モナ君の宝物より大事なメモ

僕はモナ。〈採集課1年9組〉に入学した、ただのモナです。

4月に入学してジョブ一覧を確認して1ヶ月間、僕は自分の進路にとても悩みました。

見たところ僕のジョブ一覧は平凡で、戦闘職系は軒並み全滅、高位職が無いのはもちろん、中位職も二つしかありませんでした。

中位職だったのはそれなりに得意な料理と採取系の職業ジョブで、【コック】と【ファーマー】だったのです。

ですが高位職を夢見て自分の可能性を知りたかった僕は、自分の未知な可能性を目指して学園が開放している条件開放授業を受けて様々な分野を試してみました。

僕と同じ考えの人は結構いるみたいで、この条件開放授業は自分に合った将来を見きわめることも目的で入っていると聞きます。

5月になれば職業ジョブは必ず決めなければいけないため、みんな必死です。

僕も、どうしてもお金が必要なため、とても儲かる専攻に進みたい気持ちがあります。

僕の家はとある貴族の遠縁らしいのですが、暮らしは一般人にかなり近いです。お金はあまり無いにもかかわらず子だくさんで、僕には8人の弟妹がいます。

僕が長男。家族は僕に期待していて、稼いで家に入れてくれと願っています。

もちろん僕も同じ気持ちです。末の妹はまだ1歳で、母さんのお腹には10人目の子どもが宿っていますから。どんどん稼がないといけません。

僕が本校に通わせてもらっているのは父が遠縁の貴族様に頼みこんだ結果のようなので、それだけ期待に応えられるよう頑張らなくてはいけません。

ですが、現実は厳しかったです。

まだ職業ジョブに就いていない僕では長物を振ることが困難だったからです。

僕は、実はかなり細身、いえ、もうこの際言いますが、女の子みたいな細腕をしています。

剣を振るどころか持つのさえプルプルと腕が震えます。そのせいで、花形である〈戦闘課〉系は全滅しました。

「君みたいなひ弱な女子は魔法使いの方が向いていると思うよ?」

「あの、僕は男子です」

「え?」

とても体格の良い男子の人が、多分アドバイスをしてくれたのでしょう、でも僕にとっては嬉しくない勘違いが含まれていて肩を落としました。

僕は腕どころか顔も声も含めて女の子みたいで、よくこうして間違われます。しっかり男子の制服を着ているはずなのですが……。正直アドバイスをくれた男らしい体格の男子が羨ましいです。

ですが、確かに僕では接近戦は無理、魔法にシフトしてみましたが、これもしっくりこず。

ならばと生産職の道を進んでみようかと授業を受けてみたのですが。

「うーん、料理以外向いてないな。だが女の子の手料理は需要あるぞ?」

「あの、僕は男子です」

「え?」

このやり取りも何度目か。僕は結局料理以外向いていませんでした。

鍛冶は筋力が足りなくて腕が上がらず、裁縫は縫う場所を間違えて自分の制服まで一緒に縫ってしまい、錬金では失敗ファンブルして釜の中の素材が全て消滅してしまいました。

そして料理は人並み以上に出来る為、こうして勧められましたが、やっぱり女の子と間違われてしまいました。僕は男の子なのに。やっぱり料理はより女の子扱いされそうで気が進みません。

そうして自分の可能性が見つからず、時間だけが過ぎていき、結局5月1日を迎えてしまいました。

最終的に僕が選んだのは〈採集課〉の【ファーマー】。最初から出ていた中位職です。

【ファーマー】を選んだのは今すぐお金が稼げるからですね。

【コック】の場合はどこかで店を運営しなくてはいけません。初心者の僕でもその難易度の高さが分かります。今僕が始めても儲けを得るのは無理だと思います。それだけです。

儲けるのならばダンジョンにいかなければなりません。故に【ファーマー】一択でした。

そうして割り当てられたクラスは9組。あまりよくありませんでした。

〈採集課〉は10組まであるので少し中途半端感がありますが、僕にしてみれば良い方かも知れません。

そうして初の登校日、あまりしゃべれる人はいませんでした。

僕はぼっちでした。でもそれもきっと最初だけだろう、友達は少しすれば増えるはずだと、勝手に思っていたのですが。

甘かったです。週末になって選択授業の見学をするときには大体のグループが結成され、僕は1人取り残されていたのです。どうしてなのか、勇気を持って聞いてみると、どうも僕の女顔と男子の制服の組み合わせが原因みたいでした。

「君といると、間違った気を起こしそうで気が気じゃないんだ」

どういうことでしょうか!?

