

「愛?」

「その、愛を……いや、なんでもない」

(愛を、の続きは何だったのかしら)

 きっとそれもアイオライトの石言葉のひとつなのだろう。だがフイッとそっぽを向いた彼が教えてくれるとも思えず、仕方なく今はその続きを聞くことを諦めた。

「フェルナン様の色にはどんな意味があるのですか?」

「黒曜石には達成や名誉の保護という言葉があるな」

「名誉の保護!」

 そのあまりにもぴったりな石言葉に私は思わず目を丸くする。

 婚約破棄された傷物令嬢というレッテルを貼られはしたが、彼があの時割り込んで来てくれたからこそ一方的に私が悪者になることはなく、魅力なく婚約者に見向きもされない令嬢ではあっても、性格が悪く寝取られて当然だったとの噂が立つことがなかったという事実は、私の心と名誉を守ってくれたと言えた。

「ではルビーはどんな意味なんでしょう」

「ルビーは情熱、だな」

「まぁ! どちらもフェルナン様にぴったりですね」

「は? どこがだ」

 にこにことそう思ったまま告げると、唖然とした表情を向けられる。本当に彼はそう思っていないのだと伝わってきて、私は首を傾げた。

「私の名誉を守ってくださいましたし」

「だが」

「あの時フェルナン様が来てくださったから、私はただの傷物令嬢というだけで済んでるんですよ」

 そう断言すると今度は彼が黙り込む。私は気にしていないのに、何故か傷付いた表情の彼に小さく笑った。

「それに情熱的です」

「傲慢で口が悪い粗暴な人、ともっぱらの評判だ。あと思いやりが足りないもよく言われる」

「言葉が率直なだけでしょう。ハッキリ正論を突きつけられると居心地が悪い、そんな後ろめたさを持っている人が言っているだけです」

 私がそう断言すると、どこか嘲笑したような表情を浮かべたフェルナン様の顔がぽかんとしたものへと変わる。目も口も開いた気の抜けたような表情だ。

「そのような囀りは無視ですよ」

「無視か」

「はい、無視です」

 得意気にピシッと人差し指を伸ばすと、そんな私にとうとうフェルナン様が吹き出した。

 彼が笑い出したことに私もきょとんとするが、確かに今の私は彼の膝枕で寝転んでいるという体勢。こんな体勢ではいくら得意気に振る舞ったとて説得力など皆無だったと反省した。

「思いやりも、あります。いつも私を気にかけてくれていること、ちゃんと気付いていますから」

 反省と同時に羞恥心に襲われた私が再びごろんと寝返りを打ち、彼から顔を背ける。すると再び彼の大きな手のひらが慈しむように私の髪をそっと撫でた。

「だから、悪意のある噂なんて無視してください」

「あぁ。ジュリアがそう思ってくれているならそれだけで俺は十分だ」

「約束ですよ」

 そう念を押すと、クスッと彼が笑った気配がする。だがその笑いには嫌な感じが一切せず、純粋に楽しそうだとそう嬉しくなったのだった。


 その後、再び馬に跨がり帰路を目指す。

 行きとは違い、ゆったりと帰りの時間を楽しむように他愛のない話を交わしながら、私たちはその日のお出掛けを終えたのだった。