私はギルド〈エデン〉の生産職でハンナといいます。

専門は【錬金術師】なのですが、最近はお料理をする機会も増えてきました。

ギルドの仲間が増える度に行なっている歓迎会。その料理を担当しているからです。

本当はお料理も外注で頼んでいるのですが、みなさんの強い希望で私も少し料理を出させてもらっています。

これでも、結構自信があるんですよ?

みなさんが美味しそうに食べてくれるので私もとても嬉しくなり、歓迎会の度に作らせてもらっています。

そしてまた、私が腕を振るう機会がやってきました。

1人、〈エデン〉の新しい仲間が増えたのです!

いえ、正確には加入させられた、でしょうか? ゼフィルス君が連れて来たヘカテリーナ様はギルドに入った当時、とても呆然としていたのが印象的でしたから。

この表情、私も覚えがありますよ?

「シエラさん、私あの表情見たことあります」

「奇遇ねハンナ。私も見たことがあるわ」

「私もあるわね。またゼフィルスがあれこれそれそれやったに違いないわ」

「はい。私もラナ様に同意いたします」

ほら、満場一致です。シエラさんもラナ殿下もエステルさんだってゼフィルス君が怪しいで統一されています。

「ん? んお? どうしたんだそんな目で見つめてきて?」

「はあ。今度はいったいどこからさらってきたの? 白状しなさい」

「シエラ!?

ゼフィルス君がシエラさんに詰め寄られて動転しています。

攫ったなんて発言が飛び出しましたね。ゼフィルス君にとっても厳しいでしょう。

「ほら、前から話していた〈公爵〉家の方だって。今朝面談に行くって言ったじゃないか」

「確かにゼフィルスとセレスタンが新たに勧誘に行くとは聞いていたわ、でもあの表情はどういうことなの?」

シエラさんの言葉に私とラナ殿下が頷きます。

あれは驚き疲れてまたビックリして、簡単に言えばゼフィルス君に引っ張り回された顔です。私には分かります。

今度はいったい何をしたのですかゼフィルス君。白状してください!

雲の上の、こ、公爵家の令嬢さんをこんな表情にするなんてゼフィルス君はもう! 本当にもう! すっごくいつも通りです!

「ヘカテリーナを見なさいよゼフィルス、これで何も無かったなんて言わないわよね。何をしたのよ?」

「もうゼフィルス君の行動力は並外れているんだから、ちゃんと手加減してあげなくちゃダメだよ」

「ラナにハンナまで!? 俺の味方はどこ!?

ラナ殿下に便乗する形で私もゼフィルス君に抗議してしまいました。

何しろ公爵令嬢さん、完全に呆然、いえ放心しちゃっています。

「ゼフィルス君、やり過ぎだよ。メッだよ?」

「いやでもな~。時間も無かったし、それにそこまで無茶苦茶したつもりはないぞ? なんか気が進まない職業ジョブに就いていたようだから〈転職〉させただけだ」

「…………」

ゼフィルス君の言い分を聞いたシエラさんが目を閉じてしまいました。

ラナ殿下も頭が痛そうにしています。

私も同じ顔をしているのかもしれません。ゼフィルス君、それ絶対普通じゃ無いからね!?

「で、彼女はなんの職業ジョブに就いたのかしら?」

「おう、【姫軍師】だ。ギルドバトルではこれ以上優秀な職業ジョブはねぇ! これで〈エデン〉はさらにパワーアップできるぞ!」

「【姫軍師】って…………」

「それにな、指揮も交渉も得意らしくてな。俺の代わりに指揮官としてギルド全体の連携のレベルアップも任せられそうなんだ。いやぁスゲえ人材だぜ!」

「……そう」

あ、シエラさんが言いたいことを全部呑み込みました。

多分後で改めて問い詰められると思いますよゼフィルス君?