しばし呆然として出遅れてしまうと、この〈採集課〉を見学していたのでしょう、とてもかっこいい2人の男子学生が歩いてきたのです。かっこいい、それは僕の憧れです。

「じゃあ次は〈罠外わなはずし課〉の方へ行ってみるか」

「かしこまりました。ゼフィルス様は楽しそうですね」

「お、そうか? そうだろうな。セレスタンも楽しめ」

……楽しめ。

その言葉が、妙に僕の中に残りました。

僕は今日まで自分の事で一杯一杯で、楽しむということなんて考えたことは無かったです。ですが、こっちに会話しながら歩いてくる男子は、とても笑顔で、楽しそうにしていました。

なんとなく、この人に付いていけば僕も楽しい気持ちが解るのかなと頭を過ぎったところで、僕はその人、ゼフィルスさんに話し掛けてしまったのです。

「あ、あの、ちょっとよろしいでしょうか?」

「ん?」

目があった。その瞬間、僕は言いようのない感動にも似た感情が心に湧き上がりました。

クラスメイトにすら話し掛けるのにとても勇気のいる僕が、なんだかキラキラした人に話し掛けてしまったのです。これは偉業ですよ。いえ、ここで止まるわけにはいきません。早く、言葉を紡がなければ。

「今〈罠外わなはずし課〉の方へ行くって聞こえて。もしよかったら一緒に行きませんか? ぼくも〈罠外わなはずし課〉の選択授業に興味があって」

これは本当の事です。罠アイテムはお金になりますから。

自分でもこんな長文が自分の口から出たことにビックリしましたが、なんとか言いたいことを言えました。少し、いえ、かなり失礼だったかもしれないと後から気づいてキラキラした男子さんを見上げると、その男子さんは頷いて答えてくれました。

「ああ。いいぞ別に。セレスタンはどうだ?」

「構いませんよ。ゼフィルス様のお好きにどうぞ」

やった! そんな充実感と共に僕はその言葉を聞いてびっくり仰天しました。

様って、貴族様でしょうか!?

そう思って聞くと違うと否定されました。ですが、ゼフィルスさんと言えばどこかで聞いたことがあるような?

そこから僕たちは一緒に〈罠外わなはずし課〉へと向かいましたが、その途中で気が付きました。そうです。彼は話題の【勇者】さんではないですか! 今期の1年生でもトップの実力を持つ1人で、学園で知らない人はいない有名人です! 僕はなんて人に声を掛けてしまったのでしょうか。と、少しビクビクしました。

ですがそれもすぐに解消されます。ゼフィルスさんはとても明るく話しやすい人で、僕も普段以上に話す事が出来たんです。

しかも〈採集課〉として難題である専属もお試しでオーケーを貰えましたし、なんでLvゼロの僕が選んでもらえたのか分かりませんでしたが、言ってみるものですね。僕はゼフィルスさんに深く感謝しました。

そしてその答えが判明したのが別れ際、ゼフィルスさんからもらった1枚の紙です。

「なんですかコレ?」

「俺の【ファーマー】オススメ育成論」

本当に何の変哲も無いメモ用紙で、本当に気軽にほいっと渡されたんです。ですが、その衝撃と破壊力は、僕がこれまで経験してきた人生の中でもトップクラスのものでした。

読んでみて愕然としました。僕が目指す先の育成方法、そのアドバイスが書かれていて、必須のスキルはもちろん、どうして必要なのかその理由まで書かれたメモでした。

僕はまだSPをほとんど振っていません。なのでこのメモの通りに育成することができます。

そうして僕は散々迷い、結局はメモの通り育成することを決めたのですが、変化は劇的でした。

ゼフィルスさんに呼ばれて〈『ゲスト』の腕輪〉を使って入ダンし、素材を集めるのですが、面白いようにある場所が分かり、しかも大量に取得出来、そして経験値もみるみる貯まってLvがグッと上がったのです。

そして僕は、いつの間にか〈採集課1組〉の学生も追い越し、〈採集課〉で期待の新人と呼ばれるようになったのでした。

そして、友達もたくさん増えました。

ゼフィルスさんからもらった大切なメモは、今では僕の部屋に大切に保管されています。