ミストン所長の研究成果
俺はミストン、〈迷宮学園・本校〉の研究所所長をしているナイスガイだ。この研究所で俺以上の男前はいないと自負している。
まずは何も言わず俺の生を聞いてほしい。
俺は学園を卒業後、
目標は大きく、下級職、上級職全ての
その道はとても険しかった、何しろ先人たちがいくら足掻いても見つけられなかったのだからな。しかし、俺は自分なら出来ると信じ、信念を持って突き進んだ。
その情熱もあって俺は下級職の低位職に関して、全ての発現条件を見つけ出したのだ!
そのおかげで国王陛下や学園長からも表彰され勲章までいただいたことは、末代までの誇りとなるだろう。このままでは俺の代が末代になってしまいそうなのは置いておく。少し研究一筋にのめりこみすぎただろうか?
とはいえ、俺の勢いはここで止まってしまう。
次に挑んだ中位職だが、何しろ種類が多く、さらにはその
しかし、俺は負けじと踏ん張り、一つ一つの条件を解明していった。
それから12年、あらゆる方法を試し、〈迷宮学園・本校〉では中位職は常連と言われるまでに発現率は高まり、学生の中位職発現率は9割近くにも上った。
しかし、未だに中位職の全体像は見えてこない。これだと長年思っていた条件が間違いだったと判明することが未だに起こるのだ。さらに高位職に至ってはほとんど解明されていない。このままでは俺の人生が尽きるまでに全ての
俺も今年で47歳だ。そろそろ家庭を持つべきではないか、いやもう手遅れか? そんなことを考え始めたころだった。
俺は【勇者】のゼフィルス氏に出会った。それが、俺の人生の転換期だった。
「俺がした事は簡単です。モンスター狩り、これにつきます」
「な、生身でモンスターを相手にしたのかね!?」
後日、ゼフィルス氏と会談できる機会に恵まれたのは人生で一番の幸運だった。
彼の口から飛び出た発言は我々の予想を大きく超えるものだったのだ。
高位職の発現条件、その一角ではないかと思うという勇者氏の言葉、しかしその内容はとてもではないが試すには難しいものだった。
「モンスターを大体100体くらいでしょうか? 剣を使って倒したとき、なんとなく体に変化が感じられた気がしたのですよ。そのときに【大剣豪】が発現したのではないかと考えています。あ、これは完全に俺の主観と感覚なのですが」
俺の部下たちが高速でゼフィルス氏の発言をメモしている。俺も負けていられないな。
しかし、まさか生身でモンスターを相手にするとは。
モンスターとはその多くがダンジョンに生息している。だが、たまにそのダンジョンから屋外に出てしまうことがあるのだ。特に屋外型ダンジョンと言われる、外に森の形をして形成されているダンジョンからはモンスターが逃げ出しやすい。外から見ると、ダンジョンなのか普通の森なのか分からないのだ。時には人が迷い込むこともある。
そういうダンジョンの周囲は定期的にモンスターを駆除する必要があり、軍が常駐しているのが通常だ。しかしゼフィルス氏の住んでいたところのように、人里から遠く奥深くにあるダンジョンや、
ただの村人でも何かしらの
そういえば、この学園の高位職の者たちも幼いころから修業に加え、その延長でモンスターを倒す訓練も行なっている者がいるという話を聞く。
この世界ではモンスターを倒さなければ生活が出来ないため、貴族や金持ちは小さいころからモンスターと戦う術を学ぶのだ。もしかすればそれがトリガーとなって高位職が発現するのか?
俺はゼフィルス氏の言葉に驚嘆したのだが、ゼフィルス氏の話は終わらない、まだまだ続く。
「続いて魔石と腕輪を使って魔法で倒してみたんですよ。そしたらやっぱり100回倒した辺りでじんわりとした変化が体に来ましてね。あれが【大魔道士】の条件を満たしたせいだと俺は思っているんですよ」
「むむむむ! なるほど、ただモンスターを倒すだけではなく、倒し方にもよるということか」
「俺は武器も怪しいと思っていますけどね」
ゼフィルス氏との話はとても有意義だった。有意義すぎだ。検証してみたいことが多すぎる。
俺は、その情報量に再び若いころの情熱が戻ったことを感じた。
俺たちはゼフィルス氏の話を基にすぐに実験を開始した。
幸い今は4月、実験はいくらでも出来る。そんな考えが甘いと気付いたのはすぐのことだった。
早速実験に参加してもいいという入学したばかりの1年生に協力してもらい、実験に協力する前に高位職が発現していないことは確認してから初心者ダンジョンの一部を借り、研究員が安全を確保している間に学生君に〈モチッコ〉を100体狩ってもらった。
「これでもし本当に高位職が発現していたら、すごいですよね」
「まあ、さすがにそんな簡単に成功はしない───え?」
「は?」
「ちょっと待て!!」
「出てる! 【大魔道士】が発現してるぞーー!?」
「「「「はあああああ!?!?」」」」
なんと一発目だった。
その学生にはついさっきまで無かった筈の高位職、【大魔道士】が発現していたのである。
「ふははははは! 我が【大魔道士】だ! 我は選ばれたのだ! ふははははは!!」
まさかの事態に学生君も壊れてしまった。
そこからはスピード勝負の始まりだった。
学園への根回し、学園長との安全面での相談、学生のどれだけの人数にこの実験が施せるか。デッドラインと呼ばれる5月1日に間に合うのかなどなど。学園全体を巻き込む大騒動に発展してしまった。
俺もここが勝負どころだと先生方にこの実験の資料を見せながら熱く語り、実験を了承させていく。
出来れば1年生全員に実験を受けさせたかったが物理的に難しい。しかし、出来る限りやりたい。
強行に推し進め初心者ダンジョンを完全貸しきり状態にすると学生を募って大々的に実験を行なった。正直、途中からテンションが上がりすぎてよく覚えていないが大成功だったのは覚えている。
しかし、それでもまだまだデータが足りない。発現条件が複数あるのは分かりきっているが〈モンスターを倒す〉にも様々なバリエーションがあり、それを探るのがとんでもなく時間が掛かる。とにかく時間も人もデータも場所も足りない。足りないものばかりだ。
モンスターも100体ポップするまでに時間が掛かりすぎる。このペースでは5月のデッドラインまでにとても間に合わない。
しかしそんなときに頼りになるのが俺のナイスな頭脳。ふと閃き、アリーナの防衛機能が使えないかと学園長に話を持っていったのだ。アリーナの防衛機能はアーティファクトでこちらで完全に弄ることが出来る。もしこれが使えるのならば、その効率は100倍を超えるかもしれない。そして翌日の午前中にはアリーナの防衛機能が使えると判明、その日の午後には初心者ダンジョンから完全にアリーナに移行し、全1年生に実験を施せる下地が整いだした。
1年生に授業を受けさせていた先生方もほとんどをこっちに来て手伝っていただき、5月1日までテンションがおかしくなるほどデータを集めまくった。
そして運命の日。なんと1年生の3分の1が高位職になるという、学園始まってから初の異例の事態になった。
俺は再び表彰され、国王陛下から2回目になる勲章を受け取り、一躍時の人となった。何しろ国中から俺の研究所に研究者たちが弟子にしてほしいと押し寄せることになったのだから。
まさか、こんなことになるとはな。人生は分からんことだらけだ。
では早速新しく部下になった者たちには4月に集めまくった膨大なデータの整理でもしてもらおうか。悲鳴がたくさん聞こえた気がしたが、すべては喜びの悲鳴だったよ。
ははは、俺の全生を懸けた挑戦はまだまだ終わらない!