テンションの高いゼフィルス君はそんなシエラさんに気が付かず、珍しく自慢するように公爵家の令嬢さんを持ち上げまくっていますが、放心状態なので令嬢さんは反応無しです。

よほどのことがあったのでしょう。心中お察しします。

それからゼフィルス君の今日の動き、行動を聞いたシエラさんはジト目となってゼフィルス君を見つめ、ラナ殿下とエステルさんはこめかみを押さえたり「うーん」とうなったりしていました。

王族やその護衛騎士さんまでこんなにさせてしまうゼフィルス君、まったく無自覚ですね。ゼフィルス君に自覚が芽生えることはあるのでしょうか……。

「おっと、そろそろ紹介しよう。ヘカテリーナも悪かったな、つい話し込んじゃって、あれ? ヘカテリーナ? おーい?」

ゼフィルス君がようやく令嬢さん、ヘカテリーナ様の様子に気が付きました。

ヘカテリーナ様の前で手を振ると、ようやく放心状態だったヘカテリーナ様が帰ってきました。よかったです。

「ん、はえ? ここは? どこですの?」

「よし、ヘカテリーナも戻ってきたし、そろそろ乾杯しようか! ハンナ、いつも料理を用意してもらってありがとうな! セレスタンも」

わぁ、ヘカテリーナ様を完全に置いてけぼりです。

でも確かにこれ以上はお料理が冷めてしまいますからね。

「えへへ。どういたしまして。うんと丹精込めて作ったから、味わって食べてね」

「これくらい、従者として当然のことです」

私とセレスタンさんがそう返すと、ゼフィルス君はニコッと笑って壇上に向かいました。

セレスタンさんもシズさんも配膳やジュースの入ったジョッキを配ってくれて、私たちの前にもジョッキが配られます。準備は万端です。全員がゼフィルス君に集中しました。

「では! 新しいメンバーの加入と、〈エデン〉の中級ダンジョン初攻略を祝ってー!! 乾杯!!

「「「乾杯!」」」

ジョッキを掲げて、乾杯です。

ヘカテリーナ様もよく分かっていないながらもジョッキを掲げてくれました。

とっても流されています。

ですが、さすがのゼフィルス君も放置はしないみたいで、すぐにヘカテリーナ様の下へ来ました。

私はそれを様子見しつつ、シエラさんたちと食事をします。

「相変わらずハンナの料理は美味しいわね。いくらでも食べられそうよ」

「本当ね! 宮廷のシェフだって目指せるわ!」

「私もハンナさんの御料理は好きです」

「も、もうみなさんったら、ありがとうございます。あ、次はこんなのなんていかがですか? 自信作なんです」

「いただくわ」

料理作りは私の自慢の一つです。

満足してもらえたようでとても嬉しいです。さすがに宮廷でお料理を出すなんてラナ殿下の冗談だと思いますが、それほど美味しいって思っているということですよね。嬉しいです。

とはいえ楽しく食事はしつつもみなさん、ゼフィルス君とヘカテリーナ様の会話は聞き逃さないよう耳を傾けているのが分かります。私も傾けていますからね。

「よーく思い出すんだ。今日は何をしたっけ? さっき〈竜の像〉の前でやったことを思い出すんだ」

「んー。〈竜の像〉……〈竜の像〉……おかしいですわ、わたくし白昼夢でも見た気がしますの。ですが【姫軍師】の職業ジョブに就けるなんてとても良い夢でしたわ」

「夢じゃ無いからな、それ」

目を瞑って、心の中でヘカテリーナ様に合唱。

記憶が混濁するほどの衝撃を受けたのですね。

チラリと見ればシエラさんとラナ殿下が困ったような顔をしてヘカテリーナ様の方を見つめていました。

ゼフィルス君、やり過ぎですよ。

ですがヘカテリーナ様の受難はそれだけに留まらなかったようです。

「今日はヘカテリーナが〈エデン〉に加入した記念日だ。美味しい料理をたくさん用意したから楽しんでいってほしい。あ、あとメンバーも紹介するな」

「はっ! 〈エデン〉、加入!? そうですわ、わたくし流れるままに1年生のトップギルドに加入までしてしまって、頭の処理が追いつかなくなっていたのですわ?」

ゼフィルス君の言葉に驚きの声が返ってきました。今日のヘカテリーナ様との会談は勧誘が目的だったハズですが、ヘカテリーナ様の反応を見るにギルドに連れてくること自体言っていなかった可能性がありますねこれは。

ゼフィルス君、またシエラさんのお説教が増えますよ?

そうしてようやく再起動を果たしたヘカテリーナ様を連れてゼフィルス君がこっちに来ました。

「じゃあ、まずラナから紹介するな。〈エデン〉唯一のヒーラーで──」

「ラナ殿下!? お願いゼフィルスさんわたくしもうパンク寸前ですの! 手加減してくださいまし!」

あ、ヘカテリーナ様が悲鳴を上げました。ゼフィルス君には早急に手加減を覚えてもらわないと。

「ヘカテリーナ、久しぶりね! これからは同じギルドの仲間よ、よろしくね!」

「は、はい! ラナ殿下、こちらこそよろしくお願いいたしますわ」

ラナ殿下に続き、シエラさんやエステルさん、ルルちゃんやリカさんも次々とヘカテリーナ様へ挨拶に向かいます。

「ギルド〈エデン〉は貴族令嬢の巣窟なのですか?」

「とんだ誤解だ。ほら、エルフや猫人もいるぞ? それに一般人もいる」

一般人枠が私だけだと思うのは気のせいでしょうか?

「ヘカテリーナ様、シェリアと申します。よろしくお願いいたします」

「ん、カルア。よろしく、ね?」

「あら、可愛い。よろしくお願いいたしますわ。少しホッといたしましたわ」

あ、今がチャンスです。ザ・普通の私が挨拶するタイミングは今を置いてありません!

「わ、私も挨拶させてもらえますか?」

「あなたは?」

「お、ハンナちょうどいいタイミングだぜ。ヘカテリーナ、紹介するな。ギルド〈エデン〉の唯一の生産職にして縁の下の力持ち。この〈エデン〉のアイテムを生産してサポートしてくれているハンナだ」

「ご、ご紹介に預かりました! ハンナです! ぜ、ゼフィルス君の幼馴染をしています!」

「幼馴染ですって!?

「ひゃ!?

ヘカテリーナ様が急に声を上げたのでビックリしました。

見れば、ヘカテリーナ様が目を丸くして視線はゼフィルス君と私をいったりきたりさせていました。

「その、大変そうですわね」

「あ、分かりますか?」

なんということでしょうか。ここに理解者が現れてしまいました!

もちろんゼフィルス君の行動についてです。

ヘカテリーナ様、この短期間にとても苦労なさったんですね。

私も、ゼフィルス君とあれこれそれそれありましたからね。お気持ちは察するに余りあります。

チラリとゼフィルス君のほうを向けば、ゼフィルス君はそっぽ向いて気が付かないフリをしていましたよ。

ゼフィルス君はまったくもうです!

私はそれから一旦離れ、続いてシズさんパメラさんが自己紹介すると、これで全員が終わりですね。

ヘカテリーナ様はすっかり疲れてしまったようです。

そんなヘカテリーナ様にゼフィルス君はなぜかステーキを出していましたが、好評のようです。いいのかなぁ?

「──本当に美味しいですわ。それに元気が出てくるような。あの、これはなんなのです?」

「ふふふ、聞いて驚け。こいつはレアモンスター〈ゴールデントプル〉のドロップ肉を贅沢に使った料理アイテム、〈耀きの恐竜ステーキ〉だ。一時的にHPの最大値が上昇するほか、睡眠耐性を始めとした多くの耐性を得ることが出来る強力なアイテムだな。ちなみに狩ったのはうちの優秀な【錬金術師】のハンナだぞ」

え? ゼフィルス君、そんな持ち上げなくて良いよ!?

どうしましょう、話に割り込んでいってもいいのでしょうか。

ゼフィルス君をどうやって止めようかと思っていると、おかしいのです。次第に妙な空気が2人の間に流れ始めたのです。

「あの、わたくしの名前、親しい方はリーナとお呼びになるんですの。ゼフィルスさんも是非そうお呼びになってほしいのです」

「そ、そうか。リーナ?」

「はい!」

あ、あのヘカテリーナ様の表情は!? 私も経験があります!

そういえばヘカテリーナ様はゼフィルス君の無自覚な勇者ムーブの直撃を受けたのでした! そうなっても仕方がありません!?

これは、どうしたら良いのでしょうか!?

私が混乱していると、あの良い雰囲気のヘカテリーナ様とゼフィルス君の話に入っていく人が現れました。

私たちの頼れる王女様、ラナ殿下でした。

「ちょっとゼフィルス! 何新しい子にデレッとしているのよ! というかさっきからベッタリとしすぎよ! 私にも構いなさい!」

さ、さすがラナ殿下です!? あんなにも堂々と、かっこいいです。憧れてしまいます。でもその発言はいかがなものかと!?

良い雰囲気の祝賀会がドロドロ大会になってしまいます!?

どうしようと私が内心あわあわしているとそこへさらに割って入る人が。〈エデン〉の頼りになるサブマスター、シエラさんです! やりました! これで解決です!

「ゼフィルス、そろそろ皆の方を回っても良いのでは無いかしら? ヘカテリーナさんだってずっとあなたと一緒だから心が休まらないはずよ」

あ、シエラさんも少しとげのある口調でした。ゼフィルス君が悪いです。

案の定、ヘカテリーナ様はさらに一歩ゼフィルス君に近づき、ピトッと肩をくっ付けたのです! これはいけません! 私も続かなければ!

「あの、わたくしは別にゼフィルスさんに居てもらっても──」

「もうゼフィルス君、せっかく作ったお料理が冷めちゃうからこっち来て。よそってあげるから。あと〈幸猫様〉にもお供えしよう? 〈耀きの恐竜ステーキ〉も食べてもらおうよ」

私は知っていますよ。ゼフィルス君は〈幸猫様〉を一番に優先するって。

言っていて少し悲しくなりましたが事実なんですよね。

ヘカテリーナ様からゼフィルス君を引き剥がすにはこれしかありません。案の定。

「おおっとそうだった! この特製ステーキを〈幸猫様〉にも食べていただかなければ!」

ゼフィルス君の目が輝いてグルリンと言いそうなほどの勢いで振り返り、〈幸猫様〉をロックオンしました。

さりげなくゼフィルス君の手の中に〈耀きの恐竜ステーキ〉を乗せることも忘れません。

「ありがとうハンナ! では俺は大事なお祈りがあるので、行ってくる(キリッ)」

キリッとしたゼフィルス君が〈幸猫様〉の方へ行ってしまいました。

多分、これで良かったんだと思います。

「ゼフィルスさん?」

「はあ、これは〈幸猫様〉の1人勝ちかしら」

「私が構ってって言ったのに〈幸猫様〉の方に行くなんて! まったくもうよゼフィルスは!」

「ゼフィルス君ですから、仕方ありませんよラナ殿下」

「むむむ、まあいいわ。戻ってきたら懲らしめてやるんだから」

まあいいわとは? ラナ殿下もシエラさんも恨めしい顔で〈幸猫様〉にお供えするゼフィルス君を見ていました。ゼフィルス君は後が大変そうです。

「あれはなんですの?」

そしてただ1人ポカンと目を丸くしていたのはヘカテリーナ様だけでした。

私たちにとって見慣れている光景ですが、ゼフィルス君の行動を知らない人は驚きますよね。

説明したのはシエラさんでした。

「あれはゼフィルスの、何かしら? 日課?」

でもシエラさんもいざとなると説明に困窮していました。分かります。

「ゼフィルス流のぬいぐるみの可愛がりじゃないの? 〈幸猫様〉は可愛いもの」

続いてラナ殿下のご意見です。

確かにゼフィルス君流の〈幸猫様〉とのふれあいですよね。

ゼフィルス君は〈幸猫様〉をまるで神様みたいに扱っているので、おさわり、接触は厳禁です。よく〈幸猫様〉を膝に載せているラナ殿下とはいつも言い合いをしていますからね。

絶対〈幸猫様〉は神様ではないと思うのですが、ゼフィルス君にとっての〈幸猫様〉はまるっきり神様なんです。なので私の答えはこうですね。

「〈幸猫様〉はゼフィルス君にとっての神様なんです」

「はえ?」

ヘカテリーナ様の目が再び丸くなり視線はゼフィルス君と〈幸猫様〉を行ったり来たりします。

ゼフィルス君と付き合うには、その奇行も慣れなくてはいけません。

「なんの話をしてるんだ?」

すると振り向いたゼフィルス君がこっちに来るところでした。

ヘカテリーナ様の丸くしていた瞳はすぐに戻り、すぐにゼフィルス君を迎え入れる表情になります。

そこで逸早く動いたのはラナ殿下でした。

「ゼフィルスが〈幸猫様〉大好きって話よ。まったく、ゼフィルスだけずるいわ。私には全然触らせてくれないのに!」

「いつも触っている気がするが!?

そしてゼフィルス君に盛大にツッコミを受けていました。

「と、そうだリーナ、リーナも〈幸猫様〉にお祈りしないか? きっと良い物がドロップするぜ?」

「え? 良いのですか? 是非お願いいたしますわ」

あ、ヘカテリーナ様がゼフィルス君に付いて行ってしまいました。

えっと、フォローとかした方が良いのでしょうか?

「いいかリーナ、〈幸猫様〉は尊い御方だ。決して攫ってはいけない。ここで良い物をお供えしてお祈りするのが作法だ」

ゼフィルス君がチラッとラナ殿下の方を見て言いました。誰に言い聞かせているのか丸わかりですね。でも、ラナ殿下にはまったく効いていないようですが。

ところで、いつの間に作法なんて出来たのでしょう?

「わかりましたわ、こうでしょうか?」

「お、良い感じだな。そんな感じでお祈りをしながらまずは〈幸猫様〉にお礼を言うんだ。──いつもありがとうございます〈幸猫様〉」

「はい! いつもありがとうございます〈幸猫様〉」

「続いてお供え物している時はどうぞお召し上がりくださいと言って、次にお願い事をする。───次も良い物をお願いします!」

「えっと、──次も良い物をお願いしますわ?」

「リーナ、真剣にお祈りするんだ。すれば届く、〈幸猫様〉はきっと応えてくれる!」

「は、はい!」

ゼフィルス君が本気すぎます! 見てください、シエラさんがジトッとした目でゼフィルス君を見ていますよ。

なんだか私も〈幸猫様〉が神様に思えてきました。

「ハンナ、しっかりしなさい」

「ハッ!?

あ、危なかったです。何か変な扉を開きかけた気がしました。

「でもあれも、なんとかしなくちゃいけないわね」

シエラさんの視線の先を見るとゼフィルス君がヘカテリーナ様に熱弁を振るっていました。曰く、〈幸猫様〉は〈エデン〉の守り神でお肉が好きだと。洗脳?

シエラさんも別の意味で危機感を抱いた様子でした。

「とりあえず、ヘカテリーナさんとはお話をしなくてはいけないようね。色々と」

「私も賛成よ!」

シエラさんの発言にラナ殿下が賛成しました。私も賛成です。色々と。

「でもシエラ、どうするの?」

「そうね、ルルにお願いしましょう」

「ルルちゃんにですか?」

シエラさんが振り返った先には可愛いを全開で振りまいているルルちゃんがいました。

相変わらず可愛い過ぎます。あのもぐもぐしているほっぺを突いてみたいです。

そのルルちゃんにお願いするとは?

「ルル、少しいいかしら?」

「シエラ? いいのですよ、どうかしたのです?」

「ええ、ゼフィルスがね、食べ物そっちのけで〈幸猫様〉を愛でているのよ」

「! それはいけないのです! 公私混同なのです! ごはんの時はぬいぐるみさんはお留守番、食べるときは食べる、愛でるときは愛でるのです! でも食べ物をそっちのけにしてぬいぐるみさんを愛でるのはいけないのです!」

出ました、ルルちゃんのでルールです!

確かに出来たてほやほやの料理が冷めたら美味しくなくなってしまいますからね。

ルルちゃんはとても偉いことを言っていました。

さすがは正義のヒーロー、そしてぬいぐるみ愛好家さんです。

「ルルに任せてくださいなのです! しっかり言わせてもらうのです!」

「あ、できればゼフィルスには食べることに集中させてあげてね。あっちに置いてある料理とか、良いんじゃないかしら?」

「了解したのですよ!」

あ、ルルちゃんが熱弁を語るゼフィルス君の下へ!

「ゼフィルスお兄様!」

「んお! ルルか!?

「そこまでなのです! ルルの目の黒いうちは食べ物そっちのけでぬいぐるみさんとずっと遊ぶなんてさせないのですよ! こっちに来るのです!」

「え、えええ!?

「あ、あら? ゼフィルスさん!?

「いいのよヘカテリーナさん。あそこはルルに任せましょ」

「え? シエラさん? ですの?」

わ、あっと言う間でした。ルルちゃんがゼフィルス君の手を引っ張って料理がたくさんあるテーブルに連れて行ってしまいました。手を繋ぐの、少し羨ましいと思ったのは内緒です。

そしてゼフィルス君を引き離した後すかさずヘカテリーナ様を確保するシエラさんの動きに脱帽です。でもヘカテリーナ様は混乱中のようです。

「えっと、ゼフィルスさんが連れて行かれてしまいましたわよ?」

「いいのよ。ゼフィルスは〈エデン〉のぬいぐるみ協定を破ってしまったの。ここはルルに任せておきましょう」

「は、はあ。〈エデン〉は覚えることが多そうですわね」

ヘカテリーナ様、騙されていますよ。少なくとも〈エデン〉にそんな協定があったなんて私は初めて知りました。

ほら、シエラさんも適当なことを言ったのにまさか信じるとはみたいなきょとんとした顔をしていますよ。

「こほん、それでヘカテリーナさん」

「あ、わたくしの事はリーナとお呼びくださいな。親しい人はそう呼びますの」

「あの私もよろしいのですか?」

「もちろんですわハンナさん」

「なら私もリーナって呼ぶわね」

「私も、そう呼ばせていただくわ。改めて、よろしくねリーナ」

「はい! ラナ殿下もシエラさんもよろしくお願いしますわ」

わ、私が御貴族様を愛称で呼ぶなんて、そんな事して良いのでしょうか?

でもシエラさんもラナ殿下も通常通りです。私は気にしないことにしました。

「それで、長い話もなんなので直球で聞かせてもらうけれど、リーナ、あなたゼフィルスと何かあったでしょう?」

「な、なななにかあったとはなんですの!?

「その動揺だけで分かりまくりよ! 何があったのか聞かせなさい!」

シエラさんとラナ殿下の問いかけが始まりました。

「な、何かと申しましても」

「ならリーナの職業ジョブは?」

「え、えっと。【姫軍師】、ですが」

「ほらやっぱり何かあったんじゃない!」

「えええ!? どうしてそうなりますの!?

ラナ殿下のとある公式により問題は解けました。

リーナさんは何か隠しています!

「この〈エデン〉はね、大半がゼフィルスに職業ジョブの発現を助けてもらったのよ。特に高位職、高の上になっている人は全員ゼフィルスの手が入っているわ。【姫軍師】なんてトップ職、確実にゼフィルスに手伝ってもらっているという公式が成り立つの」

「そんな公式があったのですか!?

はい、実はあるんです。私たち〈エデン〉の共通認識です。

でもそれだけではありません。ゼフィルス君は私たちが落ち込んでいたりすると平気で助けてしまう人ですから、色々と心が弱っている時に会うと危ないんです。

リーナさんからは、そんな匂いがするのです。これは聞いておかなければなりませんよ。

そして私たちはリーナさんから事の次第を聞き出すことに成功しました。

案の定、ゼフィルス君はとってもゼフィルス君でした。

「それで、リーナはゼフィルスの事をどう思っているのよ?」

「ちょ、直球ですわね。まさかあなたたちも? え? 〈エデン〉の共通認識って」

「いえ、助けてもらったのはこの3人だけよ。後は一応カルアもだけど、あの子はそういうのに疎いみたいだから」

「もう、ゼフィルスさんは女の子を助けすぎですわ。それと、みなさん簡単に落ちすぎです」

「お、落ちてないわよ! それにリーナだって一緒でしょ! 初めて会ったのは今日じゃないの!」

「そ、それは、その、それはそれですわ」

「どこのそれよ」

「みなさん、あんまり大きな声を出すとゼフィルス君に聞かれてしまいますよ」

「大丈夫よ。ゼフィルスはルルにたくさん色々食べさせられて今グロッキーになっているもの」

「ゼフィルスさん!?

シエラさんの言葉に振り向くと、ゼフィルス君がふらつきながらルルちゃんにお勧めされた料理を食べていました。終始笑顔は絶やしていませんが顔色が悪いのを幼馴染の私は見逃しません。空のお皿を見る限りたくさん食べさせられたのだとわかりました。

でもその横でゼフィルス君より食べているカルアちゃんはまだまだ行けそうな感じなんですよね。不思議です。

とりあえず、ゼフィルス君はこっちのことを気にする余裕が無さそうなのはわかりました。

リーナさんが一度咳払いで空気をリセットして私たちに向き合いました。

「こほん、わたくしはゼフィルスさんと会ったのは確かに昨日のことですわ。やることなすこと突拍子もなくて、散々驚かされました」

あ、はい。

ちょっとだけ、リーナさんにごめんなさいしたくなりました。なんだかだんだんリーナさんが可哀想になってきましたよ。

「ですがわたくしを失意の奥底から救い上げてくれたのは間違いなくゼフィルスさんなのです。後から思いましたが、あの時の私を救い上げるにはあれくらい強引なのがちょうど良かったのかもとも思いましたわ」

それはどうでしょう? 盲目の疑いがあります。

リーナさんはそこまで言うと一度話を区切り、真剣な様子で言いました。

「わたくしは今一番気になっている方がゼフィルスさんであることは間違いないとだけ、言わせていただきますわ。ですがそれとは別に、わたくしはこの大恩をお返しするまでゼフィルスさんに精一杯尽くす所存です。たとえ何があっても、ですわ」

公爵のお姫様にここまで言わせるなんて……。やっぱりゼフィルス君は女たらしの可能性があります! これからはもっとゼフィルス君を見張っていないと!

「いいわ」

最初にこの雰囲気を割ったのはシエラさんでした。

「リーナを〈エデン〉に歓迎するわ。よろしくねリーナ。共にゼフィルスを支えましょう」

そこにどんな思いがあったのかは定かではありません。どんな意味がこもっているのでしょうか?

「ありがとうございますシエラさん、よろしくお願いしますわ」

それからラナ殿下や私とも握手をしたリーナさん。

これからリーナさんは、先ほどとは打って変わって凄まじい交渉術と指揮能力でギルドを支えていくことになりますが、それはまた別の話。